港町
飛行機は安定した飛行を続けていた。
窓の外を眺めていると、景色が少しずつ変わっていく。
山が遠ざかり、広い平野が見え始めた。
その先には――。
「……あっ」
青く輝く水平線。
私は思わず窓へ顔を近づける。
「海……」
そう言えば、この世界へ来てから海を見るのは初めてだった。
どこまでも続く青。
陽の光を反射してきらきらと輝いている。
私は小さく笑う。
「綺麗……」
ヘルムも窓の外を見ながら言った。
「もうすぐ港町だ」
しばらくすると飛行機はゆっくり高度を下げ始める。操縦士が振り返った。
「着陸するぞ!」
機体が揺れる。
ガタガタガタッ!
車輪が滑走路へ触れ、大きな振動が伝わってきた。私は座席へしがみつく。
「うわっ!」
やがて飛行機はゆっくり止まった。
私は大きく息を吐く。
「音はうるさかったけど……なかなかの体験ね」
ヘルムは笑う。
「慣れれば寝られるぞ」
「私はまだ無理です」
飛行場から馬車で港町へ向かう。
港へ近づくにつれ、私は違和感を覚えた。
静かだった。港町なのに、人の声が少ない。
やがて港へ到着する。
そこには大型倉庫が何棟も並んでいた。
しかし扉は閉ざされ荷車もほとんどない。
港へ停泊する船も数えるほどだった。
私は思わず呟く。
「静かすぎる……」
案内役が苦笑する。
「昔は違いました。毎日、荷物の積み下ろしで大忙しだったんです」
私は空っぽの倉庫を見つめる。
「今は?」
「貿易が止まりました。輸入も輸出もほとんどありません」
港湾労働者達も、岸壁へ座ったまま海を眺めている。
仕事がないのだ。
一人の男性が話しかけてきた。
「嬢ちゃん?選挙か?」
私は頷く。
「はい」
男性は寂しそうに海を見る。
「船が来なくなれば、俺達の仕事もなくなる。荷物を運ぶ仕事も倉庫も店も全部だ」
私は静かに港全体を見渡した。
なるほど……輸出入が止まると、ここまで影響が出るのね。
一つの港が止まる。
すると船乗り。港湾労働者。倉庫。商人。
運送業。町全体の仕事が止まる。
私は改めて実感した。
「輸出入が止まると、国はこうなるのね」
ヘルムは静かに頷く。
「戦争ってのは前線だけじゃない。港も止まる。工場も止まる経済全部が止まる」
私は岸壁へ立ち、海を眺める。
その向こうには他の国がある。
本来なら、この海は人と物を運び、国を豊かにする道だった。
それが今は、静まり返っている。
私はノートを開き、新しい一行を書き加えた。
『港の復興』
『貿易の再開』
『物流網の整備』
「共和国が立ち直るには、工場だけでも農村だけでも駄目。港も動かなければ、本当の復興にはならない」
海風が静かに吹き抜ける。
私はその風を受けながら、遠く水平線を見つめた。
いつの日かこの港へ再び多くの船が集まり、人々の笑顔が戻る日を思い描きながら。




