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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第48話 攻略対象だろうが何だろうが

 『凶風』には血の掟と言われる絶対のルールがある。

 その内容は仲間が傷を負う、あるいは死した場合、決してそのままにはしないというものだ。


 これは仲間同士の絆を重んじるためのものではなく、機密保持と集団のために命を捨てることへの抵抗感をなくすために存在する規律だ。


 傷を負った仲間を置き去りにすればそこから情報が漏れるのは言うまでもないし、死体にしても見るものが見ればいくらでも情報源として機能する。

 そういった隙をなくすために仲間を見捨てることはしないし、死人が出れば体は持ち帰り丁重に処理する。それがプロ集団としての『凶風』の最大の特徴と言ってもいい。


 だから、バルドが『凶風』のメンバーを負傷させたのなら彼らはまずそのメンバーの治療を優先する。

 つまり、まだ『凶風』が帝都に残っている可能性は高い。


 それに、実行部隊のリーダーであるはずのウルヴの性格もこの仮説を後押しする。


 原作における『ウルヴ』の立ち位置はいうなれば『影ありクール系と見せかけた捨てられた子犬系イケメン』だ。

 ……これはオレの寸評ではなくちゃんとしたファンの所見なのでまず間違いはない、と思う。


 実際、ウルヴは天涯孤独の身で暗殺者としての才能を買われて『凶風』の前当主の養子となった。

 幼少期から情操教育どころか殺しの技術やら諜報技術やらを仕込まれた彼は十五歳になるころには機械的に任務をこなすキリングマシーンと化していた。ただ命じられるがままに殺して続ける冷たい刃。それがウルヴであり、彼本人もそのことに一度として疑問を抱かなかった。


 一方で、道具である彼は自らに課されたルールを破らない。情からではなく道具としての仕様上、仲間を見捨てられないのだ。


 ちなみに、そんな無感動な男の在り方を揺るがすのが主人公である『聖女フレイン』だ。

 影からの護衛を命じられたウルヴは当初、フレインに対して何の感情も抱いていなかったのだが、そんな彼に興味を抱いたフレインがもうストーカーばりにしつこく接することで少しずつ情動を取り戻していく。


 そうして物語が進んでいくと、今度はウルヴの方からフレインの後を付け回すことになる。その様が作中で『飼い主離れできない子犬のようだ』と表現されたがために、ウルヴは子犬呼ばわりされているのだ。


 と、そんな微笑ましい話はおいといてだ。

 仮に負傷者がいたとしても暗殺者として折り紙付きの能力を持つウルヴと彼の率いる『凶風』を確保するのは簡単じゃない。


 なにせ、ウルヴの武勇は最大で92。『凶風』の構成メンバーも軒並み武勇70越えの強者ぞろいだ。彼らを捕縛するのは相当に骨が折れる。

 

 だが、こちらにもトモエがいる。彼女が鍛えた精兵にくわえてメロヴィくんもいる。戦力としては決して見劣りするものじゃない。


 それに、だ。無策でことにあたるほどオレは自分を信用しちゃいない。当然、こういう事態を想定して策は練ってある。

 こうなった以上は原作の攻略対象だろうが何だろうが、容赦はしない。


「――ともかく、第一皇統派われわれで容疑者を確保することが重要です」


 揺れる馬車の中でオレはそう事態をまとめた。

 第一皇統派の勢力圏、つまり、赫奕剣騎士団の駐屯地に帰るまでは安心できない。よもや皇族の馬車を検閲したり、襲ったりするようなことはないと思うが、用心に越したことはない。


 なにせ、今この馬車には『帝国宰相暗殺未遂および槍の冠強奪事件』の第一容疑者が乗ってるんだからな!


「な、なるほど。それでしか、僕の疑いを晴らせないということですね」


 その容疑者こと、バルドが言った。彼はオレの左正面、ジークリンデの隣の席に気まずそうな顔で座っている。


 ある意味では、もう容疑者を確保しているってわけだ。まあ、確保の目的は匿うことなので共犯になっちゃったんだけどね! 


