第七話 チャッピーとの出会い
第七話 チャッピーとの出会い
ふくちーぬは今まで何度もチャネリングをしてきた。
しかし、それはあくまでも精神世界での話だった。
瞼の裏にヴィジョンが浮かぶ。
頭の中へ直接情報が流れ込む。
それを自分なりに解釈して言葉にする。
そんな形である。
だからこそ。
今、目の前で起きていることが信じられなかった。
「……」
そこには小さな少女がいた。
手のひらサイズ。
ずんぐりとした愛らしい体形。
水色のドレス。
背中には小さな羽根。
どう考えてもその羽根で飛べるとは思えない。
だが少女はふわふわと空中に浮かんでいる。
おそらく魔法だろう。
物理法則は仕事をしていない。
「……」
ふくちーぬは無言だった。
少女も無言だった。
しばらく見つめ合う。
そして少女が頬を膨らませた。
「ちょっと!」
ポカポカポカ。
小さな拳が頭を叩く。
「ずっと話しかけてるのに無視しないでよ!」
「いてててて!」
痛くはない。
しかし確かに当たっている。
気のせいではない。
完全に現実だ。
「えーっと……」
ふくちーぬは恐る恐る聞いた。
「君、誰?」
少女は信じられないという顔をした。
「失礼しちゃうわね!」
空中で腕を組む。
「私はあなたの契約精霊でしゅ!」
噛んだ。
可愛い。
「この私と契約しておいて、ずーっと放置するとか何考えてるのよ!」
ぷりぷり怒っている。
しかし、ふくちーぬには全く身に覚えがなかった。
◇
しばらく押し問答になった。
「契約した覚えないけど」
「してる!」
「してない」
「してる!」
「してない」
「してるったらしてる!」
話が進まない。
最終的に説明を求めることにした。
◇
精霊曰く。
精霊術には段階があるらしい。
初級精霊術。
中級精霊術。
上級精霊術。
さらに上へと続く。
初級精霊術では精霊の声を聞くだけ。
中級精霊術になると担当精霊が付く。
契約者と一緒に成長し、
上級では子供サイズ。
レア級では大人サイズ。
エピック級になると大精霊になるらしい。
「なるほど」
ふくちーぬは頷く。
なんとなく筋は通っている。
ただ問題があった。
「でも俺、モンク選んじゃったからさ」
「うん」
「精霊術の熟練度はもう伸びないんだけど?」
「知ってるわ」
即答された。
「えっ」
「そんなの契約した時から知ってるもの」
◇
さらに聞くと、
中級精霊術になった時点で、今まで関わってきた精霊の中から一体が担当精霊になるらしい。
契約者と精霊はかなり深いレベルで繋がる。
ただし。
他人には見えない。
契約者以外は精霊を認識できないらしい。
「なるほどね」
「あと属性もあるわよ」
「属性?」
「火、水、風、土」
そして契約者の魂との相性で決まるらしい。
「あなたの場合は水よ」
「水か」
それには妙に納得した。
前世で少し学んだ四柱推命では、自分の日柱は壬辰。
簡単に言えば水龍である。
だから水属性でも不思議ではなかった。
◇
説明が終わったところで。
精霊は胸を張った。
正確には二頭身なのでお腹を張っているようにしか見えないが。
「というわけで!」
「うん」
「私に名前を付けなさい!」
「名前?」
「そう!」
異世界式ではそういうものらしい。
ふくちーぬは少し考えた。
そして答えた。
「どんちゃん」
「却下!!」
即答だった。
「なんで!?」
「なんか馬鹿にされてる気がする!」
◇
ふくちーぬは別に馬鹿にしたつもりはない。
日本の魔法少女アニメが大好きなのだ。
魔法少女とマスコット。
その組み合わせに憧れていた。
しかし却下されたものは仕方がない。
「じゃあ……」
少し考える。
「チャッピーは?」
精霊は腕を組んだ。
「ふむ」
少し考える。
「なんか可愛いわね」
「おっ」
「それで決まり!」
◇
こうして水の精霊チャッピーが誕生した。
名前を貰ったチャッピーは満足そうに飛び回る。
「じゃあチャッピー」
「なに?」
「どんな魔法が使えるんだ?」
