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一年生交流会

 毎年学校が始まると新一年は親睦を深めるために球技大会を開催。運動が苦手な生徒もいるのでやや不評。

 新一年生。

 寮に入るために入学式より前に顔を合わせてるけど、まだまだお互い知らない事だらけだな?

 そのため一年生は毎年クラスメイトを知るために交流会をしてるんだ。

 ジャージに着替えて男子と女子に別れてグループを組んでお互いに改めて自己紹介。そして三年間の仲間として絆を深めるためにグループ対抗のバスケットボール大会を開催します。

 グループはランダムに決めるので、男子はこの箱から女子はこの箱からくじを引いて同じ番号の子が仲間になるから。

「三番誰?」

「俺、俺三番」

「俺も三番」

「俺も…」

 そうして始まったお互いの事を知ろう。皆で仲良くスポーツで汗を流しましょうと言う入学してすぐの行事。

 言われた通りにくじを引いて同じ番号で集まったのは自分と安道、東に須田だった。四人グループで男子チームが四組、女子チームが三組。

「しかしバスケか…」

 不安なのか東は顔をひそめていた。

「東は何かスポーツしてた?」

「テニス」

「あー…それっぽい」

「近藤は?」

「サッカー」

「…へぇ」

 俺はサッカーっぽくないのだろうか。東に意外そうな目で見られた。

 須田は何かスポーツをしていたか尋ねようとしたが安道が既に色々聞いていた。

「中学は何部だった?」

「出身どこ?」

「携帯どんなの使ってる?」

「髪の色綺麗だよな。地毛?」

 安道の質問の数に若干須田が引いているのが分かる。何だか気の毒になり二人の間に割って入ってしまった。

「安道は何部だった?」

「俺?帰宅部」

「へぇ。じゃあスポーツとかしたこと無い?」

「んー…得意じゃないな」

 それより須田の話が聞きたいんだけどと安道が再び須田を質問責めにしようとしたが安道の距離の近さに引いている須田がほぼ身長が変わらない自分の影に隠れようとしていた。

「須田…下の名前亜季だっけ?亜季って呼んでもいい?」

「…勝手にどうぞ」

「俺の事は忍って呼んで」

「忍」

「いや…お前じゃなくて」

「俺の事は和彦って呼んで」

「お、おう…」

「東は?遼一って呼んでいいか?」

「何でもどうぞ。好きに呼べ」

「はい。こっちに集まって!準備運動するぞ!」

 集合がかかり親睦を深めるバスケットボール大会の前に準備運動が始まる。ジャージに着替えた新島先生が前に出て怪我をしないようにしっかり体をほぐすように準備運動を教えて男子と女子に別れてバスケットボール大会が始まった。

 総当たり戦らしくそこそこ時間がかかる。

 試合をしないグループは審判をするように言われて一番と二番なグループが試合をしている間、点数番をする事になった三番グループはただただバスケの試合を眺めていた。

「……」

 試合を見つつ須田を見る。安道の質問責めまた合わないように自分の隣に来ている。東も安道から須田を離すのに協力しているらしく何も言っていないのに安道を須田に近づけないように見張っていた。

 隣にいるが話す話題が無いので何となく気まずいままでいると試合をしているグループの中に明らかに経験者がいるらしく動きが違う。ボールを誰にも奪わせずにゴールに入れる動きに思わず声が出た。

「…すご」

 自分と同じ様に須田も声が出ていた。

「…うまいな。やってたんだろうな」

「そうだな…」

「須田は…バスケ出来る?」

「中学二年までしてた…」

「え?経験者だ」

「…二年の時に辞めたけど」

「それ、何で?」

「……」

「…あー…聞いたら嫌な感じか」

「……」

 聞かない方がいいんだろうな。それなら。

 無言は肯定だ。

(とは言え…)

