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還暦おっさんが瞑想してたら異世界に迷い込んだ  作者: ふくちーぬ


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第八話 若返りの代償

なんちゃってポーションによる若返り騒動の翌日。

 いよいよ初ダンジョン。

 ふくちーぬは朝から浮足立っていた。

(異世界に来て初めてのダンジョンだ)

 冒険者登録。

 ジョブチェンジ。

 精霊との契約。

 ほんの一日で色々ありすぎたが、ようやく冒険者らしい活動が始まる。

 わくわくしながらミーティングルームへ向かう。

 既にスターファイターの面々は集まっていた。

 何となく空気が重い。

「?」

 嫌な予感がした。

 ゴンザレスが咳払いをする。

「今日はフクチーヌを連れて低階層へ行き、各自の熟練度上げをする予定だった」

「はい」

「だったんだが……」

 ふくちーぬの胸に不安が広がる。

「少し問題が起きた」

(えっ、なに?)

 まさかダンジョン閉鎖とかだろうか。

 それとも魔物の暴走か。

 色々と想像する。

 そしてゴンザレスが真顔で言った。

「このまま俺たちがダンジョンへ行くと、高確率でフクチーヌが捕まる」

「はい?」

「そして貴族に幽閉される」

「なにぬねのーっ!?」

 意味が分からない。

 何を言い出すのだこの大剣使いは。

◇

「あっ、そういうこと!」

 アルメルが頭を抱えた。

「フクチーヌ、全然分かってない顔してる!」

「え?」

「なんちゃってポーションよ!」

 その言葉で昨日の出来事を思い出す。

「若返ったじゃない」

「うん」

「若返りの薬なんて低階層じゃ出ないの」

「そうなの?」

「中階層でも滅多に出ない!」

 アルメルが力説する。

「レアモンスターが出る階層の宝箱で、ようやく手に入るかもしれないって代物なのよ!」

「へぇ」

 ふくちーぬは頷く。

 だがまだ問題が見えていない。

 アルメルは額を押さえた。

「ああもう!」

◇

 そこから延々と説教が始まった。

 要約するとこうだった。

 この世界の平均寿命は六十年前後。

 レアジョブ保持者になると領地持ちの貴族として認められることが多い。

 そして貴族たちは高ランクダンジョンから若返りの薬を手に入れる。

 だから基本的に見た目が若い。

 だが。

 若返り薬は貴重だ。

 非常に貴重だ。

 手に入れるには危険なレア階層へ挑まなくてはならない。

 命の危険すらある。

◇

「つまりね」

 アルメルが言った。

「安定して若返り薬を作れる人がいたらどうなると思う?」

「えーと……」

 少し考える。

「大金持ち?」

「甘い」

「えっ」

「監禁されるわ」

「えっ」

「幽閉されるわ」

「えっ」

「死ぬまで作らされるわ」

「えええっ!?」

◇

 さらに恐ろしい話は続く。

「本人にも若返り薬を飲ませ続けるの」

「え?」

「そうすると半永久的に働けるでしょ?」

「…………」

 ふくちーぬは絶句した。

 社会問題どころではない。

 永久就職である。

 しかも牢屋付き。

◇

 だがそこで疑問が浮かんだ。

「それってさ」

「うん」

「犯罪じゃない?」

 沈黙。

 アルメルが不思議そうな顔をした。

「相手が貴族なら?」

「うん」

「本人が了承したことにすれば問題ないでしょ?」

◇

 がびーん。

 ごちーん。

 ずどーん。

 ふくちーぬの脳内で昭和漫画みたいな効果音が鳴り響く。

 パワハラ。

 セクハラ。

 コンプライアンス。

 個人の権利。

 近代日本で当たり前だった常識が音を立てて崩れていく。

 ここは異世界。

 しかも封建社会。

 力があり。

 権力があり。

 地位がある者の言葉は重い。

 そして時には白を黒にする。

◇

「絶望してるところ悪いが」

 ゴンザレスが言った。

「対策は考えてある」

「本当?」

「ああ」

 頼もしい声だった。

「まず全員変装する」

「うん」

「それから三週間ほどダンジョンに籠る」

「三週間!?」

「その間にスキル熟練度を上げる」

 ゴンザレスは続ける。

「そして全員アンコモンジョブになれる状態を作る」

「なるほど」

「その後でギルドへ行く」

「うん」

「若返った件については」

 そこでゴンザレスは笑った。

「運良く若返り薬を宝箱から見つけたことにする」

◇

「それで大丈夫なの?」

「知らん」

「知らんのかい」

「だが今のところ最善だ」

 確かに一理あった。

 異世界の住人がそう言うのなら、そういうものなのだろう。

◇

 ということで変装タイムである。

 ふくちーぬは鏡の前に立った。

 異世界転移した時の服装は作務衣だった。

 だが意外にもこの世界ではそこまで浮かない。

 今住んでいる場所は江戸の長屋そのもの。

 むしろ馴染んでいる。

◇

 ゴンザレスは皮鎧。

 バルカンは金属鎧。

 アルメルはどちらかというと和装寄り。

 忍者というより、くノ一を連想させる服装だ。

◇

 しかし今回は全員変装。

 ふくちーぬはフード付きの外套を借りた。

 さらにゴンザレスから幅広の腰帯も借りる。

 鏡を見る。

「おお」

 なかなか悪くない。

「何か似てるな」

 腕を組んで考える。

「銀河を守る光の戦士?」

 あと光る剣があれば完璧だった。

◇

 そこでふと考える。

 今はモンク。

 だから剣術の熟練度はもう伸びない。

 しかし前世では合気道を学んでいた。

 初段の審査では短刀

 二段のでは木刀。

 三段では杖術。

 武器術との関わりも深い。

(剣術を合気術に統合できないかな)

 一瞬そんな考えがよぎる。

 だが今答えは出ない。

 とりあえず保留である。

◇

 他の三人の変装も終わった。

 ゴンザレスは眼帯。

 バルカンは兜。

 アルメルは口元を隠す黒いマスク。

 誰もが一目で分かる変装だった。

「それ意味ある?」

「ある」

 ゴンザレスが断言する。

「気持ちが大事だ」

「そういうものか……」

◇

 やがて全員が出発の準備を終える。

 スターファイターは拠点を後にした。

 目指すはラスベルのダンジョン。

 ふくちーぬにとって人生初。

 そして異世界初。

 本物のダンジョン探索が、いよいよ始まろうとしていた。


第八話 完


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