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文化祭(準備編)

 体育祭を終えて束の間の何も無い期間を過ごしたと思うと次の行事は文化祭だ。委員長の弘忠が前に出てしきり始める。一年生の担当は飲食店だ。

 一年生が文化祭で行う飲食店は二グループになって片方はご飯系、片方はデザート系をやります。 新島先生がそう説明すると後は学級委員長を中心にして皆で話し合うように言われ、前に出てきた弘忠が声を上げる。

「ご飯系は何にしますかー」

「定食は?」

「んな時間かかるの出来るかよ」

  忍の提案は却下。

「ラーメンは?」

「定番だな。候補に入れよう」

 遼一の提案は無難だな。

「おにぎりとか…?」

  月人はもっとお洒落なものを提案すると思った。 「お好み焼きは?混ぜて焼くだけだし」

 これならどうだと提案すると委員長ではなく冴木から鋭く言われる。

「お好み焼きをなめるな」

「すいません…」

 そう言えば彼女は関西出身だった。 関西出身だとこうもお好み焼きや粉ものに敏感になるのか。

「でもいいんじゃないか?腹にたまるし切って混ぜて…プレートを使えば出来るし」

  聞いていただけの新島先生が自分の提案に頷いてくれる。

「な?な?そうだろ?」

「…まあいいよ」

「ありがとう響子…」

「美味しいのを作りなさい」

「響子は参加しないのか?」

「デザート部門に行きたい」

 女子って奴はこれだから。 ご飯の飲食店はお好み焼きに決まり続けてデザート系はどうするかと言う議題に紙コップを使ってパフェのように盛り付ける。今流行りのマカロンやロールケーキを作りたい。ドーナツ食べたい。後半はただの願望だった。

「…マカロンってどう作るんだ?」

 出た意見をまとめていた委員長が首を傾げながら尋ねると静まりかえってしまった。

「…誰も作り方知らないのか?」

 それじゃロールケーキは?どう作るんだ?沈黙。

 ドーナツはまあ分かるが油の処理が心配だと新島先生が言うと沈黙。

「…最初の紙コップにパフェでいいんじゃないか?」

 作りたい物と作れる物は一致しない。 願望だけならいくらでも出せるが結局は自分達の力の無さを痛感して手の届くもので決定した。

 これだと法で決まっているわけではないがお好み焼きに男子が行きパフェに女子がなった。パフェなんてかわいい食べ物は女の子が作るべきだろうと誰もそうは言わないがまあそうだろうと言う日本人の空気と呼ぶべきかそう言った無言の意見を聞いて自然と決まった。 途中で部活の展覧会などで抜ける者もいるため役割分担など考える必要がある。

 ひたすら食材を切る係や焼く係、会計をする係

 それらを交代で行いながら文化祭も楽しめと言う。

「でもそんなたくさん来ないでしょう?」

「親が来るにしても遠くにいる奴もいるし」

「それなんだが」

 全校生徒でのんびり楽しむ文化祭かと思ったがそうではないと新島先生が言う。

「卒業生が遊びに来るんだよ」

「卒業生?」

「そう。卒業間際に卒業後の住所聞いて文化祭の案内を送ってもいいかって確認してるんだ。殆ど案内もらいたいって言ってる」

「どれぐらい来るんです?」

「結構来るぞ。数えた事無いけど去年も一般開放の日は忙しそうだった」

「へぇ」

 わざわざ母校に来る卒業生がそんなにいるのか。 保護者が来るのが難しい分静かな文化祭だと思っていたが思わぬ来客に当日のんびり出来る暇は無いのかもしれない。

「卒業生か」

「どんな人達だろうな」

「まあ個性豊かだよ。去年卒業した奴で補修から逃げるために二階の窓から飛び出して骨折したりな」

「馬鹿じゃないですか?」

「そいつ日本最高峰の美大に合格したぞ」

「馬鹿と天才は紙一重ってか…」

 そんな先輩がいるのかとそして自分達はそんな先輩の後輩になるのかと思うと新島先生は三年生が使用している談話室に卒業アルバムがあるから気が向いたら見てみるといいと言った。

