八つの議席
夜明け。
最後の開票結果が党本部へ届いた。
通信係は何度も集計表を見直し、ゆっくり顔を上げる。
「シュタール労働者党、立候補二十名、当選……八名です!」
その瞬間、党本部は歓声に包まれた。
「やった!」
「八議席だ!」
「新党で八議席!」
ラインは思わず目を潤ませる。
ヴィルも静かに笑みを浮かべた。
ヘルムは帽子を脱ぎ、大きく息を吐く。
「……十分だ。ここまで伸びるとはな」
私は結果表を静かに見つめる。
八議席。
多くはない。
けれど、共和国の未来を語る資格は得た。
私は立ち上がる。
「皆さん」
歓声が静まる。
「まずは、おめでとうございます」
新たに当選した七人が前へ出る。
医師。教師。元軍人。商人。経営者。技術者。
そして若い官僚。
私は一人ずつと固く握手を交わした。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「共和国を変えましょう」
短い言葉だった。
それでも、それぞれの握手には重みがあった。
最後の一人と握手を終えると、私は資料を机へ広げる。
ヘルムが首を傾げる。
「おい。もう仕事か?」
私は頷いた。
「ええ。財務省へ連絡をお願いします。共和国の財務状況資料を見たいんです」
部屋が一瞬静まり返る。
ラインが思わず聞き返した。
「えっ?党首として、まずは挨拶回りでは?」
私は首を横に振る。
「挨拶は後でもできます。でも共和国の財政は待ってくれません。何がどれだけ足りないのか?借金はいくらあるのか?税収はどうなっているのか?それを知らなければ、何も始まりません」
ヘルムはニヤリと笑った。
「相変わらずだな。まず数字か」
私は笑顔で答えた。
「数字は嘘をつきませんから」
その日のうちに、財務省へ資料閲覧の申請が出された。
一方、その様子を遠くから見ていた男がいた。
新聞記者、ウス・ライである。
彼は手帳へ素早くペンを走らせる。
「なるほど……面白い」
翌朝。
共和国中へ配られた新聞の一面には、大きな見出しが躍っていた。
『ベレ党首、挨拶回りせず』
さらに、その下には一段大きな文字。
『一番最初に財務省へ殴り込み』
記事にはこう書かれていた。
「通常、新党党首は当選後、各党への挨拶や関係者への表敬訪問を行う。しかしヴィーダーベレ・フォン・シュタインベルクは、それらを後回しにし、最初に求めたのは共和国の財務資料だった。」
「彼女が知りたかったのは祝福ではない。共和国の現実である。」
新聞を読んだ人々は驚く。
「普通じゃないな」
「まず財務省へ行く政治家なんて聞いたことがない」
「だからこそ、あの子は違うのかもしれない」
その記事は、共和国中で大きな話題となっていった。




