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先輩方

 薊学園は生徒数が少ないので部員はいつでも争奪戦である。

 入学式を終えて交流会を終えて初めの頃にあった緊張は段々と無くなっていき静かだった教室に会話が溢れるようになった頃だった。

 新入部員を求めて部活紹介が始まった。

 運動部は野球部、サッカー部、バスケ部、陸上部にテニス部と卓球部。

 文化部は合唱部、文芸部、華道部と美術部。

 生徒数が少ない薊学園の部活は常に新入部員を求めているらしい。必ず何かするようにとは言わないため帰宅部もあるはあるらしい。

 一つ一つの部活が自分達の魅力を紹介していく中で高校に入ってもサッカーを続けるかどうかは悩んでいた。そこまで情熱があってサッカーをしていた訳ではないし高校はのんびりなんなら部活に入らなくても構わないかもしれないと思っていた。

(でもなぁ)

 実家からサッカーボールが送られてきたのだ。家族は高校に入っても続けるものと思っているらしくもうやらないかもとは言えずにいた。

(入ってもいいかな、そんな厳しくなさそうだし)

「続いては美術部です」

 部活紹介も終盤になった頃、美術部の紹介になる。

 美術部って何をするんだろう。ずっと絵を描いているのか。何かコンクールとかあるんだろうか。入賞したら賞金とか貰えるのだろうか。

(あ、あの外人の先輩)

 舞台に上がってきたのはあの金髪の男子の先輩。それと同じ美術部員であろう先輩方が布のかかった長方形の大きな荷物を運ぶと、赤いネクタイを締め直してゆっくり舞台の上にそれを置いて布を取り去る。

「…うわすげぇ」

 舞台の上にあったのは一枚の絵画だ。

 風景画だろうか、燃えるような朝日が描かれており本当に熱を感じるようなそんな一枚だ。

 同級生達がその絵を見て感嘆の声を上げていると絵を支えるのを任せて外人の先輩が前に出る。

「一年生の皆さん。こんにちは。美術部部長の三年、野崎楓と言います」

 前に立つのが慣れていないのかやや緊張した面持ちで三年生の先輩、野崎先輩は話す。

「僕達美術部の活動内容は名前の通りです。自分達の作品を作りコンクールに出したりしています。部員は僕を含めて三人で…新しい絵を描いてくれる部員を求めています」

 三人、そしたら今舞台に上がっているのが全員なのか。

「運動部のように注目される事は無いかもしれません。でも、この絵を見てどう思いましたか?見た瞬間何か…心が動いたと思います」

 その絵は現部員の三人と卒業した三年生との共同作品らしい。

「スポーツと同じ様に見た人の心を動かし形として残り続けるのが絵画です。この絵を描いた先輩が僕達がいたと言うのが残り続けます。そんな風に心を動かして形に残る物を作りましょう。入部、待ってます」

 野崎先輩はそう言って頭を下げた。

「あ、それと」

 部活とは関係無いんですけどと前置きして話す。

「見た目で分かると思いますけど僕は外国人の血が入ってます。母親がイギリス人でして…皆と違う容姿だけど中身は普通に日本人なので警戒しないで気軽に話しかけて下さい」

 あ、そうなんだ。確かに喋り方は完全に日本人だなと納得していると全部活の紹介が終わった。

 さてどうしたものかな。


「何か部活入るか?」

「そうだな…」

 部活紹介が終わった後に入りたい部活があれば入部届けに記入して先生に持ってくるようにと言われた。

 亜季、はいつの間にか教室からいなくなっていたため東と話すと東もまた部活をどうするか悩んでいた。中学の頃のようにテニスを続けるのかと話せば本人はあまりやる気が無いらしく文化部でもいいと思っているらしいが惹かれる文化部も無いと言う。

