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悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第一章 悪役令嬢が(ヤン)デレるまで

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第20話 もし家の庭から石油が出た場合

 『魔石』というのは『帝国物語』世界固有の鉱物資源だ。

 この魔石の用途は燃料から装飾品、そして『魔動機まどうき』というこの世界特有の機械の動力にいたるまで多岐にわたる。つまり、この世界の基幹産業を支える必需品と言っても過言ではない。


 その便利さ、需要、価値は現代日本におけるレアメタル、いや、石油にさえ匹敵すると言っても過言ではない。それこそこの世界にも魔石の産出国というだけで巨大な経済圏を築き、帝国でさえ容易に手を出せない『首長連邦』という国が存在するくらいだ。


 そんな魔石の鉱脈がオレの領地であるシグヴァルト領に存在しているかもしれない……?

 マジで……? そんなことありえるのか……!?


 ああいや、ありえるのはありえる。ゲームの帝国物語では内政パートで選択できる命令コマンドに『探索』というものがあり、それを行うと超低低低確率で魔石の鉱脈に繋がる『魔石窟』を発見できる場合がある。

 でも、この魔石窟発見確率は確か10万分の1。オレは帝国物語を1万時間以上プレイしていたが、一度も遭遇したことのない都市伝説のようなイベントだぞ……!?


 それをまさか、こうして第二の人生で経験することになるとは……、

 一応、ダメもとで領内の調査は定期的に行っていたが、あまりにもな幸運に現実味がまったくない。試しに頬をつまんでみるが、痛いことが逆に信じられないくらいだ。


 …………マジか。こんなことある……? 

 何買おう? いっそうちで商会を立ち上げちゃうか……? いやいや、騎士団を増強してしまうのも手だな。というか、魔石マネーがあれば有力な傭兵団をそのまま抱え込むことも可能だ。


 夢が広がる。それこそシミュレーションゲームで自分だけ資金が無限に湧いてくるチートを使っているようなものだ。金がすべてではないとしても金絡みの苦労をせずにすむというのは特権中の特権だ。


 それになにより第一皇統派の資金繰りが一気に改善する。つまり、来るべき第二の災厄『フィンブルの大恐慌』への対策も容易に――、

 


「――いや、まずいぞ」


 しかし、ここまで考えたところでそう都合のいい話ではないことに気が付いた。


 応接室の天井を見上げてどうにか気持ちを落ち着ける。喜んでいる場合じゃない。早く動かないと。


「リーヴァ」


「はい」


「まだ走れるか?」


「キリアン様がお望みになられるのなら、どこまでも」


 オレの表情からただ事ではないと察したのか、ユリアは望み通りの答えを返してくれる。

 さすが優秀だが、無理は禁物だ。


「では、一日休め。オレの部屋を使え。細かい命令は後で伝える」


 ……どちらにせよ、今日はもう動けない。

 領地に帰還するにしても留守を誰に任せたうえで、ジークリンデの許可を取らないといけない。今が昼過ぎだからもろもろの準備を整えていたら、日が暮れてしまう。出発は最短で明日の朝だな。


「承りました。ではお部屋でお待ちします」


 何を勘違いしたのかぽっと頬を紅くしているリーヴァを置いて応接室を出る。あの状態でもプロフェッショナルのリーヴァはオレの指示を理解しているし、その意図にも察しを付けているだろうから問題はない。


 オレも落ち着かないといけない。

 今は一刻一刻が惜しいというのに頭の中で思考と感情がない交ぜになっている。


 ……まずは、状況の確認だ。降ってわいた幸運だからこそ冷静に対応しないと逆に不運になりかねない。


 今オレが生きているこの世界はシミュレーションゲームである『帝国物語』に近しい世界だが、決してそのものではない。

 つまり、ゲームのようにコマンドを押して何ターンか待てば勝手に魔石窟を採掘して魔石鉱山を開山してはくれないのだ。


「メロヴィくん! メロヴィくんはいるか!?」


「は、はい、シグヴァルト卿! ここにおります!」


 メロヴィくんを呼ぶとすぐに廊下の角からひょこっと姿を現す。

 打てば響くとはまさにこのこと。素晴らしい忠義心だ。この有能さでぜひオレの留守を守ってほしい。


「メロヴィくん。早速だが、君に重大な任務を託したい」


「は、はい! シグヴァルト卿! あのメイドを叩きだせばよろしいのでしょうか!?」


「違う。急用で領地に戻らなければならなくなった。その間、君とゴーント卿にオレの留守を任せたい」


「え!?」


 信じられないと言った顔のメロヴィくん。

 オレとてまだ騎士団に入って10日の彼に騎士団を任せるのは暴挙だと理解しているが、彼以上の適任者がいない。それにベテランのゴーント卿もいるから彼と協力すればどうにかなるはずだ。


 今のメロヴィくんに必要なものは自分にはできるという自信だけ。幸いにも自信だけならば、すぐに与えられる。


「君ならできる。頼れるのは君だけだ。信じている」


「シグヴァルト卿が……ボクを……信じて……!」


 オレの言葉に、目を輝かせるメロヴィくん。

 ちょろい。ああいや、素直でよろしい。


 まあ、これはメロヴィくんがオレのことをなぜだか慕ってくれているからできることだ。

 『凶戦士』呼ばわりされているオレの学生時代に何を見出したのかは全く分からないが、こういう時に役に立つので構わない。あとは、こんなことを考えているなんてことを知られないようにしよう。好感度は保っておかないと。


