文化祭編(1日目)
和彦は誰と文化祭を楽しむのか。
月人が和彦と休憩の時間が重なるから月人かもしれないし弘忠も同じ様に休憩時間が重なるから弘忠と楽しむかもしれない。
いや月人は野木原先輩がいるから野木原先輩と一緒に楽しむつもりかもしれない。三年生は劇を行う以外は展示のみやっているだけだから時間はあるだろうし。
そうすると弘忠だろうか。
何だかんだ面倒見が良く一緒にいて楽しそうにしているのだから弘忠と二人で文化祭を楽しんでいてもおかしくはない。
いや…同じ道内だからもしかすると昔の友達や家族が来るかもしれない。自分と違って仲が良いのだから。
「……」
和彦は誰と文化祭を楽しむのか。
そんな事をわざわざ聞いてどうするのか。
聞いたところで何を言うのかと結局何も聞けずに当日を迎えた。
第八回薊学園秋の文化祭。
校長先生がまずこの日を迎えられた事を称えてくれる。
スライドショーでそう言えば撮っていたなと、文化祭までの準備の様子を真っ暗になった体育館に映している。
「おー、始まる感じするな」
「こう言うの見るとそうだな」
一年生の自分達が教室の装飾品を作る様子が映されて二年生の先輩がお化け屋敷だろうか。怖がらせるための小道具を作っている。
三年生は劇のための衣装や台本を読んで合わせている。
時折先生達の様子が映り最後にカウントダウン。
三、二、一…。
文化祭が始まった。
合唱部がステージに上がりこの日のために努力したであろう歌を聴かせてくれる。同級生も歌っており恥ずかしげにしているのが見えた。
一度幕が降りて次は何だとパンフレットを確認する。
「…次が謎のバンドXってあるけど」
「何だろうな」
「めっちゃ有名なバンドとか?」
「こんな田舎に来ないだろ」
亜季や遼一と一緒に誰が何をやるのかと考えているとふと違和感に気付く。
「あれ?新島先生?」
「本当だ。いねぇ」
トイレにでも行ったのかと首を傾げると幕が上がる。
「…え?」
幕が上がるとサングラスをかけた新島先生がマイクスタンドを掴んでポーズを決めていた。
「せ、先生!?」
「おい!前園先生もいるぞ!」
「前園先生!?」
「ギター持ってる!」
「ベースが二年生の担任!?」
「ドラムが三年生の担任だ!」
二年生と三年生は腹の底から笑っており一年生はまさかそんな事をするとは思わないだろうと、先生の姿を目の当たりにして呆然としていたが新島先生がサングラスのまま半ばやけくそに盛り上げていた。
後から聞いたが赴任して間もない先生がバンドをやると言うのが伝統のようになっているらしい。
初めは呆然としたが二年生と三年生が盛り上がっているのを見て右にならへと一年生も楽しむ事にした。先生もあんな風にはしゃげるものなのだと。
「…恥ずかしい」
「恥ずかしい…」
文化祭を盛り上げてくれた新島先生と前園先生はステージから降りた後に顔を赤くしながら戻って来た。
「いや恥ずかしくないですよ」
「ウケたウケた」
「新島先生サングラスは?もうかけないの?」
「前園先生ギター弾けるんですね」
「…すごい練習したからね」
もう終わったのだからこれ以上からかうなとオープニングセレモニーを終えた後、それぞれ担当の仕事に行き文化祭を楽しむ事になる。
一日目は昼頃から飲食店など開始と言う事で食堂の弁当も無いため皆が一年生の飲食店にやって来るだろうと初めは全員で対応するようになっている。
野木原先輩から聞いたが一応二年生も食べ物を売っているらしいが、規模は小さいとの言う。
お好み焼き組はひたすら具を切って混ぜて焼きフランクフルト組はスーパーで大量に買って来たそれを焼いていく。
自分は作る側なので店がどうなっているか見えないが…。
「お好み焼き三つ!フランクフルト二本!」
「フランクフルト三本!持ち帰り!」
「お好み焼き!五つ!」
「パフェ四つ!」
「ホットケーキ!三つ!」
