共和国は変われるのか
選挙まで残り数日。
首都の新聞社では、夜遅くまで明かりが消えなかった。
机の上には各党の資料が山積みになっている。
支持率。候補者一覧。政策集。
各地の取材記録。
その中央で、ウス・ライは腕を組みながら原稿用紙を見つめていた。
「さて……最後の記事だな」
若い記者が尋ねる。
「やはりシュタール労働者党を大きく取り上げるんですか?」
ウス・ライは静かに首を横へ振った。
「違う。新聞は応援団じゃない。読者へ事実を伝えるのが仕事だ」
そう言って、新しい原稿用紙を取り出す。
一文字ずつ丁寧に書き始めた。
翌朝。
共和国中へ配られた新聞の一面には、大きな見出しが載っていた。
『共和国は変われるのか』
記事では既存政党の歩みが紹介されていた。
戦後復興への取り組み。各党の政策。
抱えている課題。
そして、新しく誕生した政党についても触れられていた。
『シュタール労働者党』
結党から数か月。十五歳の党首。
地方復興で実績を残したシュタインベルク伯爵領。街頭演説。炭鉱視察。港町の訪問。
討論会での発言。
記事は感情を交えず、事実だけを淡々と並べていく。
最後には、こう締めくくられていた。
「どの政党を選ぶかは読者一人一人が決めることである。しかし一つだけ確かなことがある。今回の選挙は、共和国の未来を左右する選挙になるだろう」
その新聞は各地で読まれていた。
喫茶店。工場の休憩室。駅。市場。港町。
炭鉱。多くの人が新聞を手に取る。
「珍しいな。今回は公平に書いてある」
「この党がシュタール労働者党か」
「例の十五歳の子だろ?」
一方、事務所でも新聞が届いていた。
ラインが記事を読み終え、小さく頷く。
「公平ですね」
ヴィルも静かに新聞を閉じる。
「どちらかを持ち上げる内容ではありません」
私は記事を最後まで読み終え、微笑んだ。
「これでいいのよ」
ヘルムが腕を組む。
「不満じゃねぇのか?」
私は首を横へ振る。
「新聞は宣伝じゃないもの公平だからこそ、多くの人が信じられる」
ヘルムはニヤリと笑う。
「なるほど。だからウス・ライを信用してるわけか」
私は窓の外を見る。
新聞は、一日で国中へ届く。
ラジオはまだ普及していない。
だから今、この国で一番人を動かす力を持つのは新聞だった。
その時、事務所の扉が開く。
当の本人、ウス・ライが少し眠そうな顔で入ってきた。
「おはようございます」
「徹夜でしたか?」
私が尋ねると、ウス・ライは苦笑した。
「最後の記事ですからね。できるだけ公平に書いたつもりです」
私は新聞を胸に抱える。
「ありがとうございます」
「私達に有利だからじゃありません。読者が自分で考えられる記事だったからです」
ウス・ライは照れくさそうに頭をかいた。
「それが新聞記者の仕事ですから」
選挙まで、あとわずか。
共和国中の人々が、それぞれの未来を考え始めていた。




