文化祭(準備編2)
教室の装飾をどうするのか。
黒板を飾り付けてメニューを書いておき、更に机を合わせて一つの大きめのテーブルに仕立てて飲食店のように手書きのメニューを置く。
値段設定はどうするのか、学生が行うため当たり前だが没手繰り価格にならないように設定をする。
調理する係に任命された自分と忍。自分はただスーパーで買って来たフランクフルトを焼いてケチャップを付けたりして提供するだけである。
一方忍はキャベツを切り材料を混ぜて焼いてと活躍の場が多そうだ。
そして注文を取る係。
「何か飲食店の制服っぽいの着るの?」
店を飾り付ける装飾を考えながら由実が尋ねる。
「制服っぽいの?」
「ファミレスとかみたいにきちっとしたかわいくて格好よくていけてる制服」
「制服にエプロンで良くないか?」
そこまで考えていなかったらしく、弘忠は汚れる事がなければいいと言ってその意見に何人か頷いているが…女子が数名異議を唱える。
「面白くない」
「面白くないって」
「折角の文化祭だし、こう言う時しか着れないの着たくない?」
某レストランみたいなかわいい制服もいいしギャルソンのような格好いい制服もありなどではないかと女子が笑いながら盛り上がっておりその意見を無視するわけにはいかないようだと悟った弘忠は新島先生に尋ねる。
「…あー…」
「予算的に…こう…いけます?」
「五階の物置にあるんじゃねえかな」
「あるんですか?」
「捨ててないと思うんだ。手が空いたら見に行きな」
いつか使う時が来るかもしれない。
そんな思いから過去に使用にした文化祭の道具や部活動で使っていたが壊れてしまった道具やらを全て保管しているらしい。
さすがに修繕不可能なぐらいになった物は捨てているらしいがそれでも大量に残っている。
段ボールに何が入っているか明記しているらしいのでそれを見て使うなら持ち出せとの事。
「でも使ったらちゃんと洗って戻せよ」
また何年後かに使われるかもしれないから。
先輩方の残した物なら有り難く後輩として使わせて貰おうと早速四階から段ボールをいくつか持って来たため模擬店の装飾を作る手を止めて皆段ボールへと注目する。
「文化祭衣装…ってだけだな」
「開けないと何が入ってるか分からないな」
「とりあえず開けよう開けよう」
どれどれと段ボールを開けてみるとまあ学生の文化祭であるため丁寧に保管してあるとは思っていなかったが段ボールには洗濯はしてあるため嫌な匂いなどはしないが箱に詰め込まれただけの衣服が多くあり、一着取り出してみると皺が多く残っている。
「あんまり大切には…されてないんだな」
「まあ使うかどうか分からないしな」
弘忠が皺まみれになっているうさぎの着ぐるみのような物を見て話す。
「…この段ボール…何か動物ばっかりじゃない?」
由実が眉をひそめながらそう言うため確かに見てみると中には弘忠が持っているような着ぐるみを始めとして動物の耳が付いたカチューシャなどが出てきた。
「…何か箱の底にチラシがあるけど」
何だろうと由実が手に取ったチラシには今から三年前の日付のもので“動物喫茶サバンナ”とあった。
「…なるほど、三年前の先輩は動物に扮して文化祭をしていたと」
「そんなの考えつかなったわ」
「めちゃくちゃあるけど…何だよ。言えばこんだけ買ってくれたのか?」
新島先生からは予算は限られているから節約出来るところは節約しろと言われているのに先輩達には随分豪華な予算の使い方をしていたようで。
過去の思わぬ事実に弘忠は眉をひそめている。
「カチューシャ…猫耳にうさぎに…」
「和彦つけてみなよ」
「やだよ」
亜季が着ければいいじゃないかと口に出そうとしたがこの女子が着けそうなかわいい動物の耳を亜季が着けたら。
(やだかわいい)
由実から借りた少女漫画の乙女のように背景に花を散らして胸をときめかせてしまう。
「…こう言うのは似合う奴が着けりゃいいんだよ」
「あたしどう?」
「そうそう由実とか女子がさ…」
真っ白な猫耳を着けて笑う由実に似合う似合うと笑うとその由実の後ろにいる響子が鋭い視線で由実を見つめていた。
「どうしたの?」
「…いや、その」
「似合う、似合うぞ北条…」