想像していた以上に注文が来る。ずっと自分は猫耳を着けたままフランクフルトを焼いていた。
「猫耳かわいい!」
「今年の一年動物なの?」
「漫画めっちゃあるじゃん!借りれるの?」
作っている傍で先輩達の声が聞こえる。
「出来たの持ってて!」
「任せろワン!」
「かわいくねえ犬だな!」
犬耳の忍がお好み焼きとフランクフルトを両手に持って行った。語尾にワンを付けて。
「和彦!お前も持ってけ!お好み焼き出来たから!」
「お、俺は調理班で」
「持っていく奴がいねえんだよ!」
想像以上の忙しさに弘忠が半ば叫ぶように言う。
でもその頭にはうさぎ耳が着いている。
「お待たせしました~」
「ありがと~」
「おおきに~」
この関西弁は。
「…どうも」
中條先輩と円城寺先輩だ。
「やっほー和彦」
「今年の一年はえらいかわええ格好してるな」
お耳着けてかわええなと円城寺先輩が指を差して笑う。
「はは…恥ずかしい…」
「貸してそれ」
「え?痛い痛い痛い!円城寺先輩引っ張らないで!」
いきなり手が伸びてきたと思うとカチューシャを無理矢理引っ張られる。髪ごと持っていかれるかと思うと頭を締め付けるカチューシャが外れて円城寺先輩は迷わず装着した。
「やだ!かわええ!かわええ!輝めちゃくちゃかわええやん!」
このまま俺の事接客したってと目の前で恋人として戯れ始めてしまいこのまま立ち去ろうと思ったがカチューシャを奪われたままだ。
「お客さん。おさわり禁止ですよ」
「ええやん!金なら払うで」
「俺…高いぜ?」
「お前のためならいくらでも」
「そしたら」
「一年の前で何してんだ馬鹿ども」
中條先輩と円城寺先輩の愉快な戯れが終わらずこのまま見ていていいものか目を逸らすべきか悩んでいると二人を後ろから叩き円城寺先輩の頭からカチューシャを回収してくれる救世主。
「よ。和彦」
「野木原先輩…!」
良かったまともな先輩が来てくれた。
野木原先輩と、先輩とよく一緒に帰っている先輩だ。
「やっほー雪」
「やっほー…じゃねえよ。まったく…ほら」
「ありがとうございます」
奪われたカチューシャを装着する。
すると野木原先輩が吹き出して笑った。
この飲食店のルールと言うかそう言うものだから着けたがそうか、外部から見ればおかしな姿だ。
「笑ってやるなよ」
猫耳の自分を見て笑い続ける野木原先輩にそっちも笑ってるじゃないですかと言う言葉を耐えながら野木原先輩の傍で笑いながら注意する先輩。
「えと…」
「あ、あぁ…こいつ。準、小澤準」
「雪の部活の後輩だって?聞いてるよ。赤メッシュの子なんて目立つしな」
他に変な事は言われてないだろうかと不安に思いながら空いていた中條先輩と円城寺先輩の隣の席にそれぞれ座り注文をする。
「お好み焼き二つ」
「ありがとうございます」
「ニャーとか言わんのか?」
楽しそうに笑う野木原先輩が言う。楽しそうと言うかこれはからかってやろうと言う目だ。
言いませんよ!と返すか後輩として要望に応えるべきかと葛藤すると小澤先輩が一発野木原先輩の頭を叩いて注意した。
「止めろまったく」
「ごめんごめん」
「…野木原先輩は去年女装したんじゃないですか?」
「…何で知ってんだ」
「衣装探してる時の去年のを見たんで」
「……まあ俺は調理班だったから」
「雪ミニスカでやけくそにやってたなあ」
「来る客来る客笑うどころか引いてたな」
「言うんじゃねえ!」
笑われた仕返しに去年の事を知っていると言ってみると思い出したように中條先輩と円城寺先輩が野木原先輩の女装喫茶の事を話す。
忘れたい思い出なのか顔を伏せてしまった野木原先輩に「ほら後輩からかうから」と呆れた顔のまま小澤先輩がこちらに向き直る。
「放っておいていいからよろしく」
お好み焼き二人分の料金を貰いお好み焼き班に二人分追加と話して調理に戻るとその擦れ違いに亜季が休憩に入ると言って抜けた。横目で見たが既にカチューシャを外しており自分と色ちがいの猫耳を見る事が出来なかった。
