表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第一章 悪役令嬢が(ヤン)デレるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/54

第25話 蛮族イベント……?

 この『帝国物語』の世界において『蛮族』とは非人間の人形種族全般を指す言葉だ。

 つまりは、『獣人』やら『エルフ』やら『ドワーフ』やらそういうファンタジーな存在を一括りにしてそう呼んでいるわけだ。


 その傲慢さから察せられる通りこの『蛮族』という名称を付けたのは我が愛する『オーディン帝国』だ。


 戦士の国であり人間の国でもある帝国は建国の過程で多くの非人間種族と争い、勝利することで巨大な版図を築いた。

 そういった歴史的経緯ゆえに帝国はかつての敵を蛮族と呼ぶことで自分たちの正統性を担保することにしたわけだ。


 と、そういった豆知識は一旦わきに置いておいて、辺境域における蛮族は至極身近な現実的な脅威だ。

 特に根拠地を持たない流浪型の蛮族は極めて厄介で無防備な村を襲撃して壊滅させることなど日常茶飯事。武装した隊商でさえ襲撃を受けることがある。


 このような蛮族の脅威は原作ゲーム内においてもランダムに発生する蛮族イベントとして再現されているのだが、損害がしゃれにならない。序盤の資金が少ない時期に遭遇して、対処を誤るとそれだけで財政破綻してそのまま滅亡まっしぐらということもよくある。


 そして、今のシグヴァルト家、および第一皇統派はその『序盤の資金が少ない時期』だ。

 しかも、今回蛮族が襲撃したのは我が領内にある魔石鉱山だ。万が一、爆発でも起きればそれこそ鉱山事業で一攫千金どころじゃなくなる。


 ついでに言えば、蛮族イベントにはごくごくまれにあるイベントが付随して発生することがあるんだが……これに関しては高望みが過ぎるな。すでに魔石鉱山イベントなんて宝くじを当てているんだ、幸運が重なりすぎると後が怖い。


 ……まあ、それでもその場合でも対処できるように指示はしておいた。我ながら欲深いが、ジークリンデのためにはあらゆる労を惜しまないことが大事だ。


 それはともかくとして蛮族は厳正にかつ迅速に排除せねばならない。それこそ、最優先事項だ。


「――キリアン・シグヴァルトである。此度こたびはよく参集してくれた」


 急使が来た翌々日、集結地点である廃砦に集った騎士たちの前にオレは立っている。真昼の太陽に照らされた騎士の軍勢はなかなかに壮観だ。

 シグヴァルト家旗下の辺境騎士団、総勢300名。2日前に招集をかけたにしてはなかなかの数だ。さすがは普段から前線を突破した敵や戦場跡を狙う賊を討伐しているだけのことはある。


「若様! 待ってたぜ!」


「そうだ! アンタが呼んでるんだ! オレらが来ねえわけねえだろ!」


「よっ! シグヴァルトの凶戦士! 噂はこっちまで届いてるぜ、若様! 皇族だろうが蛮族だろうがぶっとばしてやろう!」


 オレが一言掛けた瞬間、気心の知れた騎士たちが歓声混じりにそんなことを叫ぶ。

 原因がオレの所業にあるとはいえ、広まってほしくない異名が完全に知れ渡ってしまっている。もはや取り返しは付かない。


 一方、これから命懸けの戦いに赴くというのに集まった騎士たちの顔に悲壮感は一切ない。それどころか、遠足前の小学生のように期待に瞳を輝かせてさえいる。

 このように我がシグヴァルト領の騎士たちには古式ゆかしい『熊の勇士(ベルセルク)』揃いだ。おかげで士気に関しては勝手に盛り上がってくれる。


 ありがたいことにそんなイカれた、あるいは頼もしい連中にオレはそれなりに好かれている。

 当主の跡取りであるにもかかわらず初陣から前線に出ていたおかげだろう。普通は当主候補が最前線で返り血まみれになっていたら諫めるか、心配するかすべきなところをめちゃくちゃ褒めてくるような奴らだからな。


 そう考えると、オレの不名誉なあだ名もこいつらの教育が悪かったせいと言えるかもしれない。

 実際、今のオレは『熊の勇士(ベルセルク)』の首領に相応しい装いをしている。


 先祖伝来の黒曜鋼の鎧は古傷と補修の跡だらけ。肩には『緋色鎧熊ブロッケンベアー』という魔物の毛皮を掛け、腰には幸福よりも死を選ぶことを意味する短剣を差している。

 シグヴァルト家に伝わる歴戦の戦装束とはいえこんな格好をしていては『凶戦士』と呼ばれるのも仕方ないのかもしれない。


 しかし、これだけの兵を郷里に抱えていてあのざまだと考えると原作のキリアンのごみっぷりを改めて理解できるな。きっと兵からも見放されていたに違いない。

 まあ、自ら前線には出ないくせに他人の手柄を欲しがるようなやつだからそれも当然か。この戦装束も原作のキリアンは身に着けていなかったしな。


「此度の敵は『蛮族』。諸君らにしてみれば大した敵ではないだろうが、陣取っている場所が場所だ。諸君らも慎重を期してほしいが、まあ、いざとなれば好きに暴れても構わん。以上だ」


 続けて注意事項を述べて挨拶を終える。そうして壇上から降りるオレの背中を盾と鎧を打ち鳴らす合唱音が叩いた。

 帝国騎士に伝わる指揮官への敬意を示す鬨の声だ。たった300人でも地鳴りのように大気を揺れている。これが万人単位の外征軍ともなれば大抵の軍はその威圧感だけで白旗を上げるだろう。