響子が獲物を見る目で由実を見ている。あまりの鋭さに自分も亜季もからかう気になどなれずただ無邪気に笑う由実に頷く事しか出来ないでいた。
「他はどうなってる?」
月人の声に注目がまだ開けていない箱に移り動物の次は何かと思うとそこには綺麗に整頓された状態で仕舞われているのを広げて見ると白いワンピースに黒いエプロン。同じ様に白シャツに黒いエプロンとシンプルだが上品な服があった。
「え?格好いいじゃん」
「これいいな」
「借りる?借りちゃう?」
着ぐるみの後だからか余計魅力的に見えてしまう。これを借りて本物のレストランのように振る舞うのも面白いのではと思っているとふと、服を広げた月人が違和感に気付く。
「…何か?このワンピース大きくない?」
「え?」
女の子が着るにしては何だか肩幅や腰回りが大きいような気がすると首を傾げているとそれを聞いた響子がそのワンピースを自分の体に当てる。確かに大きい。
「腕も丈も…」
「え?逆に白シャツの方は小さくない?」
男子が着るには小さ過ぎる。羽織ってみようと思った月人が無理だ着れないと脱いでしまう。
「……おいこれ」
遼一が箱に入っていたチラシを見せる。
「“男装・女装喫茶みらくる”」
日付は去年。つまり今の二年生の模擬店だ。
「……ほう」
「…へえ」
先輩達は去年こんな事をしていたのか、いつも真面目で便りがいのある野木原先輩もワンピースを着て接客していたのか。
一年生だし先輩達より目立つのはよろしくないのではと言う日本の縦社会が根付いた自分達にふともっと派手な事をしてもいいのではと思い始める。
「どうしようか…」
「動物に男装・女装…俺達はどうすれば」
「え?こ、昆虫とか?」
「月人…それはちょっと」
「待て待てコスプレして接客する気か?」
弘忠がこの話の流れを感じ取り先輩方の一年生時代に負けられない装いをするべく提案し始めて慌て出す。
「だって普通にやったんじゃつまらねえよ」
確かにそうだと忍に頷く。
「今年の一年生つまんないって思われたら嫌じゃない?」
派手にやろうと言う由実。
「流行入れる?厚底ブーツ履いて接客とか」
「無理、どうやって人数分手に入れるんだよ」
流行の中心にいる我ら若者にも面白そうな物を取り入れてみるかと話しながら提案するがなかなかこれだと言うものは出ないまま平行線だ。
「もう森で動物捕まえて解き放つ?」
良い提案が出ないため遼一が投げやりに言う。
「やめろ」
野生動物が走り回る飲食店なんて不衛生極まりないと弘忠が却下する。
「…来る人が楽しんでもらいたいならもう漫画コーナーとか作るで良くないか?」
「テーブルに漫画置くのか?」
「汚れるかもだからそれは止めて…テーブルから離れた所に漫画コーナーでも作って」
「店に来たら誰でも読めますよみたいな?」
「注文して来た奴だけ読めるようにしたり…」
亜季が独り言のように言った言葉に返していく。
イメージとしては飲食のコーナーと漫画のコーナーを分けて食べて貰った人にだけ好きに読めるようにすると。
「でもずっといられたらどうする?」
「時間制限かければいいじゃん」
「あーなるほどな」
「注文したメニュー運んだら一緒に漫画読めます券みたいなのあげて」
「ほうほう」
「寮住まいだから…あんま漫画たくさんあるって人は少ないと思うしな」
「確かにな、俺もあんまり持って来なかったし」
そうしたら制服と言うか、飲食店で着るものはどうしようかと考える。
「…漫画がメインになるならシンプルにエプロンでいいんじゃないか?」
去年のエプロンを自由にしていいなら制服のシャツの上にこの黒いエプロンを着て立っていればカフェの店員のように見えるだろう。
「シンプル過ぎてつまんないよ。何か一工夫しようよ」
亜季と二人で考えていると由実が会話に加わりエプロンに何か付け加えたいと考える。
「シールとか缶バッチとか着ける?」
「缶バッチ手作り出来る玩具あるでしょ?あれにお揃いの缶バッチ作って着ける?」
「そんなのあるのか?」
「うん。家にあるから電話して送ってもらうよ」
「それじゃあ決まりだな」
「…ん?」
弘忠が手を叩き頷く。
「今年の一年生の飲食店は飲食兼漫画読み放題の店にして、服装はシンプルに黒エプロン。それにオリジナルの缶バッチを着けて仲間意識を高める」
