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【プロポーズ編追加】国宝級天才の最愛 〜四葉を手放せない若き侯爵は、恋の進め方だけが分からない  作者: 有原 詩名美


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20/21

【中編】公開プロポーズ

あれから連日、プロポーズの企画会議は続いていた。


ある日、仕事を終えた頃に侍女がやって来た。

「王女殿下がお呼びです」

何だろうと首を傾げながら、侍女について行く。

案内された部屋へ入ると、王女はどこか楽しげな笑みを浮かべて待っていた。


「来たわね!」


すると侍女が、一着の白いワンピースを運んできた。

胸元から肩にかけて柔らかなシフォンが重なり、風を含めば花びらのように揺れそうな軽やかな一着。装飾は驚くほど控えめで、レースと小さな真珠がさりげなくあしらわれているだけだ。


それを見た瞬間、胸の奥が小さくざわつく。

――あれ?

何かが引っ掛かった。

ただ、その引っかかりが何かは思い至らない。


「プロポーズ当日に着てほしいの!」

王女はワンピースを見せながらそう言った。

「本当はね、もっと豪華なドレスがいいと思うのよ。私はね。でも、ルクセインが頑なに『ニアには、これがいいんです!』って言い張るのよ」

少しだけ拗ねたような王女の表情に、トリフォニアは思わず笑ってしまった。

「ほら、早く着替えてみて!」

侍女たちに背中を押され、半ば強引に試着室へ連れて行かれた。


「まあ!」

着替え終わり姿を見せると、王女がぱっと立ち上がった。

「よく似合うわ!」

満足そうに何度も頷く。

「トリフォニアは美人だから、余計な装飾なんて必要ないのね。シンプルな服ほど素材の良さが引き立つわ。」

照れくさくなって頬を染めると、王女は腕を組みながら何やら納得したように呟いた。

「…そうか、あの男はこれを計算していたのね」


その時、ふと王女の装いに目が留まった。

「殿下のお召し物、とても素敵ですね。」


濃い鮮やかな青――磨き上げたサファイアのように澄み渡る青色のドレスだった。


この国では見かけない意匠で、上半身は騎士団の正装を思わせる仕立てになっている。

立ち襟から胸元へ流れる金糸の刺繍は、勲章や飾緒を思わせる繊細な模様が施され、肩には小ぶりな飾り章まで付いていた。

腰から下は一転して優雅に広がり、何枚もの布が重なるスカートは歩くたびに波打つように揺れる。


騎士の凛々しさと、王女らしい華やかさ、その二つが違和感なく溶け合った、見たこともない一着だった。  


「そうなの、何故か私の衣装も作らされたの」

「ルクセインに…ですか?」

「ええ。主役は貴女なのに、わけが分からないでしょう?『殿下は総指揮官ですので、衣装があった方が演出効果が高まります』ですって。…何の演出なのかしらね……」

少し、困惑気味に王女が言う。

「でも――」

王女は、ふわりと花が綻ぶように笑った。

「小さい頃から騎士に憧れていたの。だから、こんな衣装を着られるなんて少し嬉しいわ」


その笑顔を見ていると、不思議とこちらまで嬉しくなる。

(殿下が嬉しそうだから、まぁいいか…)

