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文化祭(1日目)2

 急遽生徒会の集まりが始まってしまい忍と亜季を二人きりにしてしまったが頭の中で二人きりにして良かったのかと和彦がこの事実を知れば不安になるだろうか。メールをした方がいいだろうかと考えが巡るがメールを送ったとてどうするか、和彦が不安で役目を投げ出して来てしまうかもしれない。

 いや見た目はああでも中身は真面目な性格をしているので役目を投げ出すような事は無いだろうが、不安でフランクフルトすら焦がしてしまうかもしれない。

 忍も亜季と二人きりになり…おかしな行動を取るような事をするかもしれないとメールで警告するか迷ったが、さすがにそこは理性が聞くだろうし亜季も線は細いが男だ。それに力なら恐らく亜季の方が強い。

「全員来た?」

「まだです」

 生徒会室に着きまだ来ていない生徒会のメンバーを待つ事になり、向こうの席には冴木…響子もいた。由実と二人で文化祭を楽しんでいた矢先こうなり少々不機嫌そうに見える。

「あ、さっきはどうもどうも」

「九条先輩…」

 どうもどうもじゃなくて自分の友達困らせないで下さいよと言うと悪びれる様子も無く座る。

「ちょっと面白かったからね」

「忍がですか?」

「あの恋のおみくじ引いたのそんな名前なの?」

「そうです」

「あの茶髪の子が好きなの?」

「まあ分かりやすいですよね」

 初対面の先輩でも分かる忍の亜季に向ける感情の分かりやすさ。

「遼一は?」

「俺ですか?」

「遼一はどうなの?そう言う人まだいないの?」

「いないっす。俺はそう言うの…いいです」

「いいって言う癖に薊学園に来たんだね」

「…まあ地元には少々いたくなかったんで」

「色々あるもんね」

「そうですね」

 九条先輩と話していると残りの生徒会のメンバーが集まり明日に向けての話し合いが始まり会話は終わる。

(それに比べて忍は全力だな)

 これが最後の恋ですと言わんばかりに亜季に向かってるのが自分にはたまに羨ましく見えてしまう。


 忍でもこんな顔をするのか。

 しっかりと掴まれた手をそのままにそんな事を考えていた。

「駄目か?」

「え?」

「俺と二人」

「いや…駄目と言う訳じゃ」

「それじゃあいいじゃん!」

 いつもの忍の顔に戻る。

 大袈裟な程に喜怒哀楽を表現して忙しく手足を動かす忍。

 掴んでいた手を離して隣に並びそれじゃ何処に行こうと悩むがすぐに月人がどんな絵を描いたか見に行こうと美術部の展示に向かう事になった。


「ご馳走さま」

「あざっした」

 先輩達が食べ終わり空になった食器を片付けながら先輩達にお礼を言う。

「和彦は、ふふ…一日いるのか?」

 野木原先輩が猫耳を笑いながら尋ねる。

「いや。交代交代で休憩するんで」

「そうかまあ一年生は毎年こうだからな」

「楽しんでな」

 小澤先輩からも労いの言葉をかけてもらい先輩達は文化祭を楽しむために出ていく。

 時計を見てまだまだ休憩時間には遠く調理の場に戻る事にした。またひたすらフランクフルトを焼いて手が空いたら注文を取って運んで…。

 漫画コーナーを見ると思っていた通りに盛況である。皆が集めた漫画はどうやら無駄にならなかったようだ。忍も由実もよく協力してくれた。

(そういや先輩達は漫画読まなかったな)

 チケット渡してあるのにと思うと肩を叩かれる。

「…?野木原先輩」

 さっき教室を出たと思ったがすぐに戻って来た。しかも何やら慌てたような様子で。

「…あの漫画…」

「はい?どうしました?」

「…さっき読んでた奴からエロ本混じってるって報告されたぞ」

「……え?」

 野木原先輩の後ろで困ったように笑う金髪のギャルの先輩。

 忍の髪を切ってくれた甲斐先輩だ。

「…あのね。読んでたら一冊カバーは漫画なんだけど…中身がエロいのだったから」

 女子の先輩から言われるのは気まずいと思い野木原先輩に伝えるように頼んだらしい。

「す、すいません」

「…他大丈夫か?先生に見つかったら没収だぞ」

「確認してないんで何とも…」

「…まあ、気を付けな」

「……俺の漫画じゃないですよ!?」

「分かってる分かってる」

 野木原先輩から渡された一見普通の少年漫画だが恐る恐る捲ると確かに男女のあれやこれやが描かれていた。こんなの誰が、いやこの漫画を持っていたのは忍だ。

 帰って来たら言っておかないとと溜め息を吐きながら調理場に戻る。

(てか男と女のそれって…)