教室の一部を漫画コーナーにするから改めて考えるようにしよう。漫画を持っていて文化祭の間使っても大丈夫なら積極的に持って来てくれと弘忠が仕切るが、亜季と二人で話していた事がいつの間にか採用されている。
「…え?俺、別にそう言うつもりで言ったんじゃ」
独り言や自分との軽い会話のつもりで話していたのがクラス全体で行う流れになり困惑していた。
「そうか?でもいい提案だと思うぞ」
「そうそう。漫画なら誰でも楽しめるし」
「頑張ろうな~」
「……ええ」
自分の意見が思わぬ拾われ方をされて亜季は不安げに視線をさ迷わせている。大丈夫だろうと肩を叩こうとしたらそれよりも先に忍が亜季の肩を力強く叩き声をかける。
「名案!名案!亜季は天才!」
「い、言いすぎだろ」
「そんなこと無いっての!天才!」
そう言って強く褒めてそのまま忍は亜季を後ろから抱き締めた。
「!?」
「あだっ!」
その行動に思わず立ち上がると忍の横にいた遼一とぶつかりお互いぶつけた場所を手で抑える。
「わ、悪い…」
「お前…周り見ろよ…」
目の前で起こった光景に言葉が出るより行動に出てしまい痛みを走る。
遼一に謝る最中、亜季を見ると忍からの抱擁から逃れてこちらを驚いたように見つめていた。
「遼一大丈夫?」
「あー、平気平気」
「どこぶつけた?」
「鼻、ぺちゃんこになってねえ?」
「大丈夫だよ。格好いい鼻だよ」
お前がぶつかった原因なんだと思いながら遼一を気遣う忍を見る。
「和彦何してんだ?」
「…立ち上がりたい気分だったんだよ」
「何じゃそりゃ」
弘忠に呆れられながら痛みが引いてきたのであちらこちらに出した過去の文化祭の衣装を黙々と片付ける事に集中した。
黒エプロンだけは使うためそれ以外を段ボールへと戻していき片付けようとしたが他にもある段ボールの中身を見てからにしようと誰かが言って新たな箱を開けると中にはドレスやら中世の王子様のような衣装が出てくる。これも飲食店に使ったのかと思ったが三年生が毎年劇を行っているのを思い出してこれはその衣装ではないかと言う結論に至る。
なかなか凝ったドレスを作ったものだなと感心して広げると段々と周りが首を傾げる。
「…長くない?」
「長いと言うか…でかい」
「こんなでかいドレス着た先輩がいたのか?」
あまりに規格外なサイズに驚いていると教室の扉が開きそこには三年生の先輩がいた。
「あ!あった!」
「え?」
自分達を指差して先輩達が教室に入って来ると劇の衣装が入った箱とドレスを交互に指差して尋ねる。
「一年生これ使う?」
「いや、使わないです」
「それじゃあこっちで引き取るね」
必要最低限の会話だけをして三年生は慌ただしく劇の衣装を持って去っていった。
「…使うのか?」
「使うから…持っていったんだろ?」
「あんなでかいドレスを?」
「誰が着るんだよ」
「あのでかさなら楓先輩とか?」
まさかそんな訳無いよなと笑うが月人は一人眉をひそめている。
「…月人?」
「あ…いや…まさかね」
「何か心当たりあるのか?」
楓先輩がドレスを着そうな心当たりが。
その疑問にそんな事は聞いていないと月人は否定して早く片付けてしまおうとこの疑問は終わったが、一部のかわいい動物カチューシャを気に入ってしまった女子が笑いながら耳を着けていて楽しんでいた。
その輪に入っている猫耳を着けた由実を響子が獲物を見る目で見ているのを指摘するべきか迷ったがここでそんな事を言ったら響子に何かされるかもしれないと由実には申し訳ないが黙って立ち去る事にする。
「遊ぶのはいいけど壊すなよ」
注意する弘忠の頭にはうさぎ耳が着いていた。
委員長もこんな風に遊ぶんだなと頷いているとその向こうで忍と遼一が肩を震わせている。
あ、あの二人の悪戯か。
「……」
面白いので黙っておこうと無言を貫き亜季うさぎ耳を揺らす弘忠を無言で指差すが首を振る。
衣装を片付ける時にすれ違った新島先生に笑われて気付いた弘忠が笑う忍と遼一を見て怒りを露に追いかけているのを亜季が無言で見つめ続けていた。
その日の夜。
風呂も終えて部屋のベッドで寝転がりながら借りている漫画を読んでいると扉がノックされる。
「誰ー?」
「俺ー」
「どうぞー」
鍵はかけていないのでベッドに寝転ろんだまま亜季が部屋に入って来るのを確認する。
