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【番外編追加】国宝級天才の最愛 〜四葉を手放せない若き侯爵は、恋の進め方だけが分からない  作者: 有原 詩名美


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第7話 修羅場のお茶会

その案内を受け取った時、トリフォニアは頭を抱えた。しかし臣下たるもの、王女の誘いを断るわけにはいかない。


「粗相の無いようにね、トリフォニア」

ジョアンナは、我が子を戦地に送る面持ちで見つめる。

「誤解はまず始めに解くのよ。とにかく低姿勢を貫いて!」

「そう、仔犬がお腹を見せてるイメージだ! 敵意は無いと示せ!」

カイルがなぜか拳を握りしめて熱弁する。

「…いっその事、仔兎くらいか弱いフリをした方がいいんじゃないか?」

デニスが真面目な顔で提案する。

「ダメだろ! それじゃ煮て食われてしまう!!」 

すかさずカイルが却下した。

「安心なさい。もしもの時は、骨くらいは拾ってあげるわ」

「ジョアンナさん!?」

アドバイスなのか、ただの不吉な予言なのかよく分からない言葉を好き勝手に言う同僚たち。

トリフォニアは見当違いな声援に背中を押されながら、監査室を後にした。


中央庭園――

そこは、王宮の中で最も彩られた空間だ。

来賓をもてなしたり、一般公開もされており、ありとあらゆる人々が訪れる場所である。


その一角に王族専用のテラスがある。その高貴な場へトリフォニアは足を踏み入れた。

「本日はお招きいただき、誠に光栄でございます」

全身全霊で挨拶をする。

「ああ…そんなに畏まらないで。これは貴女へのお詫びのつもりなの」

王女が優雅に言葉を発する。そこに漂うのは圧倒的本命の余裕だ…とトリフォニアは感じた。

(これは…『うちのルクセインが、ご迷惑をおかけしてごめんなさいね』というやつ!?)

誤解は早めに解かねばと、しかし、何から話せばいいのか逡巡する。

「あの…噂の事なのだけれども…」

王女のその言葉に、反射的に声を出した。

「全くの誤解でございます!私、閣下に横恋慕などしておりませんし、お二人の邪魔をする気もございません!」

王女の言葉を遮ってしまった。

不敬ではあるが、勘違いされたままでいる方がよほど困る。

「……え?」

王女が瞬きをした。

「横恋慕?」

「はい!していません!」

「私とルクセインに?」

「はい!していません!!」

「……」

王女は引きつった笑顔のまま、固まってしまった。


(――しまった!?何か間違えた!?)

トリフォニアは脳内がパニックである。


その光景は庭園にいるもの、通りすがるもの全てが見ていた。もちろん、遠くて会話は聞こえない。それ故、周囲は誤解した。


――正妻と愛人の一騎打ち


王女は優雅な笑みを浮かべたまま微動だにしない。

対するトリフォニアも、緊張で顔を引きつらせつつも、必死に笑顔を保っていた。

周囲には、それが互いに一歩も譲らぬ笑顔の応酬に見えていた。


「す…すごい。お互い笑顔で一歩も引いてない」

「たしか、閣下。今日は城下に視察よね?」

「女同士で決着つけましょう?みたいな話!?」

「おいおい、これどうなるんだ」

「気になって仕事が手につかない」


見当違いの誤解をした周囲の人間に、勝手に行く末を見守られている二人。


「あ!王女から話をはじめた!」

「お菓子を振る舞っているぞ」


一挙手一投足が話題の的だ。

もちろん話し声が聞こえないのは、トリフォニア達も同じだ。

王女が笑顔で促す。

「ルクセインから貴女が好きなお菓子だときいて取り寄せたの。召し上がって?」

それは、トリフォニアの地元でお気に入りの製菓店のお菓子だった。

「ルー…閣下が私の好きな物を?」

危うくルークと呼ぶところだった。

トリフォニアは慌てて言い直した。

王女がふわりと笑う。

「面白いでしょ?しっかり覚えているの」

クスクスと笑うが、その意味の解釈にトリフォニアは頭を悩ませる…。

「…私ごときのために、そこまでしていただかなくても」

驚きのあまり、ようやく絞り出した言葉だった。

すると、


「まあ!」

王女が勢いよくテーブルを叩いた。

カタン、と茶器が揺れる。


「私ごときなんて!そんな卑下した言い方は良くないわ!貴女よくやっているじゃない」

王女が身を乗り出し褒めた。

「貴女が地方にいた時に、子供たちの知識の格差を報告書に上げたでしょ?中央では、植物園や図書館など気軽に知識を得る場があるけど、地方だと難しいって」

トリフォニアは驚いた。随分前の報告書だ。

「それは…業務に関わらず疑問や問題点、改善点を報告しろという…あの取り組みの時の報告書ですよね?」

「ええ、あの取り組みルクセインの発案なの!」

王女が、嬉しそうに力強く応える。

「あの報告書からね、今度地方に王立図書館を造ろうという話になっているのよ!!」

更に力がこもる

「しかもよ?ただ本を置くだけじゃないの!子供向けの読み聞かせ会や、巡回司書制度まで検討しているのよ!」

「え…そんなことになっていたんですか!?」

王女の熱量に圧倒されながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「全部ではないけれど、最初のきっかけは貴女の報告書なの!」

熱弁は止まらない。

「ルクセインは、子供に向けた視点もしっかり持ってるのよ!」

気がつけば、前のめりになってトリフォニアに話かけている王女だった。


「…すごい」

思わず本音が漏れた。

正直、読まれたかどうかも分からないと思っていた報告書。それが王女の目に留まり、国の政策の一部になろうとしている。

驚きと嬉しさで胸がいっぱいになった。


「でしょう!?」

王女はなぜか得意げだった。

「ふふっ」

その様子に、トリフォニアは思わず小さく笑う。素直に、可愛い人だと思った。

「あら、今笑ったわね」

「す、すみません」

「どうして謝るのよ」

王女も楽しそうに笑った。


――庭園の周囲では。


「あっ、笑ったぞ」

「詰め寄った後だぞ…」

「これは逆に怖い」

「表面上は和解したように見せてるだけじゃないか?」

「やっぱり女同士の戦いは恐ろしい…」


相変わらず見当違いな憶測が飛び交っていた。


その頃、予定より早く城下視察を切り上げたルクセインは王宮内を歩いていた。


「閣下、お帰りなさいませ」

「ああ」


部下へ短く返事をしながら執務室へ進む。

すれ違う者たちが何やら落ち着かない。ひそひそと声を潜めている者までいる。


(また何か噂か)


王宮では珍しいことではない。特に王女が絡めば尚更だ。いつもの事だと、ルクセインは気にも留めなかった。


中庭に差し掛かった頃、妙な熱気を感じた。

視線を向け驚いた――


王族専用テラス。

楽しそうに話す王女と、その向かいに座るトリフォニアの姿があった。


嫌な予感しかしない。

ルクセインは足早に二人の元へ向かった。


本日、庭園を通りかかった皆様へ。


もし現場に居合わせた方がおられましたら、リアクションなど残していただけると嬉しいです。

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