第12話 真面目なお見合い
トリフォニアは、現状を父に伝える事にした。
とはいえ、三角関係のお邪魔虫だ、昇進の女神だと噂になって…とはさすがに書けない。
悩んだ挙句、ルクセインと幼馴染であるが為、邪推する者もいて彼の幸せの邪魔になってしまう。恋人を作ろうと同僚に紹介を頼んだが上手くいかない。年齢的にも、そろそろ真剣に結婚を考えたい。などを簡潔に説明した。
『結婚を真剣に考えているなら、父も真剣に探そう。待っていろ』と、返事が来たと思ったら翌週には、あっという間に、厳選された三枚の釣書が届いた。
トリフォニアは送られてきた釣書を机に広げ、真剣に目を向けた。家柄、資産、本人の人間性、そして何より「トリフォニアを生涯大切にしてくれるか」という、父の厳しい視点から選ばれた候補者達だ。
これまではただ、噂を消すための婚活だった。けれど、このお見合いは家同士の繋がりがある。軽い気持ちで受けてはいけない、自分の決断が多方面に大きく響く。
トリフォニアは丁寧に、一人ずつ釣書に目を通す。
―伯爵家の嫡男 ジュリアン・キャトル 23歳
幼い頃より、伯爵家の後継として厳しい教育を受けている秀才。温厚で誠実な人柄との事。
キャトル伯爵領は、広大な穀倉地帯を治めており、国内の小麦の三割を産出している。
収入は安定しており、災害対策にも力を入れている。基盤のしっかりした領地だ。王都や、実家のフェリシア領に近いのも魅力的だ。
―国境警備隊 副隊長 レオナルド・サンクベル27歳
北方の過酷な国境線を守る辺境騎士団の若き副長。その男気溢れる性格は、頼れる男と定評らしい。
来週ちょうど王都へ定期報告に来る予定とある。
北方まで会いに行くのは、大変だ。来週が丁度いいタイミングだろう。しかし、北方へ移り住むとなるなら、結婚後は仕事を辞めなければならないなとトリフォニアは思う。
―ギルバート・シスレイ子爵 25歳
若くして急逝した父の跡を継ぎ、斜陽だった南部の領地を見事に立て直した前途有望な子爵。
柔らかい物腰だが、観察眼は本物との評価。
シスレイ領は羊毛が主産業で、流通経路や販売網の開拓、領独自の羊毛商品を開発したことが功を奏したと話題だ。南部の温暖な気候は暮らしやすそうだ。
トリフォニアは、驚いた。皆、有能で、経歴だけ見れば文句のつけようのない優良な人物ばかりだ。
釣書には簡単な領地の経営状況や、移住先となる土地の風土までまとめられていた。
結婚後の生活を想像しやすいようにとの配慮なのだろう。この短期間で、よくこれだけの人物を見つけたものだと、父親ながらその有能さに感心した。
しかし、同時に思った。
父もそれだけ真剣なのだと。
三枚の釣書を見終わると、フェリシア伯爵家令嬢として、家の名に恥じぬよう気を引き締める。
『紙面の情報だけでは、人の本質までは分からない。家の利などは考えず、まずは、トリフォニアが共に人生を歩みたいと思える人物かが大事だ。自分の幸せを第一に考えて、結婚相手は選びなさい。父の望みは、君が結婚で幸せになれること、それだけだから』
同封されていた手紙は、父の愛情に溢れた言葉で締め括られていた。
「ありがとう。お父様」
手紙に向かって思わずそう呟くと、トリフォニアは休暇申請書に手を伸ばした。
――数日後
ルクセインは山のように積まれた書類を捌いていた。その中の一枚を手に取った瞬間、我が目を疑った。
【有給申請】 監査室 トリフォニア・フェリシア
――申請理由 お見合いの為の帰省
有給日程は、今日から1週間だった。
ダンっ!
(待て。話は全部潰したはずだ。なのに、なぜお見合いになる!?)
机に書類を叩きつけると、ルクセインは慌てて執務室を飛び出した。




