初めての応援演説
翌朝。
「今日は応援演説へ行くぞ」
ヘルムの一言で、私達は馬車へ乗り込んだ。
向かった先は首都郊外の牧場。
……いや。
表向きは牧場。本当は秘密基地だ。
格納庫の大きな扉がゆっくりと開く。
私は思わず息を呑んだ。
「えっ……」
そこには巨大な飛行機が並んでいた。
一機。二機。三機。
ラインとヴィルも思わず足を止める。
「まさか……ツェッペリン・シュターケン!?」
「それも三機も……!」
二人とも驚きを隠せない。
私は飛行機を見上げながら呟く。
「こんな大きな飛行機まであったの……」
ヘルムは得意げに笑う。
「そりゃそうだ!戦争中は、こいつらが空を飛んでいたからな」
私は機体の周りを歩く。
巨大な主翼。何基ものエンジン。
機体には戦時中の塗装を消した跡が残っていた。
「これで移動するの?」
「そうだ」
ヘルムは当然のように答える。
「馬車や鉄道じゃ時間が足りん。選挙は時間との勝負だ!空を飛べば、一日で何か所も回れる」
私は思わず苦笑する。
「だから秘密だったのね」
ヘルムはニヤリと笑う。
「ようやく分かったか」
その時だった。
ヘルムが大きな荷物を持って近付いてきた。
「ほれ!これ背負え」
私は受け取る。
「……え?パラシュート?」
ヘルムは真顔で頷く。
「そうだ」
私は目を丸くした。
「飛行機へ乗るだけなのに?」
ヘルムは即答する。
「落ちるかもしれん。だから背負え」
私は思わず苦笑する。
「縁起でもないこと言わないでください」
ラインも真剣な表情で言う。
「ですが、安全第一です」
ヴィルも頷く。
「軍では当たり前でした」
私は観念してパラシュートを背負った。
「これ、結構重いわね……」
ヘルムは満足そうに頷く。
「それでいい。グラウベに『娘へパラシュートを着けませんでした』なんて報告したら、俺が怒られる」
私は吹き出した。
「結局、お父様なんですね」
「当たり前だ!一番怖いのは敵じゃねぇ!親バカ元帥だ」
ラインとヴィルも苦笑するしかなかった。
やがてエンジンが始動する。
ゴォォォォ……
格納庫中へ轟音が響く。
私は耳を押さえながら窓の外を見る。
飛行機がゆっくり滑走路へ向かっていく。
そして機体が地面を離れた。
「わぁ……!」
町が小さくなっていく。
道路。鉄道。川。全てが地図のように見えた。
私は思わず窓へ顔を近付ける。
「すごい……これなら本当に、一日で何か所も回れる」
ヘルムは笑う。
「だろ?選挙は時間との勝負だ!一人でも多くの候補者を応援する!今日はお前じゃない!候補者が主役だ」
私は静かに頷く。
「そうね。この党は私一人の党じゃない」
飛行機は最初の応援演説会場へ向けて、雲の上を飛び続ける。
これまで馬車では何日も掛かっていた距離が、わずか数時間で縮まっていく。
私は窓の外を眺めながら、小さく笑った。
「空まで使うなんて……ヘルムさん、本当に何でも隠してるんだから」




