Ep.17ーハクー
お読みいただきありがとうございます。
「そうね・・・。フリーゲって知ってる?」
「もちろん」
フリーゲ・ウッドハイゼン。魔法学においてその名前を知らない人はおらず、亡き今も最高峰であり続けている、実在した伝説。
その研究により、魔法技術は大きく向上し、空間すらもを操れるようになった。彼の開発した基礎魔力回路によって、魔法は魔法使いたちのものだけではなくなり、魔導具として誰でも使えるものになったのだ。
「そう、そのフリーゲ・ウッドハイゼン。私の教え子なのよ」
「フリーゲが!?」
弟子がいるのはおかしくない話だけど、フリーゲは想定外。
「宮廷魔法研究所に受かって独り立ちするまでなのだけれどね」
ってことは、フリーゲが大成するための基礎を叩き込んだのは、リューだということだ。
はあっと息をついて座り込んだリューが語る。隣で私は壁にもたれて聞いていた。
「最初は、スラムで死にかけていた可哀想な子供を助けてあげただけだったのよ」
フリーゲが亡くなったのが百年ほど前。人間だから寿命は約百年だと考えると、だいたい二百年前か。まだまだ戦争の傷跡が大きかった時代だ。
「でもその時は孤児院とかもなくて、安心して解き放てる場所なんてなかったでしょ。だから拾ったはいいものの、どうしようかと思っていたのだけど・・・。そしたら私が書きかけだった重複式を自力で最後まで書き上げていたのよ。その時机に広げてあった資料だけでよ」
「天性の才能・・・」
重複式は同じ式を重ねがけすることで、さらに出力を増やしたり威力の増した魔法にすることができる式だ。代表的なのが、Aランクの飛び級試験のときに真似されていた業炎。あれは同系統の炎陣で重複式を組んだ結果、内部にまで炎を満たせるようになった。
「そう、才能よ。本来はなんども組み方を変えながら最適な魔力回路を見つけ出さないといけないものだったのに、フリーゲは一目でその全てを計算し尽くしていたの。・・・思ったわよ。私がいくら年数を積み重ねていても、選ばれし天才には叶わないんだなって」
・・・なにも言えない。だって私にも同じようなことはあるから。
『今のは?』
『左へ振り下ろした後すぐに切り替えて足払い。その後右へ斬り込んでいました』
『当たり。・・・良い目をしてる』
『目だけですので』
あの子も。・・・努力量も半端ではなかったけど、なにより元の素質とセンスがあった。
「私たちはひたすら努力を続けているだけ。でも、天才というのはその努力を飛び越えてくる。・・・そういうものだよ」
「・・・そうね。で、最初は偶然だと思っていたのよ。でも、立て続けに五回、『できました!』って同じように見せてくれたの。流石にこれは不思議だと思って、試しにフェンネ論を解かせてみたら、一日でマスターしてきたのよ。」
フェンネ論。結界式の入門として学ぶ理論だけど、入門だからこそ、結界式という概念を完璧に理解できていないと難しい。かつて魔塔の入塔試験でも、フェンネ論は必須項目だったはず。
「それからは私の持っていた知識を、時間の許す限り叩き込んだわ。各時代、各地域で使われた式とその特徴、そして応用。全てを教えたわ。その時に教えたのがあの式なのよ。自作したものだけど、何十年もかけて書き上げたものだったから、自信はあったわ。現にあの子でも全てを理解することはできなかった。それ以来話したことはなかったから、てっきり忘れたものだと思っていたのに・・・。まさかこんなところで見ることになるとは思わなかったわ。丸暗記してたのかしらね」
今、リューの脳裏には、当時の様子がありありと浮かんでいるのだろう。フリーゲにとって、あの結界式はリューが存在した証だったはずだ。
「じゃあこの先にはフリーゲが残したものがあるっていうことか」
「そうね。行きましょう」
そう言って、リューは立ち上がった。




