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【番外編追加】国宝級天才の最愛 〜四葉を手放せない若き侯爵は、恋の進め方だけが分からない  作者: 有原 詩名美


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第9話 監査室、総力戦

翌日から、監査室の威信をかけた【トリフォニアのお見合い相手大捜査網】が敷かれた。 

もちろん、業務に差し障りの無いように。 


「閣下と噂のある方のお相手はちょっと……」

尻込みする候補者も多く、人選は難航するかに見えた。


しかし、さすが王宮勤務のエリート集団。あっという間に、数名の候補を挙げてきた。そしてそのまま、情報がトリフォニアに渡されるのかと思いきや検討会議にかけるから少し待てと言われた。


「け…検討会議ですか?そこまで、皆さんの手を煩わせるのは」

トリフォニアは恐縮する。お見合い相手が見つかるだけでも充分過ぎるのだが…。

「ダメよ」

ジョアンナが言う。

「一度好みとか、そういうの外して考えないと。案外そういう相手の方が上手くいくのよ。だから、私たちに任せなさい」

その日の夜から業務終了後、“トリフォニアお見合い相手選出会議”が繰り広げられる。


「騎士団第二部隊のジェームスは?」

「ダメね」

「なぜです?」

「休暇の申請理由が雑」

「その却下理由も雑だな…」

「では財務局のハロルドは?」

「ダメだ。字が汚い」

「それは関係ないだろう!」

「いや、字って大事よ。『て』か『こ』か分かんない字を手紙に書かれてみなさいよ。読みづらくて、百年の恋も冷めるわ」

「あ、たしかに『こ』が繋がって見えて『て』にみえる…ふむ。これは確かにストレスだ」

喧々囂々、議論はもはや粗探しだ。プロの目が無駄に働きすぎている。


監査室長は思った。

採用面接ですら、ここまで白熱した事はない。


「トリフォニアは真面目で優秀なんだから、中途半端な相手じゃダメよ」

ジョアンナが腕を組む。

「そうだな」

カイルも頷く。

「俺たちが選ぶんだ。変な男は絶対に駄目だ」


「じゃあ、製薬局のレイモンドはどうだ? 家柄もいいし、物腰も柔らかいぞ」

デニスが自信満々に釣書を出す。


「却下よ」

ジョアンナは、冷徹にレイモンドの釣書を没にする。

「製薬局の備品請求書を監査した時、彼、毎月『おしろい草の抽出液』を大量に経費で落としてるわ。あれは、若ハゲを隠す育毛剤の成分よ。見栄っ張りな男はトリフォニアを苦労させるわ」


「……おしろい草から、若ハゲが分かるのか!?」

カイルが戦慄する。


「当然よ。監査室を舐めないでちょうだい。ちなみに隣の、外務局のセシル。彼は一見スマートだけど、出張費の精算書に毎回『高級紅茶』が混ざってる。若い女性に人気の商品よ。しかも、一度の購入数が多すぎる。きっと他国に複数女がいるわね。誰よこんな穴だらけの人選持ってきたのは!」


監査室の隅で、新人が静かに目を逸らした。

お見合い相手の選考ではなく、身辺調査と化している。


「まぁでも、相手も大事だが、お見合いをするのはトリフォニアだ。そうだ、模擬訓練をしてみよう」

カイルが真面目な顔で、机を挟んでトリフォニアの前に座った。

「えっ、訓練ですか?」

「そうだ。実施監査だと思えば余裕だろ」

「よし、俺をお見合い相手だと思え。

『トリフォニア嬢、本日のドレスも、君の瞳の色によく映えてとても美しいよ』さあ、どう返す!」


トリフォニアは真剣に考え、監査室仕込みの満面の笑みで答えた。


「ありがとうございます。ですが、カイルさんのその褒め言葉、先月の活動報告書の『非常に有意義な成果を収めた』という文言くらい中身がありませんね。具体的にどこが美しいのか、簡潔に提示していただけますか?」


「お前、可愛げが行方不明だぞ!!」 

「カイルさんが、実施監査とか言うから、仕事モードに入っちゃったんですよ!!」

カイルが頭を抱え、デニスが爆笑する。

ジョアンナだけが

「いいわよトリフォニア、男の口車に騙されたらダメよ。まずは疑わなきゃ。」

と、監査官目線では極めて優秀だと頷いていた。


そうして、監査室の夜は更けていった。



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