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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第54話 『教会』と『聖女』

 オレはリーヴァに帝城内の偵察と情報収集、そして可能ならば帝城のどこかに軟禁されているだろう『聖女フレイン』を連れ出すように命じてあった。


 バルドが一晩中探し回ったにもかかわらずフレインを見つけられなかった、という事実からフレインが帝城のどこかに監禁されているのだと推測したからだ。


 監禁した理由についても、いくつか候補は考えられる。

 『聖女』という不確定要素を配慮したかった、もしくは、『罪穢れ』である殺人から聖女を遠ざけたいという宗教的動機か。あるいは、いまだ危篤状態である帝国宰相の《《治療》》をさせないためか。


 なんにせよ、フレインが別の勢力の手にあるというのは好ましからざる事態ではあった。


 だから、リーヴァにフレインの救出を命じておいた。

 無論、可能だと判断した場合のみ決行と条件を付けてのことだが、思いのほか警備体制は甘かったようだ。場合によって帝城に自分で押し入ることも考えていたから、これはベストの結果といってよい。


 しかも、命令を下した時と今とではフレインの身柄の重要性はさらに増している。


 原作でもそうだったが『聖女』には『癒しの奇蹟』がある。戦神に選ばれた聖女は『癒しの手』を持ち、直接傷に触れることで即死以外の怪我ならば瞬く間に癒してしまえるのだ。


 つまり、今、この駐屯地で意識不明のウルヴも帝城にいるグスタブ卿も治してしまえる。欠けていた情報が一気に埋まるということだ。


「よくやったぞ、リーヴァ。値千金の活躍だ。給金倍増を期待せよ」


 そういうわけでオレとしては臣下の労に報いないといけない。

 今回の事件では色んな人材に活躍の場があったが、殊勲賞は間違いなくリーヴァと、そしてバルドだ。


 意外なことだが、バルドが『凶風フィンブル』のメンバーを負傷させなければ彼らの行方を追うことはできなかっただろうし、リーヴァが予定よりも早く到着してくれなかったらフレインの身柄を確保することもできなかっただろう。


 つまり、2人がいなければ第一皇統派は反撃の機会さえも得られなかった。

 

「無用でございます、キリアン様。拙はキリアン様の道具、道具に褒美は必要ありません」


 リーヴァが答える。黒装束でお仕事モードなので真面目だ。普段ならオレのベッドの半分の占有権とか言い出してただろう。


 ウルヴを運び込んだ駐屯所の一室、そのドアの前でのことだ。すでにフレインによる治療が始まって2時間が経過している。

 瀕死の重症者がいる、と事情を話すとフレインは二つ返事で治療を引き受けてくれた。『助けられる怪我人』を放っておけないという当たり前の善性のなせるわざだ。


 これでウルヴの意識は回復する。それから情報を引き出せるかどうかはオレ次第だが、そこに関しては確信がある。


 夜明け前だ。気持ちは急くが、今は待つしかない。

 メロヴィくんあらためメロディを含めてほかの主要人員にはこれからに備えて休んでもらっている。彼女たちが目を覚ます前までには作戦を建てておきたいところだが……、

 

