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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第二章 宰相暗殺とヤンデレ連鎖

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第34話 ジークリンデと第7皇女殿下

 原作において、ジークリンデの妹『第7皇女エイラ』の出番はそう多くない。

 皇女とはいえエイラ殿下はサブキャラもサブキャラだ。主人公である『聖女フレイン』との関係性も薄いし、クレイグのルートで何度か登場するだけだ。


 なので、彼女の人間性や能力値について分かっていることは少ない。

 せいぜいが生まれつき病弱で離宮から出かけることも少ないが、とても心優しい人物であることぐらいしか描写されていない。


 だが、実際のエイラ殿下はというとなかなかに侮れない。


「――お招きに与り恐悦至極に存じます、殿下。帝国の臣、キリアン・シグヴァルトまかりこしてございます。どうぞ、御意の赴くままにお引き回しのほどを」


 その場に跪いてエイラに対して騎士としての礼を取る。

 本来なら皇族相手にはもっと格式ばった長ったらしい挨拶をせねばならないのだが、ここは私的なお茶会の場だ。エイラの性格を考えても、これくらいがちょうどいいだろう。


 隣のクレイグが「やればできるじゃないか」というような一瞥を送ってくるが、これに関しては無視だな、無視。


「エイラ・トールヴェルです。よく来てくださいましたね、シグヴァルト卿」


「はい。ジークリンデ様とエイラ殿下のお招きとあれば地の底にまで参る所存です」


「まあ、なんて情熱的なお言葉。お姉さまがご自慢になるのも頷けますね。ね、お姉さま」


「え、エイラ……それは、内緒にすると……」


 え、ジークリンデがオレの自慢を……?


 え、ちょう嬉しいんだけど。というか、敬愛する主であり推しに褒められて喜ばないやつとかいる? いたらそいつ不忠者じゃない? オレだったら、この事実だけで、1000年はご飯食べなくていいんだけど? 

 ていうか、今ならトモエとも互角に戦えるくらいの強化バフがかかってる気がする。


 …………流石に言い過ぎか。


「さ。シグヴァルト卿も、クレイグも席についてください。今日は無礼講ですよ」


「では、失礼します」


 そんなことを考えているとエイラ殿下に着席を促される。

 これに関しても面倒な決まりごとがあるのだが、今回は無視していい。


 オレの席は当然、ジークリンデの背後……と思ったが、右隣に椅子が置かれている。クレイグのはきちんと臣下の位置のにおかれているのに。


 まいったな。右隣だといろんな意味合いが発生してしまう。具体的に言えば結婚式で花婿が座るのは花嫁の右側だ。

 なので、淑女の右隣に親族以外の男性が座るのはよろしくないとされているのだが……、


「……シグヴァルト卿。着座を許します」


「は、はい。わかりました」


 ジークリンデに座れと言われてしまっては是非もない。まあ、スペース的にも椅子を下げると壁にぶつかってしまうし、仕方ない。

 って、オレは誰に言い訳してるんだ? 

 

「しかし、こんな形でお呼びしてしまい、公務のお邪魔にはなりませんでしたか。シグヴァルト卿」


「いえ、ちょうど時間を持て余しておりました。こちらこそこうして直接お会いする機会を得られたこと、幸甚こうじんの至りです」


 オレのあたりさわりのない返答にエイラは意外そうな表情を浮かべて、いない。

 さすがはジークリンデの大事にしている妹君だ。噂などに惑わされず、オレという人間を素直に見てくれている。


 まあ、彼女の耳にまでオレの風聞など届いていないという可能性もなきにしもあらずだが、ここは前向きに考えるとしよう。


 だが、エイラ殿下は決して侮っていい相手ではない。


 『エイラ・トールヴェル・オーディンソア』。

 年齢15歳。先帝『バルドル六世』と第三后妃『イザヴェラ』の子であり、ジークリンデからすると腹違いの妹にあたる。


 彼女を一言で評するなら、薄幸の美少女か。

 生まれつき病弱でこの離宮から出ることはほとんどない。社交界に顔を出したこともほとんどないし、そんな事情もあって彼女を皇帝にと後見につく貴族もいなかった。


 そのおかげといってはなんだが、エイラ殿下は皇族でありながら帝都における権力闘争の外側にいる。誰を利用することもないし、誰に利用されることもない。

 性格も温和で身分の分け隔てなく優しく接することができる。兄妹のうちでジークリンデが特に親しくしているというのも頷ける人物だ。


 ……ここまでは前世の知識だけでもわかる範囲だ。


 この世界に転生し、帝都で暮らし始めて知ったことだが、エイラ殿下は芸術分野に関してはかなりのコネクションを有している。


 分与された財の一部を帝国中の画家、彫刻家、文筆家、音楽家の支援に回しているからだ。その筋では有名なパトロンであり、第七皇女殿下の名を出せばどんなに頑固な芸術家でも胸襟を開くと聞いている。

