文化祭(準備編3)
こうやって缶バッチをセットすれば簡単に作れると、由実が用意した缶バッチ作りの機械に真剣に見つめる。
漫画喫茶エクスカリバーとカラフルな色で書かれたほぼほぼ悪ふざけで決めた店の名前とカフェの店員さながらに自分の名前も何とか缶バッチの中に入れて当日エプロンに着けるバッチを次々と制作していく。
店の内装も本の装飾を多めに作り、漫画を読む場所は机や椅子を並べるわけではなく。体育で使うマットレスを並べて上にゴザを敷いて寝転がりながらでも読めるようにした。
「漫画用意してくれたか?」
「あるよ」
「少年漫画と少女漫画分けようー」
「途中で読みふけるなよ」
エプロンは無くさないようにちゃんと保管しておく事。買い出しで余計な物は買わないようにしろとあちらこちらから聞こえてくるのを感じながら教室の装飾を月人と作りながら当日に備えていく。
「…月人は」
「ん?」
「美術部の方平気なのか?」
文化部は学年の模擬店準備と在籍している部活の展示で忙しくしており月人も美術部と一年生の飲食店を交互に行き来しており大変そうであった。
「大丈夫。完成したから」
「そっか」
「文芸部で自作の小説展示してるって」
「すげえな」
「華道部も展示するよ。見においで」
響子が出来上がった缶バッチを配りながら言う。
正直華道、花を愛でるような雅な気持ちは持っていないが同級生の作品を一応見ておくかと当日顔を出す事にした。
「月人の絵ってどんなのだろうな」
「…頑張ったのは認めてほしい」
その言葉に察した。
一年生は漫画喫茶。メニューはお好み焼きとフランクフルト。デザートメニューは紙コップパフェにホットケーキ。
食べてくれた。注文してくれた方のみ漫画券を渡して好きに読んで貰う。混んでる場合は時間制限をかけたり…とは言え混む事は無いとは思うが。
二年生はお化け屋敷と占い。
三年生は劇を披露し、三年生の教室で展示を行うらしい。
お祭りを行うと言うのはどういう事か分からないが月人は楓先輩に聞いてもお祭りとしか言われなかったらしい。
「こうすると一年の地味だな」
「頑張って考えてこれなんだから」
「初めての文化祭、頑張ろうや」
「…まあそれはそうなんだが…」
本当にこれも着けてやるのか?
全員に配られたそれは例の動物耳カチューシャ。
衣装決めの夜に亜季の頼み事から着けたカチューシャを自分から亜季に装着させてかわいいと悶絶しそうになった矢先、その姿を同級生に見られてからかわれ面白がられて黒エプロンのみだと寂しいからカチューシャを追加しようと言う事になったのだ。
「それが動物漫画喫茶あにまるパラダイス…」
色々と詰め込み過ぎではないかと思ったが面白ければいいではないと新島先生も笑って頷き当日は耳に合わせた語尾を付けて喋ろと。
「楽しもうニャー」
この耳を心底楽しんでいる由実は明るく言う。そんな由実の後ろでキツネの耳を着けた響子の視線は相変わらず鋭い。
「…作る側は着けなくてもいいだろ」
そう言いながら手の中にある黒猫のカチューシャを見る。
「和彦」
「月人」
「和彦は当日、亜季と一緒?」
「いや…約束してないし…」
「ふうん。てっきり亜季と一緒だと思ってた」
「亜季が店にいる時間が俺の休憩時間で俺の店にいる時間が亜季の休憩時間なんだよ」
「じゃあ一緒になれないんだ」
それじゃあ亜季は当日誰と一緒に文化祭を楽しむのかと月人が首を傾げる。
「月人は?亜季といれないか?」
「俺は美術部の方も行くから難しいな」
「そうか…」
「…忍と二人になるんじゃないかって心配?」
「別に」
「ふーん」
「……何で忍と亜季が二人になったら俺が心配になるんだよ」
「だってしょっちゅう一緒じゃん」
亜季の隣を誰かに取られないように必死になってるように見える時があるんだよと、月人は笑う。
「…何だそれ…恥ずかしい…」
もしかして自分が亜季を好きだと言う事に気付かれているのではないかと不安に思うが、いやそんな訳が無いと自分を自分で安心させて他の友達にあたる事にした。
「俺も和彦と同じスケジュールだから無理だろ」
弘忠は駄目。
「あたしは響子と一緒だから無理かな」
由実も駄目か。
遼一はどうだろうと尋ねると難しい顔をして考えている。
「……過保護だな」
「…え」
「亜季と一緒にいてくれとか…過保護のお父さんか」
「お父さんじゃない。友達だ」
「そうだろ?亜季は俺達と同い年の高校生。わざわざ誰かに頼んで一緒にいてもらうなんて野暮だろ。本人に任せておけばいいだろ」
「それは、その…なあ?」
