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還暦おっさんが瞑想してたら異世界に迷い込んだ  作者: ふくちーぬ


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第五話 龍神様の箱庭

冒険者登録を終え、正式にスターファイターの一員となったふくちーぬ。

 今後の方針について相談するため、パーティーの拠点へ案内されることになった。

 ラスベルの町を歩きながら、ふくちーぬは周囲を見回す。

「なんだこの町……」

 率直な感想だった。

 良い意味で独特。

 悪い意味で統一感がない。

 小高い丘の上には石造りの西洋風の城が建っている。

 聞けば領主の居城らしい。

 その城下には高級住宅街が広がっていた。

 だがその建物はどこか西部開拓時代を思わせる木造建築だ。

 さらに庶民街へ入ると雰囲気が一変する。

 細長い長屋が並び、まるで江戸時代そのもの。

 商店街へ行けば平屋建ての木造店舗が軒を連ねている。

「西洋なのか日本なのか、江戸なのか開拓時代なのか分からんな……」

 思わず呟いてしまう。

 そんなふくちーぬを見て、アルメルが笑った。

「何ぶつぶつ言ってるの?」

「いや、この町すごいなと思って」

「そう?」

住人にとっては当たり前なのだろう。

◇

 しばらく歩いた後。

 アルメルが立ち止まった。

「ここよ」

「ん?」

「ここが私たちの城♪」

 そう言って指差した先を見て、ふくちーぬは固まった。

「長屋じゃん」

 見事なまでの長屋である。

 しかも江戸時代風。

 真ん中には共同の井戸。

 炊事場も共用。

 少し離れた場所には共同浴場と共同便所。

「江戸だ……」

 完全に江戸だった。

 異世界に来たはずなのに、なぜか時代劇のセットを見ている気分

「結構なお手前で……」

 ふくちーぬは微妙な笑顔を浮かべる。

 するとアルメルは胸を張った。

「そうでしょう、そうでしょう♪」

 妙に誇らしげである。

「これね、ダンジョンで宝箱からドロップしたのよ」

「へ?」

 ふくちーぬは聞き返した。

「この長屋が?」

「そうよ」

「宝箱の中に?」

 想像してみる。

 宝箱を開けたら長屋がぎゅうぎゅうに詰まっている絵面。

 意味が分からない。

 するとアルメルは慌てて首を振った。

「違う違う」

「だよね」

「建物の説明書と土地の権利書、それから住所の地図と模型が入ってたの」

「は?」

「それをギルドへ持っていくと権利が認められて住めるようになるのよ」

「……」

「どうしたの?」

「いや」

 ふくちーぬは真顔になった。

「どういうこと?」

◇

 そこからしばらく押し問答になった。

 だが詳しく聞くうちに、この世界のルールが少しずつ見えてきた。

 まず。

 人間と魔物は基本的に住む領域が分けられている。

 人間は人間の領域。

 魔物は魔物の領域。

 互いに侵さない。

 それが世界の大前提らしい。

 ただし。

 ゴブリンのようなコモンモンスターは知能が低い。

 そのため街道などへ迷い出ることがある。

 そうした個体を討伐するのは問題ない。

 だが。

「森に入って魔物を狩るのは禁止?」

 ふくちーぬは首を傾げた。

「そうよ」

 アルメルが当然のように答える。

「魔物の領域への無断侵入は禁止されてるわ」

「えっ」

「だから勝手に森へ入って魔物を狩ると大問題になるの」

「強くなるために狩ったりしないの?」

 アルメルは不思議そうな顔になった。

「なんでそんなことするの?」

「なんでって……」

「ダンジョンがあるじゃない」

 まるで当たり前のことを言うような口調だった。

「わざわざ魔物の縄張りに入らなくても強くなれるのに」

◇

 そして代わりに存在するのがダンジョンだった。

「ダンジョンは神様からの贈り物なの」

 アルメルが説明を続ける。

「中にいる魔物を倒すと魔石を落として消える」

「ほう」

「宝箱からは食料、雑貨、武器、防具、薬」

「うん」

「時には土地の権利書や建物の権利書も出る」

「いや意味分からん」

ふくちーぬは思わず突っ込んだ。

 土地が宝箱から出る。

 その発想が理解できない。

「普通そういうものじゃない?」

 アルメルは逆に首を傾げる。

 どうやら常識が違いすぎるらしい。

◇

 しかし。

 それ以上に気になることがあった。

「なあ」

「ん?」

「人間と魔物の領域を決めたのって誰なんだ?」

 その瞬間。

 部屋の空気が変わった。

 アルメル。

 ゴンザレス。

 バルカン。

 三人とも驚いた顔でふくちーぬを見る。

「え?」

 何か変なことを言っただろうか。

 そして三人はほぼ同時に答えた。

「龍神様」

◇

「龍神様?」

 ふくちーぬは聞き返した。

 ゴンザレスが真面目な顔になる。

「この世界のルールを作った存在だ」

「ルール?」

「そうだ」

 バルカンも頷いた。

「レジェンドどころじゃない」

「神話そのもの」

 アルメルも続ける。

「人間が弱かった頃、龍神様はダンジョンを与えた」

「ダンジョンを?」

「魔物の領域を侵さなくても暮らしていけるように」

 つまり。

 魔物の生態系を壊さず。

 人間も成長できる仕組み。

 それがダンジョンらしい。

「だから人間はダンジョンで強くなる」

 ゴンザレスが言う。

「そして魔物の領域を侵さない」

「それが世界の決まりだ」

◇

 ふくちーぬは静かに考えた。

 今まで読んだ異世界小説。

 知っているゲーム。

 それらとは決定的に何かが違う。

(なんだろうな……)

 人間が支配者ではない。

 神が支配者でも少し違う。

 もっと大きな何か。

 世界そのものが管理されているような感覚。

(これって……)

 ふくちーぬは窓の外を見た。

 夕暮れの町。

長屋。

 井戸。

 遠くの城。

 そしてダンジョンで生活基盤を得る人々。

(龍神様の箱庭みたいだな)

 そんな感想が自然と浮かんだ。

 人類は自由に生きているように見える。

 だが実は。

 見えない掌の上で守られながら暮らしているのではないだろうか。

 その考えに至ったとき。

 ふくちーぬはまだ知らなかった。

 その龍神という存在が、この世界最大の秘密に繋がっていることを。


第五話 完



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