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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第一章 悪役令嬢が(ヤン)デレるまで

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第31話 ヤンデレ悪役令嬢と共に

 『石の爪』を襲撃した騎士団との戦いにオレたちは勝利した。

 完膚なきまでの勝ちだ。敵の総大将を討ち取り、部隊の大半を潰走させた。残敵が領地を荒らすような余地も残しちゃいない。


 予定外に捕虜も確保できた。

 なんでもオレが敵の総大将を倒し、その宣言をした段階で残敵の内約半数が降伏して命をつなぐことを選んだ。


 無論オレだけの手柄じゃない。

 トモエだ。彼女が金棒を振るうたびに十人近い仲間が吹き飛ばされるのを見ていたらそりゃ戦意もくじけるというもの。オレでも降伏する。


 問題は、騎士団にさらわれた『石の爪』の人々の行方だ。

 オレたちが救出したのはあくまでさらわれたものたちの一部、直近にさらわれた子供たちだけで、残りの半数以上が行方不明のままだった。


 だが、捕虜たちのおかげですぐに手掛かりが得られた。


 襲撃者の一団の構成員の大半は金で雇われただけのチンピラか傭兵だった。


 任務の詳細を知るのは十名ほどいた幹部の騎士たちだけ。その騎士たちも昨夜の戦いで全員戦死してしまった。

 これで雇い主について知ることは難しくなってしまったが、ほかの情報は手に入った。


 例えば『石の爪』の人々を輸送した彼らの拠点の場所などについてはすぐに引き出せた。

 なんでもこいつらは石の爪だけではなく様々な蛮族の氏族を誘拐しており、そのための拠点を様々な場所に設けているのだそうだ。


 なので、オレはリーヴァに騎士と兵糧の半数を貸し与え、その拠点の壊滅と石の爪の人々の救出を命じた。

 敵の主力は壊滅しているから兵力は問題ないし、こういう捜索や秘密工作に関してはリーヴァが適任だ。


 そうして、オレは残りの騎士たちを率いて妹ユリアと『石の爪』の者たちの待つ魔石窟へと凱旋した。

 そう、凱旋だ。外敵を殲滅し、捕らわれた領民を取り戻したのだから勝利以外の何ものでもない。


 さらわれた仲間たちが帰ってきたときの『石の爪』の人々の喜びようは胸に来るものがあった。

 皆ほとんど諦めていたのだろう。だからこそ、家族の帰還はどんな贈り物よりも価値がある。


 ……これで『石の爪』はシグヴァルドに返しきれない借りを作ったことになる。

 領主として不当な取引や税を押し付けることなどありえないが、政治的に無理を聞いてくれる相手というのは為政者にとっては宝そのもの。実質的に『石の爪』を治めるユリアにとってもいい贈り物になったと思いたい。


 さて、そんな下心はさておいて、やるべきことはまだある。


 とりあえず『石の爪』を追っていた部隊は壊滅させたが、また同じようなことが起こらないようにこの地には護衛の騎士を残す必要がある。

 この騎士たちには魔石採掘が開始された後にはそのまま鉱山の護衛も兼ねてもらうつもりだが、彼らが駐留するには現地の環境整備もしなきゃならない。ここらへんは魔石窟がある以外はただの鬱蒼とした山地だし。


 それに、オレ以外にも蛮族の肉体言語ジェスチャーが分かる通訳がいる。周辺住民への説明もしないといけない。

 正直、やることが山積みすぎて勝利を祝っている暇もない。帝都で留守番をしてくれているメロヴィくんにも滞在が長引くと知らせなきゃと思っていたのだが……、


「委細はお任せを」


 オレが1人で考えていると、隣に腰掛けたユリアが突然そう言った。

 煌々と燃えるたきぎが妹の横顔を照らしている。どこかすっきりしたような、あるいは納得したような、そんな顔をしていた。


 戦勝を祝して魔石窟前の居留地で行われている宴の席でのことだ。


 為政者に休んでいる暇はないが、民草には区切りが必要だ。

 宴や祭りにはそういう側面もある。まあ、宴と言っても敵から分捕った兵糧を鍋に突っ込んだけの料理未満のものとこれまた奪い取ってきた酒が振舞われているだけだ。


 それこそ帝都での晩餐会には比べるべくもないが、肝心のうちの騎士たちと『石の爪』の人たちは満足してくれている。

 一部では騎士と鱗人ともに肩を組んでよくわからないオリジナルの踊りまで披露しているから、打ち解けてもいるのだろう。そのうち喧嘩もしそうな勢いだが……まあ、それも融和の一つの過程だ。よしとしよう。