「どうした?」
「…下でお菓子買って来たから食べないか?」
「食う」
珍しい。亜季はあまり間食するのを見ないのにわざわざ下の自動販売機で買って来て来るなんて。
いつもと違うその行動に少し首を傾げながらベッドから転がるように降りると亜季が買って来た袋菓子を広げて手に取る。
「旨いな」
「新発売だってよ。さつまいも味」
「へー…てか珍しいな亜季がこう言うの買うの」
「…あんまりお菓子とか、食べられない家だったから」
「……」
母手作りのお菓子や街の老舗のケーキ屋などで楽しむのはあったがスーパーにあるようなジャンクなお菓子は家の方針で頻繁に食べる事は無かったと言う。
食べられるのはお小遣いで買う時や元・友達とお小遣いを合わせて買った時だと言う。
「…まあ今はなんぼでも食えるしな」
秋の味覚のさつまいも味は美味しいなと明るく努めて食べていく。夕飯も食べたし冷蔵庫に余っているから食べていいと食堂のおばさんから言われていた柿も食べていたが腹に入るらしい。
「旨い?」
「旨いよ」
「全部食べていいぞ」
「いいのか?」
「その代わりにさ」
「ん?」
何か頼み事かと思ってさつまいもチップスを一枚口に入れたまま顔を上げると亜季の手に、黒い猫耳カチューシャがある。
「…?」
「これ着けてみないか?」
「……何でよ」
「……面白いから」
目が泳いでいる。
どうして自分がそんな耳を着けなければいけないのか。そう言うのはかわいいかわいいと騒ぐ女子が着ける物であって自分のような日本の男子が着ける代物ではないと語る。
「弘忠が着けてたろ?」
「着けてな。怒ってたな」
「…男にも似合うんだよ…和彦も似合うと思うぜ?」
「…な、何言ってんだ」
亜季がおかしい。こんな風にふざけるような人間ではなかったはずではと付き合いが浅いながらに思う。いや、本来はこうしてふざけた事をしたかったのではないか。抑圧された家庭環境でこうする事も出来ずにいたとなると…。
(…その願いを叶えるのは俺…亜季は俺を頼ってくれたんだ)
「や、やってやらぁ!」
貸してみろと、亜季の手の中にあったカチューシャを手に取り頭に装着。カチューシャなんて着けたことが無いために頭が締め付けられるような不自然な感覚に困惑しつつ亜季に目を向ける。
「…へへ」
何だその初めて聞く笑いは。
いつもは猫を思わせる顔立ちを崩さずに笑う時も自分と比べれば控えめな亜季が不自然に、破顔するのを堪えるように変な笑いを見せている。
「ど、どういう感情だよ」
「…いや…その、面白い…」
「…ちゃんとこっち見ろよ」
「へへ…」
「こっち見ろニャー」
真顔でそう言うと亜季は豪快に吹き出して床に伏せた。亜季は腹の底から笑うとこんな風におかしな笑い方をするんだなと眺めながら、こんな風にしたのは自分なのかと思うと少し誇らしい…いや猫耳を着けた自分を誇っていいのだろうか。
「変な事させやがって」
「だ、だって弘忠も着けてる…ひひ、見たら…和彦も着けたら面白いって…へへ」
「笑いすぎだろ」
「かわい、かわいい…!」
かわいい訳がないだろうが。それなら亜季が着けた方がよっぽど自分よりもかわいいに決まっていると床に伏せて笑う亜季に自分が着けていたカチューシャを装着させると頭の違和感に顔を上げた亜季の姿が視界に入る。
「あ?俺にも着けた?」
笑い過ぎて赤く涙眼になった亜季。
茶髪に近い髪の頭にある黒い猫耳が生えている。
かわいい。
かわいい猫耳が。
「かわいい…」
堪え切れなかった本音が口から出る。
「…ん?」
あ、友達なのにこれはおかしいと思われるだろうか。
響子はすごいな由実にバレずに視線だけ寄越して決して口には出さないんだから。
「か、かわいいぞ」
「お、おう」
「……」
「…悪いな急に…」
かわいいの言葉に部屋の中が急に気まずい空気になり亜季は謝って部屋から出ていこうとする。
猫耳を着けたまま。
「亜季!猫のまま!」
「あ!」
部屋を出る亜季を追いかけた時にかけた言葉で何しているんだと部屋から顔を出した同級生に亜季の猫耳を見られ怪訝な表情をされる。
忍がいなくて良かったとだけ思う。
物持ちがいい薊学園。
過去に使った物はほぼ全部あります。




