第六話 モンクの実力
スターファイターの拠点について、この世界の常識をひと通り教わったふくちーぬ。
長屋だけあって空き部屋はまだいくつも残っていた。
そのうちの一部屋を使わせてもらえることになった。
もっとも、六畳一間のワンルームマンションなどという快適なものではない。
隣室との仕切りは薄い板一枚。
床も木の板張りで、隙間から風が入ってきそうだ。
「うん……まあ、フローリングと思えばいいか」
そう自分に言い聞かせる。
ちなみに長屋の中央には井戸と炊事場。
風呂と便所は屋外の共同施設だった。
どこからどう見ても江戸時代である。
部屋を確認した後、元大家部屋だった広めの一室に全員が集まった。
ここがスターファイターのミーティングルームらしい。
◇
ゴンザレスが口を開く。
「ふくちーぬが正式にスターファイターへ加わった。まずは今後の方針を決めよう」
アルメルが頷く。
「そうね。今までみたいにアンコモンモンスターが出る階層へ、いきなり行くのは危険だと思う」
「うむ」
バルカンも同意する。
「まずはフクチーヌの能力確認ね」
アルメルは続けた。
「低階層で連携訓練をしながら、私たちも熟練度を上げる」
「そして全員でアンコモンジョブを目指すってことだな」
ゴンザレスがまとめる。
「問題なし」
バルカンが短く答えた。
こうして第一目標は、
低階層ダンジョンでの訓練。
ということになった。
◇
早速スキルチェックが始まる。
ジョブを選んだ以上、今後の人生を左右する。
それは異世界でも同じらしい。
ふくちーぬの場合、前世の経験から生えた中級スキルでモンクになった。
しかし話を聞いてみると、本来のモンクとは少々事情が違うようだった。
「普通のモンクはな」
ゴンザレスが説明する。
「格闘術中級と回復魔法中級から派生する」
「なるほど」
ふくちーぬは考える。
(たぶん前衛で殴りながら回復する職業なんだろうな)
◇
「先に言っておくけど」
ふくちーぬは皆へ説明した。
「合気術って格闘術とは少し違うんだ」
「違う?」
アルメルが首を傾げる。
「こちらから殴る技が少ない」
「えっ」
「相手の攻撃を利用して投げたり崩したりする技術なんだ」
ゴンザレスが興味深そうに腕を組む。
「見せてもらおうか」
◇
模擬戦が始まった。
相手はゴンザレス。
もちろん本気ではない。
だが、大剣を振るう体格差のある戦士だ。
普通なら圧倒される。
「いくぞ!」
ゴンザレスが斬りかかる。
ふくちーぬは踏み込まずにかわした。
大剣の軌道を流す。
手首を取る。
そして。
小手返し。
大男の身体が宙を舞う。
「うおおっ!?」
ドスン。
見事に床へ転がった。
さらに関節を極める。
「ま、参った!」
ゴンザレスが叫んだ。
◇
「なるほどな」
起き上がったゴンザレスが笑う。
「今まで俺とバルカンが前衛だった」
「うん」
「これからも俺とバルカンが前衛」
「うん」
「アルメルとフクチーヌが遊撃だな」
全員が納得した。
どうやら合気術は魔物相手でも補助役として使えそうだ。
◇
続いて気功術の確認。
「実はな」
ふくちーぬが言う。
「気功術ってたぶん回復魔法じゃない」
「そうなのか?」
ゴンザレスが首を傾げた。
「ならちょうどいい」
そう言って肩を回す。
「ポーションで治した傷がまだ痛むんだ」
「じゃあ試してみる?」
「頼む」
◇
ゴンザレスが背中を向ける。
ふくちーぬは両手をかざした。
前世で何度もやっていた施術。
だが今回は違った。
(気が……多い)
十倍。
いや、それ以上かもしれない。
膨大な気の流れが掌に集まる。
そしてゴンザレスの身体へ流れ込んでいく。
細胞が活性化する感覚。
生命力が高まっていく感覚。
それがはっきり分かった。
◇
数分後。
ゴンザレスが振り返る。
「……おい」
「どうした?」
「めちゃくちゃ調子がいい」
その場で腕を回す。
肩を回す。
屈伸をする。
「痛みがねぇ」
◇
それ以上に驚いていたのはアルメルだった。
「これは回復魔法じゃないわ」
「え?」
「光属性回復魔法は状態復元なの」
アルメルが説明する。
「傷を負う前の状態へ戻す感じね」
「なるほど」
「だから時間が経つと効果が落ちる」
ポーションも同じらしい。
「でもフクチーヌの気功術は違う」
アルメルはゴンザレスを見る。
「生命力そのものを活性化してる」
「生命力?」
「うん」
そして首を傾げた。
「なんか少し若返ったように見える」
◇
ふくちーぬは思った。
(それで俺も若返ったのか?)
