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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第42話 オレの主君が可憐すぎる

 宮中での晩餐会において、主賓が入場するのは他のゲストが出そろってからと相場が決まっているらしい。

 ついでに言うと、この主賓にはエスコート役が必要で、特に皇族の場合は従者がその役を務めるのが本来の慣例とのこと。なので必然的に、ジークリンデのエスコート役はオレが務めることになった。


 我ながらかなり自信がない。ジークリンデの言うことに間違いはないが、オレのダンスの腕は特訓を経てもせいぜいが中級者だ。

 主に恥をかかせては従者失格。オレが侍ならばその瞬間に切腹ものだ。


 そういうわけでジークリンデのエスコートを全身全霊の気合をもって努めなければならない。

 ならないのだが、それより先にもしかしたら今ここでオレの命数は尽きるかもしれない。


 オレの主君が、かわいすぎて、やばい。


「いよいよ、ですね」


 隣に立つジークリンデが言った。


 今彼女が着ているのは皇族のみにゆるされた紅いドレス。

 普段の紺色のドレスも完ぺきに似合っているのだが、こういう場におけるいわゆる『勝負服』は破壊力の桁が違う。


 目の覚める赤い生地はタイトにジークリンデの線を際立たせているのに、決してエロティックなだけではなく全身から品の良さと気高さを醸し出している。

 胸元が開いているドレスを着ているのを初めて見たが、ジークリンデが着ていることで美の化身たるおもむきさえあるぞ。まさしく彼女のためにあつらえられた品だ。運命の女神がこの日のために糸を編んでいたことはまず間違いない。


 くわえて、化粧もいつもと少し違う。

 専門知識がない俺でもわかるくらいに気合が入っているし、少女ゆえの瑞々しさと大人の女性の色香が同居しているというかなんというか、ともかく、オタク特有の早口が出てしまうほどに今のジークリンデは美しい。いや、いつも美しいのだが、今日は美しさ100倍だ……!


 それに髪型だ。

 いつもは降ろしている髪を後ろで結んだ姿は普段と違う活動的な印象を際立たせている! これはまさしく、夏の三姉妹と呼ばれる戦乙女をも凌駕して――やばい、心臓が破裂する。オレの主君が可憐すぎて、命が危ない……!


 な、なにより、ど、ドレスが似合いすぎている。

 美の神がここに顕現しているのか……!? ちょ、直視していたら心の臓がもたないが、視線を逸らすにはもったいなさすぎる! ジークリンデの美については延々と語れるが、語り切る前にオレの命が尽きてしまうだろう……! 宇宙の神秘と同じだ……!


 というか、これが、人類永遠の命題なのでは……? ジークリンデ・美のパラドクスと名付けよう。


「――どうしたの、キリアン」


 そんなオレの葛藤を知らずに、追撃してくるジークリンデ。上目遣いの愛らしさとドレスの露出度が相まって、心臓が、脳がやばい。


「い、いえ、その、警備のことを考えておりました」


「…………そう」


 オレの返答にジークリンデは視線を逸らしてくれる。あ、あぶなかった、もう少しで死ぬところだった。


 『戦槌の間』に繋がる大扉の前だ。今は中からの呼び込みを待っているのだが、予定の時間からは少し遅れている。


 窓の外には月が浮かんでいる。 

 警備体制は完璧に整えたが、まだ不安要素はある。特に先に会場に入っているトモエが心配だ。絡んできた貴族を壁にめり込ませたりしてないといいが……、


 と、別のことを考えて意識を逸らすのもこれが限界だ。

 前世でも今世でもここまで心拍数が上がったことはなかった。


 もしや、この胸の高鳴りこそが…………忠義心!?

 オレは今まで真の忠義心に届いてなかったのか…………!?


 であれば、この動悸にも耐えられる……! なぜなら、オレの忠義心は死をも超越するからだ!


「そのマント、似合っています」


 けれど、ジークリンデからは逃げられない! 

 少し赤面しながら、ぼそりとつぶやいたその一言はまさしくオレの心臓を撃ちぬく致命の一矢だった。


「――おふ」


 思わず膝から崩れ落ちそうな体を僅かばかりの矜持が支えた。

 こ、ここで倒れるわけにはいかない。オレには使命があるのだから……! だが、まさかオレをここまで追い詰めるのが敵将の智勇や政敵の陰謀ではなく、ジークリンデの可愛さとはな。さすがは我が主、オレの予想など簡単に飛び越えてくる……!


 彼女の言葉通り、オレは今、ジークリンデからいただいた『緋色羆』のマントを羽織っている。背中には赫奕剣騎士団の紋章があり、その精神的重りがオレを支えてくれていた。


 しかし、自分の贈り物をオレが身に着けていることを喜んでくれるとは、家臣として恐悦の至り……! オレほど報われている家臣はこの大陸全てを探しても1人としていないだろう。


「光栄の至りです、ジークリンデ様……!」


 すでに贈り物についての礼は述べたが、再度、礼を述べる。

 無論、オレの感動や感謝はこの一言程度で言い表せるものではないが、それでも一端は伝わってくれたようでジークリンデは満足げに頷いた。


「――第一皇女ジークリンデ・トールヴェル・オーディンソア様、ご入来!」


 そのタイミングを見計らったように声が響く。ゆっくりと大扉が開き、青白い光がオレ達を照らした。


 ジークリンデに腕を差し出し、彼女の左腕がオレの手に絡む。鎖のように強く腕を組み、光の中へと歩き出した。


 そんなオレたちを出迎えるのは拍手の音だった。

 大広間に集まった貴族のすべてがオレたち2人に注目している。この視線と拍手が純粋に歓迎の意を表したものだと信じられるほど無垢でも素直でもないのが、残念だ。


「――っ」

 