そうすると亜季が一人でいるのを察した忍が一目散にやって来るのではないか。しかも亜季の休憩時間と忍の休憩時間が被っているしそうなる以外きっと何も無い。
「なあ和彦」
「…何?」
ちょっとこっちに来いと手招きをされて同級生達がいない廊下の隅へと二人で小さくなる。
「お前が亜季の事好きなのは知ってる」
「…ななな何を言うか」
「忍から聞いた」
「忍ぅ…!」
どうして人の秘密をそう簡単に言ってしまうのか。よくよく考えてみれば別に忍に言った時に他の人には言わないでくれとは自分も言っていなかった。
「だからまあ…お前がそうなるのも分かるけど」
「…分かってくれるのか」
「けど、亜季の行動を制限するような事までするのはおかしいだろ」
自分が傍にいれないから他の安心出来る人間を亜季の傍に置いておこう。確かにそれで和彦は安心出来るかもしれないが亜季の意思はそこにあるのか。
「まあ…会ったばっかりの頃は人と何かするの怖がってるように見えたけど…今は違うだろ」
「…だな」
「和彦が近くにいなくても亜季は自分で自分の事なんとかするだろ。一人で文化祭楽しむのが無理なら友達として忍や俺と一緒にいるのを望むかもしれないし」
「友達としてか…」
「現状。忍はそうでも亜季は忍にそれ以外の感情は無いだろ」
「だよなぁ!」
「嬉しそうにするなよ」
忍に申し訳ないと思いながら緩んだ顔を戻す。
確かに遼一に言われた通りだ。今の自分の行動は亜季の行動を縛り付けるような行動だったかもしれない。仮に誰も亜季が一人ならばどうしただろう。
自分以外に隣にいない事を安心しただろうか。
早く自分が亜季の傍に行かなければと亜季の隣は自分なのだと優越感を覚えただろうか。
「…何か俺…嫌な奴になってないか?」
「まあ独占欲が出てきたんだろう」
「……駄目だな。うん…遼一の言う通りだ」
「俺は忍とも亜季とも和彦とも友達だから、対等な目で見て思った事を言っただけだよ」
「いや…ありがとう。そうだよな…亜季には亜季の行動があるし…流れに任せるわ」
「そうそう。何でもかんでも守るよりは遠くで見た方が良い時もあるって」
「遼一はすごいな。そんな事に気付けて」
「そうだろうそうだろう。褒めろ褒めろ」
遼一さん。格好いいとわざとらしく褒めて文化祭の準備も終盤となった現場に戻る。
それで亜季は当日どうするのか。
忍と遼一の三人で楽しむと亜季から聞かされて流れに任せると思っており例え忍と二人きりでもそれは割り切ろうと思っていた矢先、安心してしまった。
「忍と二人だとうるさそうだから遼一を誘ったんだよ」
「そうか…」
ここで二人きりになる作戦を壊されたであろう忍を哀れむのは失礼だろうか。
文化祭のために体育館にパイプ椅子を並べるため暇な生徒は向かうようにと殆ど準備を終えて時間が余った自分は手伝ってやるかと体育館に向かう。
中には生徒会らしき生徒がパイプ椅子を真面目に並べていてクラスの準備が終わってすぐにいなくなった遼一と響子もいた。
「…和彦!手伝いに来てくれたのか?」
「暇になったからな」
「どんどん並べてくれていいから」
自分の後に何人か生徒がまたやって来てパイプ椅子をどんどん並べていく。一年生から三年生の分の椅子を並べてその後は外部からのお客様用の椅子を並べる。
「お客さん何見に来るんだろうな」
「まあ卒業生が殆どだかは単純に懐かしみに来たり外部用に体育館に展示するから」
保健室も暇なのか西野先生が体育館に来て答えてくれる。
「展示?」
「生徒会で作ったあれ」
「年表…?」
響子が指差す方向を見るとホワイトボートを二つ、いや三つは使用している薊学園の歴史と銘打った年表がある。
「すご」
「卒業アルバムとか全部取ってあるからね」
「後は先生に聞いたりして作ったんだよ」
近くで見ると創立したきっかけ。生徒をいかにして集めたか。
直面した問題や生徒の功績などがあった。
「…え?」
「ん?」
「元は矯正目的?」
「らしいね」
「西野先生これ本当?」
「ま、まあね…本当に創立当初はそうだったんだよ。同性愛を精神的な病気とかそう捉えていて…」
「何か…ショックだな」
「そう銘打って…悩む若者を親元から離して集めたんだよ」
「…ん?銘打って?」
「うん」
西野先生曰く。
以前から自身の恋愛対象に悩んでいた若者に話を伺っていた初代校長はその両親に話を聞いた時に一時のものだといまはおかしいが大人になれば治るなどと真剣に取り合わず、彼等彼女等は真面目に恋愛対象として同性が好きなのだと言っても聞いてはくれずこのままだと理解されないまま偽ったまま終わるのではないかと危機感を感じ、同性愛を治せる矯正治療を取り入れた全寮制の高校を創立しますと嘘を吐き全国から親元から離し若者を集めたと。