「うーん…またサッカーやるかな」

「いいんじゃないか?俺は…いいかなテニスで…道具あるし」

「持って来てたのか?」

「親が荷物に入れてたんだよ。多分俺が続けると思ってたらしい」

「そんな熱心に活動してはないみたいだぞ」

「お、遼一」

「よう弘忠」

「あれ?そんな仲良くなったの?」

 東とはほぼ友達のような関係になっていたと思うがごく自然に会話に入ってきた三井がごく自然に東の下の名前を呼んで親しげにしている。

「まあな。こいつ…弘忠何か面白そうだし」

「面白そう?」

「訳が分からないよな。でもまあ話してみたら気が合うんだ」

 面白いと言われた東が半笑いで答える。

「そうなんだ」

「近藤も仲良くしような。連絡先交換しても?」

「あ、オッケーオッケー」

 鞄から携帯電話を取り出す。まだまだ操作に慣れておらずどうしていいか分からずにいると、三井が教えてくれる。

「番号言ってくれ。そんで俺から電話かけるから」

「分かった。090の…」

「…よし、電話かけるぞ」

 言われたと同時に携帯電話の画面に知らない番号が表示される。これが三井の電話番号か。

「これ登録すればいい?」

「そう。それが俺の番号」

 電話帳に三井の名前を登録しておく。それと一緒に登録したいのなメールアドレス。

「メアドは?」

「待って、メモ渡す」

「メアドも簡単に登録出来りゃいいのにな」

「確かにな」

 三井がノートのはし切れを破りメールアドレスを書いた紙を渡してくれる。これを間違えずに入力してメールを送る。アドレスの登録を間違えて何度かエラーが出てきて三井に確認してもらいながら送信が完了した。これでお互いのメールアドレスが分かる。

「何かあったらメール送るわ」

「何かあったらメールして、変なのは送らないで」

「まあそれも考えておく」

「変なのっつたら…見てくれ噂の不幸のメールが来たんだが」

「誰から?」

「知らんアドレス」

 そう言って怪訝な表情の東が見せたのはこのメールを何人の人に送らないとあなたは不幸になりますと言うメールだった。何だこの怖すぎるメールは。

「あー…はいはい」

 三井はその画面を見て半笑いで頷いていた。何を笑っているのかこんな恐ろしいメール、東も平気な顔をしているがもしや内心怖くて自分達を頼ってるのではと気付き、覚悟を決める。

「…東。俺に送っていいぞ」

 同級生、いや友達が不幸になるならまだ自分が引き受けよう。そう覚悟をすると東は怪訝な表情のまま首を振った。

「いや送らねぇよ」

「何でだよ。不幸になるんだろ?」

「そんな訳ないだろ」

「何でそんなの分かるんだよ」

「どうせイタズラだろ。お前…チェーンメールって知ってるか?」

「チェーンメール?」

「こう言う不幸になりますよとか…人の恐怖や善意に付け込んで送られる迷惑メールだよ」

「へぇ」

「携帯電話は持つの初めてか?」

「初めて」

 東と三井は中学の頃から携帯電話に触れていたらしくこう言ったメールは知っていたらしい。何の意味があるのか意味なんて無いだろう。イタズラや人が慌てる様が見たいのか不幸になるなんて恐怖心を煽るような文面を作り上げてばらまかれている。

「こう言うのはな、無視するのが一番だ」

「いいのか?」

「いいんだよ。それにお前…近藤の携帯にこの不幸のチェーンメールが来たら、自分が助かりたいためにこのメールを俺達に送るのか?」

「送らない」

「そう。それでいいんだよ」

 三井がよく出来ましたとまるで子どものように扱ってくれるのでつい顔をしかめてしまった。すると彼はごめんごめんと笑って謝る。

「ちなみに他にもあるからな」

 三井が詳しく教えてくれる。

「他にも?」

「募金して下さいとか、芸能人がやって来ますとか」

「そんなのが?」

「嘘つきのメールだよ。そう言うのも来るから無視無視」

「うわ…こんな便利な物手に入れたのに…そんな面倒もあるのか」

「インターネットも迂闊に使うなよ」

「それは姉ちゃんから聞いた。やばい料金になるから使うなって」

 携帯電話にかかる料金に関しては先に使っていて詳しい姉から家計の負担にならないようによく教えられていた。当初は学校のパソコンでしか出来ないインターネットを携帯でも出来るのかと思い浮き足立ったが姉からそれを軽い気持ちで使うとこうなるとじっくりゆっくり教えられた。

「近藤は知ってると思ったな」

「何で?」

「何か、都会っぽい感じがしたから」

「え?俺が?……そうかな?」

「まあ何か派手だったしな」

 寮に入るために集合した駅で何だか赤い髪をした派手な男がいると思っていたらしい。あんな髪の奴が田舎にいるとは思わないしだからまあ都会のやんちゃな男子だろうと思っていたと。

