第百一話 インパクト
達樹の話は俺にとって魅力的なもので、実現すれば願ってもない話だった。
だが、それを現実のものとすることは容易ではないということも分かっていた。
「具体的には、どうするつもりなんだ」
俺の問い掛けに達樹は手に持っていたマグカップを座卓の上に置き、含むものがある微笑みを見せマグカップの取っ手に手を掛けたまま話し始めた。
「樫山専務の娘の素行に、問題があることは明らかなことだ。だから、まずはそれについての裏付けを取る。次に、そのことを証拠付けるために『素行不良』を理由に、これまでに断られた数々の見合い話を取り上げる。さらに、今、調査を進めている樫山専務の娘と子供ができる関係にあったと、確証の取れた相手を申告する。ただし、こちらは相手の都合や事情もあるだろうから、実名は伏せることになるけどな」
そこまで言うと、達樹は空になっていたらしいマグカップにコーヒーメーカーから湯気の立つコーヒーを注ぎ入れた。
その様子を見ながら自分のマグカップを差し出し、達樹にコーヒーを注ぎ足してもらいつつ、達雄先生が疑問を口にした。
「確かにそこまですれば、樫山専務のお嬢さんの身持ちが固いとはいえなくなるだろうが、それだけでは監査委員会に与える印象は弱いのではないか」
「もちろん、それだけで終わらせるつもりはない」
達樹はそう言うと、透明なグラスに入れられてコーヒーメーカーの側に置いてあった、未使用のスティックシュガーを数本掴み取り、話を続けながら自分の前に置いた湯気の昇るマグカップの周りに一本ずつ放射状に並べていった。
「樫山専務の娘が、複数の男性と深い関係にあることを証明した後、関係のあった男性の中から、子供の父親の可能性が最も高い奴の実名を告げる」
達樹はさらに自分の話した内容に合わせ、放射状に並べられたスティックシュガーの中から右側の真横に置いたスティックシュガーの上に右手の人差し指を載せ、そのままマグカップから離れるように横に滑らせた。
「そして、こう言うんだ。こちら側で調べたところ、こいつが子供の父親である可能性が極めて高いという結果を得ている、とな」
話しながらスティックシュガーの上に載せていた人差し指の先で『トントン』と突いた後、それをまた人差し指を載せたまま、座卓の上を滑らせマグカップの近くまで戻すと達樹は話を続けた。
「それから、仕上げにこう主張する。樫山専務の娘は奔放な性生活を送っていたため、子供の母親でありながら父親を特定できない状況にあり、そのため結婚相手として自身の父が勧める新井尚哉の名前を子供の父親として挙げているのではないかと推察している、という風にだ」
「その話には、偽りも混じっているのではないか」
達樹の話を聞いた達雄先生が、渋い表情で咎めるように達樹に語りかけた。
「話の内容は、現時点で効果がありそうな一例なんだ。大事なのは子供の母親である樫山専務の娘に、本当の父親の名前を言えない事情があると監査委員会に印象付けることだ。それには、ある程度のインパクトも必要なんじゃないか」
現実の問題として、美咲と特別な関係にあった人物だと複数の者が挙げられたが、その時期が重なっていたかどうかは、美咲にしか分からないものでもあった。




