62 白衣の悪魔
「おーーい、そろそろ起きへん?」
白衣を纏った少女は、倒れている数人の男女の頬をツンツンと突きながら声を掛けていた
「なぁ、なぁって、もう起きとんのやろ?」
1人の肩を掴むと揺さぶりながら更に声を掛ける
全く反応の無い事に頬を膨らませると、揺さぶっていた手を離し立ち上がり歩き出した
倒れている男女の間を2、3歩くと立ち止まり
「ええ加減に起きーや!」
ゴスッ!
足元にいた人物、ヒロを蹴り飛ばした
「グフ!?」
蹴り飛ばされた彼は、何回転か転がった後、蹴られた脇腹を押さえて身を起こした
「痛ってぇ」
脇腹を押さえつつも、状況を把握しようと周囲をキョロキョロと見渡す
「お目覚めですか?もうお話させて頂いてええですか?」
床の上に座りこんだ彼を覗き込むように、身を屈める
「え?あ、はい」
まだ目をパチクリさせている彼を有無を言わさぬ迫力で頷かせる
「手伝いは碌に出来ん、あんな爆発で気ぃ失うって、自分等何しに来たん?」
彼女は何故かお冠の様だった
世の中色々と理不尽だ
一生懸命に森の奥を探し回り、何とか見つけた霊薬の元をギルドに持って行ったら、既に締め切られていたり
気になる異性の為に人気のアクセサリーを探し回って手に入れたのに、既に別の人から貰っていたり
ケンカの仲裁をしていた筈なのに、気が付けば「甲斐性が無い」とか「意気地が無い」だの「草食系か?」だとかいつの間にか2人掛りで攻め立てられていたり
勿論、単なる例え話だ
大事な事なので重ねて言おう。例え話ですよ
だが、今は例え話ではない
迷宮の奥から転移してきたら、自動人形に何の説明もなく連れて来られ、見知らぬ場所で訳も分からぬ実験の手伝いをさせられ「邪魔だからあっち行っとき」と追いやられ、爆発に巻き込まれ失神すれば「いつまで寝てるん?」と蹴り起こされる
こちらの事情を全く考慮に入れてもらえない
これを理不尽だと言えば
「アンタの事情とか知らんわ」
これを理不尽と言わないのなら辞書からそんな単語は消した方が良いと思った今日でした。
そんな自己完結をしていると
「で?ホントの所、自分等何なん?」
白衣を纏った理不尽が不機嫌そうに尋ねてきた
「いや、『何なん?』て言われてもな、寧ろこっちの台詞なんだが?」
お客様と紹介された筈だったんだが?
ルシアリーヌを指差し
「彼女に『転移者をマスターの下に連れて来る様に言われてる』て言われて連れて来られたんだが?」
白衣の少女の目がルシアリーヌに向く
「そんな事言った?」
「はい、仰られました」
ルシアリーヌは即答した
「いつ?」
「535億9533万2653単位前です」
「ん?1700年も前の事なんて覚えとるわけ無いやろ?昨日の夕飯かて怪しいのに」
白衣の少女は一瞬で計算したのかルシアリーヌの言葉に苦笑いを浮かべた
「アンタ等どこから来たん?」
白衣の少女は僅かながら俺達に興味を持ったようだ
「フェルディールです」
知識欲旺盛なマシウスはこの、理不尽白衣娘から情報を引き出そうと率先して話に参加してきた
「どこ?」
「フェルディールです。ミスラ王国の」
「ミスラって??」
本気で分かっていなそうな彼女に基本的なことを聞いてみる
「最近この森?の外というかの他所の町に行ったのはいつだ?」
「大森林の外に出たのは1200年前くらい?エルフの集落に行ったのが600年前くらい?」
疑問形で応える彼女の言葉を、ルシアリーヌが「1217年前です」「586年前です」と補足していた
「ミスラが建国400年に届いてませんから知らないんでしょうね」
マシウスは溜息混じりに呟いた
「せやなー、国名って直ぐに変わるんやもん。気付いたら『そんな国もう有りゃしまへんよ』てなもんやから覚える気無くなってなー」
そうケアケラと笑う彼女は、根本的に何かが違っている気がする
「そう言えば『大森林』て言っていたが、ここは大森林の中なのか?」
大森林はジグタル連合王国とグリトラ帝国の国境線の北に広がる広大な森林地帯で、エルフの本拠地でもある深淵なる森の国『グレイトアーク』が有る。その森林地帯の広さはミスラの国土の3分の2に匹敵する
「そうやで。エルフの里から北へ歩いて6日ぐらいの所やろか」
「いや『エルフの里から』て簡単に言われても、その場所を正確に知ってる奴なんて殆ど居ないから」
「そうなん?案内したろか?」
「・・・いや、いい。ろくでもない事になりそうだから」
