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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第59話 天使と凶戦士と

 原作『帝国物語』においてはたびたび『天使』についての伝承が登場する。

 貴族の信仰においては『戦神』が戦死した勇者を己が館に招くために遣わすとされ、『九界樹教会』の教義においては世界樹の種から生まれた存在とされる美しき『天使』。神々や大樹とは別に天使に対する個別の信仰が存在するほどにこの大陸に天使の存在は根付いている。


 そんな天使を魔導技術によって再現したとされるのが『自律天使オートワルキューレ』だ。

 あくまで機械的かつ魔導的に再現された存在でしかないものの、実戦投入すれば戦場の常識を一変させるほどの性能を誇る。と、前世で読み込んだ設定資料の没案ページには記されていた。

 

 もっともその製造には国家の財政が傾くほどの予算と設備が必要らしく、仮にゲーム内に実装されたとしてもユニットとして運用できるとしても最終盤だろうとも言われていた。


 だが、オレの目の前には確かに『自律天使』がいる。

 でなければカラクリ式の腕も、リーヴァに匹敵するほどの速度も、あるいは人外じみた白磁の肌も説明がつかない。


「――あれ? あたしのこと知ってるみたいね。あんまり驚いてないな。残念」


 女暗殺者あらため自律天使は、左手首をガチャリとはめなおす。内部に機械など入っていなかったのに指先まで精緻な稼働をしていた。

 表情にしてもそうだ。多少の違和感こそあるものの、いわゆる不気味の谷は抜けている程度には自然に見える。


 ……大した技術だ。この肉体には魔導関連の適正がないから詳細に理解できるわけじゃないが、それでもかなりの経費と最精鋭の魔導師がいなければこいつの開発は不可能だろう。


 気になるのは、魔導士の類を異端と断じる教会がその魔導技術の結晶ともいえる『自律天使』を使役している点だが……結局どこのどんな宗教も現世利益のために教えを捨てるなんてのはよくある話か。


「からくり人形相手に無駄だろうが、一応、言っておくぞ。大人しく降伏して、『槍の冠』を渡すなら、ぶっ壊さずに綺麗に解体してやるぞ」


「酷い物言いね。あたしたちはただの道具じゃない、魂のある人形。だからこうして会話もできるし、考えることもできる」


「そうか。遺言はそれでいいんだな?」


 大盾を正面に構え、両足に力を籠めた。

 生身で最新鋭の殺人ロボットを相手にするようなものだが、あいにくとこちらには鋼よりも強固なダイヤモンドの忠誠がある。ジークリンデのためならばたとえ相手が巨大ロボットでも粉砕してみせるとも。