 また本人も詩作から楽器演奏に至るまで超一流の腕前。好事家の中にはエイラの作品の収集を趣味としている者も多いい。


 …………この点もクレイグがエイラ殿下を主に選んだ理由なのだろう。

 この時代において芸術家たちの影響力はバカにならない。日本の戦国時代における茶道とそれに使用する茶器の扱いに近いか。絵画の鑑賞会、詩の朗読会、演奏会ともなればそれ自体が社交の場になり、それらの機会はそのまま己の権勢を示し、コネクションを築くということへも直結する。


 …………我が第一皇統派としてもぜひ押さえておきたい部分だ。

 我が主に不敬かつ申し訳ないことだが、ジークリンデはそこら辺には疎い。オレも芸術への造詣は薄いからここは外部の力を借りるべきだろう。


 そんなことを考えながら、オレは漫然と出されたお茶を口に運ぶ。何で呼ばれたかはわからないが、ゲストはジークリンデでありホストはエイラ殿下だ。おまけの従者は相槌でも打っているのが一番――、

 って、待て、大事なことを忘れてる。


「じ、ジークリンデ様、トモエはどこでしょうか?」


 少なくともこの離宮に来てからトモエは姿を見ていない。というか、気配を感じない。アイツは武力100なうえにそれを隠そうともしないから、同じ建物にいるだけでいる位置が分かるくらいなのに。

 

 トモエも武家の娘だ。侍の薫陶くんとうは行き届ているはず。いくら気まぐれと言っても飽きて護衛の任務をほっぽり出すようなことはないと思うが……、


「…………気になりますか?」


 オレの問いになぜかジークリンデの圧が強まる。

 なんだろう、さっきまでは上機嫌だったと思うんだが、急に局所的に機嫌を損ねてしまった……?


 な、なぜだ? な、何か落ち度があったのか!? 従者として許されぬことだ……!


「え、ええ。護衛につけたのは自分ですので……」


「……すこし、使いに出てもらっています。砂糖を切らしてしまったようなので」


「な、なるほど……」


 今度は今度でジークリンデの機嫌が少しだけ上向く。

 わ、分からない。このオレのジークリンデ力(当社調べ)でも彼女を理解できないなんて、オレのアイデンティティの危機だ。


「ちょうど馬が使えずに難儀していたところにトモエ様がお引き受けくださったんですよ。ね、お姉さま?」


 オレが困惑を呑み込もうとしていると、エイラ殿下がそう付けくわえる。


 ちらりとジークリンデを見やると機嫌が治っている。

 …………機嫌悪いように感じたのがむしろ間違いだったか? む、むぅ……だが、今そのことを追求するわけにもいかない。


 オレもまだまだ未熟だ。もっとジークリンデのことを理解しないと……、


 ともかく事情は分かった。そういうことならトモエを責めるわけにもいかないか。軽率ではあるが、彼女らしい率直さではあるわけだし。この離宮から街の商店までは結構な距離があるから、どこかで入れ違いになったか。


「――ところで、シグヴァルト卿」


 不意に、エイラ殿下に呼ばれる。

 ジークリンデに似て麗しい声だが、少し高い。可憐なエイラらしい声と言えるだろう。


「貴方様の故郷に、お姉さまをお連れしたのだとか」


「っ!」


 しまった。突然のことに動揺が表に出てしまった。斜め前に座ったクレイグがしたり顔をしていた。ちくせう。


 ジークリンデの我が故郷『ゲーデラント』への行幸は機密事項と言うと大げさだが、内密にしてあった。

 だが、こうして帰還直後にジークリンデとエイラが会合している以上、情報が伝わっていても何の不思議もない。


 それに、エイラならばこのことを無駄に触れ回る心配もないだろう。すでに済んだことだしな。ジークリンデも魔石のことは伏せているだろうし問題はない。


 この程度のことは一瞬で思い至ってしかるべきだった。相手がエイラということもあってらしくもなく気が緩んでいたか……、


「お許しを。お姉さまは秘密にとおっしゃったのですけど、わたくしが無理に聞き出したのです」


「いえ。お気になさらず。妙な噂が立たぬようにと秘密にしておいただけですので」


「確かに。帝都のすずめはいやに声高いものですからね」


 クスリとほほ笑むエイラ。今日は体調がいいのだろう。原作の立ち絵よりも血色も悪くない。


「では、その旅やふるさとのことを詳しくおうかがいしても? わたくし、帝都の外のことに興味津々なのです」


「わかりました。自分などでよろしければ」


  ……何が楽しいのかは理解できないが、それくらいならばまあ、構わないか。

 といっても、ジークリンデがあらましを話しているだろうから、そう話すこともないんだけどな。



 それから一時間ほどかけて、オレは自分の故郷や今回の旅について話した。

 正直、オレも弁舌が得意な方ではないのだが、ジークリンデとエイラ殿下が聞き上手なおかげでつらつらと言葉が出てきて、自分でも忘れかけていたような昔話までしてしまった。


