表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役貴族に転生した戦略ゲーオタクは推しのヤンデレ悪役令嬢を支えるようです  作者: ビッグベアー
第一章 悪役令嬢が(ヤン)デレるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/57

第16話 時には泣いちゃうときもある

 夜の噴水広場で涙を流す主人公と遭遇する……原作で言えば攻略対象のイケメンが経験するようなイベントだ。

 どう考えてもオレのような弱小即死系悪役貴族が勝手に消化していい出来事じゃない。少し待っていれば、まだ見ぬ攻略対象が自分の方から運命に導かれてやってくるはずだ。


 ……たぶん来るのは『ウルヴ』だな。とある一族に仕える暗殺者でありいわゆる影のあるイケメン枠である彼の出番はこういう夜の場面に多かった。


 …………そう思って物陰で10分ほど待っているんだが、誰も来ないな。

 ………………フレインは泣き止むどころか涙声が聞こえてくる始末。かなり弱っている。そうでもなければ例え人目がないとはいえあの聖女がこんな風に涙を流すなんて考えられない。


 そも原作『帝国物語』におけるフレインはファンから『メンタル重戦車』とあだ名されるような烈女だ。

 初めての戦場でも怯えるどころか御旗片手に最前線を走り、攻略対象のイケメンに選択肢を間違えてボロクソに罵倒にされても次の日にはケロッとしている。あげくのはてには、故郷の村が敵に侵攻されても嘆き悲しむより先に奪還のために軍勢を集めていた。


 なので、作中でもフレインが落ち込んでいる場面は片手で数えられる程度。オレの記憶が正しければ、イケメンの攻略に失敗してBADエンドに突入した時か、お気に入りの栗のタルトが目の前で売り切れた時くらいのものだ。


 ……あれ、これ、オレが行かなきゃいけない感じ……? この主人公まだ誰も攻略できてないの……? 


 放置する、という手もある。あるにはあるが、得もなければ徳もない。

 それにあれだ、第二皇子バルドは論外としても、オレは『帝国物語』の登場人物には基本的には好感を持っている。特に主人公フレインの不当不屈っぷりには敬意を感じていた。


 そんな彼女が泣いているのを放置してはおけない。ジークリンデより優先することなどありえないが、少しくらいの善意は許容できる。


 それに、あれだ、泣いているのはなんかこうオレのせいな気がするし……、


「聖女殿」


「――っ!?」


 オレが声を掛けると、フレインははっとして振り返る。まさか泣いているところを見られたとは思っていなかったのだろう、驚きに声も出ていなかった。


 そうして一秒後、気まずいところを見られたと理解したフレインは脱兎のごとき勢いで駆けだした。

 山岳地帯育ちの健脚が発揮されるかと思われたが、彼女はすぐに石畳に躓いてしまった。


 このままでは転んでしまう。そう思った時には手を差し伸べてしまっていた。前世で培われたオタクとしての本能のせいだ。


「――っと」


「っ!?」


 しかし、反射的に強く引き寄せすぎたせいでオレの胸板にフレインが飛び込んでしまう。

 この程度で後ずさるようなやわな鍛え方はしていないが、柔らかな感触に動じてしまう。


 鼻腔を突くのは帝都で嗅ぎなれた香水の匂いではなく、故郷でよく嗅いでいた草原の香りだ。

 その瞬間、懐かしさと温かみに胸がいっぱいになる。こういう帝都の女性にはない独特の雰囲気が数々のイケメンを落としてきたんだなと頭の片隅でそう思った。


 ……というか、アレだな。原作の立ち絵よりもいろいろと大きい気がする。

 彼女を支えている左腕に当たる感触が、なんというか、ふくよかだ。大きさだけで言えば、トモエにも匹敵する。


 …………いかん。邪念が過ぎる。

 オレとて男だが、第一皇女殿下の騎士は色情魔だなどと噂されたらジークリンデの名誉に関わる。


「お怪我は?」


「あ、ありません……ありがとうございます……」


 胸元から離して立たせるとフレインは気まずそうにうつむく。

 今更逃げだすのも無理だと思ったのか大人しくしている。


 これは、逃がしていた方が面倒は少なく済んだかもしれないな。

 ……まあ、仕方ないか。オレが撒いた種でもあるわけだし。


「えと、シグヴァルトさん、い、いえ、シグヴァルト卿……でしたよね?」


「ええ。合ってますよ。それと、呼びやすい呼び方で構いませんよ、聖女殿」


 すぐに両目を拭ってその場を取り繕うフレイン。といっても、声は上ずっているし、目元は腫れているのでなにも誤魔化せてはいない。


 フレインらしいと言えばフレインらしいか。

 なんだかんだ言っても彼女の心の在り方は淑女のそれよりも武人のそれに近い。


 なので、こういうところを人に見られるのは恥だと思っているし、こちらとしてもそこに触れるつもりはない。話を聞くにしてもそれとなくだ、それとなく。


「………」


「……………」


 挨拶をしたはいいものの、気まずい沈黙の時間だけが流れていく。

 …………困ったな。世間話をしようにもこの状況だと違和感しかない。


 ……どうしよう? よく考えたら、オレこういう経験少ないぞ……?