「だからいざ話したら素朴な純朴な子だったな」

 三井がそう微笑んで言うが。

「褒めてる?」

「貶してはいないよ」

「…あ、そう」

「それと…聞きたいんだけどさ」

「何?」

「俺、バスケ部に入ろうとしてるんだけど…須田は何部に入るって言ってる?」

「亜季?」

「何か仲良そうだからさ」

 聞いてないかと尋ねられて俺は何も聞いていないと答える。

「そっか」

「気になるのか?」

「一緒に入ってくれたらいいなって」

「なるほどな…」

「須田見かけたらそう言っておいてくれよ」

「分かった」

「あいつ壁作ろうとしてるから」

「…分かった」


 わざと距離を空けてわざと人と離れているんだろうな。上手く出来てはいないけど。


 そう言って東と三井は授業が始まると同時に教室に入ってきた須田を見た。視線に気付いていない須田はそのまま席に座って授業の準備をしていた。


 薊学園の裏には森がある。自然豊かな環境で静かに準備を受ける事が出来るが、自然ばかりだと退屈する生徒も勿論いるだろうと寮から学校とは反対方向に歩いて行くとコンビニやカラオケがある町に着く。バスに乗る必要もあるが大きなショッピングモールに行く事が出来るので遊ぶ場所もあると言う。

 ただショッピングモールまで行く時は外出届けを出して何時までに戻るように事前に教えないといけない。外出届け無しに出掛けると怒られる。怒られるだけらしい。

 ただ流石に何回も続くとそれなりの処分があるらしい。

「…そう言ったよな?」

「まあ…うん」

「今度やったら反省文五十枚書かせるぞ」

「五十…!?」

「停学じゃないだけいいと思え!」

 そう放課後の教室で怒られていたのは安東だった。何でも入学前に慌てて寮で履くスリッパを買いに無断で外出して入学後に漫画を買いに無断外出。

 今回は三回目になるところを先輩に声をかけられて新島先生に伝わり説教。それを知り東と三井と三人で暇潰しに話しながら帰る準備をする。

「何してんだが」

「今回何しようとしたんだ?」

「何かお菓子買いに行こうとしたとか」

「…そしたら近くのコンビニでいいだろ?あそこなら外出届けいらないし」

「ショッピングモールで何か特別なやつ買おうとしたんだって」

「何で?」

「須田にでもあげるんじゃない?」

「…あぁ」

 あからさまに須田に好意向けてるもんな。

「……」

「なあところで部活の件…」

「先帰ってて」

「?うん」

「それじゃ寮でな」

「寮でなー」


 須田はいつも寮には真っ直ぐ帰らず学校で時間を潰してから夕飯の時間近くになって帰って来る。学校から真っ直ぐ寮に帰ると部屋を訪ねられる(主に安道)を避けるためだろうか。

「……お」

「近藤?」

「和田?」

「ん?お友達?」

「あ、こんにちは」

「こんにちは」

 何だかんだ三井がバスケ部に誘っていると言うのを言えないままでいたため姿を眩ます須田を今日はきちんと探そうと一人、校内を歩いていると和田とその隣にあの美術部の先輩がいた。

「美術部の…えと」

「野崎楓先輩だよ」

「よろしくね」

 近くで見るとやっぱり外国人の血が入っているから背が高い。自分が170センチぐらいだから野崎先輩は…180センチを越えているだろう。それならバスケ部から勧誘が来そうなのに美術部なんて不思議な話だ。

「どうしたの?もしかして…迷った?」

 先輩がそう黙っている自分に微笑みながら聞く。

「いや…人を探してて…てか和田、美術部入るの?」

「考え中。今日は見学しようと思って」

「へぇ」

「彼すごいね。色んな美術館で本物の作品見てきたんだって」

「そうなのか?」

「親が好きでさ、興味あるのと無いの…差があるけどな」

「へー…そうなんだ」

「それで?近藤は?」

「ん?」

「誰を探してるの?」

「あ、あぁ…須田を探してて」

「須田?」

「三井がバスケ部一緒に入らないか誘ってるんだけど…伝えられてなくて」

「須田か…よくいなくなるな」

「そうなんだ…」

 校内を隈無く探してみようと思う。すれ違いになるかもしれないが、それでも探してみると告げて二人から離れようとすると野崎先輩に止められる。

「はい?」

「この学校ね。一人になりたい時にうってつけの場所があるんだ」

「うってつけの場所?」

「四階の物置になってる空き教室。鍵もかけない場所だから見てごらん」

「四階…わ、分かりました。ありがとうございます」

 手を振りながら和田に部活見学の案内を再開した野崎先輩に頭を下げながら言われた通りに四階に向かう事にした。


 ここは田舎だな。

 少し行けば町へは出られるが何だか隔離されているようだった。

 飛行機でやって来て学園の寮に向かう途中でどんどん自然豊かな景色になっていく様子を見ながらそう思っていた。

 学園に到着して周りにいる彼等は自分と同じなのかと思ったがどうやら違うようだ。

 四階の物置で埃の被った椅子を軽く掃除して座り赤いネクタイに触れて思い出す。

 近藤はネクタイの結び方を父親に教わったのだと。自分はそんな風に教えてくれる父親では無かったし、自分が同性愛者だと分かった日からは本当にまるで最初から存在していなかったように扱われていた。

