第百三話 希望
翌日、俺はハリス部長と佐伯課長に事情を説明し、監査委員会へ訴え出るのは年が明けた一月の末にしたい旨を告げた。
二人とも快く賛同してくれ、達樹の調査で『有意義な情報を得られることを願っている』という言葉まで貰え、年明けの一月末に監査委員会へ訴え出ることが本決まりとなった。
そして、その日、俺がハリス部長の肝煎りでプロジェクトチームを卒業することが正式に発表された。
仕事仲間である営業部の面々は発表を受けて一様に驚いていたが、大方の者が好意的に受け止めてくれ、事前にハリス部長から内示を受けていた俺は皆の反応が気になっていたため、ホッと胸を撫で下ろした。
発表があった後、偶然、休憩室で一緒になった隣のデスクの山内にそのことを話すと、思い掛けないことを言われた。
「営業部の中では、近いうちに新井はプロジェクトチームから抜けるんじゃないかと、噂になっていたからな」
「そうなのか」
「社長賞を取れるような奴なら、営業の仕事に専念してもらった方が、業績が上向く可能性が十分だろう。そうなったら、ボーナスという名で俺たちの懐も潤うかも知れないしな」
初めて聞いた俺に関する噂話に半信半疑で聞き返した俺に、身も蓋も無い言い様で山内に返された俺は苦笑いするしかなかった。
そんな俺に気楽な調子で『期待しているぞ』と声を掛け、肩を叩いてきた山内にプロジェクトチームを抜けた本当の理由を話せるはずもなく、俺は『できる範囲でな』と応えておいた。
やっと少し前進した手応えを感じることができた俺は、夏にできなかった梨奈へのプロポーズを、仕切り直しで俺たちの記念日である十二月二十五日に気持ちも新たにしようと考え、その時には梨奈に内緒で指輪を用意してプロポーズの言葉と一緒に贈ろうと計画を立てた。
ジュエリーショップ『アーク』のことは女性社員からあれやこれやと聞かされ、また、同じ営業部の仲間の一人が結婚記念日の贈り物として妻にねだられてそこで指輪を作ったが、かなりの出来映えだったと話していたこともあり、俺は密かに梨奈に贈る指輪はそこで用意しようと決めていた。
ジュエリーショップ『アーク』へ足を運んだ俺は、ジュエリーデザイナーの『井上』と名乗った女性と相談した結果、俺の思いを形にしたデザインにすることを勧められた。
俺は、結婚した後に続く長い時間の間にいろいろなことが起こったとしても、それらを俺と梨奈の糧として、ずっと変わらずにお互いを思い合える関係でありたいと思っていた。
それを井上さんに話すとその場で何点かのデザインを起こしてくれ、その中から梨奈の雰囲気に合いそうなものを選び、リングの内側に『Endless Love』の刻印を入れてもらうことにした。
店を出た俺は指輪を見た梨奈の反応を想像し、結婚式までの予定を考えていた。
「着きましたよ」
タクシーの運転手に声を掛けられ、窓の外を見ると『森山法律事務所』の前に止まっていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
来週もよろしくお願いします。