 敬意を受ける側としてはかなり気分が昂揚する。コンサート会場で歓声を受けるアーティストとかもこんな感じなんだろうか。


「手馴れてる。頼もしい」


 待ち構えていたトモエがそんな気分を助長してくる。なんだか誇らしげだ。

 

 今回の蛮族討伐にはトモエに同行してもらっている。

 当然と言えば当然か。彼女の武力100を腐らせている理由はないし、うちの騎士たちとも顔合わせという目的もある。いずれ赫奕剣騎士団だけじゃなくて彼らと共闘する機会もあるだろうしな。


「慣れているだけさ。指揮も戦いも君の方がうまいんじゃないか?」


「戦いは当然。でも、指揮は無理。向いてない」


 さっぱりしたトモエの返答に、原作のエピソードを思い出す。


 トモエの生まれたミナトガワ家は極東における支配者階級、それも『五大公』と呼ばれる最高権力者の一角という家柄だ。

 そんな家の跡取り娘であったトモエは軍勢を率いて戦に出る機会もあったのだが……、


 その際の描写からすると確かにトモエは指揮官に向いてなかった。

 具体的には指揮を放棄してひたすら突撃ばかりしていた。本人の武力が人外レベルだからそれでも戦には勝てるのだが、それが指揮官としての適正かと言われると頷くのはばかられる。あれだったらそれこそヒグマが指揮をしたとしてもそう変わらないだろう。


 意外なのはそこらへんのことをトモエが自覚していることだ。

 基本的に自信満々の彼女のキャラ的にはわたしは指揮官としても完璧くらいは言いそうだと思ったんだが……、


「だから、わたしは副将でいい。餅は餅屋、向いているものが向いていることをするのは大事」


 謙虚だ。さすがは外伝主人公。ただの戦闘狂のように見えても理解すべきことは理解している。

 原作ゲームでも適材適所は基本中の基本。いかに優秀な能力値を持つキャラクターでも適性のある部署に配置しなければ100%のパフォーマンスは発揮してくれない。


 ……オレを夫認定してくることと武力100に気を取られていたが、トモエには鋭いところがある。今度からはもっとちゃんといろんなことを相談してもいいかもしれない――、


「それに、わたしの国ではこういう役目を『女房役』ともいう。女房とはつまり連れ合い。配下の騎士たちにも広めておいたので安心してほしい」


 前言撤回である。配下の騎士たちにも広めておいたって、なにを……?


「無論、わたしこそがシグヴァルト家の嫁だという事実。『若奥様』と呼ぶようにも教えておいた。大丈夫、皆歓迎してくれた」


「…………外堀を埋めに来ている」


 実際、今しがた通りががった騎士の一人が『若様、若奥様』と声を掛けてきやがった。

 この感じだともうこの場にいる全員に話が伝わっているとみて間違いない。完全にやられた、いつのまにか内堀まで攻め込まれているぞ。


 …………もう否定するのも面倒になってきた。むしろ、オレが結婚するだけで武力100の大戦力を安定運用できるんならそれでいいんじゃないかという気がしてきた。

 というか、ほんとうにそれでいいんじゃないか……? オレの婚姻が本当にジークリンデのために有効活用できるかどうかは正直わからないしな……、


「お兄様」


 そんなことを考えていると一緒に軍を率いているユリアに呼ばれる。

 鋼よりも強度がありはるかに軽い『黒曜鋼オブシディアス』製の甲冑が髪の色とマッチしていて実に凛々しい。しばらく見ない間に立派な美少女騎士になったな、妹よ。


 ちなみにこの甲冑はオレが去年の誕生日に私費で贈ったものだ。オレが今着ている祖父から受け継いだ鎧の倍の値段はするが、その価値はあった。

 貴族の義務として戦場に出ることは避けられないがユリアのためにできるだけのことはしてあげたかった。たとえこの兄心が理解されなくても妹のためになるなら労を惜しまないのが兄貴というものだ。


「そろそろ出立しませんと。経費が無駄にかかります」


「わかった。すぐに出よう」


「…………それと、お客様ですが本当についてくるつもりなのですか?」


 そういうとユリアは端の方で椅子に腰かけている『お客様』の方に視線を送る。

 そのお客様の傍にはリーヴァが立っており日傘をさしつつ、ハーブティーを給仕している。軍を率いている間、アイツに世話を任せるのはすごく不安だったんだが、結構うまくやっているようだ。


 ……お客様とは、ジークリンデのことだ。ユリアの予備の甲冑に身を包み、赤い髪と瞳をヴェールで隠していた。

 こっちとしては安全な城館で留守番してもらうつもりだったのだが、押し切られてしまった。


 だが、皇族として一度は本当の戦場を目にしておきたいと上目遣いに言われては断るのは難しい。

 それに、ジークリンデに一度戦を見せておきたいという気持ちもあるにはある。実地訓練に勝る学習はそうそうないし。


 そういうわけでオレの里帰りに同行しているメンバー全員と三百名の軍勢で魔石鉱山への進軍が始まった。

 行軍日程は約二日。軍勢の士気は高く組織化されていない蛮族相手ならば勝利は固い。


 城館にやってきた急使によれば魔石鉱山を占拠している蛮族は鱗と尻尾を持つ『鱗人レプテル』という種族だ。

 鱗人といえば好戦的な種として知られている。言葉による交渉はまず成り立たない。魔石鉱山近辺に布陣ししだい、交戦状態に入ることが予想された。


 しかしながら――、


「――どういうことだ?」


 鉱山に到着してみると、そこには停戦、あるいは降伏を意味する白旗がはためいていた。


応援、ブクマ、感想、評価などいただけると励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