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電脳ハンター[アーバンクロノス編]  作者: 秋野PONO(ぽの)
おまけ章

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32/35

たとえすべてを失ったとしてもー前

 その日、会議室でサイバー技研社長、弟切直人(オトギリナオト)は、信じられない報告に椅子から腰を2センチほど浮かせた。

 

「海底ケーブル内の伝送路にワームホールが出現、12本のケーブルの内3本が使用不能」

 

 これが何を意味するか、分からないでか。

 日本国から外と通信する場合は日本海、太平洋の海底に埋められた通信ケーブル、通称「海底ケーブル」を通ることになる。そこを12分の3ほども断線されれば……。

 間違いなく通信パケット過多でパンクするだろう。

 日本の通信は海底ケーブルのみに依存している。そのため、どうする?どう考えても、手はない。

 

 現在深夜12時、AI研究所は代替案を出してきた。

 しかしそれは信じられないものだった。

 「宇宙通信に切り替えて、失った伝送路分のパケットを『宇宙経路』に流す。サイバー技研に許可願う」

 だった。

 海底がダメならもう宇宙経路しか残されていない。

 

 それは分かる。しかし……。

『許可する』即決した後、オトギリは続ける。

「しかし、宇宙通信では、演算回路の負担が激増する。数日も持たない」

 場合によっては数日どころか……。

 きっぱり言うオトギリに、緊急通信回線の向こうでAI研究所の会長、凛子は無言だ。

 オトギリはため息をつく。

 一言でいえばオトギリにとって凛子はいけ好かない女だ。神経の細かいオトギリと、この上なくのんびりした凛子では馬が合わないのだ。


「しかし当面はこれしかない。まぁなんとかするさ。感情自律AIを任務から2体解放した。ルート演算のインプット中だ。実行は、あとはあんたの許可だけだよ、直人」

 例によってのんびり答える凛子。オトギリはため息をつく。

「……大丈夫なんでしょうな」

 そうつぶやいた後、はっとした。

 3日後には国際エクスポ2050の閉幕式がある。

 閉幕式では通信量は普段の2倍程度になるだろう。

 

 残容量と予測必要数を瞬時に頭の中で計算してみる。

 宇宙通信で1日はなんとか……といったところだろうか。

 しかし、雨が降った場合、災害の危険が出てくる。災害が起これば通信量は飛躍的に跳ねあがる。持たないかもしれない。

 凛子もとっくに気づいているようだ。同じ顔をしている。

「困ったよねぇ」

「そんな悠長な……」

 言いかけてオトギリは息をのむ。言っても凛子は天才だ。今まで、このような回答を聞いたことがあったか?

 まじまじと凛子の顔を見る。

 

「いいかい。AI研究所は現在、事件の経緯、犯人の意図、および復旧方法を追っている。その片手間で宇宙通信の演算研修をはじめている。正直言おう、これ以上は無理だ。AI研究所の規模的にな」

 オトギリは息を飲む。よく聞けば、異常に疲れた声だ。

「そんなにまずい事態なのか……」

「ああ、やばい。この3時間で調べた内容について後で共有する。やばいやつだぞ。私の勘だが、個人が起こす規模の犯罪ではない」

 そんな真剣な表情の凛子を見たことがないオトギリであった。

 凛子は続ける。

「いいか。1日、だ。なんとか1日は持たせる。その間に、宇宙通信を数日持続する方法を、考えてくれ。頼むよ」

「わかった……。そちらはサイバー技研が受け持とう」


 通信を切った後、続々と資料が届き始めた。しばらく目を通していたオトギリは、静かになった部屋で空を仰いで考えこんだ。

 通信断は絶対にダメだ。

 人命に直結すると骨の髄までしみこんでいる。


 5分もそうしていただろうか。

 

 心配になった秘書の澤が声を掛けようとした、そのとき、オトギリは重い口を開いた。

「……澤くん。総務省長官の相澤氏に連絡してくれ。政府専用機を手配するように官邸に働きかけてくれと。あと、長官には同行してもらうことになる」

 有能な秘書にそう告げると、オトギリは出発準備に取り掛かった。

 

 2030年のあの日、弟は変圧室の非常閉鎖壁の前で死んだ。

 遺体は残っていない。

 非常閉鎖壁はエンダーによって壊されており、封鎖できず非常壁の体をなしていなかったが、最後までそこを封鎖しようとした跡があったと説明を受けた。

 涙は流さなかった。

 「託された」と思った。「これからは私が代わりに守るよ」と呟いていた。

 それはそのまま彼のポリシーになった。

 

 窓の外を見る。

 これほど、明日が晴れていてくれと願ったことはない。


 オトギリは即日、中国の深圳に立つことを決めた。

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