「あ!亜季やん!」
「…あ、中條先輩?」
「やあやあ」
「円城寺先輩も」
来てくれてありがとうございますと先輩に頭を下げる。和彦の部活の先輩である野木原先輩もいたが何故か顔を伏せていた。
「亜季は耳着けんの?」
「これから休憩なんで…外しました」
「何や残念…」
「ところで…」
どうして野木原先輩は顔を伏せているのかと視線を動かす。何やら小さく「忘れろ…忘れろ」と呟いている。
「気にしないでいいよ」
「あ、はい…」
黒髪の先輩にそう言われる。そう言われてしまうとこれ以上詮索するのは控えられるなと思い口を閉じる。
すると教室の向こうで忍と遼一が手を振り待っているのが見えて先輩達に頭を下げて休憩に行こうとすると中條先輩から言われる。
「暇ならお化け屋敷行ってな。売り上げに貢献してな」
「分かりました…暇なら行きます」
「楽しんでや~」
中條先輩に手を振られながら忍と遼一に合流する。二人とカチューシャを外してエプロンも脱ぎ制服で文化祭を楽しむ事にする。
生徒のみの一日目、生徒数が少ない薊学園は賑わうのかと思ったがあちらこちらから楽しげな声が聞こえて来る。
普段は一年生が二年生や三年生の教室の階に行く事は少なく、逆も然りだ。だが文化祭と言う行事はその垣根を超えて自由に歩いている。
「最初どうする?」
「何か食べたい」
「二年生も何か食べるのやってるって言ってたじゃん?」
「んじゃ二年生のところ行くか」
二年生の階へと向かうと一つは真っ暗になった教室。お化け屋敷だ。おどろおどろしい看板が雰囲気を出しており中から悲鳴が聞こえる。
「ほ、本格的だな」
このお化け屋敷に和彦を連れてきたら面白いかもしれない。
「亜季。こっちこっち」
「あ、うん」
お化け屋敷の隣の教室にあったのは“占い”と大きく看板が掲げられてそこには手作りと思わしきくじ引きといかにも占いをしそうな人間が座る机と椅子がある。
大きな水晶玉でもあれば更に雰囲気は出そうだが水晶玉は無く机の上に真っ赤なテーブルクロスを敷いてその上に大きめのビー玉が乗せられているだけだった。
「誰も座ってないな」
「本当だ」
誰か専門の占い師でもいるのかビー玉が乗った机には“休憩中”とだけあった。
「亜季!亜季!」
「なーに?」
「くじ引きやろうぜ」
「くじ引き」
三つ並んだおみくじには“ノーマル”“恋愛”“未来”とある。
「ノーマルは普通の大吉から大凶までのおみくじ。恋愛はその通り恋のアドバイス。未来は将来なったらハッピーな夢が書いてるよ」
「あ、九条先輩」
「先輩?」
おみくじを見ていると後ろから解説をしてくれたのは黒髪の日本人形を思わせるような容姿の女子の先輩だ。
「生徒会の先輩なんだよ」
「やあ三井。引いてきな。一回百円だよ」
「俺は恋愛!」
「毎度。そこの募金箱に入れて引いてね」
「ういっす!」
「募金と勃起で言葉似てるよね」
「ん?」
何かおかしな言葉を日本人形のような大和撫子のような先輩が言った気がするが気のせいだろう。
日本の大和撫子はそんな下品な言葉を言う訳がないと思いながら忍が恋愛のおみくじを引いて意気揚々と広げる。
「えーっと……」
「…?」
「忍?」
「……」
「どうした?」
「何が書いてあった?」
どうしたのかと遼一が覗き込むと黙り込み、そして九条先輩の方を見た。
「…これ作ったの先輩でしょ」
「当たり」
「てか九条先輩以外無いっすよ!なんすか!“望みは大きく魔羅は大きくでかけりゃ成就”って!」
「男子はちんぽの大きさで価値が決まるんでしょ?」
「決まりませんよー!」
何をおかしな事を言っているのかと遼一に言われても顔色一つ変えずにまだまだ考えたのあるからどんどん引きなよと進める九条先輩に「引きませんよ!」と断る遼一から目を逸らしてこちらを見た。
「……」
「引く?」
「…遠慮します」
「他の引いたら?」
「じ、じゃあ…」
