第四話 最初のジョブチェンジ
馬車はその後、特に問題もなくラスベルの町へ到着した。
高い石造りの城壁に囲まれた町は、まさに異世界の城塞都市そのものだった。
門では入町審査が行われていた。
身分証の提示や入町税の支払いが必要らしい。
もちろん、異世界初心者のふくちーぬは身分証など持っていない。
少し焦ったが、そこはルベルク商会の力だった。
ルベルクが門番たちと話をつけてくれ、無事に町へ入ることができた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。命の恩人ですから」
ルベルクは笑顔で答えた。
その後、宿の紹介と最低限の説明を受けたふくちーぬは、まず冒険者ギルドへ向かうことになった。
しばらくの間、身元保証も兼ねて世話をしてくれることになった冒険者パーティーも同行してくれるらしい。
「ところで皆さんのパーティー名って何ですか?」
何気なく尋ねる。
するとゴンザレスが胸を張った。
「スターファイターだ!」
「おお……」
思わず変な声が出た。
(英語じゃん……)
その瞬間、ふくちーぬは別の違和感に気付く。
(そういえば……)
今まで普通に会話していた。
ルベルクとも。
ゴンザレスとも。
アルメルとも。
完全な日本語で。
(異世界なのに?)
よく考えるとおかしい。
自動翻訳機能でもあるのだろうか。
それとも実はみんな日本語で話しているのだろうか。
考え始めると不思議だったが、答えは分からない。
とりあえず保留である。
◇
冒険者ギルドに入った瞬間。
ふくちーぬは少しだけがっかりした。
「もっと酒場みたいな場所かと思ってた……」
ゲームでよく見る冒険者ギルド。
荒くれ者が酒を飲みながら騒いでいる。
そんなイメージだった。
だが実際は違う。
受付窓口が並び。
掲示板が整然と配置され。
書類を持った冒険者が順番待ちをしている。
どちらかというと、
区役所。
職業安定所。
そんな雰囲気だ。
「現実ってこんなもんだよなぁ……」
妙に納得してしまった。
どうやらスターファイターはこの町ではそこそこ有名な中級冒険者パーティーらしい。
ゴンザレスに連れられて受付へ向かう。
中年の男性職員が応対した。
「新規登録ですね」
「おう。俺たちの紹介だ」
「承りました」
登録料もスターファイター側が立て替えてくれた。
ありがたい話である。
そしていよいよ。
人生初のスキル鑑定が始まった。
◇
水晶板のような道具に手を置く。
淡い光が走る。
受付の男性が結果を読み上げた。
名前:ふくちーぬ
職業:なし
スキル
中級精霊術
中級占い術
中級気功術
中級合気術
初級弓術
初級剣術
「……」
「……」
「……」
何故だろう。
受付のおじさんも。
ゴンザレスたちも。
全員黙っている。
「えっ?」
ふくちーぬが不安になる。
「あの……まずい感じですか?」
やがて受付のおじさんが口を開いた。
「かなり特殊ですね」
「特殊?」
「中級スキルを二つ統合することでアンコモンジョブを獲得できます」
「ジョブ?」
初耳だった。
スキルとは別に職業システムまであるらしい。
おじさんは説明を続ける。
「ふくちーぬさんの場合」
紙に書きながら言う。
中級精霊術 + 中級占い術
↓
アンコモンジョブ
中級気功術 + 中級合気術
↓
アンコモンジョブ
「ただし選べるジョブは一つです」
「一つ?」
ふくちーぬは首を傾げた。
「モンクになればジョブスキル『気功砲弾』を使えるようになります」
「おお」
「しかし剣術や弓術以外にも、占い術や精霊術の熟練度成長は大幅に遅くなります」
「なるほど」
「逆にオラクルになれば『先読み』が使えます」
「強そう」
「ただし戦闘系スキルの成長がほぼ止まります」
説明を聞くほど頭が混乱した。
(何を言ってるんだ……)
この世界。
スキルだけではなかったらしい。
ジョブという概念まで存在している。
◇
ふくちーぬは質問した。
「普通はどうするんですか?」
受付のおじさんは慣れた口調で答えた。
「まずコモンジョブである冒険者になります」
「はい」
「そして中級スキルを二つ作ります」
「はい」
「その後アンコモンジョブへ転職します」
「はい」
「さらにアンコモンジョブのジョブスキルを育成し、別の中級スキルと統合してレアジョブを目指します」
「なるほど」
「ですが」
受付のおじさんは真顔で言った。
「レアジョブ到達は非常に困難です」
「そんなにですか」
「生涯をかける者も少なくありません」
◇
「で」
ふくちーぬは一番聞きたいことを尋ねた。
「おいらの場合、どうするのがベターですか?」
すると受付のおじさんは即答した。
「ご自身でお決めください」
「えっ」
「ジョブは人生を左右しますので」
「以上です」
「……」
ふくちーぬは思った。
(お役所仕事だなぁ)
◇
仕方なくゴンザレスへ相談した。
「俺だったら三つ考えるな」
「三つ?」
ゴンザレスは指を立てた。
「一つ目」
オラクルになり、そのジョブスキルを育てる。
さらに気功術と統合し、神官系のレアジョブを目指す。
「教会とか神殿に就職できそうなコースだな」
「うーん」
悪くない。
だが戦闘から離れるのは少し寂しい。
「二つ目」
モンクになる。
ジョブスキルを育てる。
そして精霊術と統合。
「そうすると支援職になるな」
「支援職?」
「前衛もできるし回復もできる。パーティー向きだ」
「なるほど」
「三つ目」
ゴンザレスは笑った。
「モンクになって占い術と統合だ」
「どうなるんです?」
「先読みしながら戦う格闘家だな」
「おお」
確かに強そうだ。
◇
ふくちーぬは悩んだ。
(神官はなぁ……)
教会勤めは何となく違う気がする。
(格闘家も悪くない)
ソロで自由に生きるなら楽しそうだ。
だが。
(やっぱりパーティーの方が良いよな)
せっかく異世界へ来たのだ。
仲間も欲しい。
そこで思わず聞いてみた。
「もしなんだけど」
「おう」
「モンクになって、その後支援職を目指すとして」
「おう」
「スターファイターに入れてもらえたりする?」
◇
ゴンザレスは笑った。
そして二人を呼んだ。
「おーい」
バルカンとアルメルがやってくる。
「実はな」
ゴンザレスが言う。
「俺たちもまだアンコモンジョブになってない」
「え?」
意外だった。
「俺は大剣師を目指してる」
「俺はナイトだ」
バルカンが言う。
「私はローグかな」
アルメルが肩をすくめる。
つまり。
全員まだ成長途中。
同じスタートラインにいるのだ。
ゴンザレスはニヤリと笑った。
「逆に言えば」
「うん」
「そんな俺たちで良けりゃ大歓迎だぜ」
アルメルも笑う。
「モンクが入ってくれたら戦力上がるしね」
バルカンも一言だけ告げた。
「問題なし」
◇
気が付けば。
悩みは消えていた。
「決めた」
ふくちーぬは受付へ向き直る。
「アンコモンジョブ『モンク』でお願いします」
「承りました」
受付のおじさんが書類を記入する。
次の瞬間。
頭の中に機械的な女性の声が響いた。
ふくちーぬは思わず笑う。
還暦の夜に異世界へ来て。
若返って。
ゴブリンを倒して。
今度はモンクになった。
まだ何が起きているのか完全には理解できない。
それでも一つだけ確かなことがあった。
異世界での新しい人生が、ようやく本格的に始まったのだった。
第四話 完