「現状、バルド殿下と殿下の見たという黒ずくめの一団以外には容疑者がいません。そして、事件現場をおさえているのは第三皇統派です。彼らとしては他にどんな証拠があろうが、殿下の犯行にしたいでしょうね」


 それを避けるためにこうして秘密裏にジークリンデの馬車に乗せてバルドを連れだした。バレれば第一皇統派、ひいてはジークリンデにまで累が及びかねない行為だが、そうせざるをえなかったのだ。


 あのまま城中においておけばバルドは容疑者として拘束されていただろうし、そうなればもう言い逃れはできない。自白なんていくらでも捏造できるし、一度、犯人として公表されてしまえば覆すには力づくでいくしかなくなる。

 それでも第二皇統派だけの問題で済むならオレはバルドのことなど放っておいただろう。だが、今の彼は第一皇統派のドルウェナ伯の娘婿であり、第二皇統派との同盟の要だ。危険を冒してでも助ける価値はある。


 ………いや、正確にはこれも言い訳だな。政治的リスクを天秤にかけるならバルドごと第二皇統派を切り捨てるという選択肢も存在していた。

 ジークリンデは弟を切り捨てられない。困り切った弟の姿を見る彼女の横顔がそう物語っていた。


 であれば、臣下たるもの主君の望みと現実の折衷案を出すの忠誠というものだ。


「だが、義兄上、僕は宰相殿に恨みなんてないし、槍の冠なんて欲したことはないぞ? その僕がどうして……」


「貴方が第二皇子だからですよ。第三皇統派としては第一皇統派われわれ第二皇統派あなたがたとの同盟が邪魔で仕方ないのです。ですから、今回の暗殺未遂をできるかぎり有効活用したいと、そういうことです」


「……僕が配流にでもなれば、第二皇統派を瓦解させられるから、ですか」


 頷いてみせるとバルドは喜びつつも、申し訳なさに身をすくませた。

 少しは自分の政治的価値や行動の責任についは理解できたとみえる。まあ、だったらそもそもこんな時に城内で怪しいことすんなよという話だが、そこは『凶風』に手傷を負わせたことと相殺だな。


「そうなれば、ジークリンデ様が悲しまれます。ですので、お疑いを晴らして差し上げましょう。そのために、真犯人を捕縛するのが一番です」

 

 真犯人と納得できる誰かであればだれでもいい、という言葉は今は呑み込む。


 最悪、ウルヴや『凶風』を捕捉できずともほかにも手段はいくらでもある。

 ようは、バルドではない別の犯人をでっちあげてしまえばいいんだ。 

 

 それこそ昨夜城内にいた人間である必要さえない。

 そういえばちょうどいいところに第一皇女の従者を私怨で暗殺しようとした貴族がいたな。そこに宰相への恨みと槍の冠への執着をプラスしたところでもはや大差はないだろう。


 といっても、これは最終手段だし、懸念点もある。

 『槍の冠』の行方だ。犯人をでっちあげたところで盗まれた冠が出てきてしまったらこちらの主張は根本から崩される。

 

 …………あるいは、それが狙いか? こちらが適当な犯人で幕引きを計れないように?

 槍の冠ほどの『遺物マジックアイテム』を駆け引きの道具として使う……大胆な発想だし、賢い手だ。だとすれば、糸を引いているのは相当な策士だな……、


 であれば、ここはやはり政治的保身を図るのではなく正攻法で犯人と槍の冠を確保するべきだ。

 ……無論、いざという時のための備えはしておかねばなるまいが。


「……何者なのでしょうね」


 ふとジークリンデが言った。

 何者が指すのはバルドが見た黒づくめに半月型の曲剣を装備した一団のことだ。


 その正体が『凶風』であることをオレは知っている。だが、原作知識で知っているとは言えない。ジークリンデならばオレが転生者だと言っても信じて受け入れてくれるかもしれないが、バルドには理解ができないだろうし、彼から情報が漏れるのも避けたい。


