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後編

「さっき、華苗自身が言った通り、八島と華苗は正式に婚約をしたわけでも、恋愛感情を持った恋人同士でもない」



一体いつから中に居たんだよ、という一色君の呟きは、そのまま黙殺された。

「この二人の事は両家の親同士が決めたことだが、本人たちも納得の上、公式、非公式に関わらず、お互いをパートナーとして、色々な場所にでかけていた」

「色々な場所とは?」

「流石に子供の頃は、正式な夜のパーティなんかは出れないが、昼間の行事には顔を出さなきゃいけない事もある。ましてや、八島、御子柴の名前を背負っているんだ、財界のみならず、政界でも『子供連れ』の会には出ざるを得ないさ」



そんな大層なものじゃないけどね、でも国内外を問わず、イベント事には、必ずと言っていいほど上総は私の隣に居た。


「親公認、幼い頃から当たり前の様に傍にいる…俗に言う『重鎮』の方々が、二人をどう見て扱ったか…古い家柄の君なら分かるはずだよ、二ノ宮」

同級生だからか、彼らの実家を良く知っている水沼君が言葉を続ける。暫く考え込んで、はっとしたように二ノ宮君は顔を上げると呟く。



「許嫁」



「そう、それが…例え事実無根であったとしても、重鎮方にとって見る方向は同じだ」

顔色を変えて、二ノ宮君が私を見た。気にしないでいいと笑って首を振るが、彼は立ち上がると深々と頭を下げた。

「申し訳ありません」

「おい、二ノ宮?」

「どういうことなんですか?」

急に態度が変わった委員長に、少年二人が慌てる…まぁ、普通分からないよね。特殊な人材が集まっている、学園内でも私の置かれた位置が分かるのは数えるほどしかいないだろう。

「先輩…」

「構いませんわ、ご説明して差し上げてください」

もう一度「すみません」と頭を下げると、二ノ宮君は、クラスメイト二人に向き直る。

「古い言葉だ…今の意味合いとしては、当人の意思に関わらず、親が決めた婚約者を指すことが多いが、本来は女性の所有権を指す言葉だ。この場合、御子柴先輩の所有者は八島先輩、と古い人間…『重鎮』方は捉える」


「…悪い、もう少し噛み砕いてくれないか」

一瞬、二ノ宮君が言葉を詰まらせた。まぁ、無理も無いよね。

「つまり、私と上総さまに肉体関係がある、と捉える方がいるということですわ」



「先輩!」

「華苗…もう少し慎め」

慎んだところで、言葉をオブラートに包んだところで意味合いは同じなのだから仕方ないですね。

「…それで、だ」

こほん、と咳払いして真田先輩が言葉を続ける。

「例え、その事実が無くても、二人の関係を知り、破局を知る古い人間は、華苗を『傷物』扱いする、ということだ」

「なら、余計に…」

「他の方に心を残した方に、ですの?『許嫁』の意味合いを知りながら、手を離した方の手を再び取れ、とそう言われますの?」

流石の一色君も言葉を失ったようだ。ここまで聞かされて、なおも復縁を勧める様なら、正直人格を疑いますよ、私。



「周囲が考える以上に『重鎮』どもの発言権は強いんだよ…俺たちの周囲ではな」

「俺たち、とおっしゃいますと?」

「ああ…俺と華苗は従兄妹にあたるんだ。俺の親父が華苗のお袋さんの弟に当たる」

「私と八島君…上総は又従兄妹になりますの」

自分たちに取っては周知の事実でも、結構知らない人は多い。まぁ、通常身内に対して「先輩」とか苗字では呼ばないものねぇ。それは、莉沙紀と上総にも言えることで、この二人は学園内ばかりかプライベートでも苗字でお互いを呼ぶ。



「ある程度の古い家はどこかで繋がっているものだ。お前だってそうだろう?二ノ宮」

「…羽柴先輩と姻戚関係にあたります」

そして、その羽柴君は、上総の親友であると同時に遠縁でもある。

「今まで、八島と御子柴は縁がなかったから、余計に…な。他の女に心変わりした八島より、引き止められなかった華苗に風当たりが強い」





だからこそ、と真田先輩――恭志郎兄さまは言う。

「まぁ、俺は身内だということもあるが、華苗の側につくって事だ。少なくとも学園内では穏やかに過ごせるように」

「私も同じですわ。親友、幼馴染という関係以前に女として八島君は許せませんの」

「可愛い彼女と幼馴染を敵に回す気は無い」

いや、黒澤君、それ何か違うから。

「他者の人生を背負うんだ。それを分かっていて手を離した八島先輩を肯定できない、というのがボクの正直な気持ちだ」

コメントにこまるけど、一応ありがとうと言っておくね、水沼君。



「でも…!」

一色君の声に、私たちの視線は彼に集まった。

「いう奴がいるんだ、八島先輩には相応しくない、だの、御子柴先輩から奪った泥棒猫だの…あいつに言う奴がいるんだ!」

「だからなんですの?」

ぎり、という音が聞こえそうな表情で一色君が私を見る。おお、青春だね、少年。

「それは彼女が自分で選んだことですわよね?八島 上総の横に立つという立場を」

「どういうこと…ですか?」

ぎりぎり丁寧語って事ですね。すでに二ノ宮君は色々理解したらしく口を噤み、七尾君もおぼろげながら気付いたのか、困った顔で一色君を見ている。

「それなりの財産と家柄を背負うというのは、それを支えてくれる人たちの生活を支えるということ…この学園にお入りになったのなら、それなりに財産がお有りだと思います。その財産は貴方一人が作り出したものですか?」

「は?親の金だろう?会社を経営して…って…あ」

「八島のブランドはお前だって知っているだろう?そのブランドの頂点に立つ、その傍らに立つ、ということがどういうことか。それを知った上で、そして華苗の存在を承知の上で、あの二人はお互いの手を取った。それによって起きる『反動』は自分達が受けるべきだろう?何故お前たちが、しかも被害者とも言える華苗を使って助け、庇おうとする」



今度こそ一色君は黙り込んだ。双倭に入学できるほどの実力ならば、レベルの差こそあれ、気が付いて然るべき事なのだ。


「それとも、彼女に頼まれたか?助けてくれって」

「違う!あいつはいつも少し悲しそうに笑うだけだ!…だから、俺たちは…俺は…」

項垂れて、机に突っ伏す一色君に小さく溜息を落とす。

自分の恋心を成就させたかったのか、彼女を今有る状況から助けたかっただけなのか…どちらにしろ、それを私が助ける義理は無い。



「二ノ宮、水沼。後は任せる」

はい、と二人と七尾君も返事をして、もう一度私に謝罪してくれた。別にいいんだけどね、何回も謝らなくても。




「言っちゃなんだが、あんなのがライバルなら、軍配は八島に上がるのも無理は無い、か」

「二ノ宮君もこの学園に幼稚舎から居るんですから、少し考えれば分かることでしょうに、恋って怖いですわね」

「彼氏持ちの言う台詞じゃないでしょ」




やれやれと息を吐く。この短時間で何回溜息をついたやら。幸せが逃げたらどうしてくれる。

友情のありがたさと恋の重さ。

事実は小説より奇なり、ってこういうときに使っても良いのよね?



ご指摘いただいた部分を修正いたしました。

ありがとうございました。

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