「――はっ!」


 そうして一息に間合いを詰める。

 相手がまだどれだけの兵器を内蔵しているのか見当もつかないが、使う前に決着を付ければないも同然。そのためには速攻あるのみだ。


 大上段から大盾を振り下ろす。女はひらりと跳躍で攻撃をかわすが、そこまでは読み通りだ。


 叩きつけた手を軸にして、オレは体を回転させる。

 前転の要領だ。そのまま振り子のようにオレの右足のかかとが空中の自律天使を捉えた。


「っ!?」


 蹴りつけられた自動天使が床に墜落する。床板が砕け、破片と粉塵が宙を舞う。

 生意気にも痛覚があるらしく、うめき声が上がった。


 一撃で粉砕とはいかなかったが、足が止まっている。このまま追撃だ。


 倒れている自律天使に向かって床を蹴る。

 大盾を正面に構えての突撃だ。しかも、今まで以上の全速力。砦の門を破損させたこともあるこの一撃ならば自動天使の装甲も砕けるはず。


「このっ!」


 自動人形がこちらに右手を向ける。何らかの兵器を使うつもりだろう。

 左手は空気砲だった。であれば、右はなんだ? いいや、構うものか。なんであろうと受け止めて、押し返すのみだ。


 果たして右掌から噴き出したのは視界を覆う火炎だ。

 鉄をも溶かす温度のそれに大盾が赤熱し、皮膚が焼ける激痛が両手に走る。


 だが、足は止めない。このぐらいで怯むようではジークリンデの従者は務まらないのだから。


「バケモノめ!」


 捨て台詞を吐いて、自律天使がオレの突進の直線上から上方へと逃れる。

 視界は炎に覆われていても音と気配で分かる。自ら開けた天上の穴を利用して、屋根の上に行く気だ。


 その背中を追って、オレも屋根の上へ。

 瓦で不安定な足場はオレにとっては不利だが、この程度は忠義と怒りでカバーだ。自律人形もそれに命令を与えたやつも決して許してはおかない。


「しつこい。その上、しぶといね。普通、火炎を喰らったら怯むと思うんだけど」


「火炎? さっきの火遊びの事か? あの程度の炎なら今のオレのはらわたの方が熱いくらいだぞ」


 自律人形は山なりになっている屋根の中央部でオレを待ち受けていた。

 満月が自律天使の背後にある。だが、清らかな輝きでもオレの怒りをなだめることはできない。


 自律天使の方もオレを始末するまでは逃げる気はないらしい。

 ……滑空機能のようなものは備わってない、と見ていいだろう。あれば屋根の上に出た段階で逃げられてしまっているはずだしな。


「そこまで怒ってるんだ? あの皇女様のため? でも、そんなに熱いっていうなら確かめてみないとね!」


 自律天使が屋根を駆け下りてくる。

 速い……! だが、動体視力が追い付かないほどじゃない……!


 自律天使をそのままオレの周囲を旋回し始める。この足場でよくも動くけるものだと感心しそうになり、右肩の痛みに意識を取られた。


 反射的に左側の急所を大盾で守る。直後、大盾が何かを弾いた。

 

 つぶてだ。それも金属製でかなり鋭利なもの。手裏剣にも近しいもので、鎧の隙間を突いてこちらを負傷させるだけの威力は十分にあった。


 しかも――、


「――っ」


 何か毒が塗られている。恐らくは神経毒の類だ。致死性は低いだろうが、痛みは相当なもので視界がチカチカする。


 だが、不幸中の幸いだ。麻痺毒だと力が鈍って困るが、この程度の激痛は療養所を利用されたジークリンデの胸の痛みに比べれば痛みの内にも入らない。


 おそらくは自律天使の腕か、足かどちらかから絶え間なく射出している。

 回避、もしくは防御は難しい。ならば、足を止めるまでだ。


「――おおおおおおおおお!」


 大盾を振り上げる。裂帛の咆哮を上げ、脳裏にオレの知る最強の戦士の姿を思い浮かべた。


 トモエだ。

 彼女なら、この状況でどうするか。

 あるいは、彼女のならこの状況でなにができるか。


 オレの能力値はトモエと比べれば月とすっぽんだが、真似事くらいはオレにもできる。


「はあああああっ!」


 全身全霊の力で聖堂の屋根に大盾の角を叩きつける。

 硬く、大きな手ごたえ。だが、確かに罅は入った。


 そして、規模の大きな建造物であればあるほどわずかなひび割れでも全体に波及し、破局を生む。

 つまりは、今オレたちの足場になっている屋根が崩壊する。

 

「――なっ!?」


 自律天使の動きが止まる。いくら足が速くても駆けるための足場がなければそうなる。


 同時にオレは崩れ落ちつつある瓦を蹴って、自律天使へと間合いを詰める。

 再度のトライだ。今度こそ外さない。


「このっ!」


 自律天使もこちらを認識している。崩落に足を取られつつも、両手首を合わせてオレに狙いを付けている。


 火炎と空気弾の合わせ技。恐らく放出されるのは巨大な爆炎だ。室内では自爆の可能性もあって使わなかったのだろうが、ここでなら遠慮はいらないというわけだ。


 上等だ。そんなものでオレを止められるかやってみるといい……!