 そう経験していたし、そう扱われるのは当たり前だとも理解していた。

 そしてこの学園に来た同級生は皆、自分と同じ様な扱いを受けたのではないかと思っていたが違うらしい。


 自分に正直になりながらきちんと愛されている奴がいる事に愕然としてしまった。

 そしてそう感じる自分に嫌悪してしまう。


 友達になろうと親しくなろうと近付いて来るのも感じるが、それと同時にこいつは親に愛されているんだろうなと言う事実がひどく自分には突き刺さる。

 そう思うなら一人でいいかもしれない。


「帰りたい…」

 けど帰る場所がどこにあるのか。

「あんまり長居するのは良くないぞ」

「!?」

 大きなため息を吐くと扉の向こうから知らない声が聞こえて驚き転びそうになる。

「掃除してないから埃がな」

 扉を開けて中には入らずにそこに立っていたのはブレザーではなく指定のジャージを上に着て青いネクタイをしている黒髪の男子の先輩だ。

「す、すいません。すぐ出るんで」

「いいよ別にのんびりしな」

「はぁ…」

「まあここはな。一人になるにはうってつけだから…君みたいな悩みを持つ若者にはいい場所だろう」

「……」

「悩みがあるんだろ?」

「…すいません。寮に戻ります」

 椅子から立ち上がり足早に戻ろうとしたがジャージの先輩からまあまあと言われて椅子に逆戻りしてしまう。何なんだこの馴れ馴れしい先輩は。声をかけた時から口角を上げていて人の良さそうな印象は受ける。

「一年生?」

「はい…一年の須田亜季です」

「俺は二年の柊、柊要(ひいらぎ かなめ)先輩よろ」

「はあ…」

「えらい暗い顔してるな。ここでのんびりしようとしたら先客がいた。君だ」

「…はい」

「先客がいるなら仕方ないと、行こうとしたけどあんまり暗い顔をしているからな」

「そんな、暗いですか?」

「まあいるけどな。そういう顔をしてる奴」

「え?」

「ここって同性愛者が集まるだろ?」

「はい。だから俺も」

「それってどうして知った?」

「え?学園の関係者が通ってた中学に来て…」

「その前にその人が来るには須田君が実は…って関係者に伝えた人がいただろ?」

「……中学の担任の先生が言いました」

「その担任は須田がそうだと知られるきっかけがあったろ?」

「……」

 あった。

 思い出したくもないあの日常が変わった日の事。同級生の間で知られたそれを担任も同級生から聞かされたのか聞いたのか知らないが。

「ここに来る奴は、色んなきっかけで自分の恋愛対象を知ったり知られたりする。それが周りの耳に入ってその事を知った奴が周りに吹聴して…学園の関係者の耳に入る」

 そのきっかけが穏やかである事もあるが、そうはいかずに様々な衝突や複雑な事情を経てここへ来る者もいる。

「暗い顔をしてるって事は君は後者だね」

「……まあ、はい」

「その知られるきっかけになった出来事やその後の事がずっと君を暗くしてる?」

「……それもあります」

「そう。…どうする?辛かったんだろうねって慰めようか」

「結構です」

 その言葉に思わず立ち上がり見下ろしてしまう。ジャージの、柊先輩は見下ろされながら自分と目を合わせて微笑んだ。

「どうして?」

「それは…」

 それは何だか弱い者のように扱われているようで気分が良くない。

「慰められるのは違う?」

「…違う思います」

「それじゃあどうしようか?どうやったら暗い顔から明るくなるか」

「…分かりません」

「分からないよなぁ」

「え?」

 解決策を教えてくれる訳ではないのか。

 思わず驚いた顔で見下ろしたままでいると座るように促されて大人しく従う。

「人の数だけ悩みや悲しみはあるから。あいつはあぁしたら明るくなった。だからこいつにもこうすれば明るくなるはずなんて、限らないだろ?」

「まあ、そうですね」

「だから君の暗い顔は俺が慰めの言葉や“きっと大丈夫だから”なんて気休めの言葉ではどうもならない。違う?」

「違いません…」

「人には人の数だけ立ち直る方法がある。それがいつ分かるかいつ立ち直れるか、いつ暗い過去から抜け出せるか…さてそれは自分じゃ分からない。焦るとかえってよくないそれなら」

