2.彼の名は
ヨコヤマリュウイチは凡才だ。
去年成人を迎えた彼にはこれと言った才能がない。
スポーツも勉強もそれ以外でも、これまでの人生光るものは無かった。
自分に才能がない彼には他人が光って見える。
サッカー部の彼は体育祭、美術部の彼女は文化祭、漫画研究部の彼は漫画の話をしている時、帰宅部の彼はテストの時。
20年過ごしてきた彼らには一貫して、自分の輝けるステージがあるように思える。
「俺にだって何かあるさ」
そう思って生きてきたが熱中出来るものが何もなかった。
言い換えれば、立ちたいステージが何処にも無かった。
そんな人生がどこかつまらないとずっと思っていた。
周りからどう見えているかは分からないが、何でも中途半端にできる彼は母から良く、「要領がいい子」と言われていた。
最近分かった事がある。
要領が良いんじゃない。
要領を使いきれて無いだけだ。
自分の中の要領を100%としたときに、きっと30%くらいしか使えてないんだろう。
でも、きっとこれで良い。
いつか俺に熱中出来るものが出来るまで
いつかはもう来ないんだろうと思わない様に現実から目を反らす彼には世界の全てがどうでも良く思えた。
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超常現象が起きたその日
ヨコヤマリュウイチは感情が高ぶっていた。
気が付いたのは、朝ベットの下に落ちたリモコンを取ろうとした時だ。
リモコンに手を伸ばしても届かなかったので、強く頭の中で手が伸びるイメージを浮かべた。
次の瞬間『パコンッッ』という音を鳴らしてリモコンが壁の方に吹っ飛んだ。
彼は酷く動揺していた。
今、手から風が吹いた、、よな?
四畳半の部屋で起きた小さな超常現象を前に少しずつ体が高揚して行く。
何かの間違いかもしれない、もう一度試そう。
そう思った彼は、今度は部屋に干した洗濯物に向けて手を向けた。
そして、今度は空気を押し出すイメージで
掌に力を込めた。
3.2.1
瞬間『ボンッッ』と言う鈍い音ともに部屋の洗濯物が吹っ飛んだ。
今は散らかった洗濯物も、拾えなかったリモコンもどうでも良く思った。
俺、風を操れる用になっている。
その事実が彼の頭の中を埋め尽くした。
これがある夏、ヨコヤマリュウイチが凡才を脱した8月半ばの午前8時27分である。




