第十三話 シャボン・ミスト作戦
そんなこんなで一夜が明けた。
スターファイター一行は再びダンジョンへ潜り、スキル熟練度上げに励むことになった。
出発前。
テントを片付けながら簡単な打ち合わせが行われる。
議題は一つ。
昨日の中年冒険者四人組についてだった。
「もし、あのおっさん達が付いてきたらどうする?」
アルメルが聞く。
ゴンザレスは即答した。
「逃げる」
実に分かりやすい。
「もし必要以上に距離を詰めてきたら?」
「逃げる」
「接触してきたら?」
「全力で逃げる」
どうやら方針は決定しているらしい。
最終的に、
ふくちーぬの精霊術で霧とシャボン玉を発生させ、その隙に離脱することになった。
そして発動の合図は、
「しゃぼん・ミスト!!」
である。
チャッピーも了承済みだ。
ふくちーぬは内心でガッツポーズをした。
(つまり公式に技名を叫んでいいってことだよね)
昨日の説教はどこへ行ったのか。
◇
そして案の定だった。
セーフティーエリアの出口付近。
昨日のおっさん達がいた。
座っている。
談笑している。
しかし明らかに出口が見える位置だ。
(出待ちだよね?)
誰がどう見ても出待ちだった。
◇
だが意外にも何も言ってこない。
ふくちーぬ達はそのまま通過できた。
「なんだったんだろう?」
拍子抜けだった。
◇
祠を使い、昨日と同じアンコモン二体、コモン二体のエリアへ転移する。
そして午前中いっぱい熟練度上げに集中した。
魔石を集める。
スキルを使う。
チャッピーも相変わらず元気だ。
◇
そして昼過ぎ。
「やあやあ」
聞き覚えのある声がした。
◇
いた。
◇
またいた。
◇
昨日のおっさん達である。
◇
(これはもう偶然じゃないよね?)
ふくちーぬは確信した。
◇
「若いのに頑張ってるじゃないか」
「そうそう」
「俺たちが色々教えてやるよ」
「一緒に行動した方が安全だぞ」
にこやかに喋りながら距離を詰めてくる。
ゴンザレス達も警戒している。
◇
その時だった。
一人のおっさんがふくちーぬへ近付いてくる。
「お前さんは特にな」
肩へ手を置く。
距離が近い。
近すぎる。
◇
ふくちーぬの警戒レベルが上がった。
◇
「俺たちが守ってやるから」
そう言いながらさらに距離を詰めようとしてくる。
その瞬間。
アルメルと視線が合った。
ゴンザレスも小さく頷く。
◇
(あ、これだ)
◇
ふくちーぬはバックステップで距離を取った。
両手首を合わせる。
手のひらを開く。
腰へ構える。
そして。
くるりと一回転。
バレエのピルエットのように回りながら高らかに叫んだ。
「シャボーン・ミストーー!!♪」
◇
ぽんっ。
ぽぽんっ。
ぽぽぽぽんっ。
◇
大量のシャボン玉。
そして濃い霧。
◇
一帯が一瞬で真っ白になる。
「なっ!?」
「何だこれは!」
「前が見えん!」
◇
「今だ!」
ゴンザレスが叫ぶ。
一行は一斉に駆け出した。
◇
走る。
ひたすら走る。
山の方向へ。
◇
しかし。
後方から声が聞こえた。
「待てー!」
「話があるだけだ!」
「逃げるなー!」
◇
(めちゃくちゃ追いかけてきてるじゃん……)
ふくちーぬは引いた。
◇
しばらく走っていると。
遠方に魔物の群れが見えてきた。
◇
「まずい」
ゴンザレスの表情が変わる。
◇
アンコモン六体。
コモン二体。
◇
明らかに多い。
◇
「人数の再計算かもしれん」
アルメルが顔をしかめた。
「私たちがおっさん達と同じパーティだと思われた?」
◇
八人パーティ。
だから八体。
理屈としては合う。
◇
「フクチーヌ!」
ゴンザレスが叫ぶ。
「もう一回!」
「了解!」
◇
ふくちーぬは両手を前へ突き出した。
◇
「シャボン・ミスト!!」
◇
霧が広がる。
シャボン玉が舞う。
魔物達の周辺が一気に白く染まった。
◇
「行くぞ!」
◇
ゴンザレスを先頭に突入。
群れの横をすり抜ける。
◇
アルメル。
バルカン。
ふくちーぬ。
全員が突破する。
◇
その直後だった。
後ろから追ってきたおっさん達が霧へ飛び込んでいく。
◇
おそらく。
霧の向こうにいるのがスターファイターだと思ったのだろう。
◇
しかし。
そこにいたのは。
魔物の群れだった。
◇
しばらくして。
かなり距離が離れた頃。
◇
遠くから悲鳴が聞こえてきた。
◇
「ぎゃああああっ!」
◇
「助けてくれぇぇぇ!」
◇
「ひぃぃぃぃっ!」
◇
やがて静かになる。
◇
誰も振り返らなかった。
◇
アンコモン六体。
スターファイターですら戦闘を避ける相手だ。
無防備に突っ込めばどうなるかは想像できる。
◇
しばらくして。
安全な場所まで離れてから。
ふくちーぬはふと疑問に思った。
◇
「なあ」
「ん?」
アルメルが振り返る。
◇
「ゴブリンって人間を殺すだけ?」
「どういう意味?」
◇
「食べたりするの?」
◇
少し沈黙があった。
◇
そしてゴンザレスが答える。
◇
「魔物にも色々いる」
◇
「色々?」
◇
「人間をただ獲物として襲うものもいる」
「うん」
「生け捕りにするものもいる」
◇
アルメルが苦い顔をした。
「だから冒険者は魔物に捕まるのを嫌がるのよ」
◇
「死ぬより?」
◇
「場合によってはね」
◇
ふくちーぬは黙った。
◇
詳しくは聞かなかった。
聞かなくても何となく分かった気がしたからだ。
◇
そして。
先ほどのおっさん達のことを思い出す。
◇
親切そうな顔。
馴れ馴れしい態度。
しつこい追跡。
◇
最終的に自分の欲を優先して危険地帯へ踏み込んだ。
◇
ふくちーぬは小さく息を吐く。
◇
「因果応報ってやつかな……」
◇
チャッピーだけが元気よく答えた。
『自業自得よ!』
◇
一行は再び山の方角へ歩き出した。
熟練度上げはまだまだ続くのであった。
第十三話 完