「――そこで、自分は言ってやったのです。お前たち2人ともを殴り倒しても結果は同じだ、と」


「ふふふ! たしかにそうですね! だって、その豚さんはどっちでもいいわけですもの!」


「そうなのです。ですから、自分がそれを言うと2人ともが諦めたのです」


「なるほど、なるほど。そのころからシグヴァルト卿は有言実行の方だったのですね!」


 特にエイラは大したことのない小話にもこう反応してくれるから、こちらとしてもすごく話しやすい。

 ジークリンデの機嫌もいい。口角が1ミリ上がっているしな。


 といっても、そろそろ話の種も尽きる。残っているのはせいぜい戦場での武功話くらいだが、それが彼女らに需要があるかどうかくらいはオレにも分かる。


「本当、愉快なお話ばかり。聞いていると、幼いころのシグヴァルト卿のお姿が目に浮かぶようですわ。ねえ、お姉さま」


「ええ、そうね」


 ひと段落着いたところで、エイラの方から小休止をくれる。

 ……こういうところも上手いな。こう言っては失礼だが、社交という点ではジークリンデやバルドよりもかなりの強者だ。


「しかし、憧れますわぁ。姫と騎士の秘密の旅だなんて。まるで書棚の恋物語のようですもの」


「は、はい?」


 と思ったら、なんとも妙なことを言いだす。

 恋物語……? オレと、ジークリンデが……? なんで? オレ忠義の騎士だよ?


「『月追い物語』ですわ。不本意な婚姻前夜、騎士は愛する姫を塔から連れ出し、沈みゆく月を追いこすように馬で駆けてゆく。状況こそ違いますが、その姫と騎士がお姉さまとシグヴァルト卿に重なって思えます。どうでしょう、シグヴァルト卿?」


「どうと、言われましても……」


 い、意味が分からない。エイラ殿下も自分で言っているが、状況が違いすぎる。

 『月追い物語』は舞台が帝国じゃないし、騎士が連れて逃げるのも異国の姫だし。


 だいたいオレなら姫を連れ出すんじゃなくてそのまま城に攻め入って婚姻自体をなかったことにしつつ、相手の実家を乗っ取る。そのほうが速いし、あと腐れないうえに面倒も少ない。


「それに、ほら、今は婚前旅行というのが流行っているのでしょう? 似ていると思いませんか、同じ男女二人旅ですし」


「いえ。二人旅ではありませんでしたよ? トモエもいました」


「そうですね。でも、馬車では2人きりだったのでは? ねえお姉さま」


「…………ええ、そうね」


 エイラ殿下の確認に、ジークリンデがこれまでにない速度で頷く。

 なんだ、こう、あれだ、圧が凄い。


 ………………えと、なんか追い詰められてないか、オレ。

 ど、どうしよう、こういう時はどうすればいいんだ? 


「ふっ」


 困り果ててクレイグの方を見ると――こいつ、鼻で笑いやがった。

 なんだ、その『凶戦士も形無しだな』みたいな顔は。ちくしょう、なんだってんだ、これは……!


 というか、エイラ殿下の圧がすさまじい。ジークリンデどころか、オレなんかよりもはるかに迫力があるんじゃないか?

 ……体さえ弱くなければ戦場で活躍したかもしれんな、これは。


 …………やはり、分からん。エイラ殿下はオレをどうしたいんだ?


「――そういえばお姉さま。宰相殿が近く『戦槌せんついの間』を開放されるそうで」


「…………そうなのですか」


 だが、そんなことを考えている余裕は直後に吹き飛んだ。


 『戦槌の間』とは帝城『アースリア城』の大広間のことだ。

 かつてそこでは連日連夜や夜会が催され、帝との社交界の中心となっつていた。


「どうでしょう。その式典にはお姉さまとシグヴァルト卿でご出席なさるというのは?」


「……いいですね」


 ジークリンデとエイラ殿下が話をしているが、オレの脳には入ってこない。


 戦槌の間は先帝が崩御して以来、喪に服すという名目で封鎖されていた。


 それが、解放される……!?

 原作でも起きた出来事だが、それは三か月後のことだ。そして、第二の災厄『帝国宰相暗殺未遂事件』が起きるのはこの『戦槌の間』の解放式典でのことなのだ。


 それがどうして今なんだ? なにが、何が起きている……!


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