「ところで先生」

「何だ?」

「飲食店って一年生の二つだけなんですか?」

「まあ…少なく思えるかもしれないけど、案外丁度いいんだよ。生徒数も少ないし」

「メニューは増やしてもいいんですか?」

「出来るなら増やしておけ」

「分かりました」

 それではお好み焼きとパフェ以外にメニューを加えるとしたどうするか。飲み物はお茶やジュースを買って来て提供するのでそこまで悩まなくていいが、自分達が作るメニューとなるとどうするか。

 お好み焼きがあるならたこ焼きは駄目かと思ったが、たこ焼き器が無いため却下される。

「どうするかな…」

「んー」

「亜季何かあるか?」

「ここで作れるとなるとなあ…」

「悩むよな」

「もう肉焼いてタレかけて白飯出せば?」

「雑だな…」

 でもこう言う適当な料理が一番旨いのかもしれない。

「それじゃ目玉焼きにウィンナーでも良くない?」

 適当な料理の提案に由実が便乗する。

「もう卵かけご飯でよくないか?すぐ出せるぞ」

 遼一が笑いながら話す。

「適当過ぎるよ。文句言われるよ」

 先輩から何だこの適当なメニューはと怒られるのを予想して月人が止める。

「ウィンナー旨いじゃん」

「旨いけどよ」

「あ、じゃあフランクフルトは?」

「それだ」

 簡単に出来るしスーパーで売っているのを焼けばいいと提案すると先生からも弘忠からも確かにありだなと頷いてメニューが追加される。

「甘いものどうしよう」

「パフェ以外か」

「フランクフルトみたいに簡単なやつ?」

 お菓子なんて手間隙かけて作る物ばかりだと思っている。簡単に作れる物なんてあるだろうか。

「ホットケーキは?」

 由実の提案に周囲がそれだと声を上げる。

「…お好み焼きと同じ様な行程だな」

 混ぜて焼くだけだもんな。忍がお好み焼きと同じだなと笑う。そして由実とホットケーキをどうするか笑いながら話していた。

「上にホイップクリーム乗せてさ」

「いいじゃん」

「かわいい形にしてさ」

「どうやって」

「それはこう、旨い具合に」

「まあ焦がさんでな」

「大丈夫でしょー」

 簡単そうだしと言ってメニューは決まった。

 これから忙しくなる。教室を一つづつ使ってどう装飾するか考え調理する者に会計する者に案内する者を決めて買い出しをして…。

「また後日決めていくから、自分が何やりたいか考えおくようにな」

 今日はこれまでと、新島先生が終わらせた。


 その日の放課後、二年生は何をするですかと野木原先輩に尋ねる。

「二年はお化け屋敷と占いだよ」

「お化け屋敷と占い?」

「そう。二年は毎年飲食店以外の催しやるんだよ。去年はヨーヨー掬いとか段ボールで迷路作ってたな」

「へえ、すごそう」

 去年の二年、つまり今の三年生は夏祭りのような催しをしていたらしい。ヨーヨー掬いにくじ引きを行い段ボールで巨大迷路を作るなど凝っていたらしい。

 故に今年の二年は去年を越えられるか不安な部分もあるらしく、お化け屋敷を張り切って作らないといけないと野木原先輩は苦笑いをしていた。

「ちなみに先輩、一年の時は飲食店何やりました?」

「去年は焼きそばとホットドッグ」

「あー、それもあったか」

 惣菜パンは頭から抜けていた。

「デザートは…チョコバナナとわたあめだな」

「わたあめ?」

「機械借りて来てな」

「…良かった去年と俺達被ってない」

「今年の一年は何食わしてくれんの?」

「内緒っす」

「何だそれ」

 当日のお楽しみにした方がいいじゃないですかとはぐらかし部活へと戻る。


 一度試しに作ってみようと言う事で休日の貴重な時間を使いお好み焼きを作る事になった。そこで何故かキャベツはざく切りだいや千切りだと争う声が聞こえ、麺は入れる。何で麺を入れるんだよと争う声が聞こえた。

