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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第56話 腹黒妃殿下VS凶戦士

 実を言うと、オレは騎士学校を卒業してすぐにジークリンデに仕えられたわけじゃない。

 オレとしては第一志望を言うまでもなくジークリンデ、ひいては第一皇統派なのだが、その時期にはジークリンデが従者を求めていなかったのでどうしようもなかった。


 無論、自ら売込みにいこうとは考えたのだが、そういう押しつけがましいのはジークリンデは好まない。焦って動いて彼女の好まないことをしてしまうよりは、待つべきだとオレは考えた。

 といっても、騎士学校の同窓生やシグヴァルト家のコネクションを通じてのアピールは怠りはしなかった。それに、仮に従者に選ばれなかったとしても第一皇統派の一員として粉骨砕身、ジークリンデを支える覚悟は当然あった。


 なので、待っている間も焦ってはいなかった。

 ジークリンデが従者を探すのは確定事項だ。その時に彼女に相応しい自分であればいい、そう腹をくくっていた。


 しかし、周りはそういうわけにもいかない。

 騎士学校時代には少ないとはいえ友人はいたので彼らはやきもきして仕官先を斡旋してきたし、親戚連中もあれやこれやと世話を焼いてきた。


 それらすべてをオレは突っぱねた。

 当たり前だ。ジークリンデのためになる役職ならまだしもほかの派閥のためやら親戚連中の面子のための仕事などどれだけの名誉があろうがお断りだ。


 だが、その中にもどうしても断り切れない案件が一つだけあった。


 それがヒルデガルド元皇太子妃からの招集だ。

 元とはいえ皇太子妃であり、現在も皇族の身分にある相手だ。断るにしてもそれなりの礼を尽くさないとあとあとジークリンデにまで迷惑が掛かってしまう。そう考えて一応、ヒルダ殿下に会いに行ったわけなのだが――、


「――気に入りましてよ。貴方、わたくしの騎士になりなさい」


 一目会うなりそんなことを言われてしまった。

 

 理由は、マジで分からない。

 オレはとにかくジークリンデが求める人材になることしか考えていなかったので、お世辞にも他からの評判はいいとは言えなかったし、見た目だって所詮はキリアンだ。魅力20程度じゃ誘惑できるのはせいぜいがそこら辺の村娘くらい、いや、それも怪しいくらいだ。


 だいたい、ヒルダ殿下は夫である第一皇子を亡くしたとはいえ皇族であり、その影響力は健在。実家である旧ロプトヴェル公爵家のコネクションも使えばいくらでも人材など集まる。


 それがどうしてオレを気にいるのかさっぱり分からない。

 ……そもそも原作におけるヒルダ妃殿下は食えない策師だ。決して表には出てこないが第三皇統派内部で確かな力を持ち、あれやこれやと策謀を巡らす女傑。ある意味では第三皇統派内で最も厄介なのはヒルダ妃殿下といっても過言ではないだろう。


 そんなヒルダ妃殿下なのでオレが勧誘を辞退するたびに手を変え、品を変え、オレを自陣営に引き込もうとしてきた。

 例えばいつの間にか予定にヒルダ殿下主催の園遊会が差し込まれていたり、妹のユリアの方にヒルダ殿下の友人とオレとのお見合いの話が舞い込んだり、なぜか借りていた宿舎が急に取り壊しになってこれまたなぜか引っ越し先が勝手にヒルダ殿下の援助する商人の宿になってたりといろいろあった。


 無論、オレは鋼の意志で固辞し続け、ついにはジークリンデより従者を拝命したわけだが、半年前に直接断って以来、ヒルダ妃殿下とは顔合わせていない。


 正直、気まずい。

 それに、実力者とはいえまさか妃殿下が第三皇統派の代表として出てくるとは思ってもみなかった。今回の件の黒幕の一人ではないかと疑ってはいたんだが……ええい、くそ、やりにくいとか言ってる場合じゃないぞ、オレ。ジークリンデのために気合を入れろ……!


