第百二話 与えられた時間
「確かにインパクトは必要だろうが、あまり過激な内容だと逆効果になるぞ」
達樹の反論を認めながらも、達雄先生は渋い表情を崩さないまま釘を刺した。
達樹は『分かっている』と頷いた後、本心を告げた。
「この手を使えるのは、子供が母親の腹の中にいる間だけなんだ。生まれた後なら回りくどい方法を取らなくても、親子鑑定をすれば良いだけだからな。だが、それをすることは、尚哉にもリスクがある。」
「できるなら、それは避けたい……」
美咲の子供と俺は無関係だと思う一方で、万に一つ、俺の子である可能性を完全に否定できない部分もあった。
それは、親子鑑定を行った結果、万に一つの可能性が現実のものとなる危険性を孕むものでもあった。
即座に達樹の言葉に反応して、俺が応じたことで達樹は真顔になった。
「樫山専務の娘の、出産予定日は知っているか」
「いや。春先という話は聞いたような気がするが、はっきりは分からない」
美咲の子供の話題にはできる限り触れないようにしていた俺は、出産予定日を聞かれても応えられなかった。
「状況から推測すると、四月頃ではないか。ただ、断言はできないから、誤差を考慮して三月の末から四月に掛けてと考えておけばいいだろう」
「三月の末か……」
俺の代わりに応えた達雄先生の言葉を達樹は確かめるように呟き、何か考える様子を見せた後、改めて俺に問い掛けてきた。
「監査委員会が訴えを受け付けてから、審判が下さるまで、どれくらいの期間か分かるか」
「約一ヶ月だ」
監査委員会では、個人対個人の問題の場合、長引けば長引くほど周囲に与える影響が大きくなり、業務に支障を及ぼす範囲も拡大するとして訴えを受け付けた後、調査の期間を一ヶ月と定め調査終了後、速やかに審判を下すとしていた。
俺が調べた過去の例でも、訴えを受け付けてから三十五日前後で審判が下されていた。
「そうなると、出産予定日の一ヵ月半前に訴えたのでは、子供が生まれるまで待って審判を下す可能性があるということになるな。それを避けるためには、二ヶ月前までには訴えないといけないということか……」
俺は達樹の話を聞きながら、頭の中で計算をしていた。
「ぎりぎりまで粘ったとしても、一月の末には訴え出た方がいいだろう」
俺が頭の中で出した答えを達雄先生が口にし、達樹は頷いていたが、既に今日は十一月の末だということを思い出した俺は、否応なしに厳しい状況なのだということに気付かされた。
「大丈夫か」
「時間が許す限り、子供の父親と樫山専務の娘が、本当の父親の名前を言えない理由を調べられるだけ調べて、それでも思ったような情報が得られなければ、多少の問題はあるがこっちを使うまでだ」
俺の問いに応えた達樹は、自分の前に置いたマグカップの周りに放射状に並べたスティックシュガーを囲むように右手の人差し指で座卓に円を描いた。




