第10話トリフォニアお見合い大作戦
字が綺麗で、育毛剤を使ってなくて、女遊びをしていない、監査室の厳しい審査をくぐり抜けたのは選ばれし3名の精鋭たち。
かくして、トリフォニアはお見合いに挑む事となった。
一人目――エドガー・アンディソン
財務局主査補、伯爵家三男の24歳。
最初にお見合いが組まれたのは、王道のエリート枠だった。
学院を首席卒業し、若くして税制改革案を提出した財務局期待の若手である。性格は、真面目で穏やか、少し堅物ではあるが「家良し、顔良し、借金なし」ジョアンナのお眼鏡に適った相手だ。
初めての顔合わせは、高台にある夜景の綺麗なお店でのディナーだった。
「すみません、本当はランチにお誘い出来れば良かったのですが、なかなか日中は時間がとれなくて」
堅物と聞いて少し構えていたが、なんともスマートなエスコートだった。選んでくれたお店も、少し格の高い落ちついた雰囲気だ。
何より夜景が素晴らしい。窓際の一等席だった。
はじめてのお見合いに、緊張していたのはお互いだったようだ。実は、お店選びにかなりの時間をかけたと聞いて彼の真面目さが見えた気がした。
いい雰囲気のまま、顔合わせは無事に終わった。
「また、お誘いしてもいいですか」
是非にと、トリフォニアは頷いた。
「やったわね!」
翌朝、お見合いの結果が気になって眠れなかったというジョアンナに報告すると自分の事のように喜んでくれた。監査室全員も、時間をかけて選んだ甲斐があったと喜んだ。
「お迎えに来ました、トリフォニアさん」
数日後、休憩時間にエドガーが監査室に顔を出した。
今忙しい時期だそうで、デートの予定がなかなか合わない。残念に思っていると、エドガーからお昼休憩に会わないかと提案された。無理だからと言わず、柔軟に切り替え提案をしてくれる姿にも好印象を持った。天気が良かったので、食堂のランチを持ち出し用に包んでもらい外で食べた。まだ、緊張もするし話す内容も考えながらだが、それでもトリフォニアは手応えを感じていた。
それから、さらに2度ほど休憩の合間にランチを取った。誰もが思っていたのだ、これはイケると。
「え!?北方財政監督官に任命されたのですか!?」
4度目の休憩時間デートの時に聞かされたのは、驚きの昇進話だった。
「監督官だなんて、すごいじゃないですか!!」
「ええ、自分でもびっくりしてます。以前出した税制改革案が、さらに上の方の目に止まり、やってみないかと打診を受けました。」
エドガーは生き生きと、輝く瞳で語る。
「こんなチャンス滅多にないので、その場でお受けしました!」
「ええ!勿論ですよ!それが正解ですよね!」
トリフォニアも一緒に喜ぶ。
「ただ…」
エドガーが少し話のトーンを落とす。
「異動を伴う昇進です。これから、初めての事ばかりで忙しくなります。思うように時間を取れなくなりますし…何より会うのも難しくなる」
少し眉毛を下げながらエドガーは告げた。
「貴女との時間は、とても有意義で楽しいものでした。ですが今は、この機会に全力を注ぎたい。トリフォニアさんならきっと、素敵なお相手が見つかります。」
こうして、エドガーとのお見合いは終わりを告げた。
「昇進に負けました…」
監査室に戻ってきたトリフォニア。
驚きの終わり方に、誰もが言葉を失った。
「昇進に負けたなら仕方ないわ!相手が女性なら問題だけど、昇進なら祝福しなさい!それがいい女というものよ!」
ジョアンナが励まし、気合を入れる。
「よし次よ!次!カイルあの騎士様と予定組んでちょうだい!」
二人目――ロイド・フェルドゥナー
第二騎士団小隊長、子爵家次男の26歳。
小隊長として剣の腕も確かで、部下からの信頼も厚いカイル推薦の人物だった。
王宮勤務の騎士というと、女性も選り取り見取りだろう。少し軽い性格なのではと構えていたが、面倒見が良く、誠実、女性慣れしていないとの評判だった。
顔合わせは、城下のおしゃれなカフェだった。
話題のカフェで、予約も取りにくいと聞いていたので本当に女慣れしていないのか少し疑わしかった。
「実は姉のコネがありまして…」
少し照れて笑うロイド。聞けば、お見合い話を聞き、お店選びに疎いロイドを心配した家族が、総出で探し出してくれたらしい。お膳立てはした、あとはお前の魅力次第だと、発破をかけられたらしい。
家族の仲の良い様子に、愛されて育った姿が垣間見える。騎士なのに、ほんわか笑うそのギャップに胸が騒いだ。
お見合いは無事に終了し、次の休日に美術館デートの約束も取り付けた。
よし、今度こそ。トリフォニアも監査室の面々も期待していた。
…なのに。
「ええ!!国境警備強化で隊長代理へ昇進ですか!?」
「そうなんです、しかも急な辞令で来週には赴任地へ出発になってしまって…」
申しわけなさそうに、デートのキャンセルを伝えにきたロイド。しかし、昇進の知らせに喜びが隠しきれていない。
その様子に、トリフォニアはクスッと笑った。
「おめでとうございます。ロイドさんの実績が認められた事は私も嬉しいです。これからのご活躍、期待していますね。」
こうして、またしてもトリフォニアは昇進に婚活を阻まれた。
「…また昇進?」
「…また昇進ね」
「トリフォニア、お前なんか昇進の女神に加護でも受けたのか?」
「それって、普通いいものですよね。昇進の女神様…。私、婚活の女神様に見初められたいんですけど」
トリフォニアは泣いた。
3人目――セオドア・トロイス
王立研究院研究官、平民出身の25歳
奨学生として学院を出て、農業改良技術を開発している若手研究者の期待の星。性格は、優しく話好きで少し天然。
「家柄はないけど能力は本物よ」
「王立研究院史上最年少主任研究官候補だ」
監査室メンバーのお墨付き。
トリフォニアは釣書を見ながら考えた…二度あることは三度ある。しかし、ここで立ち止まっては結婚はおろか、恋人を作ることさえ難しい。
約束は、次の週末に植物園での顔合わせとなった。研究者らしい選択だなとトリフォニアは思った。
植物園は、好きだ。研究者目線の話も聞けるかなと、楽しみにしていた。しかし、週最後の勤務日にその知らせはやってきた。
「…農地改革責任者へ昇進。さらに、短期国外留学のあと、ニ年任期で南部へ赴任ですか」
仲介者が申しわけなさそうな顔をする。
ついに、本人に会うことすら無くお見合いの終了が告げられた。
「…また昇進?」
「…また昇進ね。…私たちが目利き過ぎたのかしら?」
「しかも、昇進のスピード増してないか…?今回は、会う前だぞ。お前、昇進の女神の加護をさらに受けたのか?」
トリフォニアは再び泣いた。そして、思ったのだ。
女神様、どうか私にも加護をお与えください。
昇進の加護ではなく
婚活の加護を
「我こそは、婚活の加護を与えし女神!」
という心優しい女神様(読者様)がいらっしゃいましたらどうかトリフォニアに婚活の加護をお願いいたします。
ブックマーク、評価、リアクションなど、読者様の加護をお待ちしております。