「やばくないすか?」
「やばいよ。入学する本人には言っても親は卒業すれば同性愛者じゃなくなるって信じて送り出したから」
「…西野先生は」
「俺は卒業してからも実家帰らなかったから」
そもそも絶縁されてるしねと明るく笑い、笑っていいのか困る。
「で、でも問題起こったんじゃ…」
「起こったよ」
「起こってんだ…」
「創立してからしばらくは問題だらけだったよ」
「何が起きたんですか?」
「まあ親から学校に全然変わってないって!お怒りの電話やら」
「それどうしたんですか?」
「創立一年目の…秋ぐらいかな?赴任して来た先生がいるんだけど」
まだ先生としては新人の男性教師がいたらしい。
その人は何とか保護者に誤魔化そうとする周囲とは違いここは矯正目的ではなくて生徒がありのままでいられる環境の学校ですと言ってしまったらしい。
「え?言っちゃったんですか?」
「言っちゃったの」
当然聞いていた話と違うと激怒した保護者に向かってどう返したか、優しく諭したかそれとも冷静になるように促したか。
答えは否、怒鳴り返した。
「…ど、怒鳴り返した?」
「職員室から聞こえたよ大きい声で」
“ありのまま愛してやれないのか!あんたは自分の子どもが嘘ついたまま生きて幸せになれると思うのか!”
まさか保護者に向かって新人教師が怒鳴り返すなんて前代未聞だと、勿論かなり怒られたらしいが何とも真っ直ぐな人で間違ってる事は間違ってるとはっきり言わないと気が済まない。
「…まあそれがきっかけで学校全体の空気は変わったかもね」
「とんでもねえけど…すごいっすね」
「何て先生です?」
「平坂先生だよ」
「どの先生です?」
ホワイトボートの年表には過去在籍していた生徒や先生の写真が貼られている。西野先生にその“平坂先生”はどの先生かと尋ねると西野先生の表情が曇る。
「無いんだよ」
「無い?」
「平坂先生は俺も大好きな先生だったけど、そのやり方を気にくわない人もいたんだ」
二代目の校長先生はあまり同性愛に理解が無く、治せる病気だとすら思っていたため平坂先生とは正反対。そのため平坂先生の記録を消してしまったらしい。
「え?二代目校長?」
「初代がね…創立一年目の時に病気で亡くなられてね」
「…初代校長…」
そうしたらその初代校長がいれば平坂先生とやらの顔も分かったのだろうか。
「どんな先生でしたか?平坂先生って」
「そうだね…」
豪快で真っ直ぐで煙草が大好きでと西野先生が平坂を語る。何だかそう言われると男臭い大柄な男性教師を想像してしまうが。
「けど、綺麗な先生だよ」
今も平坂先生より綺麗な人を見たこと無い。
西野先生が平坂先生が省かれた年表を見つめて懐かしむように言った。
全ての準備が終わり明日文化祭初日。
初日は生徒のみでまず開会式を行う。
オープニングセレモニーと言うか、文化祭の始まりを告げてそれぞれ店番をしたり友達と文化祭を楽しむ。
二日目は一般開放を行う。
卒業生を招いたり来れる保護者は来るらしい。
三年生の劇もこの日に披露するらしい。
「合唱部が歌うんだ」
同級生も二人か三人いたはずだ。こう言う行事の時はぴったりの文化部だ。
配られたパンフレットを見ながら明日の文化祭を楽しみにする。ちなみにパンフレットの表紙は何と言うか個性的な、カラフルな色使いの不思議な絵は二年生の円城寺先輩が描いたものらしい。
「…すごい絵だな」
「すごいでしょ」
「円城寺先輩ってこんな絵描くんだな」
「そう。個性的なんだよ。でも…破綻してる訳じゃない」
「確かに…不思議だけどおかしな感じはしないもんな」
そう言えばこの文化祭で月人はどんな絵を展示しているのかといよいよ見れるなと思う。
「和彦」
「亜季」
明日は頑張ってフランクフルトを焼こうと思っていると亜季が話しかける。
「…文化祭さ」
「…おう」
お互い動物耳着けて頑張ろうな。
この動物耳が先輩や外部からのお客にどう見られるか、亜季のそんな姿を見られるとは。
「…が、頑張ろうな」
「お、おう…?」
言いたい事はそれだけなのか首を傾げながら亜季は部屋と足早に戻る。
「……何だ?」
「さあ。亜季にも色々あるでしょ」
「色々…かあ」
その色々を知りたい聞きたい言って欲しいと思うのは烏滸がましいだろうか。
パンフレットを見つめながら気持ちを切り替える。
明日は文化祭だ。