「何で対立すんの?」

「知らね」

「地域によって作り方が違うらしいぞ」

「普通のでいいじゃん。普通ので」

「そう言う話じゃないんだよ。お互いがお互いを“普通”はこうだと思ってるから」

「…不毛な争い」

 弘忠が呆れながら対立する事情を話す。揉めているのを横目にあまり刺激しないように小麦粉に水を入れて溶いていく。亜季が卵を入れるために割ろうとしたが下手くそな割り方で卵の殻が入って黄身は割れている。

「下手くそ」

「うっせ」

「殻入ったんですけど亜季君」

「取り出せばいいじゃないですか和彦君」

「やって下さいよ亜季君」

 箸を渡して自分の責任を取るように言って亜季はボウルを見つめて何とか卵の殻を取ろうとしていた。

 すると校則に引っ掛かるか引っ掛からないかぐらいの長い髪が落ちてこのままだとボウルの中身に髪が触れるのではないかと思いつい亜季の髪に手を触れる。

「…っ何?」

 髪に触れると亜季はまるで人に慣れていない猫のように跳ねて驚いた顔でこちらを見た。

「…ごめん、髪が」

「か、髪…」

「ボウルの付きそうで…」

「あ…あぁ…そう」

 いきなり触って悪かったと謝るのを忘れてしまうぐらいに普段は鋭く釣り上がった目を丸くさせてこちらを見る亜季は、かわいかった。

「…殻取れた」

「…どうも」

 こっちが卵の殻を取るのに奮闘していたり亜季の初めての表情に心臓をうるさく動かしていると向こうからキャベツの切り方は人に任せて麺はあんまり予算をかけられないから却下と言う事になった。

 キャベツを入れて豚肉があるから豚肉を入れて揚げ玉を入れて混ぜて焼いてひっくり返す。

「カウントダウンするから一気にひっくり返せよ」

「何で俺がやんのさ」

 調理の行程に参加していると何故かひっくり返す係になっていた。お好み焼きなんて作った事が無いしここまで来て台無しになったら俺はお好み焼き係から外されてフランクフルト係になるだろうか。

「三、二、一…!」

 周りからカウントダウンされて一気にひっくり返す。


「お前ら終わったか?」

 食堂を借りると聞いた大塚さんが様子を見に来た。

 扉を開けるとそこには初めての薊学園での文化祭に向けて頑張ろうとしていた一年生が悲しい目をして床に落ちたお好み焼きを見つめている光景に状況を察した大塚さんは無言で食堂の中に入り扉を閉めて声をかける。

「失敗したか」

「…ひっくり返すのが」

「和彦さあ、何であんな空中に放り投げたの」

「放り投げようと思った訳じゃなくて…」

 勢い良くひっくり返した方が綺麗に出来ると思ってと申し訳ない気持ちの中にも言い訳はあるから聞いてほしいと言う気持ちがあり口を動かす。

「和彦はフランクフルト焼いてろ」

「はい…」

「お前はお好み焼きに触れるな」

「そこまで言わなくても」

「謝れよお好み焼きに」

「俺ばっかり責めんなよ…」

 やりたくてやった訳じゃないんだよと小さくなる。

「…もう止めてやれよ…可哀想だろ」

「…亜季ぃ」

 あまりにも惨めに見えたのか亜季が庇ってくれる。嬉しいがどうも複雑な気分だ。

「……」

「あ!亜季を盾にしてる!」

 そこまで身長が変わらない亜季の背中に隠れるようにしてみると友達の戯れに混ざり亜季の背中に触れる事が出来、これは役得ではないかと思ったが忍に引きずられるようにして表に出されてしまう。

