表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

EP3:カネのなる木を想像するなんて、夢のまた夢のまた夢だ。

 俺は突如(異世界において)無一文になった。どうやら異世界でも『動物愛護法』が実在するようで。

 一度は膝をつき、「ここからリセットしよう」と立ち上がろうとしたが、アリエットという名の悪魔に制止させられているかのように立つことができなかった。

「なんも買えんじゃん…」

 頭を抱えながら、面接の無情な不採用通知が来たときよりも数倍絶望する。てか初見殺しだろそれは…

「現実世界でも法律は守らないといかんのじゃろ。それと同じじゃ。では さらばじゃ」

 何も言い返せず最後に蚊の鳴く声で独り言を漏らしたが、言葉は桃源郷の風に呑まれ、やがて消えてしまった。

 俺は何のために魔界に来たのか。そう、おカネを稼ぐためだ。

 そのおカネをこれから稼ごうとしたのに、序盤に全て失った。とことんツイてない。


「グヮン!!」

 近くで犬の鳴き声が。いや、犬より獣、獣より小型オオカミの方が例えがいいかもしれない。黒と茶色の小型オオカミは草の茂みを揺らし、俺に飛びかかってきた。

「グワアァッ!! グヮッ!!グヮッグワァッ!」

 不意を突かれたようで一瞬戸惑ったが、間違いなく俺が最初に見た敵モブだった。頭上には「LV.2」と書かれ、隣に体力バーも表示されている。

 短剣で斬り倒そうとするが、安全性の配慮なのか血は出てこない。それとも、元々血がないのか?まだ何一つわかったものはないが、とりあえずこれで最初の敵は倒せそうだ。なんとなくで小型オオカミに剣を突き立てるが、やはりまだ”初心者(ひよっこ)”なので防御力がとても高いように感じる。やっとのことで体力ゲージが少なくなってきたところで、最後の一撃を入れた。

「グワァァァァ!!」

 断末魔がしたと思ったら、灰色の小さい煙の中に、小さくなって吸い込まれていった。

「おい、嘘。素材残んないのかよ」

自我を持たない煙に文句を言うが、聞く耳を持たないのは当然だ。同時に、黒い腕時計(ブラックウォッチ)に『+100円(仮)』と表示され、今倒した敵の概要が画像付きでスクリーンで表示された。


=====

〔ラドルミア〕


・黒とダークブラウンの小さなオオカミ。

・普段は敵対的だが、ある程度のLVを持つと、倒したラドルミアを1体だけ仲間にすることができ、共闘することができる。

・倒すことで経験値を200得られる。夜になると体長1mほどの猛皇ラドルミア(経験値は1000)が出没することもある。

=====


『猛皇』というのがよくわからないが、100円と経験値は身に入った。桃源郷の奥に争いを覚えると、2人の探索者が1匹のラドルミアを巡って口喧嘩しているところを見つけた。草木に隠れ2人に近づくと、いきなり怒号が飛び、肩がビクンと跳ねた。

「だから!!この小型オオカミ(ラドルミア)はうちのって言ってんでしょ!!」

 高めのツインテールにキツめの吊り目をもつ女性が、腕を腰に当てて猫のように威嚇している。

「いいや。これは俺のだ!俺が先に見つけたんだ!!」

 対照的にクセ毛が目立つメガネをかけた茶髪の男性は、短剣を右手に女性を冷たい目で見ている。

 そんなやりとりがしばらく続いたのち、当のラドルミアは、それを呆れたように眺め、踵を返して草むらに消えていってしまった。

「ちょっと!!あんたが絡んできたからどっか行っちゃったじゃない!!」

「そんなの、俺に聞かれてもなぁ」

 男性の方は颯爽と諦めて帰っていった。一方でその場に取り残された女性は、ため息をついて近くの丸太に腰をかけた。

「一触即発状態でも困るし、あんま触れないでおこう…」

 その四字熟語を勝手に言い訳として使ったが、実際は単独行動するラドルミアのように、人と関わりたくないのが本心を占めている。

 一息ついたところで、ズカズカと土や若草を踏み歩く音が聞こえた。そこへ来たのは、深緑の服を纏い、胸の中心部に碧い宝石をつけた行商人の男性だった。後ろには、高級そうな白馬を連れている。

