63 意思持つ金属
「いやー、ホンマにラッキーやったわー♪」
満面の笑顔で何かの準備をしている白衣の少女、名はルーリドゥール
こう見えても竜族らしい。その竜族の中でも『不滅種』と呼ばれる希少種『天上竜』なのだそうだ
『不滅種』は肉体的な死を迎えると『命の祭壇』と呼ばれる場所(個によって場所は違う)で新たな肉体を得て生まれ変わる。その為に存在としては不滅と言われるのだとか
特に天上竜は生物としても桁違いに強靭で寿命は万年単位ではないかと思われている
ルーリドゥール曰く「老衰で死んだ同族の話は聞いた事が無い」らしい
その代りに数が極めて少なく、彼女も自分以外には三体しかし知らないらしい
その内の一体には面識は無いのだが
「5千年前ぐらいやろか、別の大陸で怒りに任せて暴れまわった竜が大陸の三割ほどを荒野に変えた。ちゅう話を聞いたんや。そんな事の出来るのはウチ等ぐらいやろ(笑)」
という事らしい
(笑)じゃねよ!「怒らせたら国ごと消すぞ」と脅してる様なもんじゃねぇか
他は「別の大陸で神として崇められてる」と「魔族領で魔王でさえ避ける『死の渓谷』の主」なのだそうだ
何故そんなに数が少ないのか聞いたところ
「ウチ等自身が不滅の存在やからなー、子孫とかを作る必要が無いんやろ」
そんな返答が返ってきた
確かに『不滅の存在』なら、生物の本能の1つ『種の保存』も関係ないのかもな
「なぁ?ところで何で人の姿をしてるんだ?」
単なる興味本位の質問だ
「ん?ウチの本当の大きさ分かとる?天上竜は大きいんやで。繊細な作業しよう思ったらこのぐらいの姿が一番やったんよ」
こちらに背を向け屈み込んで何かを掘り出しているルーリドゥールは振り返る事もなく答えた
「ああ、それでか。あの扉とか廊下とか無駄にでかいん訳じゃなかったんだな」
屋敷内の廊下やこの部屋の入り口の扉の大きさにも納得だ
「それはちゃうでー。ん、有ったコレや♪」
棚の中から何かの発掘を終えたルーリドゥールは大きな箱を抱え戻ってきた
そしてそのまま驚愕の言葉を口にした
「ウチが元の姿に戻ったらあの扉じゃ小さ過ぎて通れんよ」
「え?じゃあ、あの扉の大きさは何の為なんだ?」
人型では大き過ぎ、本来の姿では小さ過ぎる。ならあの扉の大きさの意味は?
「ん?そんなん決まっとるやろ。デッカイ方がカッコエエ!」
「だと思ったよ!」
その方がカッコイイとか、その方が面白そうとか、そんな感じで物事決めそうだよ
「『ブッ飛ばしちゃうぜ1号君』とか、あの扉とか、暇潰しで妙な物を作るなよ」
そして妙な事に俺を巻き込まないでくれ
「妙な物とは失礼な。アレはアレでイロイロと凄いんやで?」
扉を指差しその凄さを説明する
「まず素材はオリハルコンや」
「へ~、そいつは「オリハルコン!?」」
何気なく発せられた言葉にマシウスが喰いついた
「オリハルコンと言うと、あのオリハルコンですか? 神話や伝説に出てくる?」
「『あの』が、どの事を指すのか分からんけど、オリハルコンはオリハルコンや」
普段は冷静なマシウスが興奮気味に身を乗り出している
「まぁ、落ち着けマシ「無理です!」ウス」
喰い気味に否定しやがった
「オリハルコンですよ?神話にも出て来る金属ですよ?自らの意思を持ち、自ら魔力を生成し、数千度の熱を加えても僅かな歪みすら出ない。『命の石』に並ぶ錬金術師の究極の命題ですよ?それがあんな扉に」
「『あんな』言うな。それと『命の石』が何かは知らんけど、『オリハルコン』を錬金術で創るのは不可能やな」
「何でですか?分からないじゃないですか、今は無理でもいつかは」
ルーリドゥールの言葉にマシウスが眉間にしわを寄せて反論する
だが
「無理やね。アンタの言う錬金術とウチの知っとる錬金術が別物なら分からんけど、錬金術でオリハルコン以上の金属は創れてもオリハルコンは創れん」
ルーリドゥールは静かに諭す様に断言する