 いやよく思い出したら両方大丈夫だったな。


 美術室は人気が少ない。

 楽しめるようなお化け屋敷や三年生が行っているお祭りとは違い退屈に思われるからだろう。

 子どもの頃に今日はお出かけしようと言う両親の言葉に遊園地やテーマパークを想像していると着いた先は美術館だった。

 あの時の残念な気持ちと言ったら。

 子ども達に良い物を見せようと父の気まぐれな提案か、それとも休日に美術館を巡ると言ういかにも良さそうな家庭を見せつけたかったのか真意は定かではないが、何が展示されているかまったく覚えていない。

 何故なら興味が無かったからだ。

「こんにちは」

「こんちゃー」

 美術室に入ると中には野崎先輩がいた。他にも野崎先輩とため口で話しているところから三年生の先輩らしき生徒がいた。

「いらっしゃい。見に来てくれてありがとう」

「あ、月人の…」

「まあ…そう言う覚えられ方してるよね」

 一年生の教室まで引きずられて来たのが懐かしいと苦笑いしながらも温かく迎えてくれる。

 美術室に入るとまず一番最初に目に入る、紅葉を描いたのだろう。秋の情景がキャンバスに閉じ込められているのを見て単純な感想だな「綺麗だな」と浮かぶ。

 描いたのは予想はしてたが野崎先輩だ。

「すごいですね」

「ありがとう」

「本当だ、うっま」

 不思議な感覚だ。この絵を描いた本人がすぐ傍にいると言うのが。

 普段はとても穏やかなのにキャンバスではこんな風に赤を黄色を大胆に使って誰もがこれは美しい紅葉だと目を奪われるような作品を作り上げるのか。

「先輩ってどんくらい描いてるんです?」

 忍が先輩の絵を指差しながら尋ねる。

「絵は小学生の頃から好きで、本格的に描くようになったのは中学からだね」

「だからこんな上手いんですね」

「いやどうだろうね。年数関係無くすごい絵を描く人もいるよ。ほら、二年の円城寺輝の絵があれ」

 野崎先輩に案内されて展示されていたのは野崎先輩の繊細な絵とは真逆を行くとんでもない色彩センスで描かれた…これは何だろうか。

「…ピカソみたいですね」

「輝は高校に入ってから描き始めたって言うけど…すごいでしょ」

「いや何これ?」

「本人曰く秋の風景」

 配色は秋の風景で確かに見るような色が使われているが風景が何がなんだが、木にも見えるしあれは栗にも見えるが…大きさがあり得なかったり描いた本人でしか理解出来ないのでは。

「分かんないでしょ?」

「はい…」

「でも破綻してる感じはないよね。今回の文化祭のパンフレットの表紙もさ」

「そう…ですね。不思議です」

「ピカソ好きなんすかね?」

「さあ?先輩の僕にも分かんない。あの子は理解しようとすればする程分かんないから」

 野崎先輩はそう言って笑う。分からないと言いながら困ったような表情は見せない辺りはうまく関係性が築けているのだろうか。

「でも…そんな人と付き合ってる人がいるんですよね」

「うん。いるね」

「え?いんの?」

 こんなピカソみたいな絵を描く人にいるの?と少々失礼に聞こえる忍の発言に今はいない円城寺先輩に申し訳なさを覚える。

「俺と同じバスケ部の先輩の中條先輩。あの関西弁のさ」

「…あー?へー…何で知ってんの?」

「たまたま二人がいる時に居合わせて聞いた」

「僕もね。びっくりしたよ」

 入部して初めて出来た後輩だと面倒を見てあげようと頑張って話していたがいつも聞いているのか聞いていないのか分からない雰囲気で掴めない。雲みたいな子であったため同級生の中で浮いてはいないかと不安を感じる部分もあったと野崎先輩は話す。

 自分も外国人とのハーフで見た目が周囲と違うために入学当初は英語で話しかけられたり距離を取られたりとあったため仮に円城寺先輩が浮いていれば気持ちは分かるかもしれないと思っていたと。

「実際どうだったですか?」

「まあ…よく分からない子だって若干距離を取られていたのは分かった」

 露骨に遠巻きにされている訳ではなく。

 遠慮がちに声をかけられて壁があるように感じた。部活の連絡のために教室に向かった時に見てそう思ったのだ。

「でも…確か中條君と付き合い始めた頃にはすっかり打ち解けたみたいだね」

「中條先輩が何かしたんですかね?」

「僕も気になったから聞いたんだよね」

 中條君とはどう言うきっかけで付き合うようになったの?

