【後編】それはいつか夢見たプロポーズ
二人は、いつかの夜に訪れた王城の隅の小さな庭園まで、小走りでやってきた。
小さな噴水の水面には、月明かりが揺れている。
白い花たちが、夜風を受けて踊っていた。
ルクセインとトリフォニア、二人しかこの世界にいないのではと錯覚する程の、静かな空間。
「ふふふっ…」
息を整えると、笑いがこみ上げてきた。
「びっくりしたわ。全部、ルークの企み?」
「企みとはなんだ?臣下として、王女の幸せの為に奔走するのは当たり前だろ」
ニンマリと、切れ者副宰相の顔で笑う。
「本当に、公開プロポーズされるのかと思ってたのに、全部殿下の為の準備だったなんて」
王女の驚いた顔を思い出して、次に幸せそうに笑った姿が思い浮かんだ。
「殿下、幸せそうだったね」
「ああ…」
「良かった」
風に乗って、中央庭園の方から音楽が聞こえる。
「お祭り騒ぎってこのことね」
「王女へのプロポーズだ。国家行事だ。祭りみたいなもんだよ」
「…いつから計画してたの?」
「公開プロポーズは、殿下が騒ぎ出してからだぞ。俺は普通にセドリックの周りを固めて、プロポーズさせるつもりだったからな」
「………公開プロポーズが、殿下のプロポーズになったのはいつ?」
疑わしげな視線を向けられ、ルクセインは思わず笑う。
「最初から、ニアに公開プロポーズなんてする気なんて、なかったよ」
大きな手が、そっとトリフォニアの髪を撫でる。
「……本当?」
「本当だよ。嫌だよ、人前でプロポーズなんて」
トリフォニアは瞬きをした。
「え、嫌なんだ。むしろノリノリなのかと…」
「そんなわけないだろ。殿下に押し付けるつもりで段取りしてただけだ」
一瞬の間の後、二人して笑った。
「大事なニアとのプロポーズ、人に見せるなんてもったいないこと出来るかよ。全部、俺が独り占めしたいんだよ」
優しくトリフォニアを抱き寄せる。
「人生の一大イベントなんだ。今日までずっと、ニアに愛のない婚約をさせない為に走って来たんだ…誰にも邪魔させない」
ぎゅっと抱きしめる腕が強くなる。
「あっちが盛り上がれば盛り上がる程、誰も俺たちを気にしないだろ?」
「…ふふ、確かにそうね。」
ふと、ルクセインは中央庭園の方に目を向けた。
「時間だな」
胸元から懐中時計を取り出し、時刻を確認すると、そう呟いた。
「…時間?」
トリフォニアが、疑問を口にしたその直後だった。
パァン
最初の1発を皮切りに、数発の花火が上がった。
それは流れ落ちる、流星群のような花火だった。
――流星群
「あっ」
心臓がトクンと跳ねた。
何度も読んだあの物語の、最終節が浮かぶ
――降り注ぐ流星群の下で、王子は白いドレスを纏う姫の手を取った
ルクセインがトリフォニアの手を取る
――王子は姫に愛の言葉を囁く『私の姫君』
「トリフォニア、私の姫君。どうか…」
ルクセインは、言葉を噤む。
「ニア、愛してる。俺の“幸運”ずっと俺だけのニアでいて」
そして、指輪を取り出した。
「結婚しよう!ニア」
その指輪を見て、トリフォニアは息を呑んだ。
控えめなのに、星のように煌めくダイヤモンド。
シンプルな指輪の表面には、愛の言葉が刻まれている。
「うん。結婚しよう。ずっと、ずっと大好きよルーク……これからもずっと」
トリフォニアの細い指に、指輪が通る。
近くで見て、気がついた。
ダイヤモンドの台座に四葉のクローバーの透かし彫り。
ルクセインらしい、その造りに頬が緩む。
二人をずっと繋いでいた、四葉のクローバー。
「ありがとうルーク。私の夢叶えてくれたんでしょ?」
「勘違いしてなかった?あの物語の王子様は卒業したって言ってたけど、ニアの好みは変わってないと思ったから」
ルクセインは、しっかりと自分を見てくれていた。
不安に思った気持ちは、跡形もなく消え去った。
言葉にならない、温かなものが広がっていく。
「理想通りよ!ありがとう!大好き!」
そう言って、少し背伸びをしてルクセインの頬に思わずキスをした。
突然のことに、呆気にとられて、頬に手を当てたままルクセインは固まってしまった。
「え?あれ?ルーク…おーい」
トリフォニアが顔を覗き込もうとした、その瞬間。
ガシッ、と強い力で腕を引かれ、トリフォニアの身体はルクセインの胸の中に閉じ込められた。
「……ルーク?」
見上げたルクセインの顔は、耳の先まで真っ赤に染まっている。けれど、その瞳は熱く潤んでいて、今にも泣き出しそうだった。
「……ずるい。そんなの、嬉しすぎる」
かすれた声で呟くと、ルクセインは愛おしさを堪えきれないというように、今度はトリフォニアの額や目元そして唇へと、何度も何度も深く甘いキスを落とした。
小さな庭園で、誰にも知られない二人だけのプロポーズは幕を閉じた。
二人を結んだ四葉の幸運は、これから先もきっと、永遠に続いていく。
二人の背後で、夜空に特大の花火が打ち上がった。
溢れる光の中で、トリフォニアの指輪に刻まれたルクセインの愛の言葉が、優しく輝いていた。
――貴女に永遠の愛を捧ぐ
プロポーズ編も最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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