「君だろう、さっきアオピロルを狩ってしまったのは」

 男性はやや責めた口調で声を発した。俺はこの高級そうなやつも愛護団体の一人で、また何か怒られるかもしれない。

 だが俺の予想とは異なり、男性はニコッと笑い俺に温かい救いの手を差し伸べた。

「知らなかったことはしょうがないじゃないか。ほら、パン食って元気出せ」

 男性はこんな俺に、大きいパン2つと美味しい水を手渡した。今の所、アリエットよりかなり有難い(うれしい)。1つは今食べ、もう1つは日が暮れてからにしよう。直径15cmほどのパンをあっという間に平らげた姿を行商人が見ると、何故か固まっていた。しばらくして木を取り直すと、白馬を連れて別れを告げ、行商人は喧騒のゆく方へ歩いていった。


=====


 数十分後。俺は桃源郷の中心部に来た。道が入り組んで彷徨ったが、直感で動いた結果そんなところに至ってしまった。草木が俺を囲う道中より断然マシだが、帰り道がどこかは道中よりわからなくなった。すると、地面から虫のようなものが出てきた。

「ガーーー!!」

 全身赤黒い、まるでクランベリーを虫化させたような虫だ。全長は大体20cmほどで虫にしては大きいが、後から小さい同じような虫 ———今度は全長10cmほどのやつが5匹。白黒の眼差しで俺を睨みつけてくるが、さっきと同じように剣を体にぶち当てる。しかし俺の剣は通らなかった。体が鋼のように硬いのだ。そして、

「かっっっっゆっ!!!」

 慌てて下を見ると、赤い悪魔が、額のツノを足首やアキレス腱に刺している。

「刺すな刺すな!お前ら蚊かよ!!吸血してんじゃねーよ!!!」

 そんな心のうちを言葉にして発するも、虫たちが俺の言うことを聞くわけがない。しかも、さっき(・・・)より殺気(・・)が増している気がする(これは駄洒落ではないつもりだ)。

 PeyPeyの残高に比例する脳みその量で咄嗟に思いついた判断が、これだ。

 “ガン!!“

 思いっきり、硬くない場所を蹴った。大きい個体が宙を舞い、背中の鋼から地面に仰向けに倒れた。

 そのチャンスを逃すまいと剣を腹に振り下げる。

「ガッ」

 大きく、短い断末魔を小さいものは聞いていた。そいつらも同じように蹴り、腹に短剣を当てた。

 それは同じようで、小さくなり煙のように消えていった。


=====

〔ヒドナーン〕


・ベリーのような赤みを持ち、背中がとても硬い、集団で行動する虫。

・額のツノはかゆみ成分を持ち、吸血すると体力が回復したり、活気が増したりする。

・倒すことで経験値を500得られる。昼夜問わず、体長20cmほどの猛皇ヒドナーン(経験値は800)が出没することがある。

=====


 俺が倒したのは猛皇とその子分だった。何気に初めての猛皇だ。ラドルミアを倒した時は気付いてなかったが、流石にもうLV.2か3ほどには達しているだろう…という、確かではない予感があった。経験値が稼ぎやすくなる能力(コマンド)——— 経験の剣(エクスソード)があるから、もしかしたらLV.5にも到達しているかもしれない。ウキウキでスクリーンを投影させたとき、俺は固まってしまった。


『 高梁 怜哉 LV. 1() EXP:0() 次のレベルまで:300 EXP』


 …経験値……増えてなくね?

 おいおい、ちょっと待てよ。この機械、数学どころか算数すらできないのか?今まで倒した分を合わせると、少なくとも3000近くはEXPが溜まっているはずだぞ。バグ以外あり得ない。折角の猛皇で経験値を稼ぐチャンスだったのに。全部水の泡じゃん。しかもヒドナーンの背中で剣も少し傷ついたし、いいことなし。おまけに敵の素材は得られず、しばらく林から抜け出せないという2つのご褒美付き。いらねぇよ。これはもう抗議しに行くしかない。だけどその道がない。

 俺は2時間、城下町への希望を見つける残業に取り掛かったが、全く敵と道を見つけられなかった。ただその代わり、光を得ることができた。そこまで真っ直ぐ向かえば、いずれは街に辿り着ける(はず)。そうに違いない。逆にそうでなかったら困る。コンビニの安月給じゃないんだからさ。