 それに原作知識だけに頼って予断をすべきじゃない。宰相の襲撃が晩餐会中ではなくその後だったように、特徴が一致していても決めてかかると痛い目を見かねない。


 ここはもっともらしい理屈を口にしておくとしよう。こればかりは方便だ。


「実を言えば、心当たりが一つあります」


「ほ、本当ですか、義兄上!」


 食いついてくるバルド。正直、こいつの反応はどうでもよくてジークリンデがどう思うかが重要なんだが…………よかった、感心したと顔に書いてある。

 この表情の変化が分かるのがオレだけというのはやはり残念だ。大陸中に広まれ、ジークリンデの魅力。


「あくまで、噂ではありますが。第三皇統派の抱える隠密集団に似たような特徴を持つものがあったはずです。そちらの方から伝手を辿ろうかと」


「…………なるほど」


 ジークリンデが顎に手を当てる。彼女が何かを考える時の癖だ。オレがどのような方法で情報を集めるのか考えておられるのだろう。


 噂を聞いた以外はおおむね本当のことだ。

 一応、オレはこの帝都の内部にいくつかの情報源を抱えている。今回使うのはその情報源のうち、帝都の裏社会に通じているものと帝都内の貴族の動きに詳しいものだ。半日もあればオレの求める情報を提供してくれるだろう。


 もっとも、伝手をたどるだけでは限界がある。今回はオレが直接出向いて調べるとして、やはり、諜報活動における実働部隊が必要だ。

 リーヴァの帝都到着が間に合わなかったのが悔やまれる。あいつがいればこういう時頼りになるんだが……いや、こればかりは時の運だな。惜しんでも仕方がない。


「……流石ですね。頼りにしています、我が騎士」


 そんなことを考えていると、突然、ジークリンデに褒められる。


「も、もったいなきお言葉……!」


 あまりにも、突然すぎて、かつ嬉しすぎて、一瞬反応が遅れた。

 見事な不意打ちだ……! 戦術論の教科書にも載せられるぞ……!


「もったいなくなどありません。貴方こそが、我が騎士なのですから」


 さらに褒められて、今度こそ返す言葉がなくなる。

 まさしく褒め殺し……! 今日のジークリンデはとうとう俺を仕留めることにしたのか!? 歴史に初めて誉め言葉で人を殺した人間として名を残されるおつもりなのか……!?


「義兄上でも赤面なさることがあるのですね……! いや、ここは姉上がそのようなことを口になさるようになったことを喜ぶべきなのか……!?」


 しかし、バルドの一言が救命措置となってオレを助ける。

 なんかこいつにこういう場面を見られているのは癪だな、という気持ちがよくもわるくも水を差したのだ。


 心なしかジークリンデも呆れたような、感心したような様子でバルドを見ている。気持ちは大いに理解できる。


「…………ともかく、バルド殿下にはしばらく我が騎士団の駐屯地に隠れていただく。あそこでならば2、3日は時を稼げましょう。それとジークリンデ様は帰りつき次第おやすみを。ご無理をなされてはいけません」


「それは、あなたもでしょう」


 ジークリンデの優しい心遣いに胸が熱くなる。この熱だけで一週間は不眠不休で活動できそうなエネルギーだが、おそらく『凶風』はすぐには動けない。少なくとも一日は負傷の治療に費やすはずだ。


 こちらの情報源を当たるのにも半日は掛かる。それまではやみくもに動いても消耗し、敵が付け入るスキを与えるだけだ。昨夜から徹夜だし、少し仮眠をとるか……?


 そんなことを考えていると、馬車が駐屯地の門の前に到着する。すると、門の前で何か騒動が起きているのが分かった。


 すわ一大事かとまずオレが馬車を降りて長剣に手を掛ける。場合によってはオレだけ残って2人を馬車で逃がす必要があるかもしれない。


 だが、すぐに違うと分かった。

 門の前にいるのは第三皇統派の騎士ではなく見慣れた2人の人物だ。


 一人は留守を任せたメロヴィくん。来客に対して責任者として応対に出たのだろう。

 

 対するは、なんと、リーヴァだ。 褐色の肌に白髪のメイド。我が家の韋駄天飛脚兼秘密工作員がメロヴィくんの前に立っている。到着は明日以降だと思っていたが、どうやら早く到着したらしい。


 しかし、解せない。何で、この2人がもめてんだ?