そんな気持ちになった。

プロポーズの指揮官とは何なのだろうか。

その疑問だけは最後まで残ったけれど。


何故か念入りに、化粧をされ髪を結い上げられる王女とトリフォニア。

「かなり念入りな予行演習ね」

王女も驚いていた。

「ルクセイン様より指示をいただいております。今日は本番同様の用意をするようにと」

侍女が答えた。

アクセサリーも着けて、本番さながらの装いが完成した。


「わぁ、殿下。素敵です」

思わず感嘆の声をトリフォニアが出したその時だった。


複数の足音が廊下から聞こえる。

すると、その足音は部屋の前で止まった。


「殿下!失礼してもよろしいでしょうか!」

それは、緊迫したルクセインの声だった。

ただ事ではない、王女の顔色がサッと変わった。

「入れ!」

その声と共に、ルクセインと数名の騎士が流れ込んでくる。

「どうした!何か緊急の要件か」

王女が問うと、ルクセインは一瞬顔を顰めた。

「…殿下、落ち着いて聞いください。セドリックについてです」

王女が目を見開く。


セドリックとは、王女が片思いしている近衛騎士だ。

以前は、王女付きだったがルクセインとの仲を取り持ちたい国王の企てで、この一年は近衛騎士なのに遠方や、国境沿いの警備に送られている。


「何?!セドリックがどうしたの?!ルクセイン!!」

思わず、王女の声は荒くなる。

「……実は、いやここでは説明が難しい。ついてきてください!」

騎士が王女の横に付く。

「トリフォニアも一緒に来るんだ」

事態が飲み込めないトリフォニアに、ルクセインは声をかける。

トリフォニアは、無言で頷くと静かに最後尾についた。

一体、何が起こったのか。

不安に駆られながら、廊下を走った。


廊下をまっすぐ進むと、中央庭園に出る。

そこで、トリフォニアは違和感を感じた。


正面の大噴水の前に100人近い人集りがある。

その両サイドにも人集りが見えた。

ライン状に打ち上がる噴水の水は、いつもより水量が不自然な程多く、噴水の向こう側が見えない。


「殿下のお通りだ!道を空けてくれ!」

ルクセインが群衆に向かって叫ぶと、噴水に続く道がさっと開かれた。

その道はまっすぐ、噴水の中央に延びる。

「殿下!こちらです!」

ルクセインが王女の手を引いて、噴水の前に連れ出した。

そこには、三段ほどの階段が設置されていた。


何故噴水の前に連れ出されたのか、その疑問を王女が問いただそうと口を開きかけた。


――その瞬間


ファンファーレが鳴り響く。


パァンと王女の真正面に花火が上がった。


そして、音楽隊が軽快な旋律を奏で出す。


噴水の水量が一気に減り、視界の先に庭園が広がる。


噴水の中央にはレッドカーペットの敷かれた橋が作られている。


その橋の上に


「…え?セドリック?」

王女は目をまん丸にして、想い人の名を呼んだ。


「殿下、お久しぶりでございます」

セドリックが、爽やかに微笑む。

王女は、セドリックの姿に思わず駆け寄り手を取った。

「セドリック!!無事なの!?何か大変なことに巻き込まれてない!?」

「大変なことには……巻き込まれています」

「やっぱり!!それは一体何なの!?私に解決出来る!?」

セドリックは、微笑んでまっすぐ王女を見つめる

「はい、殿下にしか解決出来ないことです」

セドリックは、王女の手を取ったまま跪く。

笑みが消え、騎士の顔になる。


「身分違いの恋だと、己の心を殺してお仕えしておりました。ですが、貴女への想いは募るばかりでした。」

中央庭園には、セドリックの声だけが響く。

「そんな時に、ある方がチャンスを下さいました。本当に殿下と共に歩む覚悟があるのなら、死に物狂いで成果を出せと」

そっと手を離すと、小さな箱を取り出した。

「陛下には、私のこの一年の功績をお認めいただきました。そして『我が娘が承諾するなら』と、お許しをいただいております」

箱が開かれた。

中に覗くのは、王女が憧れていたダイヤモンドの指輪だった。


「殿下、生涯をかけて貴女をお守りします。護衛としてではなく、貴女の夫として並び立つ栄誉を私に下さい」

 

王女は、口元を手で押さえた。

驚きと喜びで瞳は潤んでいた。

「――っ!セドリック…」

王女は、大きく息を吸うと、意を決したように口を開いた。

「分かりました。貴方にその栄誉を与えます。

ただし―― 一生私の側を離れずに護ってよ。途中でやめさせないわよ。絶対…絶対に離さないわよ!」


「勿論です!」


そして、二人は固く抱き合った。


わぁぁっと歓声が上がると、同時に花火が上がった。


それを合図に、噴水前にいた100人近い見物人は祝福の歌を歌い出した。

軽やかな歌声が、庭園いっぱいに響き渡る。


―――王宮歌唱隊だった。


唖然とその様子を見ていたトリフォニアは、あることに気づいた。

セドリックが着ている礼装の意匠は、驚くほどぴったりと王女のドレスと対になっていた。


(…公開プロポーズって、殿下のだったんだ)


ふと、王女がこちらに視線を向けた。

ルクセインは、軽く一礼した。

王女はルクセインを睨みつけるように、一瞬だけ頬を膨らませた。しかしすぐに、喜びを隠せないと最高の笑顔を見せた。


そして、ルクセインの顔を見ると

――幼い頃に見た、イタズラが成功したような顔で笑っていた。


「ニア、行くぞ」

トリフォニアの手を取る。


王女とセドリックのプロポーズ成功に沸く群衆を背にして、二人はその場を離れた。


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