「…その、須田」

「何?」

「まだ会ったばっかりでよく知らねぇから…その、須田が聞かれたら嫌な事って何?」

「…聞かれたら嫌な事」

「だって今みたいに俺知らない内に須田の聞かれたら嫌な事聞いちゃうじゃん?それで須田が嫌ならその…何が嫌か教えてくれ」

 知らない内に俺にたいして不快な思いするのはお互い良くない。それに同級生で三年間共にする仲間だ。少しは仲良くなりたい。

「……近藤は?」

「え?」

「近藤は何が聞かれたら嫌?」

「…えーっと」

 聞かれて思い出したのは中学の時のいじめで不登校になった記憶だろうか。登校を再開出来たとは言え辛い時期であったため思い出すと気分が沈む。

「中学の頃の話かな」

「だけ?」

「だけ」

「へぇ…」

「須田は?」

 自分は答えたし須田はどうだと尋ねるともうすぐ終わりそうなバスケの試合を見ながら静かに話す。

「同じ、中学の頃の話」

「同じか」

「あと、家族の事」

「ん?」

「近藤はさ」

「うん?」

「家族は…」

「家族は」

「何でもない」

「あ、そう」

 試合終了のブザーが鳴った。バスケ経験者であろう同級生がいるチームが勝ってぎこちなくあった同級生が何だか先生が言っていた通りに絆が深まったのか爽やかな笑顔を見せていた。

「はい!いい試合だったな!次は三番と四番だぞー!」

「と…やるか」

 呼ばれて並ぶと相手チームには和田と三井がいた。運動神経はどうなんだろう。自分はサッカーをしていたがバスケは体育の時間ぐらいしかやった事が無い。見た目だけで決めつけるのはよくないが自分よりも背が低くて大きい目の可愛らしい和田が運動が得意なようにはとても見えない。

 三井はどうだろう。自分との変わらない背丈に大人びた雰囲気の彼が汗水垂らしてスポーツをやっている事があるのだろうか。これを口にしたら怒られるような気がするので言わないがこちらは経験者の須田がいるしもしかしたら勝てるだろうか。


 そう思っていた。


「えぇ」

「強いな」

「ま、待って…」

「……」

 前言撤回。負けそうです。

 和田も三井もこちらが着いていけないぐらいに動く。どう見ても体育の授業や遊びでやってた動きじゃないと思い尋ねると。

「バスケ部の兄さんに付き合ってずっとやってた」

 と言う和田。

「小、中ずっとやってた」

 と言う三井。

 ボールを追うのが精一杯の自分と東。可哀想な程に息切れをしている安道。そして動かない須田。

「一点も入れられねぇ…」

「応援の目が哀れみに見えるな」

 確かに点数番をしている同級生や見学をしている同級生が初めこそは和田と三井の動きに驚いていたが段々と一点も取れないこちらのチームを不憫に思い始めていた。声援も聞こえる。

「和田、三井、手加減しないのか?」

「え?」

「東。手加減して点数を入れる事が出来て…嬉しいか?」

「三井…これは交流会であって真剣な試合じゃ」

「真剣試合だ。手加減無用…コートに立つなら全力でやるのが勤めだ」

「…マジかよこいつ」

 相手チームに手加減を申し出た東が肩を落としている。このままだと本当に一点も取れないまま哀れみの目で見られて終わる。高校生活が始まってすぐにそんな目を向けられるなんて嫌。和彦嫌。

「須田ぁ…」

「何?」

「何、じゃなくて…経験者だろう?頼むよ和田か三井…何なら二人とも止めてくれ」

「……何で俺が」

「だってこのチーム唯一の経験者だろ?俺蹴るスポーツしかしてないんだよ」

「…俺一人動いたところで…」

「頼むよ!頼む!」

 手を合わせてお願いする。何とか動いてほしい。試合が始まってからボールを追うには追うがまったく手を出さない。やる気が無いのかもう感覚を忘れてしまったのかどうか分からないがそれ以外にもただボールを追っているだけの須田に東が少し不満げな表情を見せているのだ。安道は体力の限界が既に来ていてそれどころではない。