 

「いいのか? 半分はオレの勝手だぞ」


「でも、半分はお家のためです。それに――」

 

 ユリアの視線をたどるとそこには意外にも、ジークリンデの姿がある。

 オレ達から少し離れたところにちょこんと座った彼女はただ静かに宴にはしゃぐ人々を見つめている。


 ヴェールの奥の表情はうかがい知れないが、上機嫌なのが分かる。その中に入っていくことこそしないし、できないが、それでも彼女にとっては幸福な時間なのだとオレには理解できた。


「あの方、わたしに謝られました」


 一瞬、言葉を失う。ユリアの横顔にも珍獣でも目撃したような何とも言えない苦笑が浮かんでいた。


 皇族として軽率な行為だと怒るべきなのか、あるいはジークリンデらしい真剣さだと褒めるべきなのか脳内で議論が巻き起こる。

 しかし、結論を出すことができず「そうか」とだけ口にした。我ながら間抜けな答えだ。


「お兄様がいらっしゃらない時に声を掛けられたのです。てっきりなにかしかられるか、申しつけられると思ったのですが……」


 オレがいない時ということはこの魔石窟に帰ってすぐの事だろう。鹵獲した兵糧の分配などで忙しくしていた。その時くらいしかオレはジークリンデの傍を離れていない。


「あの方、なんておっしゃったと思います? 『貴女の兄はよく働いてくれています。無理を強いているのは私です』だなんて。最初、何言われているのか理解できませんでしたよ」


「……だろうな」


 …………ジークリンデらしいが、同時に彼女には珍しく言葉数が多い。

 真意としては『だから悪いのは私です。キリアンを責めないであげてください』と言った感じだが、前半だけでも文意は伝わる。


 現にユリアもジークリンデの言葉の意味を理解してくれている。とても珍しいことだ。

 ……おそらくオレのためだ。オレとユリアの仲が微妙なのを察して彼女なりに言葉を選びに選んで、気遣ってくれたのだ。


 ジークリンデは、口下手だ。こればかりはオレも否定できない。


 綸言りんげん汗のごとしということわざがある通り、君主の言葉とは重く取り返しのつかないもの。ジークリンデはそのことを深く心に刻むあまりにどうしても口数が少なくなってしまう。

 おまけにその少ない言葉も皇族としての威厳を意識するあまり大仰になりがちという二重苦が、ジークリンデのコミュニケーションエラーの根本的な原因だ。。


 そんなジークリンデが、公式設定のプロフィールの苦手な物の欄に『会話』と書かれている彼女が、オレのために言葉を紡いでくれた。頑張ってくれた………………やばい。泣きそうだ。

 

「お兄様……?」


「ああ、いや、煙が目に染みたんだ。続けてくれ」


 ユリアにバレそうになって慌てて両目をぬぐう。

 この涙にはジークリンデの優しさへの感動とか、主にそんな気遣いをさせてしまった自分への情けなさとか、いろんなものが混じっていた。


「あのような身分のお方がそんな気遣いをなさるとは知りませんでした。もっとこう、尊大に振舞われるものと」


「……変わったお方なんだ。でも、お優しい。オレの知る限り、誰よりも」


 オレの言葉にユリアが頷く。

 しかし、そうか。ユリアの様子が違って見えたのはジークリンデのおかげだったのか。感謝してもしきれない、臣下としては情けない限りだ。


雪山に咲く花(エーデルワイス)のようなお方です。であれば、誰かがお側で守って差し上げねば仕方ないでしょう。それこそ、熊の毛皮を被るような物好きが。ああいう方ならお兄様を使い捨てるようなことはないでしょうし」