 俺はただ一直線に、希望の光を掴むために走りに走った。細い木に体が当たったり、草が皮膚を傷みつけたりして、まるであのオオカミや赤い虫が草木になって再び襲いかかってきたように感じた。がむしゃらに走り、希望の光をようやく掴むことができたときには、治癒なしには生きられない程度の怪我をしていた。擦り傷と切り傷、そして打撲の3点セット。いや、怨念の虫も合わせると4点セットか。道を探す暇が省かれた代わりに大打撃を打たれる。結局、どっちに転んでも悪いことしか起きないのだ。少なくとも、あの虫にはもう会いたくない。猛皇なんて以ての外(論外)だ。

「はぁ…はぁ……ふぅぅ……… もう疲れた……」

 肩で呼吸し、諦めの姿勢をとる。もし今頃経験値が溜まっていれば、LV.5くらいにはなっていたはず。特急料金さえ稼げていないものが、雑誌とほぼ同等なものになると思うと、周りの探索者に羨望の眼差しを向けたくなる。もう今日はでかいパンを半分食って寝て、明日アリエットにクレームをぶつけるための体力を備えておこう。一筋縄じゃ行かなそうなやつだからな。

失敗して縫った糸は、解いておかないとな。喧騒の布に通った針をスッと抜き、布に絡む糸を滑らかに解いた。桃源郷(地獄)に入る前にアリエットから貰った鍵に、俺の新しい寝床の住所が書かれている———が、どうやら俺の家はカメレオンみたいだ。とりあえず、俺を家に入れさせてくれ。


1時間ほどの間違い探しを終えた後、俺は寝床を確定させることができた。団地入って3列目の、中心道路から17番目に近い家。団地入って…3列目…の、中心道路から…え~っとなんだっけ。あっ、17番目に近い家。団地入って…あん列目の…え~っと…中心道路から……何番目だったっけ。

正直そんなことはどうでもいい。また迷ったら、一軒一軒見ていけばいい話だ。時間はかかるが。

重要なのは部屋の内装だ。あんだけでかい宮殿とでかいパンがあれば、それ相応の裕福な部屋が俺を待っている(と考えるのが普通)。

もうすでにドアノブから古いけど、まあ中は新しくなってると信じたい。まあ読者のみんなは気づいてると思うけど、こんな楽観的思考がいつまでも続くわけないよね。けど、俺は鈍感だから何もわかんなかったんだ。


「…んなぁ?」

数時間前に出した声が蘇ってきた。蘇るものが違うのよ。俺の精神や体力を蘇らせてくれ。そんな言葉どうでもいいから。

俺の視界に映っていたのは、豪華なダイニングに柔らかいソファ、高級な木目調のキッチン、壁掛けテレビに濃い緑の観葉植物などの、いかにも『人生勝ち組』が住みそうな部屋………な訳もなく、床は古びた木目調。ところどころ縫い直されたソファと、かなり古いキッチン。部屋の端にはうっすい布団がご丁寧に畳まれていた。テレビ?観葉植物?そんなのあるわけない1LDKの部屋。どうやら神様は、人々に配る幸福度の配分を非常に大きく間違えたらしい。いや、そうに違いない。秤を破壊したら、俺にも幸福度が少しはついてくるだろう。フローリングもされてない茶色の床に、白い右足の靴下をつける。現実世界の6月というのに、地面にするつもりの木材はまるでアリエットの態度だ。

古い木製の椅子をガラガラと引いて座ると、反った木がギシギシと軋む音がした。この不協音がどこまでの人々を不快にしているかは知ったことではない。ただ考えても仕方ないので、行商人がくれたパンを半分に割って片方食べる。綺麗で透明な水筒に入った ぬるい水を喉に流し込むが、今になって行商人から高級そうな水筒ごと貰ったことに申し訳なく感じた。


もう今日は遅い。そうして俺はまるで床と一体化したような布団を広げ、眠りについた。


1日目:END


=====


〔現在の怜哉のステータス〕


・所持金: 0円(翌朝700円入金予定?)


・レベル: 1(EXP: 0)


・装備: 刃こぼれした短剣


・所持品: 巨大パン、水


・状態異常: 「痒み LV.2」、「人間不信 LV.7」


=====

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