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再演  作者: らいと


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第48章 調査

貨物室から回収された積荷の調査は、機体の調査と並行して進められていた。


 高熱による損傷が激しく、外装やラベルの多くは焼け落ちている。


 それでも、残された刻印や内部部品から製造元を特定し、メーカーへの照会が進められていた。


 ほとんどの積荷に、問題はなかった。


 企業名。


 商品名。


 型番。


 仕様。


 確認できる範囲では、メーカー側の記録と一致している。


 だが、その中にいくつか、照合できないものがあった。


「これは?」


 調査員が資料をめくった。


「メーカーから回答が来ています」


「製品は?」


「企業は存在します。ただ、この型番を製造した記録がないそうです」


「読み違いじゃないのか?」


「メーカー側にも画像を送っています。刻印自体は間違いないと」


「偽物は?」


「可能性はあります」


 調査員は次の資料へ目を移した。


「こっちは?」


「製品そのものは存在します」


 画面に、メーカーの商品資料と回収品の画像が並ぶ。


 企業名。


 商品名。


 型番。


 外観。


 そこまでは一致していた。


「同じじゃないか」


「内部です」


 回収品の内部画像が拡大された。


「一部の構造が、メーカーの仕様と一致しません」


「改造品?」


「その可能性も調べています。ただ、メーカー側には、この仕様で製造した記録はないそうです」


「他には?」


「同じようなものが、いくつか」


 調査員は資料を見直した。


 問題なく一致するもの。


 存在しない型番。


 同じ商品でありながら、内部構造の異なるもの。


 それらが、同じ貨物室から回収されている。


「……上に報告しよう」


「はい」


「推測はいらない。確認できたことだけでまとめてくれ」


「分かりました」


 資料は整理され、上層部へ送られた。


 数日後。


 会議室の机に、調査資料が置かれていた。


「メーカーへの確認は?」


「継続しています。現時点では、偽造品や改造品の可能性も排除できていません」


「試作品や記録の不備は?」


「そちらも確認中です」


 一人が資料を閉じた。


「なら、まずそこを調べる」


「はい」


「機体との関連は?」


「現時点では判断できません」


「それでいい」


 男は机の上の資料に目を落とした。


「機体は機体。貨物は貨物として調べる」


「はい」


「ただし、新しい事実が出たら必ず照合する」


 担当者が頷いた。


「公表は?」


「まだ早い」


 短く答える。


「説明できないからといって、説明できないものとして扱うな」


 会議室が静かになった。


「説明できる可能性を、先に全部調べる」


「分かりました」


 会議は、それで終わった。


 報告書の一部は、関係機関にも共有された。


 さらに数日後。


 浅田正人は研究室にいた。


 パソコンで観測データを確認していると、メールの受信を知らせる表示が出た。


 差出人を見て、浅田は手を止めた。


 大学時代の学友だった。


 先日、旅客機について問い合わせた相手だ。


「……来たか」


 メールを開く。


 文章は短かった。


 ――詳しいことは話せない。


 ――公表されていない内容も含まれている。


 浅田は読み進める。


 ――お前が最後に聞いていたことについてだけ答える。


 そこで、一度文章が切れていた。


 ――機体以外にも、調べられているものがある。


 ――貨物だ。


「……貨物?」


 積荷の大半については、製造元や製品が確認できている。


 だが、一部に照合できないものがある。


 実在する企業の製品でありながら、該当する型番の製造記録がないもの。


 商品名も型番も一致しているのに、内部構造の一部がメーカーの仕様と異なるもの。


 浅田は画面を見つめた。


 ――偽物や改造品の可能性も含めて、現在も調査中らしい。


 そして最後に、


 ――これ以上は、今のところ話せない。


 とだけ書かれていた。


「…………」


 浅田はメールを最初から読み返した。


 ほとんどは一致している。


 企業もある。


 商品もある。


 その中に、製造された記録のないものが混じっている。


 さらに、同じ商品なのに中身が違うものまである。


「……どういうことだ」


 偽物かもしれない。


 改造品かもしれない。


 記録の間違いかもしれない。


 どれも、まだ否定されていない。


 浅田は椅子にもたれた。


 視線の先には、正司が残した資料がある。


 しばらく見つめた。


「……間宮」


 正司が残した仮説。


 以前なら、あまりにも飛躍していると思った。


 今でも、証明されたものは何一つない。


 それでも。


 浅田はメールへ視線を戻した。


 ――商品名も型番も一致しているのに、内部構造の一部が異なる。


 その一文を、もう一度読む。


 浅田は何も言わず、画面を見つめていた。

その夜。


同じ頃


 浅田舞は、自宅のパソコンに向かっていた。


 画面には、いくつかの観測データが開かれている。


 舞はその一つをしばらく眺めたあと、別の画面を開いた。


 海外の大学にいた頃の同期へ、メッセージを送る。


『久しぶり。ちょっと確認したいことがあるんだけど』


 返信は、思ったより早かった。


『珍しいね。どうした?』


『そっちで使ってる宇宙望遠鏡のデータについて聞きたい』


『何の?』


 舞は少し考えてから、観測対象を入力した。


 しばらく返事がない。


 やがて、


『あるよ』


 と返ってきた。


『見せてもらえる?』


『研究用?』


『うん。比較したいデータがある』


『何と?』


 舞は隣の画面へ目を向けた。


 そこには、こちらの新型で得られたデータが表示されている。


『こっちの新型』


 少しして、ファイルが届いた。


『条件も一緒に入れてある』


『ありがとう』


 舞はファイルを開いた。


 宇宙望遠鏡による観測データ。


 観測時刻。


 波長。


 露光時間。


 補正条件。


 一つずつ確認していく。


 それから、こちらの新型で得られたデータを開いた。


 二つを並べる。


「…………」


 舞の手が止まった。


 もう一度、条件を確認する。


 解析方法を変える。


 補正前のデータまで戻る。


 それでも。


「……やっぱり」


 舞は椅子を引き、画面へ顔を近づけた。


 同じ天体を観測したデータ。


 別の機器。


 別の場所。


 それなのに――。


 二つには、同じ特徴が現れていた。


 舞は同期とのメッセージ画面を開いた。


『これ、そっちではどう見てる?』


 返信はすぐには来なかった。


 舞は待ちながら、二つのデータをもう一度重ねた。


 数分後。


 画面に新しいメッセージが表示された。


『舞』


 続けて、もう一つ。


『そっちでも出てるの?』


 舞は、その文字を見つめた。


 指をキーボードに置く。


 だが、すぐには返事を打たなかった。


 画面には、異なる二つの観測機器が捉えたデータが重なっていた。


 舞は小さく息を吐いた。


「……お父さんに見せた方がいいか」


 もう一度、画面を見る。


 それから舞は、データを保存した。

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