「……ありがとう」


 最後の一言で、ようやくオレはユリアが今まで何を心配してくれていたのかを理解する。

 帝都でのオレの暮らし、オレが関わっているまつりごと、そして、オレの仕える誰かがオレをどう扱うか。肝心のオレは手紙一つよこさないのに、妹はそこまで考えてくれていたのだ。


 ……なんという無神経な兄貴だったんだろう。もっとちゃんとジークリンデのことを含めてユリアには手紙で知らせるべきだった。そうしておけば妹に無用な心配を掛けずに済んだ。


「これからはちゃんと手紙を書く。月に一度は必ず」


「月に二度にしてください。期待しないで待ってます」


 約束を交わすとユリアはオレにジークリンデのもとに行くように促す。

 それに甘えてオレはゆっくりとジークリンデの近くに歩み寄った。


「失礼します」


「……許します」


 お許しをえてオレはジークリンデの隣に腰掛ける。

 

 なるほど。この位置からだと宴の様子全体がうかがえる。端から端まで誰が何をしているのかわかるし、不穏な空気になれば誰より先に察せられる。

 人の上に立つものとしての心構えと覚悟が自然と身についている証拠だ。彼女にとって皆のことを考えるのは当然の事であり、喜びでもあるのだ。


 ……でも、それじゃあ誰が彼女のことを考える? 

 原作では誰もジークリンデのことを考えなかった。でも、ここにはオレがいる。


「妹のこと、ありがとうございます」


「……いえ」


 オレが礼を述べるとジークリンデは少し戸惑った顔をする。そろそろ礼を言われるのにも慣れてもらわないといけない。これからはオレ以外のいろんな人にも言われることになるんだし。


 というか、本来なら礼を言うだけで済む話じゃない。

 ジークリンデの言った言葉をタペストリーに編み込んで家宝にしてもまるで足りない。


 でも、大仰にすればジークリンデが緊張するだけなので今日はこのくらいにしておこう。恩は行動で返すのが一番だしな。


「…………貴方の戦いぶり、見事でした」


「光栄です」


 ジークリンデは褒めてくれるが、少し声が固い。

 ……彼女の性格を考えれば当然ではある。オレやトモエのような人間には戦場は日常の一部でしかないが、ジークリンデは昨日の戦いが初めて。なにもかもがショッキングで、恐ろしいものに見えたはずだ。


 けれど、それを指摘してもジークリンデのためにはならない。

 オレがその慈悲深さ、哀れみの心を徳だと考えてもジークリンデは帝国の皇族らしからぬ自分の性格を恥じている。


 今ジークリンデは実際の戦場を目にしたことでその思いを強くし、少し自信を無くしている。こんなことで折れるようなジークリンデではないが、従者として落ち込んでいるのを見てられない。


「――戦士には戦士の、王には王の領分があります」


「『建国帝』の遺訓、ですか」


 さすがはジークリンデだ。オレが誰の言葉を引用したのかも一瞬で分かった。


 『戦士は戦士として生き、王は王として生きる』。これは統一帝国を建てた『建国帝』こと『ジークフリート一世』が子孫へ向けて残した言葉の一つだ。

 意味は簡単で『餅は餅屋に』、あるいは『隣の芝は青く見える』とも表現できる。ようは人はそれぞれ違うのだから向いていることをするべきであって、他人の才能を羨むのは時間の無駄だと建国帝は説いた。


 ……まあ、この遺訓が帝国における身分制度と人間外の種族への差別の根拠になったりもしているから一概に善いとは言えないのだが、今は置いておこう。


「貴方には王者の徳がある。オレやトモエがいくら強く勇猛でも決して持ちえないものです」


「……ですが」

 