「アンタの言った通り、オリハルコンは意思持つ金属や、金属生命体と言ってもええ。錬金術で命は創れん」
彼女の言葉の通り、錬金術で命は生み出せない
かつては多くの者が命を生み出す研究をしていたが、成功した者はいない
今では一部の者が諦めずに研究を続けているだけとなっている
「・・・」
マシウスはルーリドゥールの言葉にうなだれ意気消沈した様子だ
「錬金術では無理でも、他の方法なら可能性は有る筈やけどな」
そんなマシウスに気を使ったのか、ルーリドゥールが声を掛けた
「それは?」
「有るやろ?命なき物に意思が宿った物が」
ルーリドゥールがそう言って送った視線の先に居たのは
ルシアリーヌだった
「自動人形!」
確かに自動人形は本来意思など持っていない金属の人形だが、自らの意思を持って考えて判断して動く。まさしく金属に意思を持たせられる証拠だ
「厳密に言うたらちゃうで。自動人形がオリハルコンを創れる証拠や無い」
「え?どういう事ですか?」
「アンタ等は知らんやろけど、自動人形は大別すると2種類、『前期型』と『後期型』て言うたらええのかな、『前期型』は中核にオリハルコンを使う事で、動力となる魔力を生み出し、意思を持って動けるようになったんや」
自ら魔力を生成し意思を持つオリハルコンを核とする事で、自動人形もその特性を持ったのだとしたら、自動人形という存在が金属に意思を持たせられる根拠にはならない
「ただ、オリハルコンの絶対量が少なかった事もあって、それを擬似的に真似た『後期型』が作られ始めたんや。特定の指示に対して特定の行動をとる、自動とは言えん物やけどな。まぁ、オリハルコンを使こうとるんが『前期型』使こうてへんのが『後期型』ちゅう事や」
「ルシアリーヌは?」
「『後期型』や」
どうやらルシアリーヌにはオリハルコンは使われていないらしい
「でも、彼女は意思を持って動いている様に見えるけど?」
「そう!ルシアリーヌはちゃんと意思を持っとる。つまり自動人形が金属に意思を持たせられる根拠やなくて、ルシアリーヌが金属に意思を持たせられる根拠なんや」
皆の視線が再びルシアリーヌに向く
その視線を受けルシアリーヌは腰にてを当て胸を張りドヤ顔を決める
ただし、表情はいつも通りの無表情だ
「でもどうやって?」
「そう、問題はそこや」
マシウスの疑問に、ルーリドゥールも我が意を得たり、と指を指し返す
「ここからはただの仮説になるんやけど、ルシアリーヌにオリハルコンが使われてへんのは事実や。体の構成物も再現は出来とる。動力源となるのも、この『永久魔力機関』と同じ様な物や」
そう言って箱の中から出したのは両手で包めるかどうかという大きさの球体だった
「これはルシアリーヌの体内に在った動力源をウチが解析して再現した物で、サイズは若干コンパクトに、出力は3割ほど強力になっとる。せやけど、これを装着してもルシアリーヌは動かん。つまりその動力源こそ、意思を宿しとるんじゃないかと考えとるんや」
手の上で球体『永久魔力機関』を転がしながら自らの仮説を展開する
「問題は『どこに』ではなく『どうやって』でしょう?その辺はどうなっているのですか?」
マシウスの指摘にルーリドゥールは肩をすくめた
「さっぱりや。全くもって分からん。そこで1つの結論に至ったんや『これはもう反則技しかないな』と」
「反則技?」
「そう、反則技。それが・・・」
ルーリドゥールは『永久魔力機関』を片手に俺に歩み寄ってくる
その顔に張り付いた笑顔が、どうにも俺の不安感を煽る
彼女は俺の肩に手を置き、キッパリと告げた
「構成魔法や!」
やっぱり?そういう流れなのは薄々感じていたけど
「構成魔法は、この世の森羅万象、一切合財どんな事象も生み出せると言われとる。当然金属に意思を宿らせる事も可能な筈や。むしろそれ以外に方法が有る様には思えん」
ルーリドゥールは俺の手の中に『永久魔力機関』を落とし、ニッコリと笑って言った
「さぁ、やってみようか?」