 自分達が必死になっているのにやる気の無い態度の須田に嫌な印象を抱いているのではないか。それは…気分が良くない。

「…須田…」

「…だってよ」

「え?」

「このチームの経験者は俺だけだろ?」

「うん」

「そしたら向こうチームの経験者と俺がまあ、やるわけだ」

「俺達じゃ太刀打ち出来ないしな」

「それで俺が負けたら…俺の責任だろ?」

「何でだよ!」

 そんな訳無いだろ。

 思わず大きめの声を上げてしまい両チームの視線を浴びる。経験者同士の戦いで負けたら全責任を負わされるなんてそんな事はしない。あり得ないと首を振る。

「…大体お前が想像するほど俺は強くないし」

「それでも初めから諦めるよりいいだろ?ほら…あの名台詞!諦めたらそこで試合終了ですって」

「だったらもう終了でいいよ。俺には無理」

「負けたら俺が全責任負うから!」

「どうやってだよ」

 話が聞こえていた東が呆れた顔でそう言った。そしてため息混じりに須田を見て話す。

「俺からも頼むよ。絶対何とか勝てなんか言わないしほんの少し抗いたいんだ」

「でももう試合も終わるぞ」

「それでもだよ。それに…だからってそのままコートに突っ立てるか?諦めて何もしないでひたすら終わるの待つよりも何かした方が仲間のためになる」

「仲間って」

「お前が進んで一人になりたいならそのままでいいけどな」

 東の言葉に須田の目が揺れ動いた。ジャージの裾を握る手にほんの少し力が入って俯く。

「…再開するぞ」

 試合も後半。未だに一点も入れられない。

「…須田。俺何とかパス出すから」

「は?」

 出来るのかと言わんばかりに顔を上げる。そうしてまた走り出して騒がしくなる体育館に頑張れと声援が上がっていた。

 あぁもう本当に動きが違う。何でこんなボールを奪えないんだろうか。あっちゃこっちゃに手を伸ばしても掠りもしないのだ。

(それでもな)

 諦めるのは悔しいし後味が悪い。 

 無理だと投げ出してしまうと楽だけどその投げ出した物が結局後から返ってくるような気がする。

 それなら少しでも、少しでも抗う。

 三井にボールが渡ってまたゴールを決められると思い宙に舞ったボールの行方を見守っていると東がゴールの側におり籠から外れたボールを初めて掴んで自分に投げる。

「…わっ!」

 そうして何とか掴んだボールに向かって和田が走って来るのでどこかにどこかにとパスを出す場所を探すと自分のチームのゴールの側にいた亜季が手を伸ばしていた。

「亜季!」

 ドッチボールのボールでも投げるように重いそれを投げるとそれを追いかける相手チームが体力の限界が来てるのに走る安道が相手チームの目の前で転び驚いた相手チームが止まった瞬間に、亜季がバスケの事が分からない自分でも綺麗なフォームでボールをゴールに向かって投げた。


 最後の最後に何とか一点を入れる事が出来た。


「…やったじゃん!」

 試合が終わり結構な点差で負けたが何とか点を入れると事が出来た。ゴールを決めてくれた亜季に駆け寄り思わずハイタッチを求めると若干引いて触れてはくれなかった。ハイタッチは駄目らしい。

 何か猫みたいだな。警戒心が強い猫。

「はい!頑張ったな!お疲れ様!」

 新島先生が拍手をして勝った方も負けた方も称えてくれた。女子はどうなったのかと思うとあの宝塚みたいな女子が囲まれていた。何だか男子顔負けに爽やかな笑顔を見せていて凄まじいイケメンに見える。

「お疲れ様」

「やるじゃん」

 和田と三井がそう声をかけてくれる。亜季は何だか照れ臭いのか視線をさ迷わせていた。

「と言うか…仲良くなったんだな」

「え?」

「いつの間にか名前で呼んじゃってさ」

 三井がからかうように笑いながらそう言う。

 あぁそう言えば確かに咄嗟にだが距離を感じていたので名字で呼んでいたがつい名前で呼んでしまった。

「…すまん。咄嗟で…名前で呼ばれるのはどうだ?」

 視線を合わせない亜季にそう尋ねると考えているのか少し間を空けて返事をされる。

「…好きに呼べよ」

「…それじゃあ俺の事は和彦って呼んで」

「分かった」

「俺は?俺は亜季って呼んでいい?俺の事は忍って呼んで」

「おま、いつの間に…」

 あんなに息切れしていたのにもう回復している。そして亜季の側に来ている。

「いや…その…」

「忍、お前ぐいぐい来すぎだろ」

 警戒している亜季を察して忍から亜季を庇うと新島先生からの集合の合図がかかり助かったと言わんばかりにさっさと集合して新島先生が締める。

「はい。皆いい汗流せたな。全員知らない奴ばっかりで仲良くなりたくても一歩踏み出せないでいただろうけど今日はそんな知らないはずだった同級生と協力して助け合って、ほんの少しでもこの子はこうなんだって事が知れたと思う。これからどんどん皆の事を知っていこう。勿論それは先生もだ」