 ジークリンデの緊張が組んだ腕を通じて伝わる。

 無理もない。彼女にとってこういう衆人環視の環境は苦手中の苦手。本来ならば窓辺で書物を開いているのが似合うお方なのだ。


 だが、向いている向いていないに関わらず、ジークリンデには玉座に座ってもらわないといけない。

 彼女自身の夢のため、そして、オレの忠誠のためにも。


「ジークリンデ様」


「……ええ」


 だから、ジークリンデの手にオレの手を重ねることで意志を伝える。

 ジークリンデあるところにキリアン・シグヴァルトあり、だ。この命尽きるその時まで、忠節を尽くすぞ。


 無事に伝わったのか、ジークリンデの足取りが確かなものになる。そのまま2人で堂々と戦槌の間を横切っていく。

 目指す先にいるのは今回の晩餐会のホストである帝国宰相『グスタブ・ソーンブルク伯爵』だ。


「よくぞおいでくださいました、第一皇女殿下」


 黒い礼服を纏った宰相はにこやかな笑顔でオレたちを迎える。

 実権を失ったとはいえ宰相は宰相だ。その威厳ある立ち姿と振る舞いには感心させられる。


 また、宰相の背後では巨大な戦槌が青白い光を放っている。

 雷の光だ。輝いていない時はその大きさに驚いたが、こうしてその偉容を目にすると神話の実在に畏敬の念を覚えざるをえなかった。


「おまねきにあずかり、光栄です。宰相閣下」


「恐れ入ります、殿下。我らこそ御身のご入来に恐懼しておりますれば」


 ジークリンデが練習通りに社交辞令をかわしている間に、周囲に目を配り、改めて招待客の面子を確かめる。

 

 …………結構な数の招待客がジークリンデがそつなく社交辞令をこなしているのに驚いてるようだ。

 ふ、バカどもめが。男子三日会わなければ刮目して見よと言うように『第一皇女は宇宙と同じ速度で成長している』のだ。つまり、無限大!


 というのは今はいいとして、招待客の面子はリストのそれとおおむね一致している。

 あくまでオレが前世と今世で見知った顔にのみ限定されるが、それでも8割がたは確認できた。


 例えば、暗殺者であり原作の攻略対称の一人である『ウルヴ』だ。

 偽名を使い、他と同じ礼服を着ていても立ち姿とこちらを油断なく観察する瞳でわかる。


 ……位置はこちらを遠巻きにして会場の西側だ。彼の得物は曲剣と投げナイフ。ギリギリこちらには届かないが、相手は本職の暗殺者。何をするか予想しきれない。警戒はしておくか。


 逆に東側にはエイラ殿下とクレイグの姿がある。

 車椅子とは考えたな。姉妹お揃いの赤いドレスがよくお似合いだ。踊るのは無理でも、せめてジークリンデと並んで歓談するくらいはさせてあげたい。


 クレイグの方は、今日は動かないだろう。

 こいつは策略家だが策略家であるがゆえに、動きが重い。エイラ殿下を連れたこの状況で自分が動けばどうなるかはよくわかっているはずだ。

 

 ほかには第三皇統派のお歴々や第二皇統派の面々見える。さすがに殺気剥き出しのわかりやすい奴はいないが、暗殺をするのにそんなことをする間抜けはいないだろう。


 あとは、この場にいないやつが一名。あの名誉欲だけは人一倍の男が目立つ場所にいないというのはかなりの違和感だ。

 ……何かあるとみるべきだな。


「――む」


 そんな風に視線をめぐらせているとやけに目立つ一角を見つける。

 

 そこにいるのは青いドレスを着た黒髪の貴婦人と礼服を着た金髪の美男子、そして、白い衣装を着た『聖女』。

 その3人のいる箇所だけは戦槌の灯りにも負けない輝きを放っていた。


 無論言うまでもなく、トモエとメロヴィくん、フレインの3人だ。


 3人ともこちらを注視している。暢気な様子でこちらに手を振っているフレインはともかくとして、トモエとメロヴィくんは若干表情が険しい。


 護衛としての役割に熱心なのはよいことだが、真剣過ぎて若干殺気が漏れている気がする。

 それもあってか、先ほどから2人に声を掛けようとしている紳士も淑女もある程度近づくと恐れをなして逃げ出していた。


 まあ、2人にはそういうお守り的な役目も期待しているから問題ない。こうなった以上は原作主人公であるフレインはできる限り目の届く範囲に置いておきたいし。

 もう少し殺気を抑えてくれると下心のある相手を釣れていいんだが……さすがに贅沢だな。


「――キリアン」


「は、はい。では、参りましょう」


 ジークリンデに呼ばれて思考を打ち切る。

 警備体制は完璧に整えたが、この晩餐会はここからが本番だ。


 今日の段取りに関しては完璧に頭に入っている。

 主賓の入場が終わったら、少し間をおいてホストである宰相グスタブによる乾杯の演説と『槍の冠』のお披露目。それから招待客によるダンスという順番だ。


 ……暗殺事件が起きるとすれば、グスタブの演説か、そのあとの乾杯のタイミングの可能性が高い。原作でもそうだったし、視線がグスタブ1人、あるいは『槍の冠』に集中している方が暗殺者も動きやすいだろう。


 そこさえ乗り切ってしまえば、オレの仕事は終わりだ。そのあとのダンスに関しては、どうにかなると信じたい。もってくれよ、オレの心臓……!


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