 …………こういう時はあれだな。バルドくらい何も考えていない方がやりやすいんだろうか。

 天気の話は夜だし、ほかに共通する話題もないし……、


「あー、どうですか、その、帝都には――」


「――えと、見られちゃいましたよね?」


 まごまごしているうちにフレインの方から本題に押し入ってくる。

 ……そういえば、こういうときには単刀直入に突っ込んでいくタイプだったな、彼女は。


「……ええ。見かねて声を掛けました」


「そう、ですか」


 嘘を吐いても意味がないので素直に頷く。

 原作からして聖女であるフレインの直感は大抵の嘘を見抜く特殊技能だ。おかげでプレイ中腹芸においてはなにも苦労せずにすんだ。


 正直言って、この特殊技能だけでもこの主人公を敵に回したくはない。


「……すいません。お見苦しいところを」


 悲しそうに視線を伏せるフレイン。

 泣いているところを見ているなんてデリカシーのないことをしたのはオレなので怒ってくれてもいいんだが、自罰的なのもらしいと言えばらしいか。


 フレインが沈んでいる理由についてはおおむね予想は付いている。明確に同じシーンが原作にあるわけじゃないが、彼女がモノローグで悩んでいた内容については記憶にある。


「帝都は肌に合いませんか」


「え?」


 オレの問いに、フレインは目を見開く。

 自分が誰かの内心を見抜くならともかく、自分の心の内を読まれるとは思ってもみなかったのだろう。


 といっても、こっちには原作知識という反則がある。オレ自身の変化もあって全てを信用するのは危険だが、応用して使う分には有用だ。


「せわしない場所ですからね、ここは。最初の内は気疲れも多いでしょう」


「……シグヴァルトさんも、ご経験が?」


「ええ。オレも辺境出身です。帝都に来たのは、今から五年前です」


 シグヴァルト家の領地があるのは帝国の領土の中でも東側の外縁部、いわゆる東部辺境と呼ばれる地域だ。

 さすがは自分で神聖なんて国号につけるだけのことはある。帝都から目の届かない範囲は全部辺境扱いになるんだから、傲慢もいいところだ。


「最初は人の多さに戸惑いました。次は匂いですね、草の匂いも土の匂いもしないというのはどうにも落ち着かない」


「わ、わかります! 石畳は綺麗なんですけど、気分が違いますよね……! こうふるさとにいた時は土臭くていやだっておもってたんですけど、今は、ちょっと恋しいというか、なつかしいというか……!」


 思った以上の勢いで食いついてくるフレイン。そういえば実家が農家で土いじりは嫌いだけど好きって設定があったな。

 気持ちは大いにわかる。現代日本に暮らしていたオレが言うことではないかもしれないが、人工物だけに囲まれているというのは中々にストレスになる。ましてや、フレインのように自然の中で生きてきた人間にとって余計にだろう。


 無論、ホームシックだけで泣いていたのではないことはわかっているが、気を紛らわすのはいいことだ。特に故郷についての話題を共有できれば、少しは気分も変わる。


「あと、馬や羊も恋しくなりませんか。帝都だと兵舎や農場まで行かねばならないので」


「わかる! 遠乗りとか毛刈りとか、ときどき無性にやりたくなるよね!」


「わかります。オレの場合は牧羊犬と戯れるのが好きでした。よく遊ばせすぎて叱られてたのを思い出します」


「だよね! かわいくてついつい甘やかしちゃうよね!」


 話題を掘り下げていくとテンションが上がって敬語が取れていくフレイン。彼女の素はこちらだ。

 初対面などの親しくない相手には聖女としての義務感もあって丁重に接するが、原作においてもモノローグや親しくなった攻略相手に対しては砕けた口調で接するようになる。


 オレに対してこのモードになるとは思わなかったが……まあ、少しは元気なったようでよかった。


「それで、それでね――あぅ」


 そんなとき『ぐるるる』という音が聞こえた。一瞬、野犬の唸り声かと勘違いしたが、羞恥にうつむくフレインを見て違うと気づく。

 ……泣くのって意外と体力を使うからな。


「は、はずかしい……あ、あたし、聖女様なのに……」


 先ほどまでのテンションはどこへやら消え入りそうな声のフレイン。本当に恥ずかしくてたまらないようでスカートのすそを両手でつかんでいた。


 …………なるほど、かわいらしいし、庇護欲をそそられる。こういう風に原作のイケメンどもには見えていたのか。

 公式に『魔性の女』呼ばわりされるのも頷ける。確かにあの明るさからのギャップがあれば大抵の男はなびく。


 無論、オレは大抵の男ではないから、別になびきはしない。

 だが、騎士としてこの場を放置するのは名誉に関わる。そして、オレの名誉が傷つくことはジークリンデの威信に泥を塗ることでもある。


 それだけは許容できない。自ら招いた危機だ。自分の力で乗り切るとしよう。


「……そういえば食事にしようと思っていたんでした。聖女殿、よろしければ、ご一緒していただけませんか?」


「え? で、でも」


「淑女を助けるのは騎士の義務の一つですから。断られては、困ってしまいます」


 オレの懇願に戸惑いながらも頷く聖女。そんな彼女を見ながらオレは内心『まあ、そんな心得(こころえ)誰も守ってないけどな』と付け加えておく。


「店はすぐそこです。野卑な酒場ではありますが、オレたちのような辺境の出にはちょうどいいかと」


 そうして騎士らしく淑女に右手を差し出す。

 ……慣れないことはするもんじゃない。戦場に立つ方がよっぽど気分が楽だ。少なくとも戦場なら目の前の敵さえ倒してしまえばあと腐れはないわけだしな。


「は、はい、よろこんで……!」


 フレインは緊張でガチガチになった指をオレの手のひらに乗せる。ほほえみはぎこちなかったが、それが彼女なりの精一杯であることをオレは知っていた。


 余計に気が重い。

 なにせ、これからフレインにアンタが後ろ盾の第二皇子を失ったのはオレのせいだって言わなきゃならないんだからな。せめて好感度が下がるにしても最低値で済むようにしないと……だけど、できるのか、そんなこと……いや、やるしかない、ジークリンデのためには……!


あとがき


新作です! 第一章完結まで一か月ほどは毎日更新の予定です!


応援、ブクマ、感想、評価などいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