グレイトアークに興味は有るが、部屋の隅で意味不明な金属片で意味不明な造形物を積み上げている前科者に不安しか感じない
「ところで、先程作っていたものは何なのですか?」
「ちょっ、待「聞きたい?」て」
目をキラキラと輝かせた彼女は俺の制止を喰い気味に遮った
「あれは『永久魔力機関』を組み込んだ試作の射出転移型魔力弾発生装置の『ブッ飛ばしちゃうぜ1号君』や」
いったいどこからツッコミを入れたら良いものか
「何をする為の装置なんだよ?」
まずは使用目的を聞いておかないとな
「憎いあんちくしょうの家に魔力弾を転移させて吹き飛ばす為の画期的な装置と成っております。まず、すんばらしいのが、攻撃手段が転移なので防護結界等が無意味になる点やな。2号での改善すべき点は転移座標のコントロールやろな、現状では感覚的に『こんなもんか?』でしか設定出来へんからなー」
思案顔で『ブッ飛ばしちゃうぜ1号君』を撫でる
「もっと根本的な問題が有るだろ?爆発してんじゃん!『ブッ飛んじゃうぜ1号君』じゃん」
「おっ、上手い事言いよんな」
俺の指摘に彼女はカラカラと笑いながら答えた
「ま、爆発すんのはお約束みたいなもんやからええねん」
「良くねぇよ、そもそもそんな物騒な物を何で作ってんだよ?」
「ん?まぁ、強いて言うなら、気分転換?」
何で疑問形なんだよ
「気分転換?気分転換ならお菓子でも作ってろ。そんな物騒な兵器を片手間で作るな」
「お菓子!それは中々オモロイな。魔力弾やなくてお菓子を転移させるんやな。フフフ、寝とるところにいきなしケーキが降ってきたら爆笑もんやな」
笑えない。何をどう想像したのか分からないが、全く笑えない
「そもそも、どうやってそんな装置で転移させるんですか?転移用の魔方陣は?」
マシウスが真面目に技術的な話に持って行こうとするが、それがヤブヘビに思えるのは俺だけだろうか
「そんなん4つの魔錬石に圧縮封入しとるに決まっとるやろ。そこに魔力を通すことで積層立体魔方陣を空間構築して対象物を指定座標まで転移させんねん」
「「???」」
『ブッ飛ばしちゃうぜ1号君』に嵌められた4つの宝玉を指差し、さも当然といった感で説明されるが『圧縮封入』とか『積層立体魔方陣』とか意味不明な単語がサラリと出てきて、結果として意味不明な説明になった
「ええか?魔力は体から離れたら大気中に拡散していく性質が有んねん。せやから、魔力単体での遠当ては難しい、ちゅう話なんや。せやったら、拡散する前にぶつけなあかんやろ?それには射出した次の瞬間に当たる転移型が最適なんよ」
何処からか引っ張り出されてきた黒板は様々な記号(意味不明)や単語(理解不能)が所狭しと書かれている
いつの間にか始まっていた『猿でも分かる射出転移型魔力弾発生装置の作り方』は、若干5名ほどの脱落者を出しながらも佳境に差し掛かっている
勿論、彼女が説明するまでもない基本と思っている事柄についてはスルーされている
俺達からすればその基本こそが知りたいことなのだが
「はい、ここまでで何か質問の有る?」
既に話について行けない俺達から質問が有る筈もない
なにを勘違いしたのか、そんな俺達を見渡し満足げに頷いた彼女は
「よしよし、それやったら今日はここまでやな♪」
後片付けを始めた
ようやく終わった難解極まりない講義に胸を撫で下ろし、俺達はグッタリとしていた
そんな中で
「そう言えば、ヒロのベレッタはどうやって魔力を飛ばしてるの?」
元気なメリオラ(終始寝ていた為)が要らぬ発言をした
(ああ、やっぱりこの馬鹿は迷宮に置いてくるべきだった)
そんな俺の心中を察する筈もなく、ゆっくりと振り返った白衣娘は満面の笑顔だった
「『べれった』て何?見せてくれる♪?」
「いや、それは・・・」
「それは、何♪?」
「えーと、あの、その」
「あの、その、何♪?」
「・・・見せるから指をワキワキさせながら近寄るの止めて」
笑顔のまま中腰の姿勢で指をワキワキさせながら迫る危険な白衣娘に根負けした
「ふーん、で?これどうやって使うん?」
机の上に置かれたベレッタを様々な角度から観察し、持ち上げて、ひっくり返して、銃口の中を覗く
セーフティーが掛っているので安全ではあるが、一応は「引き金に触るな」と注意してある
「何か試し撃ちして良い物は有るか?」
ここまで来たら開き直ってしまおう
「うん?まぁ、あの辺の破片なら好きに撃ってええよ」
そう言って部屋の一角を指差した
指差された一角を狙い引き金を引く
パーン!