ふくちーぬは期待に胸を膨らませた。
しかし。
返ってきた答えは予想外だった。
「明日の天気が分かるわ!」
ドヤ顔である。
◇
「……」
「……」
「それで?」
「え?」
「それだけ?」
「すごいでしょ!」
胸を張る。
やっぱりお腹が出ているようにしか見えない。
◇
「他には?」
「田植えの時期が分かるわ!」
「俺農家じゃないんだけど」
「草刈りにも便利!」
「冒険者なんだけど」
◇
チャッピーは気を取り直した。
「コップ一杯くらいなら水が出せるわ」
「おお」
「井戸を探せるわ」
「なるほど」
「局所的な天候操作もできるわ」
「ほう」
ふくちーぬの目が光る。
「深い霧とか出せる?」
「出せるけど?」
「おお!」
思わず立ち上がる。
チャッピーがびっくりする。
「なに?」
「いや!」
目隠しになる。
隠密にも使える。
いろいろ応用できそうだ。
◇
「攻撃魔法は?」
チャッピーは首を振った。
「使えない」
「えっ」
「精霊は攻撃魔法禁止」
「火の精霊も?」
「禁止」
「なんで?」
「世界のルールだから」
破れば存在を消されるらしい。
なかなか厳しい。
「じゃあ補助は?」
「それは大丈夫」
よし。
なら工夫次第で戦える。
◇
「シャボン玉とか出せる?」
「出せるわよ」
「本当に!?」
「精霊と契約者の遊びの定番だし」
ふくちーぬの頭の中では既に作戦会議が始まっていた。
シャボン玉。
霧。
気功砲。
組み合わせれば何かできそうである。
◇
するとチャッピーが突然言った。
「あと水の浄化ができるわ!」
再びドヤ顔。
今度はかなり重要そうだった。
「浄化?」
「そう」
「毒も?」
「やったことないけど出来ると思う」
「マジで?」
ふくちーぬの目が輝く。
それって状態異常回復ではないか。
RPGなら立派な支援魔法である。
◇
思いついたら試したくなる。
ふくちーぬは台所へ向かった。
空きポーション瓶を回収する。
この世界では瓶は貴重品らしい。
ポーションも容器持参で補充する文化なのだとか。
◇
部屋へ戻る。
「チャッピー」
「なに?」
「共同作業しよう」
「共同作業?」
まずチャッピーに水を生成してもらう。
そこへふくちーぬが気功を流す。
さらにチャッピーの浄化魔法。
ぽわっと淡い光が宿る。
◇
「完成!」
なんとなく凄そうだった。
薬草も使っていない。
錬金術もしていない。
でも何となく身体に良さそうな気配がする。
(なんちゃってポーションだな)
ふくちーぬは心の中で効果音を付けた。
テレレレッテレー♪
◇
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
「はーい」
扉を開ける。
そこにはアルメルがいた。
「一人で何騒いでるのよ」
呆れ顔だった。
「壁薄いんだから」
「あ、ごめん」
◇
ふくちーぬは事情を説明した。
精霊術を使ったこと。
精霊と契約していること。
名前はチャッピーであること。
他人には見えないこと。
「なるほどね」
アルメルは頷く。
「じゃあ独り言じゃなくて精霊と話してたのね」
「そうそう」
「なら安心した」
◇
ふくちーぬは瓶を差し出した。
「飲んでみる?」
「何これ?」
「なんちゃってポーション」
「怪しさしかないんだけど」
そう言いながら一気飲みする辺りがアルメルである。
◇
数秒後。
「あれ?」
アルメルが首を傾げた。
そして鏡を見る。
「え?」
もう一度見る。
「えぇぇぇぇ!?」
飛び上がった。
肌の艶が増している。
髪もさらさら。
疲労感も消えている。
◇
「すごい!」
「成功?」
「大成功!」
◇
さらにバルカンも飲んだ。
ふくちーぬも飲んだ。
結果。
スターファイターは翌朝、
中堅冒険者パーティーとは思えないほど若々しい集団になっていた。
外見だけなら十代後半の新人冒険者である。
本人たちだけが事情を知っていた。
その原因が、
深夜に誕生した"なんちゃってポーション"だったことを。
第七話 完