還暦だった自分が二十代前半になっている。
もしかすると気功術が関係しているのかもしれない。
◇
アルメルがさらに言う。
「回復魔法と気功術は一長一短ね」
「ほう」
「回復魔法は大怪我に強い」
「うん」
「部位欠損ですら早ければ治る」
「すごいな」
「でも古傷は苦手」
そして。
「気功術は逆」
アルメルが笑う。
「古傷や慢性的な不調には強そう」
「なるほど」
「だから」
アルメルは身を乗り出した。
「フクチーヌ!」
「ん?」
「あとで私にもやって!」
「えっ」
「顔中心で!」
◇
そして最後にジョブスキル。
気功砲の検証となった。
ふくちーぬは正直期待していた。
異世界。
モンク。
気功砲。
どう考えても必殺技である。
◇
結果。
しょぼかった。
十メートル先へは一応届く。
だが威力は微妙。
五メートル以内でやっとドッジボールが当たったような衝撃。
魔物を吹き飛ばすほどではない。
せいぜいよろける程度だ。
「弱い……」
ふくちーぬが肩を落とす。
◇
アルメルが笑った。
「当たり前でしょ」
「え?」
「ジョブチェンジしたてのジョブスキルなんてそんなもんよ」
「そうなの?」
「これから強くなるの」
◇
ゴンザレスも頷く。
「昔見たぞ」
「何を?」
「高レベルのモンクの気功砲」
少し遠くを見る。
「三メートル離れた魔物を、一瞬で吹き飛ばしてた」
「本当に?」
「ああ」
「百発くらい殴られたみたいな衝撃だったな」
◇
(なるほど)
ふくちーぬは納得した。
これは今は弱い。
だが成長する。
そういうスキルらしい。
◇
「よし」
ゴンザレスが手を叩いた。
「だいたい分かったな」
皆が頷く。
「明日から低階層だ」
「連携訓練と熟練度上げね」
アルメルが笑う。
「問題なし」
バルカンも答えた。
◇
ミーティングは解散となった。
ふくちーぬは自室へ戻る。
そしてふと思う。
モンクになったことで他のスキルの熟練度は伸びなくなった。
だが。
精霊術と占い術は消えていない。
使えはする。
◇
まずは占い。
(このままスターファイターと一緒にいて大丈夫かな?)
そう念じた瞬間だった。
頭の中に一枚のカードが浮かぶ。
輝く太陽。
タロットの太陽のカードだった。
「おお」
大成功。
祝福。
成就。
前世の知識でも最上級クラスの吉兆である。
この世界では道具すら必要なかった。
占いスキルを発動するだけで答えが見える。
「便利だな……」
◇
次に精霊術を試してみる。
前世ではチャネリングによって様々な存在と繋がっていた。
では。
異世界の中級精霊術とは何なのか。
ふくちーぬは静かに目を閉じた。
「精霊術」
そう呟いた瞬間。
耳元で。
小さな少女の声が聞こえた。
『あっ』
ふくちーぬの目が見開かれる。
『やっと気付いてくれた!』
聞こえてきた声は、思いのほか元気いっぱいだった。
第六話 完




