【前編】公開プロポーズ準備
「ねぇ…ルーク」
ルクセインの服の裾をちょっとだけ引っ張る。
「…ん?どうした?」
「プロポーズの事…ほんとにするの…その…庭園で?」
思い直してくれないかな、そんな気持ちを声色に含める
「ああ、ド派手なプロポーズにする予定だ」
プロポーズを考えていると言うより式典の準備でもしているような表情で返事をする。
「…あの…私派手なのとか望んでないよ?また何か勘違いしてないよね?普通でいいのよ?」
そもそも、プロポーズします!って準備されるって何なのだろう?トリフォニアのモヤモヤは消えない。
事の起こりは数日前、めでたく両思いになりました、と王女殿下に報告したことがきっかけである。
◇
監査室の面々へ事の顛末を伝えると、室内は一瞬静まり返った。
「……え?」
誰かが間の抜けた声を漏らした。
次の瞬間。
「良かったじゃない!」
「おめでとう!!」
祝福の声が一斉に上がる。
「あの副宰相が、長年の片思いとは…」
「しかもトリフォニアとはな…」
「……まさか両想いだったとは驚きよ。」
「すごいな……勘違いだけでここまで拗らせるとは……」
「不器用も度を超えると、ある意味奇跡ですね。」
喜び半分、呆れ半分。
祝福しているはずなのに、どこか微妙な空気なのは気のせいではない。
そして、その日を境に監査室は妙に賑やかになった。
「失礼するわ!」
ノックもそこそこに現れるのは、王女殿下である。
「殿下!お待ちしておりました!」
そう言って当然のように、受け入れる監査室メンバー。王女は空いている席へ自然と腰掛ける。
その自然過ぎる動きは、監査室の新しい職員のようだ。
「さて、今日はプロポーズの演出についてよ!」
「私は夜の庭園がいいと思います!」
「いや、昼間の方が華やかでしょう!」
「花は白百合より薔薇では?」
「音楽隊も呼びましょう!」
「なら、歌唱隊は?」
「噴水をバーっと打ち上げて」
「打ち上げるなら花火では?」
監査室の面々まで一緒になり、和気あいあいと意見を出し合っている。
その輪の中心では、なぜか真剣な表情でメモを取るルクセイン。
「なるほど……その案は採用します。」
「では、こちらは?殿下の好みは?」
「それも良いですね。」
「さすが殿下です。」
トリフォニアは一人、仕事の書類を手に持ち固まっていた。
誰一人として悪気はない。
むしろ、全員が本気で盛り上げ、プロポーズを成功させようとしている。
それが余計に複雑だった。
――ルークが私にプロポーズ…するのよね?
トリフォニアの意見も好みもそっちのけで、連日
行われるこの企画会議もどきは一体何なのか。
ただでさえ、ルクセインの想い人がトリフォニアだったとの話は、王女への報告翌日には王宮中に広がった。
そして、またしてもトリフォニアは噂のまとになった。
そんな中、衆人環視の中プロポーズをすると言うのだ…。
両思いと判明したのに、浮かれる気持ちは
――全く無かった。
「人生の一大イベントなんだから!二人の幸せの為にも、手は抜けないわ!」
王女の熱意のこもった言葉に、監査室が盛り上がる中、トリフォニアは、こめかみを押さえ小さくため息をついた。
◇
解散後、ルクセインはトリフォニアを官舎まで送っていた。
二人並んで少し遠回りして夜道を歩く。
王城の隅の小さな庭園。
中央庭園ほどの華やかさはないが、小さな噴水からは静かな水音が響き、手入れの行き届いた花壇には、月明かりを受けた白い花々が淡く揺れていた。
その先に見える夜景は、王都の灯りが宝石を散りばめたように広がっている。
昼間はそこそこ賑わいのあるこの場所も、夜は驚くほど静かだった。
「……きれい」
思わず零れた声に、自分でも少し驚く。
さっきまで胸を占めていた重たい気持ちが、夜風と一緒に少しだけほどけていくようだった。
けれど、その隣を歩くルクセインは、何かを考え込むように難しい表情をしている。
その横顔を見ながら、トリフォニアは少しだけ…ほんの少しだけ悲しくなる。
近くにいるはずなのに…。
想いは通じたはずなのに…。
ルクセインは、自分を好きだと言ってくれた…。
けど、
ちゃんと自分をみてくれているのか?
これから先、しっかりと生身のトリフォニアを見て歩幅を合わせてくれるのか。
――本当に、この人でいいのだろうか。
ふと、そんな思いがよぎる。
視線を感じたのか、ルクセインと目が合った。
優しく頬を撫で、トリフォニアの顔をのぞき込む。
「どうした?」
目を細めて笑うその顔に、ドキッとする。
そんな自分に、腹が立った。
「何でもない!もう、今日はここでいい!」
トリフォニアは眉間に皺を寄せると、そう言い捨てて走り去ろうとした。
「えっ!?」
驚いたルクセインは、走り出そうとしたトリフォニアの手首を慌てて捕まえた。
「どうした!?ニア!?」
トリフォニアは、ルクセインに顔を向けない。
「……ニア?」
ルクセインは、回り込んでトリフォニアの顔をみて…驚いた。少し瞳が潤んでいたからだ。
そっと優しく抱き寄せた。
「…ごめん。何か気に触った?」
ルクセインに抱きしめられ、ホッとする気持ちとそれでも反発したい気持ちがせめぎ合う。
「離して…」
押しのけようとしても、びくともしない。
「嫌だ」
ルクセインは即答する。
「…もう…プロポーズなんて…いらない…」
ルクセインの胸に顔を埋めたまま言う。
「一生で一度の大切なものなのに、見せ物になるなんて…ヤダ」
みんながはしゃぐから、楽しそうだから言えなかった。
でも、限界だった。
「ごめん…そんな顔をさせたかったわけじゃない。」
抱きしめる力が強くなる。
「でも、心配しないで。ちゃんとニアが喜んでくれるように…考えてるから。」
「…本当に?」
「うん」
トリフォニアは、ルクセインを見上げ瞳の奥を見る。
「…じゃあ、私が喜ばなかったら…プロポーズ断るから」
ヒュっとルクセインの喉が鳴った。
「……大丈夫。俺を信じて」
暫く、二人は見つめ合ったまま沈黙した。
「分かった…」
トリフォニアは小さく返事をした。
――信じてみよう…そう思ったのに。
「殿下、やはり婚約指輪はプロポーズ前に用意した方がいいのでしょうか?侍女の統計を取ったところ、『一緒に選びたい』もしくは、『自分の欲しい物を選びたい』が、『こっそり用意してほしい』のポイント数を上回っているのですが…しかし、一般的なプロポーズのイメージは、指輪を前にしますよね?」
翌日ルクセインは、熱心に統計と王女の意見を聞いていた。
本当に、本当に信じていいんだよね?
そう思うたび、トリフォニアの不安は少しだけ大きくなっていくのだった。
番外編へのリアクションも、本当にありがとうございます!
プロポーズは書かない方がいいのかな……とも思っていたのですが、ルークが企画書を抱えてウロウロし始めたので、天才渾身の(?)プロポーズを最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
リアクションや評価をいただけると、めちゃくちゃ喜びます(笑)お待ちしています♪




