第九話 龍神の社と水の剣
第九話 龍神の社と水の剣
謎の変装を終えたスターファイター一行は、ラスベルのダンジョンへと向かっていた。
ふくちーぬは当然、冒険者ギルドの職員が入り口を管理していて、入場料を払って入るものだと思っていた。
しかし、実際に到着してみると予想は大きく外れた。
「これは……」
思わず足を止める。
そこにあったのは神社だった。
都会のコンクリートに囲まれた神社ではない。
深い森に抱かれた古社。
どちらかと言えば奈良の三輪大社のような雰囲気に近い。
鎮守の森があり。
長い参道があり。
静かな拝殿がある。
違うのはただ一つ。
賽銭箱の代わりに巨大な盃が置かれていることだった。
◇
「まずは参拝だ」
ゴンザレスが言った。
「ダンジョンへ入る前に龍神様へ挨拶する」
「そういうものなのか」
「そういうものだ」
ふくちーぬは頷いた。
日本人として神社参拝に抵抗はない。
むしろ安心感がある。
◇
「それと」
ゴンザレスが続ける。
「なんちゃってポーションを奉納してこい」
「えっ」
「今回の件の原因だろ」
「確かに……」
その通りだった。
若返り騒動の元凶である。
◇
ふくちーぬは拝殿の前へ進む。
盃の中へ奉納用のなんちゃってポーションを一本置いた。
そして手を合わせる。
(龍神様、はじめまして)
頭の中で語りかける。
(東京から来ました)
(たぶん異世界転移です)
(帰り方が分かりません)
(そして若返りポーションを作ってしまいました)
(とりあえず三週間ほどダンジョンへ潜る予定です)
なんだか神様への報告書みたいになった。
◇
参拝を終えた後。
ふくちーぬはゴンザレスへ尋ねた。
「神様にはお願いごともしていいの?」
「構わんぞ」
ゴンザレスは頷く。
「叶うかどうかは龍神様次第だがな」
「なるほど」
「ただし気を付けろ」
◇
昔。
ダンジョンで一攫千金を夢見た冒険者がいたらしい。
その男はケチだった。
奉納は最低限。
そして願った。
ダンジョンで大儲けしたい、と。
結果。
しばらくの間、その男の宝箱から出てきたものは小銭ばかりだったという。
「反面教師だな」
ゴンザレスが笑う。
「龍神様は意外とそういうところ見てるぞ」
「怖いな……」
◇
「奉納品ってお金だけ?」
「いや」
ゴンザレスが首を振る。
「料理でもいい」
「へぇ」
「ダンジョンで出た不用品でもいい」
「なるほど」
「使わなくなったスキルでもいい」
「スキル?」
その言葉にふくちーぬは考え込んだ。
◇
そういえば。
いまの自分はモンクだ。
剣術も弓術も今後は熟練度が上がらない。
弓術は使わないだろう。
しかし剣術は少し惜しい。
(合気道って木刀も使うんだよな)
初段では短刀。
二段では木刀。
三段では杖。
武器術とも無関係ではない。
(もし剣術と合気術を統合できたら……)
◇
ふくちーぬは再び盃へ向き直る。
(龍神様)
(もう使わない弓術初級を奉納します)
(その代わり、剣術を合気術へ組み込めるようにしてください)
◇
その瞬間だった。
頭の中で機械音が響く。
「おおっ!」
思わず声が漏れる。
(本当にできた!)
これなら剣術も育てられる。
何より格好いい。
◇
すると。
奉納の盃の中に何かが現れた。
長さ二十センチほど。
龍の意匠が彫られた木製の柄だった。
刀身がない。
柄だけである。
「なんだこれ?」
◇
その時。
世界が白く染まった。
目の前に巨大な白龍が現れる。
天を覆い尽くすほど巨大だった。
神々しい。
圧倒的だった。
しかし不思議と恐怖はない。
◇
白龍が語りかけてくる。
『日本から来たのか』
低く優しい声だった。
『同郷だな』
ふくちーぬの目が丸くなる。
(えっ?)
『その縁に免じて授けよう』
白龍が顎を向ける。
例の柄へ。
『気を流せば剣となる』
『精霊術を重ねれば水の剣となろう』
◇
そこでヴィジョンは終わった。
意識が現実へ戻る。
白龍の姿も消えていた。
「すげえ……」
ふくちーぬは感動した。
「球を七個集めなくても龍に会えた……」
◇
「龍神様ぁぁぁぁ!」
突然チャッピーが飛び出してきた。
ふくちーぬの肩の上で踊り始める。
「感動!」
「嬉しい!」
「憧れ!」
大はしゃぎである。
◇
ふくちーぬは早速、新しい武器を握った。
気功を流す。
すると。
刀身のような感覚が手の先に伸びた。
透明な何か。
見えない刃。
◇
「チャッピー」
「なに?」
「精霊術を重ねてみて」
「了解!」
チャッピーは即座に魔法を発動した。
◇
次の瞬間。
透明だった刃が水色の光を帯びる。
美しい。
本当に美しい。
刀身が透き通った水で出来ているようだった。
内部では水流が高速で循環している。
◇
「おおおお……」
ふくちーぬは感動した。
軽く横へ振る。
ブゥン。
空気を切る音が響く。
◇
「うおおおおお!」
テンションが上がる。
完全に中二病である。
しかし異世界で中二病武器が手に入ったのだから仕方がない。
◇
しばらくチャッピーと二人で盛り上がっていたが。
参拝中は話しかけないのが、この世界でも礼儀らしい。
離れて見守っていたスターファイターの面々が近寄ってきた。
「何があった?」
ゴンザレスが尋ねる。
ふくちーぬは事情を説明した。
◇
全員沈黙した。
しばらく誰も喋らない。
やがてアルメルが言った。
「それ……」
「うん」
「かなり凄いことよ」
「そうなの?」
「お願いしたら龍神様が直接ヴィジョンで現れるなんて滅多にないから」
◇
バルカンも珍しく驚いた顔をしている。
「聞いたことがない」
「そんなに?」
「そんなに」
◇
ふくちーぬは改めて手の中の柄を見た。
どうやら思った以上に貴重なものらしい。
◇
「それじゃ行くか」
ゴンザレスが言った。
一同は神社の奥へ進む。
そこには大きな鳥居が建っていた。
山道へ続いているように見える。
だが。
鳥居の向こう側は霞がかかっていて見えない。
◇
ふくちーぬは一歩踏み出した。
鳥居をくぐる。
◇
その瞬間。
世界が切り替わった。
◇
さっきまでの神社は消えている。
森もない。
山もない。
目の前に広がるのは果てしない草原だった。
青空。
風。
遠くに見える森。
そしてどこかを歩く魔物の影。
◇
ふくちーぬは思わず呟いた。
「本当にダンジョンの中なのか……ここ」
こうして。
ふくちーぬの初めてのダンジョン攻略が始まった。
第九話 完