「こうしてお会いするのはいつぶりでしょうか、ジークリンデ様。このような時ですが、溌溂はつらつとしたお顔を拝見でき、わたくし、胸がいっぱいなのですよ」


 挨拶もそこそこに対面に座った妃殿下はジークリンデに柔和に微笑みかける。

 ……さすがは女だてらに第三皇統派のブレーンをやっているだけのことはある。大抵の人間はその印象に呑まれて、彼女の内に秘めたどす黒さに気付けないだろう。


 なにせ、原作終盤で明かされる妃殿下の最終目的は皇位の簒奪。それだけの野望だ、心を許せる相手など一人としていない。


「まさかヒルダ義姉様がいらっしゃるとは、思いませんでした」


「はい。わたくし自身このよう大役が務まるかと不安でいっぱいですの。オーラント殿にも困ったものですわ。ですが、いつまでも悲しんでばかりもいられませんものね。妻として、亡きトーリン様のご遺志をお守りしませんと」

 

 愁いを帯びながらも気丈さを感じさせる言葉に、ジークリンデが感心して頷く。

 亡き夫の残した派閥のために尽くす、というのは帝国の価値観においては未亡人の鑑ではある。ジークリンデが感じ入っているのはその点だ。


 オレとしては、面の皮の厚さもここまでくると感心するほかないってところか。

 

 確かに第三皇統派の面々には夭折した第一皇子『トーリン』の支持者であったものが多い。

 第三皇子『アレク』が第一皇子と同腹の弟、つまり、母親が同じだからだ。その母親というのも先帝の正妃であったため、第三皇統派の正当性はそういった血統に準拠している。


 しかし、ヒルダ妃殿下の最終目的は皇位の簒奪だ。

 血統による権力の継承に欠片の正当性も認めていないくせに、こういった場では平気でお題目を口にできる。ある意味では見習う必要さえあるかもしれない。


「そういえば、そちらの騎士の方はどなたかしら?」


 ……やっぱり水を向けてきたか。

 まあ、いいさ。仲良しこよしをしに来たんじゃないんだ。ジークリンデはともかくオレが妃殿下に嫌われようが、恨まれようが、どうだっていい。


「キリアン・シグヴァルトでございます、妃殿下。わたくしめのことはただの代弁者とお考えください」


「あら、なんて冷たいんでしょう。なんども顔を合わせた仲だというのにシグヴァルト卿はもう忘れてしまったのかしら」


「…………シグヴァルト卿?」


 案の定、勧誘を断った件に触れてくるが、大事なのはジークリンデがオレの方に振り返ったことだ。

 顔を見ればわかるが、完全に向こうのペースに呑まれてしまっている。動揺と不安が瞳の中で揺れていた。

 

 …………妃殿下とのことを事前に話しておくべきだったか? 