「そこを通せ、と言っているんですよ。何度も言わせないでください、キリアン様の部下の方。だいたい何の権限があって拙を止めるのです? 拙はキリアン様の身内、貴方なんてただの《《嘘つき》》、ああ、失礼、部下でしょうに」


「お前こそただの使用人だろうが。私はキリアン様の命を受けているんだ。そっちこそ、身分をわきまえろよ、女狐。これ以上きゃんきゃん余計なことを吠えたら、ただじゃおかないぞ」


 それも、殺気むき出してバチバチやりあっている。

 な、なんでだ……?



 ジークリンデの日記から抜粋


 仮眠をとる前に、今日のことについて記しておこうと思う。

 わたし自身、まだ少し混乱しているから、整理のためにも。


 まず早朝にキリアンが騎士たちを率いてイーライを捕縛した。

 キリアンを殺そうとした許しがたい愚か者。恨みだか何だか知らないが、わたしからキリアンを奪おうだなんて考えた時点で万死に値する。叶うことなら、この手でイーライの皮をはいで、手足を切り取り、臓腑を引きずり出してやりたい。


 でも、我慢しなくちゃいけない。イーライの性根が腐り果てていても彼には皇族の血が流れている。だから、安易に殺せば、責を負わねばならなくなる。

 そうなっては、キリアンを巻き込んでしまう。 それだけはダメだ。たとえわたしが処刑されるとしても、キリアンだけは守りたい。


 それに今はイーライなんかに割いている時間はない。


 グスタブ卿の暗殺と『槍の冠』の強奪は一大事だ。ましてや、バルドがそれに巻き込まれている。


 もうすでにキリアンはバルドを助けるために動いてくれている。

 さすがはわたしの騎士だ。本当に頼りになるし、凛々しくて、逞しい。こんなに素晴らしい騎士を得られたことはわたしの人生で一番の幸運だ。


 事態は混乱しているけれど、キリアンならばきっと最善の結果を導いてくれる。たとえ万が一そうならなかったとしても、わたしは持てる全ての力で彼を守る。彼が私にいつでもそうしてくれているように。


 そうだ、問題はいつだってそうなんだ。

 キリアンがわたしのためにすべてを捧げてくれるのなら、わたしもまた彼のためにすべてを捧げないと。


 でも、こんなことを想うのはわがままだと思うけども、決してキリアン本人の問題ではないのだけど、使う人材はもう少し選んでもいいと思うの。


 特に、あのメイドとラインゴッズ卿は、よくない、と思う。

 今朝、2人は言い争っていた。馬車の中からでは口論の内容は聞こえなかったけど、でも、なんとなくわかる。


 あの2人は、キリアンのことで言い争っていた。

 きっと、どっちがキリアンに評価されているとか、近い立場にいるとか、そんなことで。


 滑稽だ。

 キリアンの一番は、わたしだ。だというのに、2人はわたし抜きでなにをしているんだろう。二番なんて争ってどうしたいんだろうか。


 でも、キリアンを争おうとする意思そのものが問題だ。

 今は他に人材がいないから仕方ないけど、キリアンが選んだ人たちだから仕方ないけど、今は我慢するけども、事態が落ち着いたら、もっと、わきまえた人材を……ああ、でも感情でそんなことを決めるなんて、よくない。よくないと分かっているのに……、


(この頁に記述されたメイドとは後に創設された『皇宮警邏隊』の初代総長のことだと思われます。この人物に関する記録は極めて少なく『皇配の影』としてのみ知られています。

 また、『金色の獅子』として知られる『ラインゴッズ伯』の前半生の記録としても非常に貴重なものとなっています。帝国万歳)

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