「…誰が悪いかは後にして…早く片付けろ」

 大塚さんに言われようやく本来は美味しく食べるはずだったお好み焼きは悲しいかな生ゴミとして処理される。

「はー…勿体ね」

「仕方ねえよ」

「ひっくり返すの難しいんだな」

「和彦の見てたらそうだな…俺もフランクフルトにしようかな」

「お、一緒にやろうぜ」

 亜季と一緒になれるなら楽しくなりそうだ。

 その後、今度は大塚さんに見守れながら再度挑戦するとうまく行った。忍がひっくり返す係になったが綺麗にひっくり返しこちらを見てふんぞり返っていた。

 一口の大きさに切り食べてみるとお店で食べる物と同じ様に美味しく出来ている。

 この功績から忍はお好み焼き係になり下手くそな自分に向かって俺の勝ちだなと言われてしまう。

「…そうだな。お好み焼きはお前に任せるよ」

「和彦はフランクフルト焼いてな!」

「そうだな。亜季と一緒にフランクフルト焼いてるよ」

「え」

 残念だがお前がお好み焼きを綺麗に作り上げている内にこちらは亜季との距離を一歩先へと進めている。忍はまだ決定じゃないだろうと言いながらお好み焼きの素晴らしさを伝えているが、途中から響子も加わり亜季が押され始めていた。

「お前らお好み焼き談義してないぜ洗い物しろよ!」

 この熱心な勧誘は弘忠の一声により終結する。


 お好み焼き係とフランクフルト係は後々決めるはずだったのに和彦はさっさと亜季と決めてしまった。

 自分だって亜季と一緒に屋台をやりたかったのにと思いながらベッドの上でふてくされているとノックもせずに部屋に入って来るのは遼一だ。

「お邪魔しまーす」

「もうお邪魔してまーす」

「借りてた漫画返しに来たぞ」

「面白かった?」

「敵キャラの幹部が好き、渋いわ」

「おっさんのキャラじゃん」

「渋くて格好いいじゃん」

 お前おっさんが好きなのかと聞くとそう言うわけではなく兄貴!付いていきます!と思わせるような男気を感じるらしい。

 寮で過ごす時間が実家よりも長くなるため持てるだけの漫画を持って来たがそれを知ってか貸し借りをよくするようになっている。

「なあなあ」

「何?」

「亜季と和彦一緒になったな」

「フランクフルトな!フランクフルトの係でな!」

「お前どうすんの?」

「何が?」

「あの二人が付き合ったら、友達止めんの?」

 遼一が他の漫画を物色しながらそう尋ねる。

「別に何も変わらん」

「何も?」

「別に、和彦は悪い奴じゃねぇし」

「まあそうだな」

 二人が今の友達関係から恋人関係に変わったら。

 今は友達同士の談笑が恋人達の戯れになるだろうか。

 それは寂しい、悔しい。

 でもそれは自分が勝手に向けてる感情で彼等にはその暗い感情を向けられる責任なんてないだろう。

「にしても」

「ん?」

「遼一から見て二人そうなりそうに見えるか?」

 自分は見えていたとしても納得したくない感情を持っているから第三者から見ればどう見えるだろうか。

「そうだな…」

「別に思ったまま言っても怒らねぇよ」

「和彦さ、亜季の事好きじゃね?」

「何で分かるんだ?」

「え?マジでそうなの?」

「え?」

「冗談のつもりで言ったんだけど…」

 お前それいつ知ったんだと好奇心を目に映して聞いてくる遼一から逃れる事が出来ず夏休みが終わって寮に戻った日に和彦から言われたと言うと驚いていた。

「うわ!ライバルに宣戦布告って事か!」

 漫画ならめちゃくちゃ熱い展開だぞと遼一が笑っている。

 確かによく考えればあれは宣戦布告のつもりで言ったのかもしれない。それとも隠すのが嫌だからもう言ってしまえと言う事なのかもしれない。

 和彦の性格を考えると後者かもしれないが。

「…由実にも教えたろ…」

「何でだよ」

「賭けるんだよ。亜季がどっち選ぶか」

 人の恋路で賭け事するな!自分の怒る声が大きかったため遼一に手で口を塞がれる。

「でもお前、ちゃんと友情と恋愛は切り離して考えらる事は以外だったな」

 失礼だな。

 だって和彦はいい奴だってしっかり分かってるんだよ。




 


 薊学園の文化祭

 一年生は飲食店

 二年生は模擬店

 三年生は劇と模擬店少し

 文化部はそれぞれ展示をしたりするため文化部の生徒は忙しめ。

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