「何て言ったんですか?」

「聞きたい聞きたい」

 中條先輩には円城寺先輩はどう魅力的に感じたのか、色恋に興味が多すぎる年頃の自分達が何と返ってくるか待っていると。

「分からないって」

「…分からない?」

「そう。輝は首を傾げて分からないって」

「何すか?それ」

「何なんだろうね」

 放課後の美術室で絵を描きながら円城寺先輩は筆を止めて思い出すように中條先輩と付き合う事になった経緯を話す。


『何かどこ見てるか分からないところが好きだと』

『どういう事?』

『変な奴ですねよね』

『…それに輝はどうしてオッケーしたの?』

『別に悪い奴じゃないですし。どんなもんか体験してみたかったんです』

『体験?』

『恋人が出来るってどんなもんかなって』


「つまり…円城寺先輩はその時は別に中條先輩の事は何とも思ってなかった?」

「だと思う」

「どんなもんか体験したいで付き合うのか…」

 そんな理由で今も付き合っているのか。

 それにしてはお互いきちんと好き合っているように見える辺りはちゃんとお互いに向ける気持ちが一致したのだろう。

「続いてるのすごいですね」

「本当にね」

 心配であったため中條先輩の事をわざわざ見に言った事があるらしい。円城寺先輩とは真逆の明るく楽しい子であったためますますどうして中條先輩が円城寺先輩に思いを寄せたのか分からなくなったらしい。

「でも中條君と付き合い始めて輝も同級生と打ち解けたみたい。その頃から友達がって話をするようになったもん」

「はー…そうなんですね」

「未だに中條君が輝を好きになったきっかけは理解出来ないけど結果的に二人は相性良かったのかもね。だから今も付き合ってる」

「片方が別にそうでなくても成立するんすねー」

「だね」

 そんないい加減な形で始まり続く形があるのか。

「ほらそれよりも他にも見ていってね」

「あ、そうだ月人の絵って…」

「これだよ」

 案内されて初めて見た月人の絵はお世辞にも上手いとは言えなかった。

 野崎先輩と円城寺先輩の絵を見た後だとなおさら。

「…一生懸命なのは分かります」

「うん…」

「月人も、頑張ってるな…」

 何とか褒めようと振り絞った出した言葉で野崎先輩は何となく察してくれたのか自分の言葉にも忍の言葉にも何も言わなかった。


「それじゃあ飲食関係のは追加で買っておくから」

「ありがとうございます」

「パンフレットも一応刷っておこう」

「了解です」

「後はまあ…なるようになるか」

 生徒会での話し合いが終わり追加の飲食関係の物は先生がこれから買って来てくれると言う事になった。

 それにしても明日来る一般の客が多くなるなんてどうして分かったのかと疑問に思っていたがどうやら毎年送付していると言う文化祭の案内は返信用ハガキも同封しているらしく、それに参加したいと言う卒業生はハガキを返送するがそれが今年は思っていた以上に参加したいと言う卒業生が多いと言う。

「何で多いんですかね?」

 生徒会室から出ながら野木原先輩に尋ねる。

「連休だからだろ」

「あ…そうか体育の日があるから三連休か」

「遠方に住んでる卒業生でも連休なら旅行も兼ねて顔出そうとしてるんだろ。去年は普通の土日に開催してたから」

 土日のどちらかで文化祭を開催をしていたら母校に顔を出したくても遠方に住んでいるとなかなか厳しい。しかしゆとり教育が始まり今回は体育の日も連なり三連休の中で行われる文化祭。

 時間に余裕があり顔を出せる人が多いらしい。

「ゆとり教育っていいですよね。土曜も休みなの最高」

「でもこれで俺達が馬鹿に育ったら何か言われるんだろうな」

「俺達が別に土曜休みにして下さいって言った訳じゃないのに…」

 大人の言っている事に従ってるだけなのに。

 