「『炎よ、御敵を焼き砕け(ムスペル・タング)』!」


 炎が爆ぜる。

 小さな建物なら骨組みほど吹き飛ばせるほどの破壊力に、オレは足を止めずに突っ込んでいく。


 このままでは骨も残らない。火にいる虫のように一瞬で消え失せる。


 だが、こんなところでは死ねない。ジークリンデのために鍛えた技が道を拓いてくれる。


「ぬぅぅぅ!」


 大盾が爆炎を受け止める。一瞬で盾ごと吹き飛ばされそうになるが、歯を食いしばって歩を進める。


 『どんなものにも流れがある。力にも、炎にも、運命にも』

 幻聴か、走馬灯か。少しの間だけ師事していた人の言葉が聞こえてくる。


 そうだ。流れを制することができるものはすべてを支配できると師匠が言っていた……!


「ふん!」


 大盾を弾くようにして、爆炎の流れを変える。炎の奔流は右半身を掠めるようにして、空で弾けた。


 成功した。あとは、とどめだ。


「っ!?」

 

「覚悟!」


 その勢いのまま、間合いを詰め、大盾を振るった。

 

 重さ50キロ超の蒼鉄鋼の塊が自律天使の胴体を砕く。

 陶器を思いきり地面にたたきつけるような会心の感触。それを確かに味わいながらオレは地面に向けて落下した。


 やばい。着地考えてなかった……!


 ◇


 ジークリンデの日記から抜粋

 

 キリアンを聖堂に送り出してからわたしの心は波間に揺れる枯葉のようだった。

 一瞬ごとに確信と不安を行き来し、強い波が寄せれば八つ裂きにされてしまう。こうして日記に書き記すことで発散していなかったら、


 キリアンを信じていない、なんてことはない。彼が失敗するとも、敗れるとも、死ぬだなんて思っていない。いや、違う。考えたくもないし、考えてしまったら、その時点で彼に泣いて縋って止めてしまっていただろう。


 でも、それはできないし、キリアンは死なない。

 彼は騎士だ。騎士は約束を違えない。だから、彼は絶対に死なない。絶対に、絶対にだ。

 

 そうだ、わたしは信じている。わたしの騎士は必ずわたしのもとに帰ってくると。


 だけど、怪我をするかもしれない。相手は手練れだというし、斬られたり、刺されたりするかもしれない。

 心配だ。とても心配だ。キリアンが血を流す姿を想像するだけで、なにもかもを振り捨てて駆けよってしまいたくなる。


 わたしは皇女なのに、責任があるのに、立場があるのに、キリアンのためにならなにもかもを捧げてしまいたくなる。


 キリアンはきっと、そんなことを望まない。

 彼はあくまでわたしの志のために、皇帝を目指しこの帝国を改革するという理想のために働いてくれている。それは分かる。


 わたしへの、愛が理由じゃない。

 もしかしたら、心の奥底にはあるのかもしれないけど、わたしには確かめられない。


 怖い。

 もし違ったら? キリアンがわたしを主としてしか見てなかったら? そう思うだけで喉がしびれるようで、声さえ出せなくなってしまう。


 無力なわたしにできるのは信じることだけ。

 わたしに、わたしに力があれば、キリアンの傍にいられるのに…………、


 そうだ。もしキリアンが怪我して帰ってきても大丈夫なようにしよう。

 ほかの誰にも彼を任せたりしない。彼の体を癒すのは、わたしだ。わたしでなくてはならない。

 

 なら、準備をしておかないと。

 良き伴侶とは入念な備えと気遣いを怠らないものと聞く。キリアンの伴侶として、しっかりしないといけない。がんばれ、わたし。


(本頁における言及は『熱愛女帝』により創設される『帝国救護院』の元となったと考えられています。現在の帝国救護院には多くの医者が所属し、昨年、帝都における死者数は統計以来最少を記録しました。また救護院において導入された常時稼働型『看護自律天使』の働きは目覚ましく、今日、大陸有数の福祉国家といわれる帝国式医療福祉体制の基礎となったことは疑いようがありません。帝国万歳)


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