「ですが、ではありません。貴方の慈悲は弱みではなく強みです。他の皇族や貴族は侮るでしょうが、そんな輩はすべてオレが蹴散らします」


 思わず語気が強くなる。

 事実、ジークリンデの温和さ、慈悲深さを愚かな奴らは侮っている。帝国の貴族であれば血を好み、敵の屍を積み重ねるべし、と。


 だが、そんな風潮はクソだ。

 オレのような暴力を何とも思わないようなやつが国を治めてもいいことなんて一つもない。 


 歴史も証明している。慈悲の一つも持ち合わせないものには誰もついて来やしない。

 ジークリンデの在り方は強力な武器になる。オレがそうしてみせる。すべては――、


「貴方は皇帝になる。帝国初の女帝になる。オレが、貴方の頭に冠を被せてみせる。そのためになら――」


 ジークリンデにだけ届くように誓いを立てる。

 不敬だと罵られても構わない。誰にどう思われようが何をされようが、これがオレの夢だ。すべきことだ。なにを恥じることがある。


「――オレは戦神せんしんとも一戦つかまつりましょう」


 この誓いは決して違えない。戦士として、貴族として、魂を引き替えても。

 

 ジークリンデはそんなオレの顔をただ見つめている。赤色の瞳には驚きと困惑、そして、期待が揺れていた。

 

「…………不敬ですよ」


 しばらくの沈黙の後、少し弾んだ、悪戯っぽい声でジークリンデが言った。隣を見なくても彼女がはにかんでいるのが分かった。


「ええ。ですので、2人だけの秘密ということで」


「……条件があります」


 冗談めかした様子のジークリンデ。彼女にしては珍しいが、それだけにはすさまじい破壊力だ。オレでなければ耐え切れずに萌え死んでいたかもしれない。


「お伺いしましょう」


 しばしの沈黙。ジークリンデは恥ずかしそうに何度ももじもじと身もだえて、それから深呼吸をした。

 ……なんだか告白する前の女学生だな。ああいや、そのものを見たことないが、イメージとして。


「ふ、2人きりの時はもう少し、その、砕けなさい」


「は、はい?」


「め、命令です。2人きりの時は他のものにしているように、接することを許します」


「…………なぜ?」


 おもわず素直な疑問が口をついて出てしまう。

 なぜジークリンデがそんなことを望むのか、まるで理解できない。


 ……あれか、友達が欲しい的な? でも、それだったらオレよりも同性のユリアとかトモエの方がいいんじゃないか……?


「と、ともかく命令です。従者なのだから、実行しなさい」


「…………分かりました」


「だめです。それでは同じです」


「…………分かった。これでいいのか?」


 だが、従者としてはどれほど理解不能でも主の命令を無視するわけにはいかない。矛盾しているが、誰かに仕えるというのは多少の矛盾は呑み込むということでもある。


「……よろしくてよ」


「なにがいいんだか」


 オレがため息をつくと、ジークリンデがクスリと笑う。

 ……こればかりは惚れた弱みならぬ、忠誠を誓った弱みだな。ジークリンデが楽しそうにしているだけでまあいいかと思ってしまう。主君と家臣の節度とかそういう説教がもうできなくなってしまった。


 そうこうしていると宴もたけなわというところで、騒ぎが起こる。

 視界の端の方で騎士同士が殴り合いのけんかを始めているのが見える。勝ち戦でなにやってんだと呆れるべきか、『石の爪』相手じゃないだけましだと褒めるべきかは迷いどころだ。


「止めに行ってくる」


「……どう止めるのです?」


「どっちも殴って」


「…………伝統的ですね」


 最大限配慮したジークリンデの言葉に送られて、喧嘩を止めに入る。

 大将たるもの部下のケンカでどちらかに味方するわけにはいかないが、両方殴るのであれば問題はない。喧嘩両成敗である。


 ああ! まずい! トモエが参戦しようとしている! 収拾がつかなくなるぞ!


 ということで、走りだす。結局祝っている暇なんてないわけだが、これがオレの第二の人生だ。

 せわしなくて、野蛮で、命がけだが、何よりも充実した、かけがえのない時間だ。

第一部完結です! ここまで読んでいただきありがとうございます!


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