「それは?」

「気楽に生きろ。心配するな。大丈夫と思い込め」

「え?」

「殻に閉じ籠って人と自分を比べてる内はどうもならないよ。暗くなり続けるよりも明るく笑う方が人生楽しいぜ?」

「そんな…簡単に言わないで下さいよ。俺がどんな目に合ったかも知らないのに」

 そんな気楽になれない。心配するななんて簡単に考えられない。大丈夫なんて。

 ずっと認めてほしかった両親からいない存在扱いをされて友達だと思っていたはずの存在も自分がどれだけ傷つけられれても見ない振りだった。

 どれだけそれが悲しかったか、それなのにそんな簡単に割り切れる程単純じゃない。

「そうだな知らないな」

「そうですよ」

「でも、君も何も知らない」

「え?」

「話しかけてくる同級生の事も、先生の事も勿論俺の事も知らないよな?」

 柊先輩は立ち上がり自分より少し高い目線になりながらそう言う。

「君も周りも何も相手の事を知らないだろ?それなのに自分ばかり可哀想だと思って周りを遠ざけるのは孤独を強くするだけだ」

「…別に俺は、自分が一番可哀想なんて」

「傷付きたくもんな、そう思うのも分かる。けど、それだとずっと平行線」

「……じゃあどうしたらいいんですか」

 この過去に受けた傷を悲しみをどうしたらいいですかと拳を握りながら問う。

「だから気楽になるんだよ。心配するな。大丈夫。笑って顔を上げて本来会うはずなんて無かった全国から集まった同級生に心を開いてごらんなさい」

 相手を知って自分を知ってもらう。そうすると不思議な事に居場所が出来る。孤独が解消されるかもしれない。今は届かない慰めの言葉が驚く程するりと入り込んで来るかもしれない。不安や傷を癒すのは負の感情を持ち続けるよりも楽しい感情の方がいいに決まっている。

「………」

「まあ須田君のペースでやってみな」

「……先輩は」

「ん?」

「先輩はそうだったんですか?」

 そう尋ねると柊先輩はネクタイで遊びながら考えるように黙り答えてくれた。

「内緒にしとくわ。それは」

 なんだそれ。

 不思議な先輩だなと思いながら柊先輩は空き教室から出ていった。

「……」

 椅子に座り考える。

 気楽に。

 心配するな。

 大丈夫。

 ここに来てから同級生に話しかけられて思う。ここにいるなら自分と同じ、それと同時に彼等もまた裏切るのではないかと自分を見えない人間のように扱うのではないかと言う思いも過る。相手を知りもしないのにそんな考えが過るのが嫌で、そして自分と違い愛されて育ったであろう姿に嫉妬する事もある。

 でもそれは、話しかけて来る彼等からしてみれば何の落ち度もない。

 単純に自分が臆病になっているだけだ。

(…寮に戻ろう)

 ちゃんと同級生の顔を見よう。

 そう思い空き教室から出るとそこには近藤がいた。お互い驚いていると近藤から口を開く。

「…ここにいたのか」

「何か用か?」

「いや…部活の話で…三井が亜季をバスケ部に誘ってるんだけど…どうだ?」

「俺を?」

「そう。亜季を」

「…バスケ」

 父に勉強に集中するように言われて止めたバスケ。また始めるかどうか、始めたところで父に何て言われるか…。

「…ん?」

「え?」

 何でここにいない父の機嫌を伺わないといけないのか。そんな心配する必要あるのかとふと思う。

(あ、何かいいか)

「亜季?」

「入る」

「え?」

「バスケ、またやるわ」

「え!三井そしたら喜ぶな!」

「そんな大袈裟な」

「よし!そしたら早く伝えよう!寮に帰ろうぜ!」

 自分とは関係の無い事に喜ぶ近藤が寮に早く帰ろうと急かしていた。

(あいつ、クールな奴かと思ったけど分かりやすいな)

 あんな赤いメッシュ入れて目付きもややきついのに子どもみたいに分かりやすく変わる様子が何だか笑えて、その変わる様子を見逃さないように並んで寮まで戻り、入学してから初めて誰かと肩を並べて帰る事が出来た。

 

 薊学園九期生、和田月人(わだ つぐと)

 東京都出身。黒髪に大きな目をした可愛らしい顔立ち。都会育ちで田舎に憧れがある。身長160センチ後半。普通体型。

 誕生日は1月25日。

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