「そうはいうがな。これだけの働きに報いなければほかの者に示しがつかん」


「……でしたら、一つだけ望みがございます」


 再びうながすとリーヴァは少し考えてから、ようやく何かを言い出す。

 仕事モードの時はそうめちゃくちゃなことは言い出さないと思うが、さてどうなることか。


「お傍に、もっとお傍に置いていただきたく存じます」


「…………どういうことだ?」


「妹様の護衛と、キリアン様とのつなぎの役目。その役目に不満を抱いたことは一度としてございません。ですが、お傍にいないのではお守りできません」


 オレも察しが悪い。ようやくリーヴァの言いたいことが分かった。


 妹ユリアへの心配もあってオレはリーヴァを帝都においておくことはしなかった。

 今回の一件においてはそのせいで後手に回った場面がなんどかあった。リーヴァという鬼札が手元にないことによるデメリットをいやというほど思い知らされたわけだ。


「お傍にいなければ、キリアン様のお役に立てません。万全に働けないことは、道具としては不幸せでございます……」


「わかっている。オレもそれは考えていた」


「キリアン様……!」


 目を輝かせてオレに視線をやるリーヴァ。彼女の期待通りのことを言って大丈夫かという心配がないでもないが、これくらいの褒美で満足してくれるならよしとすべきか。


「主として命じる。これからは帝都に留まり、オレの耳となり目となれ。頼りにするぞ」


「はいっ! この命に代えましても……!」


 リーヴァは跪き、首を垂れる。

 全幅の信頼を寄せられているのは分かる。彼女は依然としてオレのためならば、よろこんで命を捨ててくれるだろう。


 だが、それだけではダメだ。


「だが、それだけじゃない。お前にはいずれ手勢を率いてもらう。諜報専門の、お前の手足となるものたちだ。お前が選び、お前が鍛えるんだ。いいな?」


「……御意!」


 どうやら、オレの意図を理解した様子のリーヴァに少し安堵する。

 いくらリーヴァが優秀でも複数個所には同時にはいられない。諜報活動は質も大事だが、量もいる。特に今回のような、複数の勢力が入り乱れる場合はそれぞれを個別に探らねばならないからな。


 それこそ『凶風』のような組織を作れればそれに越したことはないんだが……待てよ、なにも一から作る必要はないわけか。


「でしたら、拙の配下には皆、まずキリアン様への忠誠と愛を叩き込みましょう! 拙のように朝夕晩と一時の合間なくキリアン様のことだけを考え、キリアン様のためにのみ働くようにいたします!」


「それだとオレの私兵になるから絶対にやめろ」


「キリアンさん! 目が覚めたみたいです!」


 そんなことを言っていると、扉の向こうからフレインに呼ばれる。

 扉を開けて中にはいると、確かにベッドの上でウルヴが目を開いている。まだもうろうとしているようだが、峠は越えたようだ。


「ありがとうございます、聖女殿。おおいに助かりました」


「い、いえ、怪我人は放っておけませんよ! あ、アタシ、これでも聖女ですし!」


 ふんすと胸を張るフレイン。

 オレなんかとは比べ物にないほどの陽の善性。主人公たるもの行であってくれなくては困る。それこそこのままウルヴの氷の精神も溶かしてくれれば言うことはないんだが……流石に期待しすぎだな。


「状況は理解しているかね?」


 リーヴァを引き連れて室内へと踏み入る。

 リーヴァを同席させたのはあくまで護衛としてだ。ウルヴに対しては脅しや拷問といった手法はむしろ逆効果。ウルヴを味方につけるには道具としての彼の心理に付け込まねばならない。

 

「安心したまえ。君の部下に犠牲者はいない。こちらで全員保護させてもらった。怪我の治療もさせてもらっている」


 揺さぶりを掛けつつ、ベッドの近くの椅子に腰かける。

 無機質なウルヴの瞳がオレの動きを追う。何を思っているのかは分からないが、何を考えているのかはわかる。


 彼の頭にあるのは数々疑問だ。

 

 何故敵であるはずのオレ達が自分の傷を治療したのか。

 何故自分は拘束もされずにベッドに寝かされているのか。

 果てして自分はこの目の前の人物の言葉を信じていいのか。


 そんな類の疑問が代わる代わるに顔を出し、思考を寸断する。ただでさえ意識が朦朧としているんだ。まともな判断能力は奪われていると言ってもいい。


 その状態で畳みかける。なに、なにも主を売れというわけじゃない。彼らを陥れた女の正体、つまり、敵の敵が何者なのかを聞くだけだ。


「君を生かしたのは君に聞きたいことがあるからだ。それに答えてくれさえすれば、全員の命を保証すると請け負おう」


「……我らが『凶風』と知るなら、我らが雇い主を明かさぬことも知っているはずだ」


 端的かつ予想通りの答えだ。実際に、雇い主について直接尋ねたとしてもウルヴは決して口を割らないだろう。その律義さには感心するが、そこに関してはオレの聞きたいことじゃないし、すでに割れている。


「君たち『凶風』が『第三皇統派』に雇われたということはすでにわかっている。雇い主を裏切る必要はないというわけだ。安心してくれたまえよ、ウルヴ君」


 オレの言葉に、初めてウルヴの瞳の奥で感情が揺れた。

 驚きとそれからわずかな動揺。普段ならばこんな機微も表には出さずに済んだのだろうが、今のこの状況ではそうもいかない。

 