「わかりました……! ボクに務まることならば……!」

 

 よし、引き受けてくれた。

 そもそも現在の情勢は膠着状態だし、騎士団の財政改革についても特段の問題はない。いくつかの商会は取引打ち切りについても文句を言いに来るかもしれないが、それくらいならどうとでもなる。


 あとは重要部分にだけ細かい指示を出しておけばいい。その重要部分とは、ジークリンデのことだ。


「殿下については後で指示書を渡す。ただ頭に手を当てておられたらまずはオレの用意したお茶をお出ししてくれ。それと、殿下が目を瞑っている時はただくつろいでおられるだけだ。他にも時々不機嫌に見える時があるが、そういうときは考え事をしておられるだから大丈夫だ。ああ、あと――」


 ダメだ。 

 いくらジークリンデのことを話しても彼女のことを伝えきれない。

 オタク特有の早口と言われても甘んじて受け入れるが、それくらいジークリンデは複雑で魅力的なお方なのだ。


 でも、心配だ。手引書を託してもオレ以外がジークリンデを支えられるとは思えない。留守にするのはせいぜい10日程度だが、オレがいないところで彼女が誰かに誤解されたらと思うと胸が張り裂けそうだ。


「わ、わかりました……! 頑張ります……!」


「ああ、頑張ってくれ」


 メロヴィくんを信じていないわけじゃない。でも、不安だ。

 でも、魔石窟が発見された以上、故郷を放置するわけにもいかない。ああいや、最悪領地が吹き飛んだとしても受け入れるが、魔石産業の利益はジークリンデのためになるからリスクは呑み込むしかない。


 なので、ここで帰らないという選択肢はない。非常に無念なことだ。


「……採掘、加工、輸送。ああくそ、やることが多い!」


 やることがあまりにも多くて、思わずうめいてしまう。得られる利益も大きいが、その分、手間も面倒も山積みだ。


 さすがに魔石がらみの案件は今のユリアの手に負えない。というか、オレも自信があるわけじゃないが、少なくとも直接監督する必要はある。

 

 まず第一に、魔石は少しの衝撃で爆発する。比喩ではなく本当に爆発する。ニトログリセリンと同じだ。


 なので採掘には細心の注意がいる。熟練の採掘鉱員でも事故が多発するくらいなので、適当な労働者には任せられない。 

 その上、魔石鉱山の鉱員の多くは国際組織である『鉱山ギルド』に所属している。鉱山ギルドに話を通さないと鉱員を紹介してもらえないし、雇うことも難しい。


 にもかかわらず、我が偉大なる祖国オーディン帝国は鉱山ギルドと現在係争中ときている。先代皇帝が鉱山利権に手を突っ込んだまま横死したせいで、鉱山ギルドは帝国領内での活動を停止しているのだ。


 一応、裏ルートで鉱員を雇えないことはないんだが……足元を見られるのは確定か……、


 問題はまだある。

 よしんば鉱員を確保できたとしても次は加工をしなきゃならない。


 現在時間軸において魔石の加工ができるのは『魔導士』と言われる専門職の人間だけだ。

 この『魔導士』は言ってしまえばファンタジー系のゲームやアニメに登場する魔法使いや魔術師とほぼイコールと言っていい。ただこの世界においては魔術に対しての耐性を持つ『貴族』が支配者層である影響で、魔導士は戦闘職ではなく技術職としての意味合いが強い。


 そして、この魔導士、ご多分に漏れず希少だ。

 これは帝国に限った話ではなく九界樹大陸全体に共通することで、人口比で言えば魔導士は1万人に1人ほどしかいない。


 しかも、そんなに数が少ないのに需要は魔石需要と比例して上がっていくので、魔導士の去就をめぐって国家間での戦争にまで及んだ例さえ存在している。


 トドメに魔石の輸送には強奪事件がつきものだ。未遂も含めて年に数十件は強奪事件が発生し、魔石を扱う貴族は輸送ルートの安全確保に年中苦心している。

 そんな気苦労のせいか魔石貴族は大抵みんな、ハゲている。おそらくストレスが頭皮に来ているのだろう。きっと胃も悪くなってるに違いない。みんな顔色悪いし。


 だが、それだけの困難を乗り越えてもやる価値が魔石産業にはある。オレの髪の毛(たましい)を賭すだけ価値が。


 唯一気がかりなのは、オレの留守の間のジークリンデの世話だが――、


「――そうですか。では、わたしも同行します」


 ……その心配は、ジークリンデの一言で吹き飛ばされた。


 ちなみに、オレは今回の件について洗いざらいすべてをジークリンデに話した。

 貴族の中には魔石や貴金属の鉱脈を私的な財産として運用する者もいると聞くが、オレは絶対にそんなことはしない。作戦や勝利のために必要ならば秘密にすることはあるが、自分の利のためにジークリンデをたばかるくらいならもう一度死んだ方マシだ。


 …………その真心は伝わったと思うんだが、えと、はい? 

 オレの帰郷にジークリンデが同行する? なんで、そうなりますの?

 

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