 それじゃあお疲れ様でしたと終わり、確かに自分が試合をしていない時でも動く同級生を見たり、あいつら運動が出来るんだ。あいつは足が早いんだ。あいつは運動苦手なんだろうなと知る事があった。

 交流会は終わりまだ部活に入っていない一年生は今日はこれで終わりとなり各自寮に戻る事になる。

 自分も戻ろうとするが須田が新島先生の側に寄り何か話していた。するとそれを聞いた新島先生が亜季の手を取り見ている。

「……」


「そしたら保健室行くか」

「はい…」

「亜季」

「…和彦?」

「どうかしたのか?」

「突き指したっぽいな」

「……え?俺のパスのせい?」

 もしかして加減が分からないので思い切り亜季に投げたそれが怪我をさせてしまったのかと不安になる。

「いや、俺も久し振りにやったから…下手くそになってるせいだ」

「痛い?」

「そんな痛くない」

「保健室行くぞ。先生が付き添うから」

「俺も行く」

「一人で行けるよ」

「保健室の場所、分かるか?」

「…あー…」

「俺も覚えたいから一緒に行かせてくれよ」

「んじゃ三人で行くか」


 新島先生と亜季と自分の三人で訪れた保健室。

 保健室と言うものはいつも優しい雰囲気があってちょっとした休憩室のような扱いを中学の頃にしていたのを覚えている。その時は母親ぐらいの年齢の女の保健室の先生がいて小学校の頃も、中学の頃も女の先生だったため高校もそうだろうと思っていたが、違うらしい。

「うん。大丈夫、軽い突き指だから湿布貼ろうか」

 薊学園の保健の先生は男性だった。西野清哉先生は若い、多分前園先生と同じぐらいの年齢で男の先生に言うのは正解なのか…綺麗な人だった。

「ありがとうございます」

「明日も来てね。また診るから」

「それじゃまた連れてきますよ」

「先生、俺一人で行けます」

「担任として責任持って怪我の様子を見る必要があるからな」

「…えぇ」

 突き指を診てもらった亜季と目を合わせる。

(これもしかして)

 もしかしてと言うか確実だろう。

 保健室に入って西野先生がこっちを向いた時に新島先生の顔は明らかに変わった。何と言うか格好をつけた顔をしたかと思ったら破顔したりと忙しい。

「……」

「……」

「新島先生、俺そしたら帰ります」

「俺も帰ります」

「おう、そうか」

「気をつけて帰るんだよ」

「はーい…」

 俺達が帰るんだから後はもう用事は無いんじゃないか。新島先生。保健室に残る理由はもう無いのに保健室に居座り西野先生と話していた。


 亜季と一緒にジャージから制服に着替えて鞄を持ち靴を履き替えて寮へと戻る。その道中。

「…新島先生さ」

「あー、分かってる分かってる」

「だよなぁ」

「…西野先生、あれ気付いてるのか」

「気付いててあえて無視ししてんのかな」

「そりゃ何か…新島先生には気が無いって事か」

「そうかもな…」

 新島先生可哀想。

 そう言うと可哀想なんだが先生の必死な片想いの姿に残酷だが少し笑ってしまった。

 亜季も笑っていた。

 何だ、そう笑えるじゃん。

「亜季笑ったらいいのに」

「え?」

「そしたら亜季の周りにどんどん人来そう…いや、来てるか…忍が」

「あれはちょっと…どんどん来て怖いぐらいだ」

「まあ、うん。そうだな」

「でも…俺は本当に笑ったらいいと思うけどな」

(笑った顔がかわいいし)

「……」

「亜季?」

「和彦」

「ん?」

「付き添いありがとう。先に帰ってるわ」

「え、方向同じじゃん」

 折角なら最後まで一緒に帰ろうとしたのに亜季は駆け足で自分から離れてしまい、一人残されてしまった。


「え、寂し…」


 その事がやけに自分の心を締め付けたのだった。







 


 

 薊学園九期生、須田亜季(すだ あき)

 神奈川県出身。母譲りの明るめの茶髪は地毛でよく頭髪検査で染髪を疑われている。身長は170センチ前半。やや痩せ形。

 誕生日は12月23日。

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