 続けて文化祭を楽しもうと思い忍に今どこにいるのかメールをしようとしたが、少し考えて亜季の方にメールをする事にした。

 もし忍が亜季と二人きりになるのを続けたいなら自分からのメールを無視するかもしれない。それなら亜季の方にメールをした方が確実だ。

 しかし万が一、億が一。

 亜季も忍と二人きりでいたいならメールを無視されるだろうか。

「……んな訳無いか」

 忍には悪いがそうだろう。

「てかもうそろそろ交代の時間じゃん」

 これならいっそ戻った方が良さそうだ。

 亜季には合流せずこのまま戻る事をメールで告げて一年生の飲食店に戻る事にした。


「戻ったぞー」

 同級生の元に顔を出すと弘忠が時計を見ながら首を傾げる。

「早くないか?」

「途中で生徒会の話し合いが始まってさ、終わったらもうまわる時間も無さそうだから戻って来た」

「生徒会?大変だな」

「明日の来客めちゃめちゃ多そうって話」

「…マジか?」

「マジだよ」

 今日ですら忙しいのにと肩を落とす弘忠の後ろから和彦が顔を出す。

「あれ?亜季は?」

「忍と二人でいる」

「え!え……ほう、そうかそうか」

 あからさまに動揺している。

 あんな風に目が泳ぐ人間がいるんだな。

「生徒会の集まりがあったんだ。だから仕方なし」

「まあ…まあ別に平気だし?」

「もうすぐ戻る時間だし来るだろ」

 二人になってからどうしていたか分からないけどな。

 変な事にはならないだろう。


 忍の普段の姿を見ているとてっきりお化け屋敷やら三年生の行っているお祭りとやらに行こう行こうと言うのを想像していたが、美術部の展示の後に向かったのは華道部の展示だった。

 正直華道に関してはさっぱりなため綺麗な花が飾られているなと言う単純な感想しか出てこないでいた。

「これ響子のだってさー」

「すごいな」

「センスあんな」

「あるな…?分かるのか?」

「いや?何も?」

「何だそれ」

 響子だってきっと頑張って活けたはずなのに分からない同級生二人にそんな感想を言われて複雑だろう。

 静かな展示の部屋で花を見ながらふと時計を見るとそろそろ戻る時間だと気付く。

「忍、そろそろ」

「亜季」

「…何?」

 忍が真っ直ぐこちらを見ている。

 普段の忍から想像もつかない顔で、二人でいたいと引き留めた時と同じ様に。

 華道部の展示がされている教室には自分達いない。ここから出ればうるさい程に騒がしい場所があるはずなのにここだけ切り取られているように静寂だ。そんな空間に忍が音を出す。


「俺、亜季の事好きだよ」


 周りが勿論自分も分かりきっている事をひどく真剣な顔で言われた。

「……えと、」

 知ってる。

 分かってた。

 でもごめんな。

 本当に言ってる?

 頭の中で忍に返す言葉が浮かんでは消える。どれがどの言葉が一番良いのか、どれが忍を一番傷付けないか。

 どれが今の関係のままいられるか。

「その…」

「分かった」

「え?」

 何が分かったのか?

 こちらが悩んでいる内に忍はいつもの表情になる。いつもの明るく忙しく変わる忍の表情に。

「困らせたい訳じゃない。でも言いたかった」

「困ってる訳じゃ…」

 いや困ったか。

「真剣だって伝わればいいから」

「それは十分伝わって」

「今までは伝わってなかっただろ?」

「え?」

 忍に言われて気付く。

 確かに思いを寄せられているなと分かってはいたが、それをきちんと真正面から受け止めた事はあっただろうか。

 友達同士の冗談のように受け流して見ない振りを気付かない振りをして接していた。

「……」

 もしかするとずっと忍に対して失礼ではなかっただろうか。

「…ごめん」

「いいよ。俺もずーっとそうしてたから」

「いや…まともに考えていなかったから俺が」

「二人になる機会がなかったから。それでちゃんと真剣だよって伝えられればいいや。うん」

「……忍」

「んじゃ戻るか!和彦達にも休憩させないとな!」

 早く行こうぜと忍は先に教室を出てしまう。

 動揺したままの自分を置いて行って彼がどんどん先に行く足音だけが聞こえて、その足音が小さくなった頃にようやく自分も教室から出て足を進めて行った。



 体育祭が夏休み終わってすぐの9月。

 文化祭が10月と言う感じになりました。

 忙しい。

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