「いや…腹減ってるんで止めときます」
「そうか。そう言えば私もお腹空いたから何か食べよ」
一体あの先輩は何なのか。
遼一曰く女子の先輩だしあの日本人形みたい容姿だから勘違いする人が多いが男子よりも高度な下ネタを平気で言ってくる先輩らしく初めは驚いたし止めようとしたがその内慣れるらしい。
「ちなみに九条先輩」
「なあに?」
「この占いって誰か専門の人でもいるんですか?」
「ああそれ?輝が気まぐれにやったりやらなかったり」
「誰?」
「それじゃねー」
遼一の疑問によく分からないまま解答され、輝先輩…輝先輩。
「あ、美術部の二年生の…」
「知ってるのか?」
「前に美術部の野崎先輩一緒に連れて来た先輩」
「あー…?」
思い出せるような思い出せないようなと二人は首を傾げていた。
何が書かれているか分からないおみくじは手をつけず食べる物が売っていると聞いたがどこにあるかと探すと廊下に歩きながらホットドッグを売っている先輩が見えた。
「買え~買え~」
半ば押し売りのようにやって来たのが田口先輩だった。
「あ、すいません三つ下さい」
「一個三百円~」
「はい~」
田口先輩の間延びした喋り方が忍に若干移っていた。お金を払い受け取ると自分を見て「あ」と田口先輩は声を上げた。
「やっほ~」
「ど、どうも」
「あの赤メッシュ君のお友達だよね~」
「はい」
「赤メッシュ君にも買いなよ」
「えぇ」
「はい」
買うなんて一言も言っていないのに目の前に差し出されてしまう。先輩に逆らえる訳もなく大人しく三百円を払い“赤メッシュ君”の分を受け取った。
「源、後輩から巻き上げんなよ」
「違うよ~この子がお友達思いなの」
「たっく…」
同級生から注意されながらも田口先輩はどこ吹く風。新たに買ってくれそうな人を求めて去って行った。
「亜季、あの先輩は?」
「前に和彦が倉庫で荷物の下敷きになったって言ったろ?」
「あー…体育祭の時か」
「そうそう。その時に助けてくれた先輩」
「助けてくれたのか……今押し売りされたけど?」
「何か掴めない人だよな…」
美術部の円城寺先輩と良い勝負だよ。
亜季は色んな先輩と知り合いだなと二人に言われる。
そう言われてみると先輩にお世話になる機会は多かった気がする。それもそこそこ印象に残る事ばかりで先輩も自分もお互いの顔と名前をしっかり覚えているような間柄だ。
「しかし和彦とセットでな」
「確かに…和彦といる時に会うな」
部活の先輩後輩と言う間柄もあればそれも無しにして覚えられている。
どれも和彦と一緒にいる時。
「なあ亜季」
「ん?」
そう思っていると忍に声をかけられる。
「和彦ばっかり構ってないでもっと俺達とも遊ぼうぜ」
「そんなつもりは…無かったが」
「あるよ」
「え」
「忍」
忍の声が一瞬低くなる。
初めて聞く声に驚いていると遼一が忍を窘めた。
「まあ、亜季は確かに和彦と一緒にいるのが多いな」
「…何だろうな…まあ、いつの間にか」
一緒にいるのが楽しい。楽だ。
一緒にいれば自分は寂しくない。満たされる。
和彦の隣は心地良い。
「……」
それは友達だからだろうか。
「あ!遼一!」
「…?野木原先輩?」
考え込んでいると遼一を呼ぶ声が聞こえる。
向こうから和彦の部活の先輩、野木原先輩が遼一に向かって走って来る。
「ちょっと生徒会集合するって」
「え?何でです?」
「明日の外部からのお客さんが思ってたよりも多いかもしれない。飲食に使うやつ見直しするって」
「そんな来るんです!?」
「それを今から確認もする。ごめんな急に」
「わ、分かりました」
悪いけどそれじゃ行って来ると遼一は野木原先輩と走って行く。
残されたのは自分と忍。
「…どうする?」
「ん~楽しもう!」
「…和彦に買ったホットドッグ届けに行くか?」
「やだ」
おちゃらけてそう言うと忍が首を振る。
「俺と二人でいてよ」
そしてそう真剣に言って来た。




