ep.1 何故かボス役に抜擢されました
「ふぁ〜・・・ねむ」
左目を擦りながら、椅子に座ったまま伸びをする。大学を卒業したばかりの俺、天宮戒翔は、今盛大に悩んでいた。幸せな悩みだとは分かっている。分かってはいるんだが・・・。
「まさか、会社の方からお願いしてくるとは思わないんだよな・・・」
しかも複数。俺は、会社名の並んだパソコンの画面と睨めっこして考えてはいるが、一向に決まらない。一応、ブラック企業そうな企業は弾いたが、それでも数が多い。確かに小中高、大学の成績はいい方で中学と高校で大分やらかしてはいるが、欲しい人材ではあると思う。でも——————。
「この量は謎なんだよな・・・」
俺は、その場で頭を抱えて必死に頭を動かす。多分こうなった原因は、俺の母さんだと思う。俺の母さんは、恋多き人で長男の俺に長女と次女の二人と双子の弟を二人産んでいて、それぞれで父親が違う。母さん自身が美しい美貌を持っていることと面食いな所為なのか、全員顔立ちが俺含め整っており、異性との関係は異常に苦労した・・・。いや、まあこの話は今は関係ないからいいが、恐らく母さんが何処かの会社の社長を引っ掛け、その社長に俺の話を洩らしたとかか?あの母さん、おかしなことに幾ら歳を取っても若々しいままだからな。
俺は、怪我をして失明した右目に着けられた黒の眼帯に優しく触れて、椅子から立ち上がる。俺は今は一人暮らしをしていて、家具は全部黒で統一している。正直、直ぐに行く会社を絞って働きたかった。何もしないことが、結構落ち着かない。
—————————ピンポーン
俺の家のインターホンが鳴り、俺は首を傾げて玄関へと歩き、玄関の扉を開ける。何かネット通販でもしただろうか?妹達と弟達は、俺の所に来るときは、しっかりと連絡を入れてくるし・・・何だろうか。
「宅急便です。天宮戒翔さんのお宅でよろしいでしょうか」
「あぁ・・・はい」
「それでは、ここにサインを」
玄関の扉を開けるといつも荷物を届けてくれるお兄さんが立っており、サインを求められたので、玄関に置いてある印鑑を押して荷物を受け取る。受け取った荷物は自棄に大きく、明らかに俺が注文した品ではないことが分かる。印鑑を押すと直ぐに「失礼しました」と言ってその場から去って行ったので俺は、玄関の扉を閉めて荷物を開け始める。
「これは・・・VR機器か?」
黒く染まった最新VR機種のヘッドギアに顔が引き攣り、取り敢えず、中に入っていた手紙を中から取り出して、読んでみる。差出人は、ファンタジスタ・スターシス?初めて聞く名前だな。
「私達の作ったゲームのボスキャラクターになって欲しい?。金も出すって・・・年収600万!?おかしくないか!?」
叫ぶように手紙の内容を音読して、信じられないような内容の手紙を訝しげに見つめる。それでも尚、この手紙を嘘だと言い切れないのは、俺の勘が本当のことだと感じていることと、このVR機器が少なくとも本物であることが分かっているから。
「もし出来るのならVR機器を設定して、ログインして来て欲しい・・・まあ今は暇ではあるし、設定してログインするぐらいならいいか」
そう考えた俺は、VR機器を持ってベットに仰向けで横になり、ヘッドギアを頭に取り付ける。生命活動機能を利用して、充電などをしなくていいようになっていると聞いているから、このまま問題なくログイン出来るだろう。そうこう考えている内に設定が完了し、視界が暗転した——————。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー+++++
目を開けるとそこはただただ真っ白な空間。
何もなく寂しいその空間に、俺はどうしようかと首を傾げる。
「——————あら?もう来たんですか?」
そんな声と共に美しく靡く満月の光のような黄金の髪に禍々しい異様な光を宿した真紅の瞳の黒衣を纏った美女が俺の前に現れる。白く美しい白磁の肌に背中には、真紅の両翼。頭上には、天使の輪のような漆黒に染まった輪の冠が怪しく光って淡く揺れている。
「こんにちは、天宮戒翔さん。私はこの世界の運営であり、この世界の魔神です」
「・・・そういう設定ってことだな?」
「まあそうとも言いますね」
邂逅一番におかしなことを口走る運営もとい魔神に少々この運営の厨二病の拗らせ具合に引きながらも、なんとか話について行こうと必死に頭を動かし始める。何でこんなところで、必死に頭を使ってるんだろうか。普通に話を聞いて直ぐにログアウトする予定だったのに。
「驚きました。まさか話を聞いてくれる人がいるとは。流石に怪しすぎて誰もこの時点では、来ないと思ってました」
「あぁ・・・そこはちゃんと常識的なんだな。まあVR機器が本物だって気付いてたから、話を聞くだけならいいだろと思ってな」
「成程、お金にがめつい訳ではなく、ただ単に騙されていない確証があったと」
ちゃんと怪しい方法だと気付いていて、何でそれ以外の方法にしなかったんだろうと思いながら、目の前の(自称)魔神の話を静かに聞く。なんか、阿保なのか賢いのかよく分からないな・・・。あれか?馬鹿と天才は、紙一重って言うやつ。口に出して言えないけどな。
「ちなみ、こちらが契約書です」
目の前に出現させられた契約書を左手で手に取り、契約内容に問題がないか隅々まで確認する。ゲーム開始日は、来週の土曜日からで、年収の内訳や内容も問題ない。他の細かな文章は、ただ当たり前のことが書いてあるだけで、おかしなところは特に無い。
「・・・しっかりと本物らしいな。騙されている訳でもないらしいし、別に契約してもいいんだが、副業は駄目なのか」
「えぇイベントなどが不定期にありますので、別にしてもいいんですが、やはりこちらを優先して欲しいという気持ちが強く、副業はある特定のものを除いて禁止にしております」
しっかりとした受け答えに嘘偽り無く、俺の勘に従って契約書にサインする。幸いにも、就職先を決める前だったからな。運営の対応にも好印象だったし、こういうのは勢いが大事だ。
「よろしくな。魔神様」
「・・・本気ですか」
俺の名前がサインされた契約書を(自称)魔神に向かって見せて、余裕のある笑みを見せながら、右手で(自称)魔神に握手を求めると、呆気に取られたと言わんばかりに目を見開いて、俺の顔と契約書を二度見していた——————。