 ましてや、自分の本名まで言い当てられたのだ。

 ただでさえ疑問で飽和しかけている脳内はさらなる混乱に陥っている。


「オレが聞きたいのは、裏切り者についてだよ。ウルヴ君。君らを裏切り、君を後ろから刺したあの女についてだ」


 混乱している相手を誘導するのは簡単だ。

 あのウルヴが相手でも、味方に後ろから刺され、敵に救われたというこの状況下でならば必要な状況を引き出すことは可能だ。


「おもうに、あの女は急遽押し付けられた助っ人ないしは監視役だったのではないかな? 少なくとも君ら『凶風』のメンバーではないだろうし、君の雇い主が用意した人間でもない。そうだな、雇い主の協力者、もしくはその協力者のよこした人員、そんなところかな?」


 ウルヴは答えない。だが、言葉以外のシグナルがオレの問いにイエスと告げている。

 さすがは子犬系イケメンだ。見抜かれていると思い視線を逸らす素直さが、こっちの推測を裏付けてくれる。


 ……だが、問題はここからだ。あの韋駄天女が予定外の飛び入り参加だと分かっても、その素性につながる情報を得られなければ意味がない。


「君の立場は理解している。いや、むしろ、好ましいとさえ思っている。忠義心と律義さは蔵一杯の宝物に勝るものだ。だが、考えみてほしい」


 心理戦は籠城戦に似る。

 籠城戦において敵が決死の抵抗をしないように包囲にわざと一か所逃げ道を開けておくように、追い詰められた心には選択肢を与えてやればいい。そう、もっともらしく見える、正解に思える逃げ道を。


「あの女が裏切ったのならば、不利益をこうむるのは君の主君なのではないだろうか。事実、女は『槍の冠』を持って逃げたんだ。君の主が欲しがっていた遺物を君の主の知らない場所へと運び去ってしまった」


「――それは……」


「しかも、だ。あの女はまだ戦える状態の君を後ろから刺したんだ。逃げるだけならその必要はない。では、なぜそうしたか、わかるかい、ウルヴ君」


 少し考えてから頭を横に振るウルヴ。

 完全にオレの答えに縋ってしまっている。オレを信頼しているのではなく、答えを出してくれるなら誰でもいいとそういう精神状態に追い込まれているのだ。


「君を我々に差し出すためだよ。君らを捕まえれば、我々はそれを根拠に今度の事件は第三皇統派の犯行と断定できるからね。そうなれば、あの女にしてみればしめしめというやつさ。第一皇統派われわれ第三皇統派きみらが争いだせば自分たちは簡単に逃げ切れるんだから」


 この誘導に関してはあながち嘘ではない。

 実際、『槍の冠』を確保できなくても『凶風』のメンバーを捕縛した時点でそこで第三皇統派の犯行とこじつけることはできたのだ。


 そうすればバルドの容疑は晴らせたし、第三皇統派への攻撃材料も得られた。

 だが、それでは第三皇統派との全面抗争になりかねない。戦いそのものは望むところではあるが、今じゃない。このままでは両派閥とも消耗の果てに――、


「――共倒れだ。あるいは、そこまでがあの女とその主の目的なのかもしれない」


「…………話は、理解した」


 ウルヴが言った。絞り出すような声には様々な苦悩が滲んでいる。

 あと一押しか。命令に従うために、命令に逆らわなければならないという矛盾に逡巡しているのだ。


 その一方で、『凶風』には報復の掟がある。雇い主、あるいは協力者から裏切られたのならば、必ずや報復をせねばならないという掟。道具としてのウルヴの自我はその掟に従いたがっている。


「……一つ聞かせろ。その女のことについて知って、お前になんの利がある。お前の敵は第三皇統派われらのはずだ」


 ウルヴらしからぬ問いだ。だが、こう問うということは彼の中でほとんど答えが決まっているということでもある。

 しかし、そうか。確かにただ政治的利益だけを考えればここで手を引くのもありではある。『凶風』が犯人であると訴え出て、あとは欲をかかずに引き際をわきまえれば、全面抗争は避けられる、かもしれない。


 でも、それは――、


「我が主君が正義と誠実さの人だからだ。あの方は真実を求める。理由はそれだけだ」


 ジークリンデの王道じゃない。であれば、オレは最適解ではなく常に最善の道を探らねばならない。


「それに、味方面して背後から刺すような謀師気取りは気に食わない。君もそうじゃないか?」


「…………そうか」


 ウルヴが体を起こす。

 まだ痛むだろうに大した根性だ。これだけでも尊敬に値する。


「あの女は、『教会』の人間だ。我が主君が、そうおっしゃっていた」


 そうしてウルヴは一言だけ、だが、核心的な一言を口にした。


 そうか、『教会』か。心底うんざりするが、やるべきことはいつでも前倒しになるものだといい加減学習するべきだな、オレも。


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