投票日
秘密基地。
私はヘルムに教わりながら、PPKを両手で構える。
「まず、弾倉を入れる」
カチッ。
「次に、スライドを引く」
私は言われた通り、ゆっくりとスライドを引く。
「はい」
ヘルムは頷いた。
「そうだ。最後に安全装置を解除」
私は小さく息を吐く。
「これで撃てる状態ですか?」
「そうだ。だが慌てるな。余計な力が入ると狙いがぶれる」
私はもう一度構え直す。
「落ち着いて、余り力まず」
ヘルムの声に合わせるように深呼吸をする。
引き金へ指を添える。
パンッ!
乾いた音が響いた。
弾は標的の端へ当たる。
私は苦笑した。
「難しい……」
ヘルムは笑う。
「最初はそんなもんだ。大事なのは命中率じゃない。安全に扱えることだ」
私は頷いた。
「はい」
その日の訓練は、それだけで終わった。
翌朝。
共和国各地では、朝早くから投票所へ向かう人々の姿があった。
学校。教会。役場。
それぞれが臨時の投票所になっている。
まだ開場前だというのに、既に長い列ができていた。
初めて投票する若者。
子どもの手を引いた母親。
仕事前に立ち寄った工場労働者。
杖をついた老人。
皆が静かに順番を待っている。
ラインはその光景を見て呟いた。
「こんなに並ぶとは……」
ヴィルも静かに頷く。
「皆、この国を変えたいのでしょう」
私は列を眺めながら、小さく微笑んだ。
「政治へ興味を持ってくれるだけでも、大きな一歩ね」
やがて私の番が来た。
投票用紙を受け取り、候補者名を書き込む。
一枚の紙を、静かに投票箱へ入れる。
カタン。
小さな音だった。
けれど、その一票には多くの人の未来が懸かっている。
投票を終えると、私は静かに外へ出た。
空は雲一つない快晴だった。
ヘルムが隣へやって来る。
「終わったな」
私は頷く。
「ええ。もう私達にできることはありません」
ラインも少し緊張した表情を浮かべる。
「結果が気になります」
ヘルムは帽子を深くかぶり直した。
「待つのも政治家の仕事だ」
私は空を見上げる。
演説もした。討論もした。全国を回った。
仲間も集めた。
そして今日、一人一人が自分の意思で一票を投じた。
私は静かに呟く。
「後は……結果を待つだけね」
吹き抜ける風は穏やかだった。
長かった選挙戦は終わった。
そして共和国は今、新しい一歩を踏み出そうとしていた。