軽い破裂音が響き、狙い違わず目標に魔力の弾丸が命中する
「あー!?ボクの傑作が!!」
「何が傑作だ、お前が余計なこと言うから面倒くさい事になっただろ!」
メリオラが組上げた金属片を積み重ねた奇妙なオブジェクトが綺麗に吹き飛んでいた
言い争う俺の右手を誰かが掴んだ
「ん?」
視線を落とすと、俺の右手ごとベレッタを凝視する白衣娘が居た
「なぁ?コレ、ウチでも撃てるん?」
「あ~、どうかな?俺以外が撃った事無いからな」
こればかりは本当に試したことが無いので分からない
「よし、しゃあない。ウチが最初の人になったるわ♪」
そう言うと俺の手からベレッタを奪った
適当に構え、乱射し始める白衣娘
「あ~、待て待て!ちゃんと構え方から教えるから」
射撃訓練が始まった
パーン!
ガシャーン!
パーン!
ガシャーン!
パン!パン!パン!パン!
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
破裂音が響くたびに破砕音が聞こえる
ダメ押しとばかりに放たれた4連射は的確に的を撃ち抜いた
「あれ?もう俺より上手いんじゃね?」
僅かな時間で射撃術をマスターした白衣娘に開いた口がふさがらない
「アハハハ!あー、楽しいわー。なあ、ウチにもコレ作ってやー?」
「あ?そりゃー、いや、無理じゃないけど。自分で作れよ。射出転移型魔力弾発生装置よりは簡単だろ?」
「そりゃー無理やな。流石のウチもコレはよう作らんわ」
そう言うとベレッタを返しに俺に近づいてくる
耳打ちするように俺に顔を寄せると
「コレの中核は構成魔法で作られとるやろ?」
そう呟いた
驚愕に目を見開く俺の顔を見やるとニヤッと笑った
「ルーたん!」
白衣娘が呼ぶと
「はい、マスター」
ルシアリーヌが何処からともなく現れた
白衣娘は俺を指差すと
「確保♪」
そう命令を出した
「はい、マスター」
全く感情のを見せない自動人形は瞬時に俺の後に周り
鎖で俺をグルグル巻きに拘束した
「え?」
自体の飲み込めない俺に白衣娘が歩み寄る
「良かったわー。ホンマに丁度良かったわー。なぁ、ちょーと手伝って欲しいねんけどなー」
指をワキワキさせた白衣の悪魔は妖しげな笑みを浮かべていた
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突然増えたアクセス数に驚きです
それもこれも今日まで読んで頂いた皆様のおかげです
お礼申し上げます
未だにまだまだ拙い文章ですが
楽しんで読んで頂けるように頑張りますので
今後もよろしくお願いします
今回のお話について
マスターのインチキ関西弁は、私の勝手なイメージです
「言い回しがおかしい」とか「こんな表現はしない」といった
お怒りの言葉はご容赦下さい
感想、ご指摘等ありましたら
宜しくお願いします




