初めての襲撃
選挙戦も中盤へ差しかかった。
この日も私は候補者の応援演説へ向かうため、馬車へ乗っていた。
先頭には護衛。左右にも護衛。後方にも護衛。
以前とは比べものにならない警備体制だった。
私は苦笑する。
「ちょっと大げさじゃない?」
ラインは真剣な表情のまま答える。
「いいえ。これでも最低限です」
ヘルムも腕を組みながら笑う。
「有名になるってのは、敵も増えるってことだからな」
馬車が広場へ近付いた、その時だった。
「いたぞ!」
誰かの怒鳴り声が響く。
次の瞬間。石が一つ、馬車へ向かって飛んできた。
「危険!」
ラインが叫ぶ。
護衛隊が一斉に動いた。
一人が盾を構え、石を受け止める。
二人が私を囲み、安全な場所へ誘導する。
さらに残りの護衛達が、投石した男達を素早く取り押さえた。
騒ぎは数十秒で終わった。
私はゆっくり馬車から降りる。
「皆、大丈夫?」
護衛達は敬礼する。
「問題ありません」
私はラインを見る。
ラインは大きく息を吐き、胸をなで下ろしていた。
「……よかった。高射砲で撃たれなくて済む」
私は思わず吹き出した。
「まだ気にしてたの?」
ヘルムは腹を抱えて笑う。
「はっはっは!相当効いてたみたいだな!」
ラインは顔を真っ赤にする。
「だって!閣下なら本当にやりそうで……」
ヴィルも苦笑した。
「否定できませんね」
ヘルムは笑いながら頷く。
「まあ、今日で証明できた。訓練は無駄じゃなかった」
ラインは真剣な表情へ戻る。
「はい。ようやく安心できます」
私は護衛隊を見回した。
皆、落ち着いて動いていた。
誰一人慌てることなく、それぞれの役割を果たしている。
「皆さん、ありがとう」
護衛達は少し照れくさそうに頭を下げた。
その日の演説も無事に終わり、帰りの馬車で私はふと疑問を口にした。
「そういえばヘルムさん。これから応援演説をできるだけ多く回るって言っていましたよね?」
ヘルムは頷く。
「ああ」
私は共和国の地図を広げる。
「でも、この広さよ?鉄道を使っても相当な移動距離になると思うけど……」
ヘルムはニヤリと笑った。
「ようやくそこへ気付いたか」
「え?」
「俺が何の準備もせずに、そんなこと言うと思うか?」
私は首を傾げる。
「何か考えがあるの?」
ヘルムは意味深に笑うだけだった。
「ある。ただし、もう少し先のお楽しみだ」
ラインもヴィルも顔を見合わせる。
どうやら二人も知らないらしい。
私は苦笑した。
「また秘密?」
「秘密だ」
ヘルムは窓の外を眺めながら静かに呟く。
「選挙ってのはな?演説だけじゃ勝てねぇ。時間との勝負でもある」
私はその言葉の意味を考えながら、共和国の地図を見つめる。
この広い国を、どうやって回るつもりなのだろう。
ヘルムの次の一手は、まだ誰にも明かされていなかった。




