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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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空っぽの金庫

翌朝。

私はラインとヴィルを連れ、共和国財務省の重厚な建物の前へ立っていた。


「ここが財務省……」


見上げる建物は立派だった。

だが、その中身までは分からない。

受付で議員証を提示すると、若い職員が少し驚いた表情を見せる。


「ヴィーダーベレ議員ですね。少々お待ちください」


しばらくすると、一人の中年官僚が現れた。

眼鏡を掛け、少し疲れた表情をしている。


「ようこそ財務省へ本日はどのようなご用件でしょうか」


私は迷わず答えた。


「共和国の財務状況を確認したいと思います」


官僚は一瞬だけ目を丸くした。


「財務状況……ですか?」


「はい。最新の資料を拝見したいのですが」


官僚は苦笑する。


「議員になって最初に、その資料を請求された方は初めてですよ」


私は首を傾げた。


「そうなんですか?」


「普通は各省への挨拶や視察から始められますので」


「私は数字を見ないと始められません」


その一言に、官僚は小さく笑った。


「承知しました。こちらへどうぞ」


応接室へ案内される。


しばらくすると、分厚い帳簿や統計資料が机いっぱいに積み上げられた。


「こちらが最新の財政資料になります」


私は深呼吸をして、一冊目を開いた。


そして——


「……嘘でしょ?」


思わず声が漏れた。

ラインも隣から資料を覗き込み、息をのむ。


「これは……」


帳簿には数字が並んでいた。


国債残高。毎年膨れ上がる借金。紙幣発行額。

前年の何倍もの勢いで増え続けている。


税収。


戦前の半分以下まで落ち込んでいた。


復興費。


戦争で壊れた都市や鉄道、港の再建費用が積み上がっている。

さらに、軍の解体費用や帰還兵への支援も重くのしかかっていた。


私はページをめくる。


「まだあるの……」


最後の資料を見た瞬間、言葉を失った。


「利払い……」


借金の利息だけで、歳入の大きな割合が消えている。

私はゆっくり帳簿を閉じた。


「想像より酷い……」


官僚は苦笑するしかなかった。


「ええ。だから誰も引き受けたがらないんです」


部屋に重い沈黙が流れる。

私は改めて資料を見つめた。


「紙幣を刷っても追いつかない。税収も戻らない。借金は増え続ける」


一つ一つは新聞で知っていた。

しかし、数字として並べられると、その深刻さはまるで違った。


「これでは……ハイパーインフレが止まらないわけですね」


官僚は静かに頷く。


「はい。現場の者は皆、分かっています。ですが、どうすれば良いのか……」


言葉はそこで途切れた。

私は窓の外を見る。


議員になる前は、新聞や人々の暮らしから共和国を見ていた。


だが今は違う。


国の帳簿という、誰もが目を背けたがる現実を見ている。

私は再び資料を開き、赤鉛筆を取り出した。


「もう一度、最初から確認します」


「問題は必ずあります。原因があるなら、対策もあるはずです」


官僚は驚いたように私を見た。


「全部……読まれるおつもりですか?」


私は微笑む。


「はい。数字は嘘をつきませんから」


部屋の時計は静かに時を刻む。

共和国の財政は、まさに崖っぷちだった。


しかし私は、その崖を前にしても目を逸らすことはなかった。

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