 いや、問題はない。この程度ならどうとでも乗り切れる。


「妃殿下、ご厚情の数々はしかと記憶しております。ですが、自分はジークリンデ様の従者。それ以外の己は持ち合わせていないのです」


 ジークリンデの表情を視界に収めつつ、そう言い放つ。


 オレの本分はジークリンデの従者だ。それ以外の己になる気はないし、興味もない。ましてや、万が一にも二心を抱くなど期待さえするなと宣言しておく。


 すると、オレの意志が通じたのか、ジークリンデの表情がパッと明るくなる。

 よかった。オレに取ってジークリンデを悲しませてしまうこと以上に胸の痛いことはない。


「――そう。素敵ね。ジークリンデ殿下が羨ましいわ」


 そんなオレたちを見て、ヒルデ妃殿下は優し気な笑みを浮かべる。

 だが、オレにはその顔が笑顔ではなく鼻白んで不愉快そうにしているようにしか見えなかった。


 それもそうだ。離間の計のつもりだったのかもしれないが、ジークリンデの聡明さとオレの鋼の忠誠真にそんなものは通用しない。


「……ヒルダ義姉様、積もる話は後に」


「………そうですわね。急いで決めねばならないこともありますし」


 ヒルダ妃殿下の笑顔は崩れないが、主導権はこちらに取り戻した。

 彼女に長々話を続けられてその流れで重要事項を取り決められても困る。


 オレ達はここに脅迫、もとい、交渉に来たんだからな。


「――我々には囚人を引き渡す用意があります。無論、こちらの求める情報と引き換えですが」


 ジークリンデに代わって先制パンチをかます。

 囚人とは『凶風』のことであり、求める情報とは『教会』の協力者に関するすべてだ。


 事の発端から掘り下げてものらりくらりとかわされるだけだし、『凶風』の所属について問いただしても物的証拠がないことを理由にとぼけられてしまう。

 だから、それらすべてをすっとばして端的にこちらの要求を突きつける。細かな条件や利益についての話はそのあとだ。


「ふふ、相変わらず乱暴ね。こういうときはもっと迂遠に、詩人のように話すべきではなくて?」


「それは別のものに任せます。直截さは辺境貴族の悪癖と思い、ご寛恕いただければ。して、返答はいかに」


 からかうような妃殿下には付き合わず、毅然とした態度を貫く。

 知力90を超える妃殿下相手に腹芸では勝ち目がない。だから、相手の土俵ではなくこちらの領域で勝負する。いうなれば、直言での殴り合いだ。


 容赦はしない。今は頑張って堪えているが、腹の底ではマグマが滾ってんだからな。


「でしたら、わたくしも端的に申し上げましょう。まず第一に、その囚人と第三皇統派われらに何の関りがあるというのでしょうか。

 第二に、宰相殿と『槍の冠』の件ならば、むしろ、あなた方こそ『容疑者』を差し出すべきは? いくら皇族とはいえ免れぬ罪というのは確かにあるものです」


 やはり、第一皇統派でバルドをかくまっていることは知られていたか。

 だが、想定内だ。すでに手は打ってある。


「バルド殿下のことをおっしゃられているのであれば、見当違いもはなはだしいと申し上げるほかありませんな。

 殿下は無実。いえ、それどころか宰相閣下の命をお救いしたのはバルド殿下なのです。賞賛される謂れこそあれ、捕縛される理由など一切ありません」


「これは異なことを。殿下が事件の現場近くいらっしゃったことはすでに多くの証言を得ています。それでも潔白と仰せになるなら、むしろ自らお出ましになり詮議をお受けになるべきかと。公平な調査さえあれば、真実は白日の下にさらされましょう」


 なにが公平な調査だ。

 まともに聴取などしないし、最初から結論は出ている。何ならもう筋書きはできているんだろうが。


 ……もっとも、そこら辺に関してはこっちも人のことは言えないわけだが。


「バルド殿下は近く、お出ましになるでしょう。ですが、詮議の必要はありません。殿下の嫌疑など《《宰相殿》》が自ら晴らしてくださりますので」


 ここで初めてヒルダ妃殿下の顔に笑顔以外の表情が表出する。

 驚きと困惑。一瞬ではあるが、確かに心を乱した。


 オレが宰相の身柄を抑えに動いていたことは想定外だったらしい。

 ……となると、聖女の守りが手薄かったのは他の誰かの意図か? 単純にこちらに聖女を奪還する手段があるとは予想していなかった可能性もあるが……今考えてもしょうがないことではある。


「実を言えば、行方不明だった『聖女』殿がひょっこり我らの駐屯地にいらっしゃいまして。これぞ天の采配と宰相殿の治療をお願いしたのです。

 聖女殿がいらっしゃったとなれば、お止めするするような慮外者はいないでしょうし、宰相殿はすぐにでもお目覚めになるかと」


「……戦神の神慮の賜物ですわね」


 妃殿下の笑顔はあきらかに曇っている。聖女の件がはったりかどうか思考をめぐらせているんだろうが、おそらく答えはでるまい。

 なにせ確認の方法がない。おまけにオレの普段の風聞のおかげで帝城に押し入るくらいは平気でやると思われているから、説得力もある。


 策師相手に意表を突くのは実に愉快だ。

 実際、ウルヴの容態が落ち着いた段階でオレはフレインを帝城に向かわせた。当然、護衛としてトモエとメロディを同行させた。宰相の治療を邪魔するやつがいたらだれであろうと蹴散らしてよしと言いつけたうえで。


 これで宰相グスタブ卿の容態は回復するし、彼の身柄もこちらの手に入る。

 それに、だ。第三皇統派と違って、オレたちとしてはただ事実を証言してもらえばいい。黒ずくめの集団が自分を襲い、『槍の冠』を強奪したと宰相が言えばあとはどうとでもなる。


 交渉も戦も同じだ。事前にどれだけ有利な要素を積み上げておくかに、肝がある。


「――それで、なんでしたか。あなた方と囚人の繋がり、でしたか。宰相暗殺を命じた書状の一つでも見つかればご納得いただけますか?」


 これで詰めだ。


 証拠がないととぼけるのは勝手だが、そんなものはこの帝都では誰も気にしない。

 重要なのはいかに相手の弱みを突くか。そして、失点の数で言えばうちよりも第三皇統派の方が多い。


 もっとも、失点の大半は件の協力者の策謀によるところが大きいのだが。


「…………まったく、だから逃すなと言ったのよ」


 ほんの一言、妃殿下が言葉を零す。

 誰のことを言っているのかはあえて追求しない。評価されるのが嬉しくないわけじゃないが、おそらく妃殿下とてここまでは想定の内だ。


 問題は、ここからどれだけの情報、こちらにとって有利な条件を引き出すか、だ。


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